雪香楼箚記

秋(1)_小倉山






                                      読人しらず
       小倉山麓の野べの花薄ほのかに見ゆる秋の夕暮










 あまり多くはありませんが、すすきも古典和歌のなかでは秋の歌題として愛されています。花すすきというのは、秋になって穂がひらいた状態のすすきのことです。小倉山は京都嵯峨にある山(小倉百人一首とは、この山に建てた山荘に飾るために選んだ古歌百首のことですね)。紅葉の名所です。出典は『古今和歌六帖』という平安時代初期の歌集。

 ほ、という言葉は、上代では「出っぱったもの、出っぱった状態」を意味しました。だから、稲やすすきの穂と言えば、ひともとのなかでいちばん先端の、尖った部分ですね。また、「ほに出る」という表現が古典和歌にはありますが、これは表にあらわれてしまう、という意味。恋心が顔に出てしまうことを言うときに使います。上代では、穂のあるものといえば、稲は別格として、いちばん代表的なのものはすすきでしたから、すすきと「ほ」は縁語です。「花すすきほに出る……」というふうに枕詞のように用いた恋歌もいくつかあるほど。この歌の、「ほのか」というときの「ほ」は、ここで言う「出っぱったもの」というのとは関係なく、別な語源によるものなのですが、「ほ」という音が共通しているので、この歌ではその縁で使っているのでしょう。

 いい歌ですね。秋のなかに言葉の消えてゆくような、ひびきのある名歌です。秋の夕暮の、うすぐらくなってゆく視界のぼやけかたが、美しくせまってくるよう。


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