三角猫の巣窟

三角猫の巣窟

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

サイド自由欄

コメント新着

三角猫@ Re[1]:戦争反対について考える(04/02) 四角いハムスターさんへ 四角いハムスタ…
四角いハムスター@ Re:戦争反対について考える(04/02) お久しぶりです。 コメントはしておりま…
三角猫 @ Re[1]:善本位制について考える(08/02) 四角いハムスターさんへ 善本位制がうま…
四角いハムスター@ Re:善本位制について考える(08/02) 三角猫さんへ 中国は国家安全ために自国…
三角猫 @ Re[1]:善本位制について考える(08/02) 四角いハムスターさんへ 私は宗教国家の…
2019.01.09
XML
カテゴリ: 教養書
1997年にクルーグマンが35歳の時に書いた、経済学の博士号を取る気はない知的な読者向けにアメリカ経済について解説する本。

●まとめ

▼生産性▼

経済にとって大事なことは、生産性、所得分配、失業だけ。生活水準(一人当たりの消費額)を上げるために総人口の中で働く人の割合を増やすのは長期的には限界があるので、長期的に生活水準の向上を維持するには生産性を上げるしかない。輸出を増やさないで輸入を増やせば一人当たり消費量が増える。売る量を増やさずに輸入を増やすには借金するか手持ちの資産を売るしかないので、生産性を向上させて製品をいいものにして輸出品を高く買ってもらって借金しなくても輸入を増やして支払えるようにする必要がある。生産性を上げるオーソドックスな方法は設備投資を増やして教育水準を上げることだけれど時間がかかるし短期的には生活水準が下がるので、レーガン大統領政権のときに左派のサプライサイド屋が苦労せずに経済を再活性させる方法として政府を市場から追い出せば民間部門のダイナミズムが解き放たれると思って試したら失敗した。

▼所得分配▼

1980年代に職業間の賃金格差が拡大して、金持ちはファイナンスで収益が激増して、1990年代には1920年代並みの不平等になった。金持の稼ぎを減らす唯一の方法は税金をかけること。

▼失業▼

ほとんどの経済学者はインフレ率を一定にしておくには一定の失業率(自然失業率、別名インフレ無加速失業率、NAIRU)がいるという考え方。政府はすぐに職は作れるが、インフレが加速し続けるのを避けるために一定以上の失業率を保って労働者が自分の生産性成長を上回る実質賃上げ要求をしないようにしている。

▼貿易赤字▼

貿易赤字は悪くない。貿易赤字がないと失われた職を埋めるために労働者の需要が生まれるわけでなく、未熟練労働力や工場閉鎖とかの一時的な失業がほとんどで需要さえあればすぐに職につける労働者が余っていない。それに失業率を下げたら長期的にインフレが加速するので、そうならないように経済を冷やそうとして貿易赤字をなくして生まれた職と同じくらいの職が消えて相殺されることになる。80年代の貿易赤字で、世界最大の債権国だったアメリカは世界最大の債務国になった。純債務国になったらアメリカ債所有者に金利をずっと払うコストがかかって、深刻だが手に負えなくなることは当分ない。しかし外国投資家が不安になるたびに金融危機に突入するリスクがある。貿易赤字の原因はアメリカの貯蓄が低下したことにある。

▼インフレ▼

70年代後半は原油価格高騰や世界の食料価格高騰でアメリカの消費者物価は2桁上昇でインフレ率は手が付けられなくて、80年年代は原油価格が暴落してインフレを3-4%に押さえたがコストが高くついた。インフレを1%減らすには産出を4%減らさないといけなくて、アメリカはGNPの2割にあたる1兆ドル以上を犠牲にした。インフレの本当の害は物価が上がること自体ではなく、物価が常に変わり続けることで意思決定がゆがんで結果として経済の効率が下がること。インフレの具体的コストは金を使う気をなくさせることで、物々交換やブラックマーケットの外貨とかでなるべくお金を持たないようになる。インフレで実質の価値が増えてない資産でも会計上の価値が増えたり、負債を抱えている企業は紙の上で損失が発生するもののその分税金がかからなくなるので企業は負債を増やしたがったりする。投資家はインフレ世界では企業評価しづらくなり、企業も投資計画をちゃんと評価できなくなり、投資判断がおかしくなる可能性がある。

▼ヘルスケア▼

アメリカ人の大半はなんらかの健康保険に入っているが、医療技術が向上すると健康保険の掛け金が高くなって、保険料が払えなくなる人が出てきて健康水準を下げている。しかし訴訟リスクを回避するため、カバーする治療法を限定する安い保険がない。政府のメディケアへの支出増が財政赤字の中心部分になる。

▼財政赤字▼

国の貯蓄率は国内の純投資と純外国投資の合計で、80年代のアメリカは外国への投資をやめて資産を外国に売っていたので貯蓄率が低くなっていて、投資のお金を外国人に頼るようになった。アメリカは所得の2-3%しか貯蓄しなくて貯蓄率がかなり低くて、70年代後半から政府が貯蓄を食いつぶして、個人は消費者ローンを使いまくって世帯の貯蓄率が低下したのが原因。財政赤字解消には支出をカットして税金を上げるしかなく、貧乏人向けの援助よりも中流層の社会保障とメディケアに手を付けなければならず、正直に物をいう政治家は落選させられてしまう。

▼連邦準備銀行▼

連邦準備銀行はベースマネー(国民が持っている現金と、銀行が預金のバックアップで持つ必要のある準備金の合計)の供給をコントロールする力がある。

▼ドル▼

アメリカはドル政策で貿易赤字を減らそうとしているものの、ころころ方針転換して意味不明で、本気で貿易赤字削減をやる気がない。ドル安にしても技術面でアメリカが遅れをとっていて商品が低品質なので昔ほど物が売れなくてたいして事態がよくならなかった。経常赤字をGDPの1%下げるにはドルを10%下げないといけないが、右派も左派もドル引き下げをやる気がない。しかし貿易赤字が増えれば保護貿易が代替案になる。

▼保護貿易▼

ほとんどのワシントンの政策担当者は保護貿易は悪いもので雇用に悪影響を及ぼすと考えているけれど、アメリカの雇用は供給で決まっていて需要で決まっていないので雇用を減らさない。保護貿易の本当の害は市場がこまぎれになって企業がスケールメリットを活かせなくなって世界経済の効率が悪くなること。

▼日本▼

日本は輸出が多いのに輸入が少ないので批判者は日本のやり方を変えさせようとしているけれど、90年代前半に日本が貿易黒字だったのは不景気で輸入品の需要が落ち込んだせいで、金融バブル崩壊で日本が脅威でなくなったので放っておかれている。

▼セービングス&ローン(S&L)▼

S&Lの預金は連邦機関に保障されていて、庶民が安全に貯金して利息を稼ぐものだったので、81年までは投資先が規制されて定期的に監査が入っていて、金を貸す相手は住宅購入者に限られていて低リスクだった。しかしインフレが起きて低利率だと預金者を獲得できなくなって金利を上げたので破産寸前になって、本来はS&Lを処分するのに預金を払い戻して150億ドルくらいで解決するはずが、議会がコスト負担を嫌がって投資の規制緩和で解決しようとしたので、連邦政府の保証つきで預金者の金で無責任に自由にギャンブルをするようなリスキーな投資をするようになってしまい、今はS&Lの処分に1660億ドルかかり、処分を先送りするほど未来の納税者の負担になる。

▼ロイズ▼

由緒正しい保険会社のロイズが何十億ドルもの損失を計上したせいで、数千人の個人が破滅した。ロイズは「顔(ネーム)」と呼ばれる個人の集団からなるシンジケートが保険料で船荷の損失をカバーする仕組みで、保険料でカバーしきれない場合はシンジケートのメンバー個人の資産から無限個人責任で払う仕組みで、顔は基本的にシンジケートが儲かっていれば個人は何もしなくても儲かる特権だった。しかしこの仕組みのせいで他人の金で博打をするモラルハザードが起きて、運営管理者が手数料目当てにいかがわしいリスクをカバーする保険を売ってリスクを顔に押し付けるようになり、再保険(保険の保険)を売ったり、さらにリスクが高いロンドン市場超過再保険(再々保険)を売るようになって、大型台風が起きて凋落した。

▼住友商事▼

住友商事の浜中泰男は銅市場で銅を買い占めて違法に市場操作して価格を吊り上げるコーナリングをやって儲けていたものの、96年にコーナリングに失敗して公称18億ドルの損失を出した。

▼起業ファイナンス▼

80年代はファイナンスの魔術師の時代で、実業家よりも買収の仲介業者が儲かった。企業経営者から企業のコントロールが離れて、資金調達がエクイティ調達から負債調達に変化して、巨額の負債で買収してリストラすると株価が上がるようになり、リストラ対象になりそうな会社の株を買い占めるリスク・アービトラージという職業が生まれた。しかし80年代に負債を山ほど抱えた企業の多くは90年代に資金繰りに行き詰って、ジャンクボンド市場が崩壊する。

▼グローバルファイナンス▼

70年代は銀行は独立主権国家は破産しないから手堅い融資だと思って第三世界に金を貸していたが、80年代は債務国が借金を返せなくて債務危機が起きた。89年に財務長官がブレイディ・ディールで債務を棒引きしたら発展途上国がエマージング市場扱いされて、多国籍企業が直接投資するようになる。

●感想

全体的に80-90年代のアメリカ経済の話で今となっては時代遅れの部分もあるし、日本について書いてある部分も少ないので、安い古本しか読めない貧乏人以外は他の新しい本を読んだほうがよいと思う。貿易赤字が続くと保護貿易に向かうよというのは当たっていて、トランプは保護貿易をするようになった。

さて今の日本の経済について考えてみることにする。クルーグマンや日銀副総裁の岩田規久男とかのリフレ派の経済学者は日銀が異次元の金融緩和を続けているのに2年で物価安定目標2%を達成できなくて、理論通りにうまくいかなくて面目を失った。じゃあなぜリフレ派は間違ったのかというと、リフレ派が見落としているのは有期雇用の割合が1986年の16.6%から2017年の37.3%に大幅に増えていることだと思う。総務省統計局の労働力調査によると2017年の雇用者5460万人のうち正規の職員・従業員は3423万人で、非正規の職員・従業員は2036万人である。「第3表 仕事からの収入(年間),雇用形態別雇用者数」によると、非正規の職員・従業員の74%くらいが年収199万円以下で、正規雇用と非正規雇用の所得格差がはっきりと出ている。日本での生産性、所得分配、失業の問題を考えた時に、不安定で低賃金な有期雇用の労働者が失業者としてカウントされないことが問題になる。労働力調査によると2018年11月の完全失業率は2.5%で、政府はいざなぎ越えの好景気だというけれど、有期雇用の労働者の割合が多いうえにその大半が低収入なので好景気の実感はまったくない。日本だとハローワークに登録して失業者認定を受けないと統計上の失業者扱いされないし、ハローワークはタダで求人を載せられるぶんだけブラック企業の釣り求人が多くて求人媒体としてはほとんど役に立たなくて求職者は失業保険をもらう以外にハローワークを使うメリットがないので、完全失業率が2.5%だといっても実際の失業者はデータより多くなる。有期雇用だと職場を転々として熟練者としての技能が身につかず、企業は経験者だけほしがって資格取得とかの社員教育に投資しようとせず、長時間労働が常態化して勉強時間がないので生産性が上がらないし、表面上の失業率は低くても有期雇用の非熟練労働者は企業間で人材の奪い合いにならないので給料は上がらないし、有期雇用だとローンが組めないので家や車のような高い物が売れないし、アベノミクスで富裕層が増えたといっても貧困層の分まで何個も家や車を買って子供を何十人も産むわけでもないし、有期雇用だとたいてい最低賃金すれすれの給料でボーナスが出なくて所得が上がらないので消費税が増えた分だけ消費を減らさざるをえなくて、表面上の失業率はかなり低いのに可処分所得が増えていないのでインフレは起きなくてデフレが続くことになる。終身雇用で有期雇用の割合が低かった昭和時代なら金融緩和をして金利が下がって企業の業績がよくなったら労組が賃上げ要求をして賃金が上がってインフレになったかもしれないけれど、有期雇用が多い現代だと労組がなくてストや団交がないので賃上げにつながらなくて、企業は過去最高の収益を上げても内部留保を貯める一方で従業員に還元しない。日銀がETFを買って日経平均株価が上がっても投資に回す余剰資金がない貧乏人には何の恩恵もないし、マイナス金利になっても担保になる資産がない貧乏人は銀行から金を借りて起業や投資をすることもできないので、トリクルダウンは起きずに金持ちと貧乏人の格差が広がるだけだった。日銀はインフレ目標を達成できなくても責任をとって辞任したり報酬を返上したりするわけでもなく、出口戦略のない金融緩和を延々と続けて高い報酬をもらい続けているけれど、失敗を認めなければ失敗じゃないというやり方はモラルハザードじゃなかろうか。それにインフレにしたいなら失業率が下がって人手不足になって賃金が上がるほうがいいのに、自民党が人手不足対策として外国人労働者を入れて低賃金競争をしようとするのは政策がちぐはぐで何がしたいのか意味が分からない。
派遣社員数は約129万人で労働者の割合としては2.4%で低いけれど、派遣業は設備投資せずに利益がでるので儲かるようで、竹中平蔵が政商と呼ばれるほど政治経済に影響力を持っている。長岡藩の小林虎三郎の米百表の精神というのは本来は未来を担う若者の教育に投資するために大人が辛抱することだったのに、小泉・竹中コンビはその真逆をやって、ローンを抱えた中高年正社員の雇用を維持するために若者への投資を減らして若者を非正規雇用で使い捨てて辛抱させた。小泉・竹中が非正規雇用を常態化させて若者の所得を下げて少子化を促進させた元凶ともいえる。労働者を低賃金で使いつぶして儲けたい人たちが政治経済に影響力をもっているうちは何の政策をやってもインフレや少子化対策は無理である。
入管法改正は移民との低賃金競争でのデフレや治安悪化以上の悪影響があるかもしれない。自衛隊も年齢制限があるうえに仕事がきついせいで人手不足だけれど、憲法が改正されて入管法がさらに改悪されたら外国人傭兵部隊が運用されるようになるのかもしれないし、移民が増えて治安が悪化するのを口実にして一般人に銃の所持が許可されて軍事産業が拡大するのかもしれないし、予備自衛官を派遣するような警備会社がでてきて金持ちが私設軍隊を持てるようになるのかもしれない。防衛や治安維持のために警察や自衛隊以外に民間派遣会社の傭兵部隊が必要なのだということになれば、税金で派遣会社が儲かって政治家に献金として還元される永久機関ができあがる。そうなったらデモが武力鎮圧されて、庶民が権力者に逆らえなくなるバビロンシステムが完成する。なんてこった。

★★★☆☆


クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫) [ ポール・R.クルーグマン ]





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2019.01.09 16:36:55
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: