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JAPANESE GIRLS&BOYS
星屑ドロップス
午前二時四十五分。
僕は部屋を抜け出して、待ち合わせの場所までとぼとぼと歩いていた。
幼馴染じゃあなかったら、絶対にこんなお願いは聞いてやらなかった。
本当の三時のおやつが食べたいだなんて。
「いつもの三時のおやつじゃあ駄目なのかよ」
「あれ違うじゃん。十五時のおやつじゃん」
「午後三時のおやつだろ」
「だったら午前三時のおやつも食べたい。いや、やっぱり本当の三時がしたい」
「どんだけ欲求不満だよ。知らねーよ。おやつなんか何でも同じだろうがよ」
「お願い。おやつは奢るからさあ」
「勝手にやっとけ」
「女の子を一人にする気?深夜なのよ。暗いのよ。怖いのよ」
「だったらやんなよ畜生めが!」
「お願い。お願いだから。やろうよ、幼馴染でしょ。付き合え運命共同体」
結局押し切られた。こんちくしょう。
だから僕は夜闇に紛れて幼馴染を探す。
集合は二時五十分。なんで三時じゃないんだよ。
不満タラタラになりながら、僕は遠くに見つけた幼馴染に声をかけた。
「来たぞ我儘野郎」
「来たか共同体」
その言い方止めろ。色々誤解するから。
僕は腕時計を見る。三時七分前だ。
「三時までまだあるぞ。どうするんだ」
「どうするって、ほら」
そう言って幼馴染は、人差し指を立てて上に突き刺した。
僕はその軌跡を追って空を仰いだ。
あああ。
思わず僕は声を漏らした。
今まで気付かなかった。
いや、前を向いて歩くのが怖くて、下を向いて歩いていたから、わからなかった。
星だ。
大きな星が夜空に沢山撒かれている。
黄色く、青く、赤く発光して、きんきんと瞬いている。
うわ。マジで綺麗だ。
僕は本心でそう思った。と同時に悔しい気分にもなった。
何か幼馴染に先を越された感じがして、じくりと心が疼いた。
ってか、そうじゃねえだろ。
「星見に来たんじゃねえだろ」
僕はきつめに幼馴染に突っ込んだ。
そうだ。今日は星見じゃあなくて、本当の三時のおやつが目的だろ。
「いやあ。おやつなんてもってきてないよう」
「帰るぞ」
「だからさあ」
にへらと夜闇に浮かぶ、幼馴染の笑顔が不気味に見えた。
ぎくりと悪寒が走る。
「これからおやつを取ってあげるからさ。見といて」
「どういう意味だ」
「星取るから、一緒におやつしようぜ一心体」
異名が増えた。いやいやそんなことよりも。
「星を取るって?」
「うん」
「どうやって?」
「言葉じゃいえねえ。見とけばわかるから」
そう言って幼馴染は夜空を見上げた。すうっと冷たい夜風が過ぎてく。
「どれがいい?」
そんなのわかんねえよ。
「じゃああれ」
僕は適当に真上にあった大きい星を選んだ。
「任せろ兄弟」
なんかもうどうでもいい。
幼馴染は、その華奢な腕を目いっぱい空に伸ばした。
病的なまでに白い腕か、闇にのめり込む。
掌が選んだ星に重なったとき、幼馴染はその指を閉じた。
「うし、掴んだおやつ」
そう言って幼馴染は腕を下ろした。ぐっと握られた拳を僕に差し出す。
「はい、おやつ」
僕の腕時計が三時を指した。液晶で黒いイルカが一回転して消えた。
幼馴染は拳を開いた。
それはまるで白い花が開き始めたかの様な、滑らかな指の動作だった。
手の腹に、歪にごろりとした、黄色い石ころが乗っていた。
「まさか、これ星?」
「イエス」
アンビリーバボー。信じられねえ。僕は空を仰いだ。
黒い夜空にはさっき僕が指名したあの大きな星の姿はなかった。消えていた。黒い空間がぽっかりと寂しそうだった。
まじでか。
僕は吃驚していたが、それとは別のドキドキもあった。
本当にこれ星?それならどうやって取ったんだ。
ってかこれ食えんのか。食っていいのか。
「早く食べなよ。そうじゃないと溶けちゃうじゃん」
「お、」
僕はその星を拾い上げて口に入れた。
空にあった時は、ほかの星より目立って大きかったのに、飴玉みたいに今はちまっとして可愛いぐらいだった。
僕はゴロゴロと口の中で転がした。舌先でその星は楽しそうに遊んでいた。
だけど。
「これって、ただのレモンドロップじゃん」
幼馴染はまた、夜空に腕を伸ばして星を取っているところだった。
「違うしな。星じゃしな」
「じゃあなんでレモンの味なんだよ」
「その星がレモン味だからに決まってんじゃん」
「嘘だろ。仕込んだだろ」
「じゃあ何味だったら納得するんな下僕!」
格下がった!僕は無い知恵で考えた。
「なんかこれまでにない、トロピカルな味だと思っとった」
「知らんわそんなん。折角星取ってやったんじゃけん感謝して食え」
「お前が無理矢理三時したいって言ったんじゃねえか」
「飲んで詰まらせて死ね」
「ひどっ!」
幼馴染は一気に三つの星を取って、口に放り込んでいた。
上を見るとまた黒の面積が増えているところがあった。
「何味」
「おいしい味」
拗ねやがった。面倒くせえなあ。
「無くなった星ってどうなるんだ」
僕は話を変えて、夜空を見上げて言った。
まだレモンの星は口の中に残っている。
「さあ。星なんて五万とあるから、どれかが取って替わるでしょ」
んな強引な。後先見ねえ奴だなあ。
僕は月を探した。月は僕らの背後の低い位置に浮かんでいた。
雲に紛れて、幻想的な風景だ。
腕時計は三時十分を示していた。
「今日はこれで終わり」
幼馴染は両手をパンと叩くと、さっぱりとそう言った。
「さあ帰ろ。夜更かしは肌に悪いから」
そんなん気にしてんならこんなことするな。
「いくぞ幼馴染」
あれ、戻った。僕はなんかいい気分になった。幼馴染。久々の定位置だ。
いつの間にか口の中の星は消えていた。
後に残るねばっとした味はなくて、まるで何もしていなかったかのように口内はさらりとしていた。
舌の上にも重さは残っていない。
なんか、夢のような味だったな。
ふわっと僕は夢心地になった。
黒い空を仰ぐ。
僕の食べた星はまだ見えなかった。
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