JAPANESE GIRLS&BOYS

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好きかつ数奇(ブログ)


携帯で不定期(最初は毎日更新のはずだった…)なので本当は
『□』で細切れになってます。

君も僕の話を聞いて欲しい。そして聞かせてくれよ。
完璧な、幸福についての証明を。

好きかつ数奇 第一問
『死期と出会いについて計算しなさい』

僕、鳥居数人〔トリイ カズヒト〕は極普通の人間だ、と主張したい。
今僕は念願叶って入学した地元公立高校、創院高校1年4組の教室。
小学生の時から仲のいい染岸律〔ソメギシ リツ〕と同じクラスになって喜んで(主に僕一人が喜んだ。)自己紹介を今してる。僕の番はもう終わった。
ひかれたりしたけどそれはいいだろう。少なくとも今は。

問題が起こったのは、
僕がみんなにひかれる原因になった『将来の夢』という項目だった。

あろうことか、そいつは
クラス中の人間の前で、

比内時瀬亜〔ヒナイジ セア〕はこう言った。

「僕に将来の夢などあろうはずもない。何故なら僕が僕自身で大人になる前に死ぬという選択をするからだ」



えーと、時系列に沿って説明しよう。つまり僕が皆にひかれた所から。
僕は僕の自己紹介に何か不備があったとは思えないんだけど。
まぁ僕の自己紹介をもう一度思い返してみる。

「鳥居数人です。得意な教科は数学。
趣味は算盤と数独、将来の夢は数学者です」
ほら、なんの間違いもないだろ?

………うん、わかってる。数学を異常なまでに愛している僕が、
世界一般にいう『普通の少年』とかけ離れてることぐらい。
まぁ容姿も女の子みたいって言われるし、その時点で普通じゃないけど。
ともかく僕は数学に並々ならぬ愛情を注いでいる。
だから変なヤツとして中学ではイジメられかけたし、いつも白い目で見られた。僕がスポーツ誌に目を輝かすクラスメイトを白い目で見るのと同じ様に、数学誌や数学に関する本をむさぼり読む僕を、クラスメイトは白い目で見たってことだろう。

そんな僕の友達で理解者で、唯一無二の親友が、剣道に身を捧げる和の男、

『染岸 律』だ。



「………染岸律。趣味は茶道華道剣道。
将来の夢は自分の道場をもつこと。得意教科数学。」

以上が、つい今目があった律の自己紹介。
律の家は各方面で超有名な和の家で、彼も勿論
華道、茶道、剣道の英才教育を受けてる。
和服の方が多い奴だから今着てる学ランは結構僕には笑えたりするんだけど。そんなことはいいか。とりあえず、彼が僕の友達だ。
数学の話ばっかしても嫌な顔一つしないで積極的に聞いてくれるし、
僕がイジメられかけた時は身を呈してかばってくれたし。

ほんと、最高にいい奴。
ただ少しもったいないのが“間”や“静寂”を愛する沈黙家なこと。
必要以上の事はべらべら喋らないし、人に構うこともあまりない。
だから冷たいだなんだ言われてたりもするけど、僕とは普通に話すし、
慣れるとこの距離感が心地良かったりもして。
今もアイコンタクトで気遣ってくれてるから、大丈夫って答えておく。
ちくしょう。僕とかけ離れた男前の面が気に障る。
背も僕より十センチ近く高いしな。不公平なもんだ。

さて、次はいよいよ比内時瀬亜の話。



僕はあいつ、比内時瀬亜が自己紹介した時のことを思い出してみる。

まず彼女が前に立った時、凄く驚いた。
それはほぼ全員で。彼女はそれほど美人だったんだ。

腰まである黒髪、白い肌、人形みたいな細い腕。
どっかの物語から出てきたみたいな、現実離れした美人。
彼女が口を開く時、僕らは当然礼儀正しくてお嬢で高めの声だろうと思った。
でも、彼女は不敵に笑って。こう口火をきったんだ。
「やあ諸君。僕は比内時瀬亜。変な名だが本名だ。
奇特かつ暇な者は仲良くしてやってくれたまえ。」
皆、唖然。ハスキーボイスに自信満々の口調。
僕は、漫画の読みすぎじゃないかと思った。変な奴、だ。

「得意教科は社会科地理。趣味は旅をすることだ。」

その台詞のあと、アレだ。
彼女は皆の思考が停止している間に瓢々と席へ戻って。
比内時瀬亜は、素晴らしい存在感を見せ付けてくれたわけだ。

ああ、最後の自己紹介が終わった。
でも皆比内時の自己紹介しか覚えてないだろうな………。
丁度チャイム。先生なかなかできると見た。
号令がかかって授業終了。各々騒ぎ始めるが、僕はとりあえず席を離れない。
律は何か本を読んでるようで。だからあんまりうるさく話かけない方がいいだろうから。

次は早速楽しみで楽しみで仕方ない数学の授業なので、僕はうきうきと準備を始めた。



チャイムと共に四時間目の授業が終了した。
この学校の昼食は弁当、あるいは食堂、あるいは購買で購入となっているので、僕ら、つまり僕と律は屋上へ向かう。

年功序列やら先輩は絶対だなんだあって普通一年は屋上へ来ないものなのかもなぁ、と考えながら階段を上る。律は横でなく後ろ。
でないと知らず知らずのうちに先へ行ってしまうかららしい。

「やっぱ僕らしかいないかなぁ。」
「多分、な。所でお前の目下の心配事だった数学はどうだった?」
「ん、可もなく不可もなく、かな。担任が数学の先生ってのがオイシイとは思うけど。」律は?と聞けば、答えた。
「中々横道に逸れた発言が多く好感が持てる。」
そう律が言った時には、もう屋上の扉の前へいた。僕は息が切れてるけど、律は何ともない。これもまた不公平。律は睨む僕を不審そうにみて、扉を開ける。

「やあ鳥居数人君、染岸律君。共にランチかね?
僕もご一緒して構わないだろうか?一人で昼食を食べるには風が冷たすぎてね。」

比内時瀬亜だ。



僕は割とその場の空気に流される人間だ。
だから、比内時の思惑通りに進んでいるのだろう。

僕らは屋上に座りこんで昼食を食べる。比内時の弁当にはサンドイッチ。
彼女は育ちの良さを感じさせる手付きでそれをとった。
「律君、君の弁当は随分と和風かつセンスがいいね。自分で作ったのかな?」
律はその問いに、彼女の顔を見て答える。律の癖。
「いや、姉が。」
律のお姉さん、染岸燈文〔ソメギシ ヒアヤ〕さんは生粋のお嬢様で、
この学校の生徒達の憧れの存在になっている。
華道、つまりお花をいけることで既にかなりの名声をもっていて、
新聞でもよく名前を拝見する。
僕と律とが仲がいいので、自然とご家族とも仲が良くなってしまった。
美人な上誰にでも優しく、成績も抜群にいい。
その上更に染岸のお嬢様だからもてない方がおかしいだろう。
「ああ!生徒会長の染岸燈文さんだね。いや、染岸先輩は真に美しい。」
「は………?」
今、何か不適切な表現があったようで僕は間抜けな声を出してしまった。
比内時は完璧な微笑で僕を見て。
「僕は何かおかしいかね?美しいお姉さんも麗しい同級生も可愛らしい幼女も大好きだが?僕も美しいお姉さんが欲しかったのだが生憎一人っ子でね。」
この発言には、珍しく律が比内時の顔を見ることで反応。
「え、ちょっと待て。じゃあ比内時は………女が好きなのか?」
ふふん、と彼女は笑って。
「そうだね。どちらかと言うと女性の方が好きだ。数人くん、君が町中で美しいお姉さんを見ると立ち止まってしまうのと気分は同じだよ同じ。
なに、恥じることはない。美しいお姉さんはこの世の宝ではないか!!」

きらーん、と擬音が聞こえるガッツポーズで言い切った。
つか、僕は立ち止まったりしねぇよ。相変わらず、律は黙々とおにぎりを食べる。
「さて、そういえば律君。」
唐突に比内時が言った。

「君には思い人などいるかね?」



ずる、とそれこそ僕はずっこけた。律に………好きな人!?
「数人、善意から教えておくが、今のお前は失礼な顔をしているぞ。」
律が呆れたような顔で言うからにはよっぽど僕は酷い顔をしたんだろう。
咳払い一つでなるべくいつもの顔に戻す。

律は、女子にもてる。馬鹿なこともしないし、勉強できるし、顔いいし。
告白、という物も星の数ほど受けてきた。
でもいつも律の答えは同じで、『興味がない。』ただ一言だ。

「興味がない。」比内時の問いに対する答えもその一言で。
比内時は妙に納得した顔で頷いた。
「そりゃああれだけ美しいお姉さんがいれば、他に興味なんて向かないだろうね。」
そうじゃないだろ、とのつっこみは胸にしまい、僕はずっと聞きたかったことを切り出した。
「あ、あのさ、比内時」
「なんだね数人くん。君が僕に友好的に接してくれようとするなんて、感謝で景色が霞むよ!!」
後半は綺麗に無視することを決めこんでおく。

「あの自己紹介、なんだよ。」



比内時は、は?と疑問の一音を口にして、口に運びかけたサンドイッチを止めた。
「は?じゃないだろ。なんだよあのインパクトある自己紹介。」
「ああ、あれかね。」
比内時はからりと晴れた空を見上げて。

「言った通りだよ。僕はこの3年以内に命を絶つつもりだからね。」
「なんで。」
「どうも僕は学校に適さない以前に人として適していない。
社会不適合を自称する女だよ?私は。小さい時から違和感はあったよ。
何故自分は他の人と違うのだろうといつも思っていた。」
「同性愛嗜好で、いじめとか?」
まあそれも、ないこともない、と比内時は曖昧に肯定。

「で、毎日が疲れて疲れて仕方ないから、もう高校生のまま死ぬことにした。
死ねばこの違和感が解消されるのだろうし。」
「えっと、そんな死ぬとか言うなって。楽しいことだっていっぱいあるだろうに………。」

僕には比内時が理解出来なかった。僕だってだるいなー学校行きたくないなー
と思うことはあるし、正直いいことより嫌なことのほうが多いけど、

それが人生じゃないのか。大人になれば、すくなくとも何か変化するだろうし。
「友達ぐらいなら、僕達がなるよ?同じく変人の。」
律を見る。律にとっての肯定、あるいは了承ってのは否定、反論しないことだから何も言わない今はそれでいいってことだろう。

「ほほう。期待通りの素晴らしい偽善者だね。」
喜んだように笑う比内時。
「いいねいいね。偽善者は大好きだよ数人君。だが安心したまえ。
その程度で僕の自殺願望は止まらない。友達がいない、授業がつまらない、世界が面白くない。ただそんな簡単なものではないのだよ。
僕は産まれた時から、高校生で死のうとするように運命が決定していたのだよ。君が気に病むことはなに一つないんだ。」

比内時はとっくに片付けた弁当箱を持って、

立ち上がり

振り返る。

「おや。もう僕たちは友達ではないのかね?律君、数人君。」
「はいぃ!?」
僕は、まず、すっとんきょうな声を上げた。

確かに今………友達だ的なこと言ったけど。

「いいようにまとめられた気がしないか?」
律の声がやけに響いた。

こんな、調子で。数学マニアと剣士と
自殺予定者は

友達になりました。



「結局だね数人君、不変などないと思うのだよ僕は。
なのに何故人は不変を美しいと思うのだろうね?」

第二問
『三人でぐだぐだ論議をかわす時、
少なくとも幸福へ傾いていることを証明しなさい。』

はあ、と僕は曖昧に返事を返した。うららかな昼休み。
僕は座って律が買ってくれた数学誌を読んでて、
律は何をするでもなく座ってて。比内時はフェンスに寄りかかってた。
危ないぞ。

「僕は完全が美しいってのは分かるな。やっぱ割り切れると嬉しいし、
出題者の込み合った罠をのような問題をなんとか解けた時は嬉しいしさ。
不変はノーコメントだけど。」
「………ああ、数学かね。なんの前触れもなく数学に走るのはやめて欲しいな
僕は。律君はどうかね。」

入学から二週間。そのうちに分かったのは比内時は人に話させるのが巧いってこと。
律が、嫌がらず喋るし。微妙に嫉妬も感じる。
今まで、律と懇意に話してきたのは僕だけだから。

いかんいかん。嫉妬は醜いぞ僕。

ともかく、律は機嫌を悪くすることなく、答える。

「不変を人が美しく思うのは補間願望だ、と思う。」
怪訝な顔をする僕に、律はわざわざ説明を入れてくれた。
「つまり、足りないものを補いたい願望。」
「成程。己が変化していく代わりに外部に不変を求めると。」
しきりに頷く比内時。
「だがしかし、花は枯れるし、茶室の『間』だって毎度変化する。
真の不変なんて、ない。」
茶室と華道がでてくるのが律らしい。と、ここで僕閃いた。

「あ、ある。人が不変になる方法。」

?と、比内時、律双方の視線を受けながら。

「死んじゃえばいい。体はともかく、精神的には多分不変。」

比内時の目が嬉しそうに光ったのを僕は見逃さない。

まるで、存在の全てが肯定されたのだとでもいうような
至福の表情を、してた。



ぷるるん、と律のスプーン上で震えるプリン。

「律………おいしい?」
「ああ。」

短くそっけない返事。

律は割と男らしくて怖めの顔に反して、甘いものが大好きだ。
律は僕がずっと欲しかった数学書を、お父さんの試合についていくついでとは
言っても、遠い所まで行って買ってきてくれた。
だからこれは僕がせめてものお礼にと近所の、日本で有名らしい洋菓子店で
買ってきたもの。今律の目の前の袋には、まだ10個以上のプリンがある。
まだ律は1つ目。彼は綺麗に食べ終え、屋上に設置されたゴミ箱へごみを捨てた。

「家族にあげてもいいだろうか。」
そりゃ律にあげたんだからご勝手に。そういう意味を込めて頷く。
「好きならさ、全部食べればいいのに。」
「いや。」
相変わらず変化のない表情。

「ポッキーデコレ然り、ヤクルト然り、このプリン然り、儚いから旨い。」
「つまり、大量だと美味しくないと。」
「気にするな。一度に食べたくないだけだ。」
家で食べる。律はそういった。

屋上のドアが、あく。

「やあ二人とも、遅れてわるいね。あ、プリンじゃないか。」
ひとつくれるかい?そう聞いて、比内時は律にプリンとスプーンを渡された。
「こういうものは儚いからおいしいのだよ。
わかるかね律君、数人君。一度に大量に食べてはその神聖さが
失われてしまうとは思わないかい?」

うきうきした比内時。

僕と律は、顔を見合わせ笑う。

やっぱり、敵わない。





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