きょうのめいぷる

きょうのめいぷる

事のはじまり。


 そびえ立つ高層ビルとは不釣合いかと思われるこじんまりとした建物。


ここが私の仕事場。
・・・と言っても、実の所自分の最大の仕事はお茶汲みだったりする。 

でも、普通のOLやってる訳でもないんだな。
万年平社員とかごめんだしね・・・

私の仕事場は、他の会社よりちょっぴりスリルを味わえて。
なおかつ人の笑顔が見られる。

私はこの仕事を気に入っている・・・と言っても、お茶汲みだけどね。

まぁ、手っ取り早く言えば
私の仕事場は、『探偵事務所』なんだけど。

+++++++++

「暇・・・」

「ひま・・・」

「暇だー・・・・」

「うぉおおお暇・・・ガフッ!」

「煩い。」


暇だ暇だと喚き散らすこの男、ここの探偵事務所の所長、トーティスである。
そして毎回それに突っ込み(右ストレート)を入れるのが私の役目であったり。

そして、仕事机の上で寝てるのが・・・所長のパートナー、こうたさん。
あぁ、私はここの雑用・・・ゲホ、秘書をやっている楼羅って奴です。
職員総数3名。欠席なし。きょうも元気です・・・










って。違う違う。
危うく一人脳内漫才開始するところだった。

ふっと我に返れば所長がお茶をクレクレと言っているのが聞こえる。

楼「自分で汲めばいいじゃないですか・・・」
ト「だって、君の仕事なんだろう?」
楼「いや、そうだけど・・・・所長がたまに汲んでも罰は当たりませんよ?」
ト「男が淹れたお茶と一輪の花が淹れたお茶、どっちが美味いと思うかね。」
楼「自分は野郎の入れたお茶でもOK。それとこう言う時だけ女扱いせんでいいです。」

さっきから10回以上『茶を淹れてくれ』・・・
あんたはどれだけ茶が好きなんですか、と心の内で突っ込み、淹れた緑茶を所長の机の上に置いた。


楼「あぃ。淹れました。」
ト「どーも」


とりあえず所長は暫く静かになるだろうと思い、本( アニメ専門誌 )を読み始めようとすると。


こんこん、と事務所の戸がノックされた。
所長の方を見ずとも、自分が行かなくてはならない事を察した私はしぶしぶ席を立った。


楼「・・・はい?あぁ、少々お待ちください・・・」


所長トーティスは自称秘書と客のやり取りを遠巻きに、茶を飲んでいた。

ト「苦い。この苦さは革命的だ・・・」

などと茶に対する不満を呟いていると、先程から机に突っ伏したまま動かなかったパートナーがもそりと起き上がった。

ト「お目覚めか?」
こ「・・・・きついっスよ・・・・」
ト「何が?」
こ「何が?って・・・所長。最近仕事がないからってストレスの捌け口を麻雀にするのは構いませんけどね。」
ト「ふむ?」
こ「俺と楼羅をそれに付き合わせるのは止めてください・・・・」
ト「皆でやった方が楽しいだろー?」
こ「・・・楽しいとか、もうそんなレベルじゃないでしょう・・・」
ト「えー?」
こ「昨日だって夜中ぶっ通しで・・俺寝てないんですけど・・・」
ト「楼羅も寝てないんじゃないのか?」
こ「・・・楼羅は、『適当にやったら勝ったーv』とか言って前半勝ちまくった挙句に、『眠くなったから…』って理由で俺と呑み潰れた所長置いて寝ちゃったじゃ・・・ないですか・・・」
と「そうだっけ?」
こ「(この野郎・・・)」


客とのやり取りを済ませた楼羅が、小走りで歩み寄りつつ言った。

楼「所長・・・」
ト「む?」
楼「手紙です。どうやら久々の・・・」
ト「 ・・・久々の俺へのファンレターか・・・フ、もてる男は辛い・・・

「話をちゃんと最後まで聞いてください。」
ト「はい・・・」

楼「・・・久々の依頼のようですよ。」
ト「ほう。今度はなんだ?迷い猫探しか?もしくは犬?鳥?」
楼「違います。所長、内容を読み上げますよ。」
ト「あぁ。頼む」
楼「えぇと・・・あら、詳しい事は明日依頼者が話しに来るそうですけれど・・・」
ト「めんどくさい事するんだな・・・」
楼「まぁ・・・いいじゃないですか。本人に直で色々聞き出せたりしますし。利点は多いと思いますよ?」
ト「まぁ・・・なぁ・・・」

楼「それで、調査内容が・・・・・・・・・・・」
ト「なんだよ、その間は。読めない漢字でもあるのか?」

そう言うと所長は、楼羅の手から依頼書をひったくった。

楼「あっ、馬鹿にしないでくださいよ?私一応漢字には詳しい方なんですから!」
ト「あー、判った判った・・・ふむ。ストーカー調査か・・・」
楼「久々の大きい仕事じゃないですか・・・・」
こ「これでようやく、俺の寝不足も解消される・・・のか?」

楼「・・・てか所長!報酬は?報酬はいくらですかっ!?」
ト「えー・・・・・・・・・・と?」
楼「所長こそ、読めない漢字でもあるんですかーっ!?」

思いっきり嫌味ったらしく、かつ皮肉を込めた口調で、楼羅は所長の手から依頼書を奪い返した。

楼「えーと♪報酬報酬・・・あったっ♪いーちーじゅーうーひゃーく・・・」
こ「せめて俺達が生きていける程の金額であっての欲しいなー・・」
楼「・・・じゅーまん、ひゃくま・・・え?」
こ「え?」
楼「いち、じゅう、ひゃく・・・じゅうまん、ひゃくま・・・」
こ「・・・楼羅?」
ト「楼羅、それは数え間違えとかじゃーないぞ・・・・」
楼「えっ、ええっ!?うそウソ嘘USOー!?」

こ「俺にも貸して・・・・・・・・・・えぇええ!?」




ト&楼&こ「 500万・・・・円・・・



楼「・・・所長?」
ト「うん?」
楼&こ「 絶対にこの仕事受けてくださいね。
ト「無論。断る理由が何処にある?」


なんで気づかなかったのかな。
たかがストーカー調査で500万円なんておいしい話・・・ある訳がなかったって事。


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