三角猫の巣窟

三角猫の巣窟

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

サイド自由欄

コメント新着

三角猫@ Re[1]:戦争反対について考える(04/02) 四角いハムスターさんへ 四角いハムスタ…
四角いハムスター@ Re:戦争反対について考える(04/02) お久しぶりです。 コメントはしておりま…
三角猫 @ Re[1]:善本位制について考える(08/02) 四角いハムスターさんへ 善本位制がうま…
四角いハムスター@ Re:善本位制について考える(08/02) 三角猫さんへ 中国は国家安全ために自国…
三角猫 @ Re[1]:善本位制について考える(08/02) 四角いハムスターさんへ 私は宗教国家の…
2020.12.13
XML
カテゴリ: 小説

歴史小説、時代小説の短編27作のアンソロジー。

杉浦明平「秘事法門」
自分の苗字の杉浦のルーツをたどって、堕落した蓮如派とそれを悪魔として討伐しようとする日蓮派の門徒たちの対立を書いた話。
エッセイから小説に移行するような独特の形式。露悪的にどちらの宗派にも正義がないことを書いているあたりがよい。

船山馨「刺客の娘」
田中光顕のところに渡辺きみが訪ねてきて、坂本龍馬を仕留めたのは今井信郎とされているけれどそれは間違いで父親の渡辺吉太郎が殺したので、記録を訂正してほしいと訴える話。
真実を訴えたというだけで終わって山場がない。

柴田錬三郎「無想正宗」
豊臣秀頼の愛刀の無想正宗を受け継いだ眠り狂四郎が蝋人形の首をめぐってむささび喜平太と対決する話。
眠り狂四郎シリーズが人気になって剣豪小説ブームになったそうだけれど、女と暴力の漫画っぽいエンタメという感じ。

中村真一郎「砕かれた夢」
徳川家康の六男の忠輝は伊達政宗の娘と結婚して一旗揚げようとしたものの、秀忠に監禁されて正宗にも見放された話。
小説というよりは歴史解説。

水上勉「天正の橋」
岩倉合戦で岩倉軍に加わって信長に睨まれた不運な堀尾方泰の息子の堀尾金助が秀吉の小田原攻めに加わって戦果を上げようとして初陣で死んで、金助を弔う橋が建てられた話。
橋の由来を掘り下げて物語形式にした感じ。

阿川弘之「野藤」
野藤という鷹を飼う徳川家の鷹匠の小林正之丞は腕はいいものの、宿で女郎買いをしていた奥坊主に喧嘩を売ったら素行不良で解雇された話。
元ネタは「幕末百話」。鷹狩の鷹の育て方について詳しく書いてあるのがよいけれど、「公儀御鷹匠の役目を笠に着て無体をする事にかけては相当あくどくて、其の事の為に後にお役御免になった」と序盤でオチをネタバレしているのはよくない。

五味康祐「喪神」
瀬名波幻雲斎信伴が武芸奉納で比村源左衛門を倒して豊臣秀次の剣の師匠になるものの多武峯に隠居して、決闘に来た青年松前哲郎太重春にとどめをささずに弟子にする話。
この小説で芥川賞を受賞して、その後柳生一族の小説を書いて剣豪小説ブームになったそうな。

山田風太郎「みささぎ盗賊」
火串の猪七という悪党が神功皇后陵で財宝を見つけて神罰を受けた話。
翁のおじゃる口調の一人称。時代劇風インディー・ジョーンズみたいな感じだけれど、おじゃる口調のせいで描写がわかりにくくてエンタメとしては読みにくい。この作家は「伊賀忍法帖」が人気になって忍法ブームを作ったそうな。

瀬戸内寂聴「妲妃のお百」
祇園の芸達者なお百が桑名屋徳兵衛に根引きされるものの浮気して追い出されて、昔の客につきまとわれたので殺す話。
殺人を書いておいて、最後にやっぱり殺してなかった説を付け加えるあたりは蛇足。

池波正太郎「看板」
盗賊の夜兎の角右衛門は殺傷しない掟を守っていたものの、手下が掟を破ったせいで乞食にって死んだ女がいたと知って自首して、盗賊の捜査に協力して殺される話。
心情を語らずに省略して淡々と書くハードボイルドの文体と内容が合っていてよい。盗賊なりのけじめのつけ方に外国のピカレスクとは違う日本らしさがある。

遠藤周作「最後の殉教者」
きりしたん信仰がある長崎の中野郷で浦上四番崩れという迫害が起きて、臆病な喜助はすぐに転宗するものの、神の声を聴いたのでみなの後を追ってまた拷問された話。
なぜゼススは助けてくれないのかという疑問を掘り下げずに苦難を美化して奇跡で正当化するあたりがいかにもキリスト教文学という感じで私は嫌いである。

池宮彰一郎「清貧の福」
貧乏な普請方の三杉が家老から10両もらったので同僚が困ったときに使うように取っておくことにしたら、1両減ったり増えたりして揉める話。
結局誰が1両足したのか不明なまま終わるので、ミステリとしては物足りない。

司馬遼太郎「侠客万助珍談」
幕末の大阪の鍵屋万助という侠客が攘夷浪士の強盗対策のために一柳家に雇われて士分になると博打で警備費用を稼いで好き勝手やって、倒幕後もうまく立ち回って金儲けする話。
侠客らしい武士とは違う渡世の仕方が面白い。

隆慶一郎「柳枝の剣」
柳生十兵衛に酷く稽古されて育った左門は剣に夢中になるあまりに女嫌いになって家光と衆道の仲になるものの、家光が左門を厚遇するのが周囲に嫉妬されて柳生一門の危機になったので十兵衛が左門を殺しに来る話。
9歳、15歳、22歳、26歳、27歳のそれぞれのエピソードを書く形式。伏線がオチにつながっていてよい。

綱淵謙錠「鬼」
配膳を変えたせいで姫が毒殺されてしまう話。
一人称。語り手の名前が明らかになるのが2章で、情報を出すのが遅い。誰が誰に対して何をなぜ語っているのかというナラトロジー的な始末ができていないので背景情報が不明なせいで物語が頭に入ってこない。昭和の作家なので文学理論を知らないのは仕方ないとはいえ、技術的に下手なのではつまらない。一人称で書く必然性がないなら三人称で書くほうがまし。

三島由紀夫「志賀寺上人の恋」
老いた上人が来世の浄土を捨てて女性に恋する話。
前置きを書いてから本編に入る形式は読者に対して親切でわかりやすい。

永井路子「右京局小夜がたり」
乳母の右京が鎌倉時代の右大臣の殺害を語る話。
右京が誰かと会話している形式で、何度も「え?」と相手の会話をオウム返しするのがうざったいし、綱淵謙錠の「鬼」と同様にナラトロジー的な始末ができていないので物語が頭に入ってこない。

三浦朱門「冥府山水図」
私が友人の鄭から絵をやめるきっかけになったという絵の師匠の衡山居士の先生の白石翁が若い頃の逸話を聞く話。
私の一人称の枠小説の構図。伝聞のさらに伝聞という婉曲さに加えていつの時代の話なのかよくわからないので時代小説としてあまり面白くない。

吉村昭「コロリ」
明治初期の西洋医学の医師の沼野玄昌が死体を掘りだして骨格標本を作ったので村人に気味悪がられてコレラの原因扱いされてリンチされる話。
三人称。冒頭でネタバレしていてそのままの展開なので工夫がないので物語としてはあまり面白くないけれど、現代のコロナ過の医者いじめに通じるものがあるし逸話として残しておく価値がある。

藤沢周平「驟り雨」
泥棒が盗みに入る前に雨宿りしていたら、訳ありの人たちが3組雨宿りしに来たので盗み聞きする話。
三人称。遅延を3回繰り返して主人公の感情の変化をオチにするというテクニカルな構成で、話はそれほど面白くないけれど技術の使い方としては手本になるようなきれいな仕上がり。

澁澤龍彦「儒艮」
親王が天竺を目指して東南アジアを船で旅していたら、捕まえたジュゴンが喋り出す話。
三人称。マジックリアリズムをやろうとしたのかもしれないけれど下手な夢オチみたいになっているし、ポストモダン的なことをやってみただけのような感じで時代小説でやる必然性がないので面白くない。

三浦哲郎「贋お上人略伝」
侍を殺して仏門に入った鉄門海上人が即身仏になったので弟分の月海が死体を乾かす話。
三人称。オチは月海のその後をほのめかすだけでインパクトが乏しいけれど、即身仏の作り方とか修験の道に背いた者を穴に入れて小石を投げ込む石子詰めの刑罰とかの文化的な部分のうんちくは面白い。

平岩弓枝「ちっちゃなかみさん」
料理屋の一人娘が縁談を断って豆腐売りの男と結婚したいというので既婚者かどうか調べてみたら、姪と甥を育てるまで結婚しないというので引き取る話。
三人称。健気な子供を大人が庇護するオーソドックスな人情話。

筒井康隆「ヤマザキ」
信長が死んだので秀吉が毛利と講和して急いで新幹線で返る話。
三人称。序盤はまじめに時代小説を書いているふりをして、終盤はいつものスラップスティックだった。

古井由吉「厠の静まり」
死に際に些細なことが気になる僧侶や厠で蒸発する僧侶についてのエッセイ。
ころころ主題が変わって誰の何の話をしたいのかわからないし、労力をかけて精読してまで理解したい話でもない。

宮城谷昌光「指」
疾が衛の君主の霊公の妻の愛人の子朝の娘と結婚させられて前の妻を捨てたら、宰相の孔圉が子朝を追放して娘と結婚しろというのでまた妻を捨てて結婚するものの、元妻を愛妾としていたのが妻にばれて孔圉に命を狙われる話。
三人称。疾について年齢や地位や子朝との関係といった基本的な背景情報がなくて説明不足で、なんで子朝や孔圉が疾と娘を結婚させたがるのかわからない。こういうのは編集者が書き直しさせないとだめだろう。

中上健次「月と不死」
死に損ねて放浪している頑丈な被慈利が茶屋で魔界と噂されているところに行ってみたら住民に襲撃される話。
三人称。何のテーマを書きたいのかわからない。

●全体の感想

古い小説から最近の小説までいろいろな作風があって、有名な作家がそろっているので、歴史小説・時代小説のアンソロジーとしては読みごたえがあってよい。800ページくらいあってたくさん文章が読めてコスパもよいので、好きな作家は特にいないけれど適当にいろいろな作風の時代小説を読みたい人は買って損はないと思う。時代小説の面白さは書き方よりも元ネタ次第のところがあって、元ネタの面白さを妨げない書き方をしている池波正太郎の「看板」は私好みだった。本格的な時代小説を読みたい人にとっては澁澤龍彦や筒井康隆は期待外れで面白くないかもしれない。
昭和は剣豪が出てくる時代劇や歴史小説が流行ったのだろうけれど、現代はアクション系の物語はファンタジーに取って代わったように見える。剣だけで戦うチャンバラは地味だけれど、魔法とかの特殊能力で戦うファンタジーのほうが漫画やアニメで見栄えがいいのでエンタメの主流になった。漫画の『NARUTO』は忍者をテーマにしているけれど、忍術というより魔法である。あるいは『ONE PIECE』のワノ国編のようにファンタジー世界で時代劇をやるようになった。これは歴史小説は取材に手間がかかるし、有名どころの武将ネタや剣豪ネタがやりつくされて目新しいものがなくなったのに加えて、現代人の感性が変わってジャニーズやK-POPの気取った優男が若い男女の憧れになって勝新太郎のようなむさくるしい髭面のおっさんをもはやかっこいいと思わなくなって歴史小説の人気がなくなったのかもしれない。NHKの大河ドラマの平均視聴率は87年の「独眼竜政宗」の39.7%がピークで、2010年代は10%台にまで落ちているようである。昭和はまだ戦争の名残があってテロとかの暴力的な事件も起きていたので死が生活の延長線上にあったのに対して、現代では死や戦闘は日常生活とは切り離したゲーム的なフィクションの出来事としてとらえられているようである。歴史小説は実在した人物の現代とは違う生き方を書くのに対して、異世界転生では現代人の感覚のまま現代とは違う世界を生きようとするので、中世で剣で戦う物語でも内容はまったく異なる。歴史小説は戦争や天災や飢饉が頻発する過酷な中世を生きた人たちを書くからこそ平和に生活できる現代を相対化する視点になるし、現代人が見習う点がある。現代人はレジリエンスがなくてストレス過多で問題解決のために戦わずに自殺してしまう一方で、中世に活躍した人たちは傑物というにふさわしい胆力や行動力を備えて困難に立ち向かっていて、人間はそんなふうに生きられるのだという実存の可能性を示すことが現代人が生きる気力を取り戻すきっかけになるかもしれない。
時代小説や歴史小説には現代がいずれ過去の時代になるということを認識させる役割もある。漢代の法家の書物『管子』には「一年之計、莫如樹穀。十年之計、莫如樹木。終身之計、莫如樹人」というのがあって、一年の計画を立てるなら五穀を植えるのがよい、十年の計画を立てるのなら木を植えるのがよい、百年の計画を立てるのなら人を育てるのがよいというような意味である。江戸時代の日本は子供を大事にして地域ぐるみで育てていたようで寺子屋や若者組という教育制度があったし日本各地で立派な人が育って明治維新後の近代化と日本の発展につながったけれど、現代の日本は学校が乱立する一方で人が蔑ろにされていて、企業も人を育てるのをやめて非正規雇用で搾取したあげくに未婚化と少子化になって、その少ない子供も大事にされずに虐待されたり自殺したりしているので、百年後に人を育てなかったツケがまわってくるだろう。今は百年前の大正時代を舞台にした『鬼滅の刃』が人気だけれど、百年後の時代小説には21世紀の世界はどう書かれるのだろうかと想像するのも楽しいかもしれない。衰退した未来の日本よりも現代の日本のほうが先進国でいられた良い時代として美化されるのかもしれないし、札束の呼吸で無双する前澤友作やテキーラの呼吸で無双する光本勇介の物語が資本主義時代のチャンバラとして格好よく書かれるのかもしれない。『破滅の札束』というタイトルで百年後に出版したら売れると思う。

★★★☆☆

【中古】歴史小説の世紀−地の巻− / 新潮社






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2020.12.13 19:30:35
コメント(0) | コメントを書く
[小説] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: