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日露戦争の反戦派のドクトル槇が医者として脚気の治療のために従軍したり、永野夫人と姦通したりする話。三人称。日露戦争前後の時期が舞台になっていて戦場も描写されるものの、日露戦争は主題ではなく、熊野の森宮のまちの恋愛が物語の焦点になる。ドクトル槇を中心とする革新派と警察などの保守派が対立し、戦争に動員されていく緊張感の中で命がけの恋が展開して、永野夫人を巡る槇、永野、鳥子の中年の恋と、千春をめぐる勉、馬渕、上林の青年の恋、その他脇役たちの恋が入り乱れて、最後まで波乱があって面白い。ねじ巻き屋や女ヤクザの菊子などの脇役たちもキャラ立ちしていて、主人公が登場しない場面でも策謀が渦巻き、スパイが活躍して、物語が停滞しないので退屈しない。ジャック・ロンドン、森鴎外、田山花袋といった実在の人物が登場してフィクションの人物と交流するのはこの作者の得意とする手法だし、笑える下ネタもあり、馬や犬の心理描写までする遊び心もよい。作者が自分の故郷を舞台にして書きたいものを書きたいように書いたという文章の伸びやかさがある。いしいしんじが文庫版の解説で辻原作品に共鳴する多くの要素が登場すると書いている通りで、御燈祭りでドクトル槇と永野夫人の指先が触れ合う場面は「ボヴァリー夫人」の農事共進会でのエマとロドルフとの逢引を思い出し、日露戦争の戦場の場面ではトルストイの「戦争と平和」を思い出す。この辺は作者の好みがよく出ている。純文学で培った手法をエンタメとして存分に発揮していて、エンタメ作家の文章は下手すぎて読む気がしないので純文学作家が書いたエンタメを読みたいというニッチな読者のニーズに答えてくれる数少ない小説である。若干不満があるとすれば「差別なき医療団」が無償で治療しに行く差別されている人々が具体的に書かれていない点。たぶん被差別部落のことなのだろうが、関西と縁がなくて被差別部落が存在しない地方出身の読者としては何のことやらよくわからない。あとは「許されざる者」というタイトルも不満で、本書の中で許されざる者として書かれているのは仲間の戦死を望遠鏡で眺めている上官と、ドクトル槇と永野夫人の姦通だけれども、ドクトル槇と永野夫人の恋のほうはハッピーエンドだったので、タイトルから姦通の恋の悲劇的な結末を予想していると肩透かしをくらう。この小説とは関係ない映画のタイトルとかぶっちゃったのも残念で、もうちょっと他のタイトルがなかったのかなと思う。★★★★★【送料無料】許されざる者(上) [ 辻原登 ]価格:924円(税込、送料込)
2013.12.29
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対馬藩の阿比留克人が新井白石の指令でスパイとして奔走するものの、秘密を知った柳成一を殺して死刑判決になり、その後朝鮮に逃げて金次東として生きていたが、対馬藩の財政難を救うために将軍に献上する韃靼の馬を手に入れる旅に出る話。三人称。会話が時代劇によくあるござる口調でなくて現代語なのは読みやすさを優先したのだろうが、いまいち時代小説の雰囲気が出ない。登場人物は朝鮮語やモンゴル語で会話している設定で、それを読者は日本語で読むことになるので、口語のリアリティを追求しても意味がないのかもしれない。二年かけて新聞に連載されていたせいか、物語全体のペース配分がアンバランス。タイトルになっている韃靼の馬を手に入れる旅に出るのが600ページのうち400ページを過ぎてからで、前振りが長すぎる。朝鮮人が鶏を盗んだ事件や、堂島の米の先物取引の様子の描写は面白いものの、その辺は物語の本筋とはあまり関係のない江戸時代の風俗描写としての面白さにすぎず、ページ数が多い割りにプロットは単純で物語としての面白さは物足りない。阿比留と柳の二度の決闘やハーンの娘を奪還するための戦いの場面など、主人公や脇役の活躍が際立つ見せ場があるのは時代小説らしくてよい。しかし阿比留がうっかり覆面をはずして柳に顔を見られたり、うっかり殺人を目撃した朴を取り逃がしたり、語学と武道に長けた有能な人物のはずなのにうっかりしすぎなのは興ざめする。阿比留克人と小百合の離別などの恋愛要素が若干あるものの、阿比留はあっさりと朝鮮人と結婚してしまって、恋愛が発展しないのも物足りない。プロローグとエピローグで阿比留克人の妹の阿比留利根が一人称で語るものの、彼女は誰に対して語っているのか不明な上に、死刑判決をうけて逃亡中の阿比留克人が金次東だという兄の命にかかわる秘密をべらべら喋るのも不自然で、この点はナラトロジー上のリアリティを損ねている。作者が読者に語りかけるのはよいものの、江戸時代の登場人物が現代の読者に直接語りかけるのはよくない。一般読者は気にしないだろうけれども、私は興ざめしてしまう。★★★★☆【送料無料】韃靼の馬 [ 辻原登 ]価格:2,520円(税込、送料込)
2013.12.29
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刑務所を出た緒方隆雄が持ってた金を使い果たして無賃乗車した末にただで風呂を使わせてくれた老夫婦を殺害して死刑になることを受け入れることで自由になった気がして生きる気力がわいてくる話。三人称。緒方が刑務所を出た場面から過去に遡っていき、緒方の元同僚で男のうなじに発情する変態殺人者白鳥、緒方が働いていた飲食店の店長の伊藤(久島の娘の夫)、認知症の妻を殺した久島老人、緒方の妻のゆかりのSM女王の過去など、それぞれの過去が語られる形式。読者はなぜ緒方が刑務所に入ることになったのかというプロットを過去に遡って長々と読ませられることになるものの、そのプロットは読者が興味を持てるほど魅力的でもなく、そのうえ途中で主人公とたいして縁のない登場人物の話をされても脱線気味に感じられて、悲惨なエピソードを寄せ集めたことで逆に緒方の体験が希薄化して、この構造はうまく機能していない。不幸な境遇の人にもなにかしら幸福な瞬間があるものだけれども、この小説は悲劇一辺倒で一面的になっていることでさらに物語を飽きさせる。過去形で物語が進行するのは読者としてはつまらなくて、誰が何をしたというのを列挙されても、そのとき何を感じて何を考えたかという感情や思想が書かれないと同情も共感もしようがなく味気なく、小説を読んでいるというより犯罪レポートを読んでいるという感じ。ノンフィクションならまだしも、フィクションの犯罪レポートまがいの小説を読んでも面白くもなく、犯罪を題材にしていながらもサスペンスやミステリとしての面白さもない。仏教に傾倒した緒方の思想が掘り下げられるわけでもなく、服役中の様子も描写されないままいきなり出所の場面から始まるので、最後に死刑になることを受け入れることで自由になった気がするという心理にも説得力がない。「餃子の王将」をまねたチェーン店の「包子 マダム楊」を舞台にすることで間接的に「餃子の王将」の異常な研修を批判をするあたりは時流をとらえているものの、阪神大震災や新興宗教をいまさら書いても時期が遅すぎるという感じがする。ブラック企業、阪神大震災、新興宗教、シャブセックスはその一つのテーマだけで一つの小説がかけるくらい世間の関心事だけれども、全部をちょっとづつ小出しにしたもんだから掘り下げが浅くなり、エピソードの寄せ集め的な陳腐さが目立ってしまう。この小説は作者が新しいことをやろうとして失敗したんだろうか。伊藤整文学賞受賞ということで期待して読んだら、別人が書いたのかと思うくらい残念な出来だった。帯の文句も残念で、「求めては奪われ、掴んでは失った。おれの人生、どこで躓いたんや。」の文章のあとに「妻の失踪を皮切りに、緒方隆雄の人生は悪いほうへ悪いほうへと雪崩れる。」と早速躓いた箇所をネタばれしているし、「残されたのは、凡てからの自由」と結末も若干ネタばれしているのもひどい。★★★☆☆【送料無料】冬の旅 [ 辻原登 ]価格:1,680円(税込、送料込)
2013.12.29
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SBIの北尾が何のために働くかを考えたことのない若者に対して、天命のために働けと説教する本。既に偉くなった人が自分の悪事を隠しつつ耳障りのよい奇麗事を書いた本なので始終胡散臭さがつきまとう。ホリエモンを能力と情熱はあるが考え方が間違っていると批判している一方で、ハゲエモンに対しては事業欲が強いという言い方でお茶を濁しているし、北尾の古巣の野村証券にしても客を食い物にしてきて非難されるべき部分は多大にあるだろうに知らん振りしている。天命に従うと身内の悪事は見えなくなるらしい。さすが天命だ。安岡正篤の受け売りの思考を振りかざして人間学と称しているものの、哲学とは呼べない恥ずかしい内容で、論語読みの論語知らずといったところ。古典の受け売りの古臭い思考を正しいものだと思い込んで思考停止した老人が、若者に対して考えが浅いと説教するあたりがこの本の面白い部分。古典の引用で自分の意見を飾り立てて正当化する一方で、最近の若者は豊かな時代に育ったから死生観を持っていない、フリーターで人生を過ごすことに満足してしまっていると若者像をでっちあげてそれを批判することで悦に入っているが、語るに落ちるというか、若者論を展開するほど古典の引用ではごまかしきれない現実社会を見る目のなさが露見していく。古典の引用を振りかざして権威付けするのに必死で自分で物事を考えていないのか、引用箇所に矛盾もでてくる。道元は「親が死に瀕していても行くな、親の葬式にも行くな、お前のやることは道を究めることだけだ」と厳しい言葉を残しているから時間を惜しめと言う一方で、別の章では親子の情愛が薄れているところに若者の道徳がない根本的な問題があるのだと言って中国の皇帝が親孝行しない人が皇帝に尽くすはずもないから意中の人を宰相にするのを辞めたという逸話を紹介する。親孝行せずに天命を追求すれば道徳がないと非難されて、親孝行したら漫然と日々を過ごしていると非難されることになる。天命に従っている北尾から見ると若者はみな非難の対象になるのだ。さすが天命だ。「現代は精神の豊かさがどんどん退廃しています。これから団塊の世代が死んでいけば、ますます失われていくでしょう」という箇所は笑える。他の箇所では麻雀やゴルフは時間の無駄だと言っているものの、こういう仕事以外は無駄だというワーカホリックな考え方が精神の豊かさの退廃を推進してるんじゃなかろうか。天命に従うと思考の矛盾にも気づかないらしい。さすが天命だ。自己満足のために書かれた本で内容を読む価値がないものの、財界人が偉そうにのたまう経営哲学だの人生哲学だのが浅薄な自己肯定にすぎないということを身をもって証明しているので、ある意味では価値がある本。★★☆☆☆【送料無料】何のために働くのか [ 北尾吉孝 ]価格:1,575円(税込、送料込)
2013.12.29
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BSEで輸入牛を国産牛に偽装して国に買い取らせて莫大な利益を上げたハンナングループの浅田満のノンフィクション。浅田満の人となり、山口組の渡辺芳則組長とのつながり、食肉業界を牛耳る同和の逆差別利権、浅田の金に群がる中山一郎、鈴木宗雄、横山ノック、大田房江や羽曳野市長福谷剛三らの政治家など、浅田の人脈、金脈をよく調べて書いていて面白い。報復の危険がある中でタブー視されている食肉業界の部落利権の内容を書いた著者と編集者はよくやってくれた。★★★★★【送料無料】食肉の帝王 [ 溝口敦 ]価格:880円(税込、送料込)
2013.12.29
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人生には正と負があって、何かを得れば何かを失い、何かを失えば何かを得るという話。序盤で天界族だの魔界族だのと言い出すあたりはぶっとんでいるものの、そのほかは成功者をねたまないで努力しろとか、食生活が基本だとか、人付き合いは近づきすぎないで腹六分にしろとか、その辺は平凡な処世術を普通に指南している。既に平凡に生きている人には当たり前の内容過ぎてあまり参考にならないだろうけれど、平凡に生きることができない人はこういうのをありがたがるんだろうか。色については黒と灰色はマイナスの負の色で、自然界で生き生きしているもので黒と灰色のものはないと言っているものの、この辺は黒人差別になりかねない不見識だろう。★★★☆☆【送料無料】ああ正負の法則 [ 美輪明宏 ]価格:1,575円(税込、送料込)
2013.12.29
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強盗殺人で死刑から減刑されて無期懲役になって昭和36年から昭和51年まで15年間服役して死刑囚の世話係をした男が刑務所や死刑囚の様子を書いたノンフィクション。帝銀事件を起こした画家の平沢貞通、悪名高い紅林麻雄警部に殺人犯にでっち上げられて後に無罪になった赤堀政夫など、死刑囚の様子が書いてある。情報が古くて、○○事件といわれても知らない事件ばかりなので、現代に読んでもあまり面白くないかもしれない。★★★☆☆【送料無料】そして、死刑は執行された増補版 [ 合田士郎 ]価格:1,470円(税込、送料込)
2013.12.29
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元ヤクザ湯島明が経営する屋台「一ぱい屋」に敵のヤクザがやってきてどうのこうのする任侠ラノベ。表現力に乏しくて文章が改行ばかりで、視点がころころ変わって読みにくく、エンタメとして楽しめる水準に達していない。茎芯頭が液砲を放つというエロ描写はもはやわけがわからなくて、ギャグなんだろうかと思うほど。著者はこの小説を書いた五日後に自殺したらしいけれども、遺作だからといって小説が面白くなるわけでもない。★★☆☆☆【送料無料】仁義の桜暦 [ 藤田 五郎 ]価格:1,529円(税込、送料込)
2013.12.29
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少年の性的感興を書いた話。戦後の少年の性に関する断片的なエピソードを並べているだけで、物語になっていない。作者の視点と主人公の視点を混同しているし、時代背景もはっきりしない。小説作法としては素人並みで、出版してお金をとれる水準に達していない。何も文字を印刷しないでメモ帳として売ったほうがましなレベル。★☆☆☆☆【送料無料】影絵 [ 渡辺淳一 ]価格:620円(税込、送料込)
2013.12.29
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教授の葬儀に集まった元ゼミ生の女たちが不倫だのなんだのする話。五人の登場人物のエピソードを別々に書くものの、文体レベルで書き分けをするわけでもないので、たいした工夫になってない。京都という舞台がしっかりしていて、文章が読みやすいのはいいものの、物語としての面白さは乏しい。不倫、エロブログ、露出、レズといったパターンを変えてエロ話を書いているだけで、それも既に手垢がついたパターンでエロの切り口として目新しくもない。帯に官能ミステリと書いてあるのに、謎というと教授が寝た相手の学生が誰かという点だけで、しかも推理も何もなしにあっさり謎が解けていて、ミステリになっていない。ただの官能小説。鹿島田真希が先に同じタイトルで小説を出しているので、タイトルは変えるべきだろう。★★★☆☆【送料無料】女の庭 [ 花房観音 ]価格:1,575円(税込、送料込)
2013.12.29
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山に何かを埋めた男がいたので探っていたら女をあてがわれたので情事する話。三人称。主人公が何をしたいのか動機がわからないまま物語が展開して、プロットと関係のないセックス描写や家族の団欒の描写が続き、終盤になってようやく公金を横領した男が山に埋めたという話が出てくるものの、読者に対して情報を出すのが遅すぎてサスペンスになっていない。物語の構造の根本的な部分が間違っていて、サスペンスとして読んでも物語性が乏してつまらないし、官能小説として読んでもつまらない。山口の遺跡がどうのこうのという話は物語が面白くなるわけでもない蛇足で、文章が下手なわけではないものの、何を書きたかったのかよくわからない。★★☆☆☆【送料無料】情事 [ 志水辰夫 ]価格:580円(税込、送料込)
2013.12.29
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裏の教会の朝鮮人が嫌いな女を書いた表題作と他の短編二つ。「不意の償い」はセックスしているときに両親が火事で死んで罪悪感で精神を病んだ話。主人公が一人称で過去を語るものの、精神異常をきたしている語り手が自分の異常を客観視して整然と語るのはナラトロジー上の設定が矛盾しているし、主人公が何故、誰に対して語っているのかが不明なのもナラトロジー上の瑕疵。精神異常者の心理描写をやってみたという域を出ていない。もしやるならば一人称で語るのではなく、フォークナーがベンジーの心理描写でやったように登場人物の意識の流れを作者が書くという形式のほうが向いている。あるいは主人公が精神科医に体験を語るという形式にすればナラトロジー上の瑕疵が解消されてもうちょいましな仕上がりになったかもしれない。エンタメ作家ならまだしも、純文学作家が語りのリアリティの根幹にかかわるナラトロジーの作法に無自覚なのはよくない。「蛹」はカブトムシが蛹になる心理を書いた話。読者がカブトムシなら面白いのかもしれないものの、あいにく私はカブトムシではないので面白くなかった。文庫版の解説だと安藤礼二が異様な設定を借りて自分自身のことを語っていると言って独創性を評価しているけれども、そもそも自分自身のことを語るのに異様な設定を借りなければならない必然性はあるのだろうか。人間はわけがわからない文章に遭遇すると脳が勝手に意味を補完して理解しようとするけれども、純文学の読者や文芸評論家というのは意味不明な文章に無理やり意味を見出して虚像をありがたがっている阿呆じゃなかろうか。安藤礼二は文学とはそもそも表現が崩壊してしまうような極を目指すものではなかっただろうかと言って田中を正真正銘の純文学作家だと持ち上げているものの、その極にあるのは言語芸術ではなく言葉の意思疎通が通じない精神病棟だろう。「切れた鎖」は裏の教会にいる在日朝鮮人が嫌いな女の話。祖母の梅代が主人公なのだろうけれど、誰が主人公なのか、どういう方向に物語を展開したいのか、何を表現したいのかわかりにくい。美佐子と美佐絵の母子の名前が似ていてわかりにくい。主語を省略しているので文章がわかりにくい。短編の中で何度も過去と現在のエピソードを行ったり来たりするのも状況がわかりにくい。「母」という言葉を安易に使うものの、美佐絵の母の美佐子、美佐子の母の梅代、梅代の母など該当する人物が複数いて、誰の視点から見て「母」なのかがわかりにくい。なんで朝鮮人が泥なのもよくわからない。文章が下手糞で推敲不足で、読者が表現内容を理解して物語を楽しめる水準に至っていない。★★☆☆☆【送料無料】切れた鎖 [ 田中慎弥 ]価格:420円(税込、送料込)
2013.12.29
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僧侶の無状が二十一年ぶりに薬師如来像を御開帳しようとしていたら、像が本物ではないと言われて困る話。三人称。仏像についてのマイナーな話題なのにもかかわらず、読者が興味を持つように書かれていないのはよくない。こういう小説では冒頭で読者を物語に引き込まなければいけないものの、僧侶が主人公でそこに男が訪ねて来てという展開でいきなり本題に入ってなんのひねりもない。像が本物だろうが偽物だろうがもうどっちでもいいよ、と思われてしまったら忙しい読者はオチまで読んでくれないのでそれでおしまい。もうひとつの短編「ピュア・スキャット」は一人称の「あたし」が「あんた」に語りかける形式なものの、意識を失いつつある人間が理路整然と一人称で自分のことを語るのはナラトロジー上は矛盾していてリアリティを損ねている。文体の工夫としてこういう一人称の形式にするのはエンタメ作家がよくやる安易なやり方で、純文学作家の表現手法としては落第点。陳腐な工夫は物語を面白くするどころか、読者の語り手への信頼を失わせて、根本的なリアリティを損ねて小説全体を台無しにしてしまう。僧侶が仏教以外の小説を書いてみたという域を出ていない。★★★☆☆【送料無料】御開帳綺譚 [ 玄侑宗久 ]価格:490円(税込、送料込)
2013.12.29
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宇宙の誕生から現在までの変遷を説明する本。前半はビッグバンからホモ・サピエンスの誕生まで、中盤以降は人類の歴史について各時代ごとの特徴を説明していて、学校の授業で別々に習った生物や地理や歴史を包括的に理解しなおすことができるのがよい。ほどほどの専門性とわかりやすい簡潔な解説がちょうどよい分量で、興味のある分野をさらに掘り下げていく手がかりになるかもしれないという点では役に立つ。紀元前○年という表記と、○万年前という表記がごっちゃになっているのは不親切で、どっちかに統一してほしい。他の部分では西暦表記なのだから、紀元前と紀元後の西暦で統一したほうがよかっただろう。本の奥付を見ると、原作の"What on Earth Happened?"が発行されたのは2008年で、日本語の翻訳版(この本)は2012年に第1刷が発行されていて、自分が買ったのは2013年10月1日の第15刷だけれども、情報が最新のものになっていないところを見つけてしまった。39ページの地質年代区分表では鮮新世が500万年前から180万年前で、更新世が180万年前から1万年前に区分けされている。しかし2009年にIUGS(国際地質科学連合)によって新しい定義がつくられて、ジェラシアン(258万年前から180万年前)は鮮新世でなく更新世に含まれるようになったそうなので、現在の区分では鮮新世が500万年前から258万年前で、更新世が258万年前から1万年前に区分けされている。この点は最新の情報に訂正したほうがよいのではなかろうか。面白い本だけれども情報が最新でないところを見つけてしまって、情報の正確さに若干疑問が残るのが残念なところ。考古学では新発見によって過去の定説が覆されることがしばしばあるけれども、読者が自分で調べなおすのは時間がかかってできないので、出版社が責任もって校正をやってほしい。たぶんこういう本を読む読者は専門家でもなくて一回読んで理解したつもりになったらそれで終わりという人たちで、些細な違いは気にしないというか気づかないだろうけれども、情報はできるだけ正確かつ最新のものであってほしいのだ。★★★★☆【送料無料】137億年の物語 [ クリストファー・ロイド ]価格:3,140円(税込、送料込)
2013.12.09
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