ぷるぷるぷりん

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「鎖」 Written by kawazero



この鎖を外せばどれだけ自分は自由になれるのだろう…

ふと、思い浮かぶ考えを必死に押さえる。
鎖を外す、それだけは駄目だ。
絶対に…
もし鎖を外せば私はどうなるか。
答は一つ。分かり切っている。


私は暴れ続けるだろう。
私は壊し続けるだろう。
私は殺し続けるだろう。
私は無くし続けるだろう。
失って失って失って失って…

理性も無く
理論も無く
理由も無く

ただ本能に
ただ血流に

全てをまかせて
全てを終わらせ

そうして壊し尽くしたとき
そうして終り尽くしたとき

私はまた生きねばならない。

長い長い孤独を
永い永い孤独を


それだけは避けねばならない。

私は怪物だ。
私は人狼だ。
確かにそうなのだろう。
否定はできないだろう。
普通じゃない。
人狼を見て逃げ出す人間を捜すのと
人狼を探すならどちらが簡単だろう?
もちろん前者が普通であり一般的な人間というものなのだろう。
私は後者だ。
否定することもできない。
すでに人も殺めている。

それでも私が人狼だとしても
それでも私が殺したとしても

一つだけ、確信を持って言えることがある。
私にはまだ「人間」である部分が確実に残っている。
物理的な意味ではない。
それは私を私としてつなぎ止めている部分。
「人狼」たる私の「人」たる部分。

「心」

私に残された「人間」でいるための切り札。
月が明るくなる夜
人狼である者は「狼」であるように変わる。
それは私も同じだ。
だが何度も「狼」になり何度も人を殺すようになると
やがて理性や自制心が崩壊し、月が消えても「心」が戻らないのだという。

そして私は…
鎖によって身を縛っている。
人を襲わぬよう、二度とあの惨事を繰り返さぬよう…
この金属でできた鎖。
それだけが頼りだ…
危うい。
今の私ならこんな鎖やすやすと引きちぎれるだろう。
こんなものに意味はないような気がする。
だが、私にはこれがあるからこそ
体が…そして心が繋がれているのだろう。
鎖を引きちぎらないのはまだ心があるからだ。
普通の状態で、月が出る夜に鎖を外すようになったら終わりだ。
鎖を外したとき…
私は真に人間でなくなるだろう。



今宵は満月。
月が最も美しく
月が最も危険な日。
私は、暗い地下室で
冷たい石の下で
頼りない鎖に身を任せる。

『心を縛る鎖に…』
そして私は叫び続ける…

end.



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