雪香楼箚記

謡のおはなし





                             ★☆★  謡 曲 の お は な し  ★☆★








  謡をはじめたのは、もう十年近く前。中学生のころでした。

  そのとき、うちの社中(同じ先生に習っている人の会)で、ぼくは最年少。十年たってもいまだに最年少......(^-^)

  謡って楽しいんですよ♪ そう思ってるのはぼくだけかもしれませんが。





■ 謡ってなんですか?

   世の中のほとんどの人にとってあまりなじみがあるとはいえない謡。
ですのでまずその説明を簡単に。

   謡(謡曲)は能を基盤とした芸能のひとつです。

   能は一種の歌劇、舞踏劇です。
演劇がまだ未発達な時代に誕生した芸能ですから、科白術は歌と、演技術は舞踊とまだ未分離な状況のままなのです。
つまり、登場人物は歌うようにしゃべり、踊るように動く。これが現代演劇との最大の違いであり、特性です。
そして能はこうした特性を生かすために、主に四つの要素で成りたっています。

   ひとつ目は、身体の動き。
これは仕草(演技的な動き)と舞踊(写実的な演劇性を離れて身体の動きそのものを楽しむためのもの)に分けることができますが、能にとってあくまで主となるのは舞踊のほうです。

   ふたつ目は、戯曲の言葉。
言葉は単純に語られるだけではなく、上で書いたように節が付けられ、歌うように発声されます。
また、現代演劇のように各役の科白だけではなく、情景描写や心理描写など、小説の地の文に相当するような部分を地謡というコーラス団が担当して歌います。
舞踏の一部分はこうした地謡を背景にして舞われます。言葉を背景として舞を見せるというのは、能をはじめとする日本の舞踊の最大の特徴です。

   みっつ目は、歌われる言葉をより華やかに際だたせるための器楽演奏。
三月二日の日記( http://plaza.rakuten.co.jp/sekkourou/diary/#2004-03-02 )でも書きましたが、能では四種類の楽器が使われます。
笛、小鼓、大鼓、太鼓(太鼓は曲によっては入らないものもあります)。舞踏の一部分はこうした器楽演奏だけを用いて舞われます。

   よっつ目は、物質面。
能では舞台装置はほとんど用いないので、役者の掛ける面、装束、そのほか小道具と、ごく少数の大道具がこれに相当します。

   以上の四つの要素を一つに組みあわせると「能」が完成されます。
けれどもお稽古事として習ったり、あるいは初心者が練習するには、これではあまりに多岐にわたりすぎて大変ですし、上演するにしてもももう少し簡便な方法があれば便利だ、というのは誰しも考えるところでしょう。

   そこで、四つめはともかくとして、一から三までの要素のうち、一つもしくは二つ以上を組みあわせた簡単な形態が能のなかで考え出されました。
例えば、要素その一のうち、特に舞踏の部分を抜きだしたものを「仕舞」と言います。あるいはこの「仕舞」に要素その三が加わると「舞囃子」という形式になります。また一から三まで全部を結合して、要素その四だけを抜くと、演者が紋付袴で能を舞う「袴能」になります。
そして要素その二だけを取りだせば、これが「謡」になります。

   そう、謡とは能の「言葉で表される部分のすべて」を「節つき」で抜きだしたもののことです。





■ 先生の話

   謡(=能)には流儀が五つあります。観世流、宝生流、金春流、金剛流、喜多流。
ぼくはそのうちの観世流。もちろんぼくの先生も観世流。
観世流は室町時代の観阿弥、世阿弥に始まる流儀です(ほんとうは"始まる"のではなくて、それ以前からあったものをこの二人が"改革"したのですが)。
従って、ぼくの先生の、先生の、先生の、と系統を上へ上へとたどってゆくと、最後は観阿弥、世阿弥に行きつきます。いちおう。

   最初はまだ高知にいたときに始めたので、先生も高知の人です。
社中の名前は「博謡会」。来年あたり二十五周年を期に「松風会」に変るそうですが......
ちなみに、うちの社中は1980年の秋に創設されたので、だいたいぼくと同い年です。そりゃあ、最年少なわけだよな(笑)。
この先生にはとってもよくしていただいて、ほんとうにご迷惑をおかけしっぱなしです。m(__)m
今でも帰省したときには、稽古会に参加させてもらったり、新年会に呼んでいただいたり、おつきあいは絶えていません。

   大学は京都へ行ってしまったので、先生の先生の息子(="若先生")に習っています。
ちなみにこの先生、東京の方なのですが、月に二回ずつ大阪でお稽古場を持っていらっしゃるのでそちらにおじゃましています。
大学に入ってからは、仕舞も習うようになりました。仕舞も楽しいですが、我ながら覚えが悪くて困ります。




■ 謡にまつわる文章

   ――をいくつか書いてます。下の《謡_文章》からどうぞ。




■ 正座のおはなし

   まあ、いちばんよくいただく質問です。「痺れないんですか?」。
謡ってどんなに短くても二十分は坐ってなくてはならないので(長いのは一時間くらいですが)、みなさん不思議なようです。

   結論から先に言うと、「痺れますよ、そりゃあ」。f^-^;
二十分くらいならともかく、能舞台は板の間に直ですから、三十分を越すと、まったく痺れないということはあり得ません。
ちなみに先生("若先生"のほう。プロの能楽師)にも聞いてみましたが、「ぼくらだって痺れないわけじゃないんだよ」とのお答え。やっぱりね......
要するに、一曲終って舞台からさがるときに、立てない、とか、歩けない、ということがなければいいんです。さすがにこれは格好わるいので。
痺れてても舞台に実害(?)がない程度であれば構わない、というか、構わないんだ!というあきらめ(笑)が生じたころ、人は正座に慣れはじめてゆくのです。

   で、友達のお坊さんと二人で検討した「痺れない正座、五つの法則」(笑)。

   その一、痩せる。
体重の違いは耐久時間の違い! ほんというと、長く正座するための唯一の方法だと思います。5Kgで30分という噂も。ただし痩せすぎると脛のお肉がなくなってこれまたつらい、らしいです。

   その二、正しい坐り方が大事。
正座をしなれてない方はまず坐り方がおかしいことが多いのです。これが痺れのもと。
よく見てみると、足の裏が||となっていてその上にお尻を載せている方がいらっしゃいます。踵がふたつくっついて並んでいるような状態。これは痺れるはず。ついでに言えば、どうしてもお尻の位置が高くなるので、前から見ると股が実際以上に厚く(高く)見えてしまいます。女性の方、ご注意。
ほんとは\/のように、爪先がくっついて、踵が開いている状態が正しいのです。これだとかなり痺れにくい。最初はなかなかできませんが、足の指を重ねるつもりで坐ることを心がけると次第に慣れてきます。ちなみに更なる上級バージョンとしては、//のような坐り方もあります。このときは右側の / の上だけにお尻を載せて、左側の / にはまったく重心をかけません。この//と\\を交互に繰りかえせば(理論的には)永遠に痺れないはずです。
もうひとつ―_のような坐り方もあります。踵と踵を重ねてその上にお尻を載せるもの。歌舞伎では職人の坐り方として教えられるものです。どうしても膝が開いてしまうので女性の方は具合が悪いでしょうが、お腹に力が入れやすいという利点があります。
ちなみに、以前、友達の女の子に正しい正座の仕方を教えてあげようと思い、まず二人並んで坐ってみて「ほら、○○さんのほうがぼくより股があつくなってるでしょ?」と言ったら......... はたかれました(笑)。女性のデリケートな心にはくれぐれも注意。

   その三、穿くものを考える。
着物、スカートよりもパンツルックはぜったいに痺れやすい!(注。スカートは試したわけではありません。汗)
特にジーンズのような堅くて厚い素材で正座をするのはやめたほうがいいでしょう。縫目の布地が二枚重なったところが、くるぶしの隣のへこんだところに当ると、痺れる痺れない以前に痛いです。
原則的に足をきっちり包んで余裕のないものは痺れが早くきます。ですから、ぴっちりしたパンツよりは余裕のあるもの、タイトスカートよりはふわっとしているものを選べば楽。着物(女の人の着流し)もあまりにもきっちりと着すぎるとつらいそうです。ちなみに着物で坐るときは、おはしょりの下をちょっと持って裾をくるぶしくらいまで引きあげるのがこつです。

   その四、坐りやすいところ、痺れやすいところ。
あります。自分で選べないのがつらいところですが...... まあ、能舞台(板間に直)なんていうのは問題外です。
いちばん楽なのは畳の上。これだと一時間くらいはじゅうぶん大丈夫です。ただしカーペットや絨毯が敷いてあるところはだめです。
座布団があると楽だろう、と思われる方が多いようですが、必ずしもそうではないんです。友達のお坊さん曰く「痺れやすい座布団と痺れにくい座布団があるんです」だそうで、厚くてやわらかければ痺れにくいというわけではないらしい。
ちなみに武家では座布団というものを原則的に使いません。畳の上に直です。能も基本的には武家の芸能ですから、あまり座布団を使うことは多くありません。従って、「痺れにくい座布団」がどういうものかよくは知りません(笑)。
正座椅子がいちばん素敵な「坐りやすいところ」であることは言うまでもありません。(*^-^*) 噂によれば某能楽師は袴のなかに正座椅子を吊って舞台に出たことがあるとか......

   その五、どうやったらこけずに立てるか。
先生曰く、「そろそろ立つぞ、とリマインドをかける」だそうです。ほんとかね......
舞台で痺れてしまって「これはしたり、これはしたり」と言いながら切戸に退いた能楽師もいたとか。
これはもう、そのときの運です。


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