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貧乏な騎手が馬主に逆らったり女子アナに惚れられたりする話。第14回小説すばる新人賞受賞作。
●あらすじ
28歳のフリーの騎手の八弥は人づきあいが悪くて営業をしないので騎乗依頼がほとんどなくて池田厩舎に頼って貧乏暮らしをしていた。かつてマスコミにアイドル扱いされた美人調教師の秋月智子が調教するドロップコスモに乗る機会を得たら実力があるのに怠けて走らない馬だったものの3位に入る。その後気性が荒い騙馬のベンライオンで勝つ。期待の新馬オウショウサンデーに乗って出遅れるものの追い込みで圧勝して成金の馬主の伊能に気に入られて、次戦は馬の意思を優先して逃げで勝つものの追い込みにロマンを求める馬主と衝突してオウショウサンデーが転厩してしまう。新人調教師の多治見の騎乗依頼で不器用なネオリックで勝つものの金欠になって、弟弟子の大路が八弥に厩舎で留守番するアルバイトを世話した縁で名門の厩舎から福島の未勝利戦の騎乗依頼が来て、厩務員の福田に甘やかされた根性なしのミラクルルイスで勝利する。女子アナの会沢ミカに同期の天才騎手の生駒についてインタビューされて気に入られる。オウショウサンデーは追い込みにこだわって負け続きだったものの、騎手が生駒に代わって馬のやりたいように走らせたら圧勝する。兄弟子の糺が無理な減量をして体重調整に失敗する原因になったリエラブリーが引退するというので八弥が最後に重賞に出させて本命のオウショウエスケプに勝負を仕掛けたら惨敗して、それが馬主の伊能への嫌がらせと取られて、オウショウサンデーの逃げ勝負のロマンを求める伊能から八弥に天皇賞のオウショウエスケプの騎乗依頼が来て、八弥は逃げ勝負を仕掛ける。
●感想
八弥が焦点人物で三人称で時系列順に展開する形式。良い点としては競馬用語の説明を入れるタイミングがちょうどよくて説明がストーリー展開のじゃまにならないし、厩舎のいざこざの場面とレースの場面を交互に展開していてすぐ次のレースになるのでテンポがよくて読みやすいし、騎手が馬を制御する様子の描写はよく書けている。
欠点としては純文学に比べたら外面描写が少ない。15ページで「並ぶと八弥と同じくらいの背丈で、同じようにスリムな体型だったが」と秋月智子を描写していて、スタイルがよいと言いたいのはわかるけれど、そもそも八弥の身長と体重が具体的に書かれていないので比較されてもよくわからない。調べてみたら体重52キロ前後の騎手が多いそうで、兄弟子が体重調整で失敗した話が書いてあるだけになおさら八弥の体重や自己管理方法を書かない理由がわからない。
エンタメとしてみれば個性的な馬を乗りこなす話は面白いのだけれど、八弥の物語というよりも盛り上がるストーリー展開合うように主人公を作ったようなご都合主義的な人物像なのはリアリティが乏しくなる。訳あり厩務員とかの登場人物たちは個性を出すためなのか誇張気味で、エピソードごとに人物を使い捨てる感じで伏線として効いてこなくて構成力が足りない。秋月智子がヒロインっぽく登場したかと思いきや会沢ミカにヒロイン枠を取られるし、その後両方ともプロットに絡むような出番があるわけでもなくて賑やかし要員になっていてあまり存在意義がない。それに出てくる女性がことごとく美人で八弥に好意を持っているのもご都合主義的で、独身男が風邪をひいたら美女が看病しに来るというラブコメによくあるご都合主義のテンプレ展開は一層リアリティがなくなる。長期連載の漫画なら場面つなぎで看病シーンを使うのもわかるけれど、書下ろし小説ならわざわざテンプレ展開を書く必要がなくて削ってもいい部分で、入念に取材した見せ場よりもこういう重要でない部分に作者の地力が出る。この辺は新人らしい未熟さがある。
時系列順に物語が展開するのはわかりやすいのでこれが悪いわけではないのだけれど、三人称にしたのだから焦点人物の切り替えとかの構成に工夫がほしいところ。ジョッキーを主題にするにしても、八弥を焦点人物として固定せずに様々な騎手の群像劇にしたら違った面白さが出たかもしれない。例えば御崎と野田の引退レースは八弥とはあまり関係のない話なので八弥目線で書かずに御崎を焦点人物にしてもいいところである。
この本は10万部売れたそうで、新人の小説としてはヒットしたようである。Wikipediaを見たらこの本は作者が24歳くらいのときの作品のようで、その後はスポーツドクターとかサッカーとかのスポーツ系のフィクションをちょっと書いて2012年から新作が出ていなくてデビュー作が代表作のまま伸びなかったようで、公式HPもSNSもないので活動しているのかわからない。作家は早くデビューしたところで長く活躍できるわけでもなくて、ストックが少ないと長続きしないのが難しい所である。
★★★☆☆
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