システムエンジニアの晴耕雨読

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2010.01.30
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カテゴリ: 書評・読書メモ

ライ麦畑でつかまえて

 1月27日、サリンジャーさん、亡くなったとのこと。

 高校生の時、『ライ麦畑』を一読、『つかまえて』になりたい!

 と結構真剣に思っていたような(-_-;)

 数十年経ってみれば、いまのプロマネ、ラインマネージャの役割の8割方は、

 まさにプロジェクトの『つかまえて』そのもの・・

 いかに崖から転がり落ちないようにするか、また落ちた子供を助け出すか。

 でも、いくつになっても『ライ麦畑』の真ん中で走り回っている子供になる、

 という選択肢も、とっても魅力的に思える今日この頃です。




以下、15年ほど前のメモ・・

「本当に好きなものを言ってごらん?」と親愛なる妹から言われて
しどろもどろになるホールデンの姿は、17歳の自分の姿でもあった。
実は、死んだ仲良しの弟が好きだ、こうして君と話をしているのが好きだ、
と答えているにもかかわらず、その答えは承認されない。
だってそれは将来に対する要求じゃないから。好きなことを選んでいい、選びなさい、
という権利は、選んだ世界でなにものかになるための義務を果たすことを期待
されていることと一体だ。共感したのは、それが見え見えのように感じたためかもしれない。



そのハイライトシーンを・・・・


 J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』白水Uブックス

 野崎孝さん訳



「兄さんは世の中に起こることが何もかもいやなんでしょ」
彼女にそう言われると、僕はますます憂鬱になった。

「違う。違うよ。絶対にそんなことはない。だからそんなことは言わ
 ないでくれ。なんだって君はそんなことを言うんだ?」

「だってそうなんだもの。兄さんはどんな学校だっていやなんだ。
 いやなものだらけなんだ。そうなのよ」

「違う! そこが君の間違ってるとこなんだ-そこんとこだよ、君が
 間違ってるのは。どうしてそんなことを言わなきゃならないんだい?」
そう僕は言った。いやあ、彼女からそんなふうに言われると、実に憂鬱だったなあ。

「そうだからそうだって言うのよ」と彼女は言った。
「一つでも言ってごらんなさい」

「一つでも? 僕の好きなものをかい?」と僕は言った。
「ああ、いいよ」

 ところが困ったことに、僕はあんまり意識を集中することができなかった。
 意識って奴は、ときどき、集中しにくいことがあるもんでね。

「僕のうんと好きなものを言うのかい?」僕はそう言った。

 ところが彼女は返事をしないんだな。ベッドの向こう端のとこにへ
んな格好して転がってんだよ。まるで千マイルも離れたとこにいるみ
たいな感じだった。「ねえ、教えてくれよ。僕のうんと好きなものを
言うのかい、それともただ好きなものを言うのかい?」

「うんと好きなもの」

「よし、わかった」と僕は言った。しかし、困ったことに、意識を集
中することができない。思い浮かんだのは、あの、くたびれた古い麦
わらの籠に金を集めて歩いてた二人の尼さんだけだった。特に、あの
鉄縁の眼鏡をかけたほうの尼さんだ。それから、エルクトン・ヒルズ
で知り合った男の子。・・

 それにしても、僕が思いついたことといったら、だいたいこんなこ
としかなかったんだな。朝の食事のときに会った二人の尼さんと、エ
ルクトン・ヒルズで知り合ったジェームズ・キャスルという男の子と。
ただ、おかしなことに、ジェームズ・キャスルという生徒は。実を言
うと、知り合いという仲でさえなかったんだ。・・

「なに?」と僕はフィービーに言った。僕に向かってなんか言ったん
だけど、聞き取れなかっただ。

「兄さんは一つだって思いつけないじゃない」

「いや、思いつける。思いつけるよ」

「そう、じゃあ言ってごらんなさい」

「僕はアリーが好きだ」僕はそう言った。
「それから、今してるようなことをするのも好きだ。
 こんなふうに君といっしょに坐って、話をしたり、何かを考えたり-」

「アリーは死んだのよ-兄さんはいつだってそんなことばかり言うん
 だもの! 誰かが死んだりなんかして、天国へ行けば、それはもう、
 実際には-」

「アリーが死んだことは僕だって知ってるよ! 知らないとでも思っ
 てるのかい、君は? 死んだからって、好きであってもいいじゃないか、
 そうだろう?
 死んだからというだけで、好きであるのをやめやしないね
 -ことにそれが、知ってる人で、生きてる人の千倍ほどもいい人だったら、
 なおさらそうだよ」

 フィービーはなんとも言わなかった。何といったらいいか、
 言うべきことが思いつかないときには、彼女は黙っちまうんだ。

「それはとにかく、僕は今みたいなのが好きだ」と僕は言った。
「つまり、この今のことだよ。ここにこうして君と坐って、おしゃべりしたり、ふざけたり-」

「そんなの、実際『もの』じゃない!」

「いや、実際の『もの』だとも! 実際の『もの』にきまってる!
 どうしてそうじゃないことがあるもんか! 
 みんなは実際の『もの』を『もの』だと思わないんだ。クソタレ野郎どもが」

「悪い言葉はよしてよ。じゃいいから、何か他のものを言って。
 兄さんのなりたいものを言って。たとえば科学者とか。あるいは弁護士とか」

「科学者にはなれそうもないな。科学はぜんぜんだめなんだ」

「じゃあ、弁護士は? -パパやなんかのような」

「弁護士なら大丈夫だろう -でも、僕には魅力がないな」と僕は言った。
「つまりね、始終、無実の人の命を救ったり、そんなことをし
てるんなら、弁護士でもかまわないよ。ところが弁護士になると、そ
ういうことはやらないんだな。何をやるかというと、お金をもうけた
り、ゴルフをしたり、ブリッジをやったり、車を買ったり、マーティ
ニを飲んだり、えらそうなふりをしたり、そんなことをするだけなん
だ。それにだよ。かりに人の命を救ったりなんかすることを実際にや
ったとしてもだ、それが果たして、人の命を本当に救いたくてやった
のか、それとも、本当の望みはすばらしい弁護士になることであって、
裁判が終わったときに、法廷でみんなから背中をたたかれたり、おめ
でとうと言われたり、新聞記者やみんなからさ、いやらしい映画にあ
るだろう、あれが本当は望みだったのか、それがわからないからなあ。
自分がインチキでないとどうしてわかる? そこが困るんだけど、お
そらくわからないぜ」

 僕の話したことがフィービーにわかったかどうか、あやしいもんだ
と思う。なにしろ彼女はまだ小さな子供なんだから。しかし、彼女は、
少なくとも耳をすまして聞いてはいた。耳をすまして聞くだけでも聞
いてくれる人がいれば、これはそうすてたもんでもないからな。

「兄さんはパパに殺されるわよ。きっと殺されるわ」彼女はそう言った。

 しかし、僕は耳をかしてなかった。僕は別のことを考えてたんだ-
別の馬鹿げたことを。「僕が何になりたいか教えてやろうか?」と僕
は言った。「僕が何になりたいか言ってやろうかな? なんでも好き
なものになれる権利を神様の野郎がくれたとしてだよ」

「なんになりたいの? ばち当たりな言葉はよしてよ」

「君、あの歌知ってるだろう『ライ麦畑でつかまえて』っていうの。
 僕のなりたい-」

「それは『ライ麦畑で会うならば』っていうのよ!」とフィービー
は言った。「あれは詩なのよ。ロバート・バーンズの」

「それは知ってるさ、ロバート・バーンズの詩だということは」
それにしても、彼女の言う通りなんだ。「ライ麦畑で会うならば」
が本当なんだ。ところが僕は、そのときはまだ知らなかったんだよ。

「僕はまた『つかまえて』だと思ってた」と僕は言った。「とにかく
ね、僕にはね、広いライ麦の畑やなんかがあってさ、そこで小さな子
供たちが、みんなでなんかのゲームをしてるとこが目に見えるんだよ。
何千っていう子供たちがいるんだ。そしてあたりには誰もいない-誰
もって大人はだよ-僕のほかにはね。で、僕はあぶない崖のふちに立
ってるんだ。僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになっ
たら、その子をつかまえることなんだ-つまり、子供たちは走ってる
ときにどこを通ってるかなんて見やしないだろう。そんなときに僕は
どっからか、さっととび出して行って、その子をつかまえてやらなき
ゃならないんだ。一日じゅう、それだけをやればいいんだよ。ライ麦
畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げてる
ことは知ってるよ。でも、ほんとになりたいものといったら、それし
かないね。馬鹿げてることは知ってるけどさ」





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最終更新日  2010.01.30 10:32:24
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