『明日、ママがいない』は、今年の1月から3月に日本テレビで放送されていたTVドラマです。
児童養護施設が舞台で、主役が芦田愛菜、共演が鈴木梨央という演技派子役の激突が売りでありました。
ところが第1回の放送後に、熊本県の慈恵病院から抗議を受け、放送中止の要求、BPO(放送倫理・番組向上機構)に訴えられます。
さらに全国児童養護施設協議会と全国里親会が会見を開き、施設で生活している子供たちの人権を侵害していると批判しました。
果ては国会・衆議院予算委員会で取り上げられるなど大事に発展しました。
この抗議行動にびびった、番組提供スポンサー8社がCM提供を取りやめる事態となり、第3回以降は「ACジャパン」の公共広告に差し替えられてしまったのです。
いったい何が発端だったのかを考えてみると、愛菜ちゃん演じる主役の名前が”ポスト”というあだ名だったことです。
愛菜ちゃんが”赤ちゃんポスト”に捨てられていたという設定からの命名でした。
具体的に特定してはいなかったのですが、”赤ちゃんポスト”といえば慈恵病院の”こうのとりのゆりかご”のことだと一般的に知られています。
ただでさえ賛否のはざまでデリケートな運営しているところに、ネガティブな情報をまことしやかに使われるのは承服できなかったのでしょう。
さらに、養護施設の描き方が悲惨で、食事をうまく泣けた者から食べさせたり、「お前たちはペットショップの犬と同じだ」と言うなどのシーンが多く、現実とかけ離れているという批判でした。
僕は、慈恵病院の”こうのとりのゆりかご”は、勇気ある行為だと評価していますが、この抗議行動は残念でした。
日本テレビに抗議するのは当然ですが、スポンサーに圧力をかけたのでは完全にクレーマーです。
僕は、普段なるべくTVドラマは見ないようにしています。
製作者の罠にはまってしまうと、かなりの時間をTVに奪われてしまうからです。
それで『明日、ママがいない』も、芦田愛菜ちゃん鈴木梨央ちゃんは気になりましたが、見ない決断をしていました(時間がPM10時で、寝る時間だったので)。
それが、この問題が話題になったので試しに見てみてしまい、みごとにはまってしまいました。
しかも第1話はYouYubuで見なおして、毎週全部見ました。
とにかく芦田愛菜がすごかった。
愛菜ちゃんについては『マルモのおきて』や『Mother』でちらっとは見てたのですが(家族が見ているのを通りすがりで見る程度)、その時は器用な子役としか認識していませんでした。
それが最初に印象を強く受けたのが、松たか子主演映画の『告白』で、殺されてプールに投げ込まれるだけの役です。
あれだけ話題になった趣向も盛りだくさんの映画で、まず思い出すのが愛菜ちゃんのシーンというのは何なんだろう。
同じように、愛菜ちゃんハリウッドデビューのSF怪獣映画『パシフィックリム』でも、主役の子供時代の回想シーンですがたったワンシーン、それも愛菜ちゃんはただ泣いているだけのシーンがこの映画で一番記憶に残ったシーンでした。
主役の菊地凛子と愛菜ちゃんでは明らかに顔立ちが違い、むしろ谷花音ちゃんだったら似てたのになぁなどと、見ている最中は思っていたのですが、いざ『パシフィックリム』の内容を思い出そうとすると、まず浮かぶのは愛菜ちゃんの泣いているシーンなのです。
菊地凛子もよく頑張って素晴らしかったのですが、愛菜ちゃんはワンシーンで映画をのっとってしまいました。
この子の魅力は何なのだろうと思っていたら、今回は女優としての演技力を見せつけました。
いつものいたいけな愛菜ちゃんはみじんもなく、冷徹に大人社会を見下す屈折した少女を演じ切りました。
他の子役も愛菜ちゃんに触発されてか、役を理解した芝居ができていました。
このドラマは登場人物全員が裏の顔を持ち、仮面の下で葛藤しているのです。
第1話の極端な情景はすべて物語の伏線で、悪い奴に見えるほど後に良い人間になるという、本来ならわかりやすいパターンの仕掛けでした。
そんなことに抗議をするとは、TVドラマの視聴者もずいぶん劣化したものだと思いましたが、よく考えたら抗議をしたのはTVドラマファンではなかったのです。
TVドラマファンなら『家なき子』や『高校教師』『聖者の行進』などの脚本家・野島伸司がどんな作家なのかを知っています。
話題作りのエッセンスに、人の心の影の部分にどれだけ突っ込んでくるのかも。
知っている人なら過激な設定も、またやってんなぁ程度ですが、日本テレビがご意見を伺った慈恵病院は自身にマイナスになるかどうかの一点でしか評価しません。
多少抗議を受けるぐらいは想定内でしたでしょうが、スポンサーに圧力をかけるところまではどうだったでしょうか。
TV関係者にとっては視聴率がすべてで、こんなことでも話題になれば数字が上がります(現実に僕も見るようになってしまいましたから)。
スポンサー側の担当者も、高視聴率の番組を提供できれば実績は残せます。
しかし、不買運動騒ぎになれば話は別です。
日本テレビ側としてもスポンサーこそがお客様です。
民放にとって、番組はスポンサーのCMを見せるためのものです。
CMのない番組はありえません(もちろん強制的に集金できるNHKは別です)。
あれだけ世間を騒がせ話題作りに成功した(?)ドラマでしたが、視聴率は結局初回14.0%から最終回12.8%、平均も12.8%ということで、良くも悪くもあまり影響はなかったということになります(裏番組の三浦春馬主演『僕のいた時間』は平均10.0%でしたから、それには勝ったのですが)。
”ポスト”という名前をやめとけば、慈恵病院からのクレームはなかったわけなので、スポンサーが下りる云々の混乱も避けられたわけです。
児童養護施設自体は昔から存在する一般的なもので、「タイガーマスク」の昔からドラマに組み込まれているものですから。
もっともテレビ局はスポンサー料の契約は、CMを自粛しようともらうでしょうから、結局クレーマーに屈したスポンサーが損をしたことになるでしょう。
ということを書いてきましたが、本来この項は違うことを書くつもりでした。
導入の部分で『明日、ママがいない』を引用するつもりだったのが、ついつい長くなってしまったのです。
本題は、同じようにクレーマーの攻撃に合っているように見える『美味しんぼ』についてです。
『美味しんぼ』はビックコミックスピリッツに1983年から連載されている、ロングセラー人気グルメ漫画です。
僕は調理師でありながらあまり美食には興味がなく、この漫画も詳しくはないのですが、究極の料理を求めて主人公が料理対決をする話だったと思います。
その主人公が雑誌記者で、いつしか全国のうまいものを紹介するシリーズになり、今回の話は福島を訪れた時のエピソードでした。
そこで主人公が鼻血を出し、それが被曝のせいだとある人物に言われたシーンが問題となりました。
その人物は、前双葉町町長・井戸川克隆氏、実在の人物です。
井戸川氏の体験を作者の雁屋哲氏が取材し、本人をそのまま登場させたわけです。
このシーンを巡り、「風評被害を招く」として批判が起こりました。
批判された小学館は、作品は2年間の取材によって裏付けによるもので、健康被害を訴える人が存在するのは事実だとし、表現方法を検討するとお詫びとともに見解を述べました。
この一部分だけを取らず、作品全部を読んでもらえばわかるとも言っています。
これが、日本テレビの「最後まで見てくれ」と言っていた弁明とかぶったわけです。
確かに作品の中で、鼻血と放射能被曝の関連性はないという専門家の見解も出ていますし、全体として福島を応援するスタンスで描かれています。
これもつきつめれば、問題になってしまったのは”鼻血”だけでした。
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