ぷるぷるぷりん

ぷるぷるぷりん

Side-「私」-



私は昨夜、勉学に励むつもりであった。しかし、気がつくと今朝になっていた。
私は気概溢れる人間であるので、過去は振り返らない。人は、君は反省をしない人間だ、とも言う。
いつも小市民は挑戦者を笑うものだ。愚か者どもめ。私が新世界の神となろう。

ぐっすり6時間も眠ったためか、私はいつもより威勢が良かった。
地にも天にも唾を吐き散らしてみた。
それは私の靴を汚した。慈雨の如く私に再び降り注いだ。

いつもどおりである気がしてきた。


  ○ ○


本日は学力考査の初日であった。
内容については多くは語るまい。
語った途端きっと私は、皆の嫉妬と羨望の的となってしまうだろう。
それは読者諸君も私も望まないところだ。
嘘ではない。
私の武勇伝は、皆には少々眩し過ぎると思っての配慮である。
だが、どうしてもと言うのなら、語ろう。

1限目の現代国語では、カップラーメンが出来上がるまでの3分に等しい程長い解答欄に僅か五文字でけりをつけた。
簡潔に書け、と書いてあったからである。

2限目の英語では、誰もが聞き取れなかっただろう難解聞き取り問題を、弛まぬ熱情により獲得した知識によって解き伏せた。
感冒と流行性感冒は全くの別物であるのだ。
「らき☆すた」には感謝してもしきれない。


さて、もういいだろう。
3限目の地理学についても語りたいところだが、夜道の闇を恐れて帰路に着くような生活は私も望まない。
決して何もなかったのだ、などと勘違いしてはいけない。
お互いの為である。


  ○ ○ 


私は、勉学の為にバスと地下鉄をえっこらおっちら乗り継いで学び舎まで通う真人間である。
勘違いしないでほしい。
ただ、止むに止まれぬ事情が二重三重に重なり、休む事もしばしばあった。それだけである。

学力考査が終わり、私は1人帰路に着いた。
別に一人身というわけではない。そのような相手がいるとて、時期が時期である。お互いの為に泣く泣く、本日は颯爽と1人歩くのである。
例えばの話である。

私は、いつもは自分のつま先が無性に恋しく穴が開くほど見つめて歩いているのだが、その時は何故かふと顔を上げた。
私の前を歩いていた御仁は、黄色いストッキングを穿いてらした。

この御方は、きっと某テレビ局の小児向けの番組で活躍する、全身を黄色いストッキングで包んだあのヒーローに違いない。
しばらく見ていなかったうちに引退してしまったのかしらん。
非常に残念なことである。あの番組無くして今の私は無かった。
そこまで言うと言い過ぎである。
だが、あの変態ギリギリのヒーローが、当時の私の最高のヒーローであった。
それは、過言ではない。
何故なら、夜は早く眠りにつき、朝は遅くまで眠っているため、他のヒーローをしらなかったからである。
ちなみに、変態ギリギリとは、ギリギリで変人である事を指す。

この御方もきっと小児のヒーローであった当時の思ひ出が捨て難く、今でもあの黄色いスーツを纏っているのだろう。
今はコートを羽織っている為見えないが、あの下はきっと黄色いストッキングに違いない。
しかし、そうであれば最早立派な変態である。

昔のヒーローを成敗するのは胸の奥が痛むが、私は私の良心に従って警察に通報せねば。


― 「何やってんの??」

その一言で、私の暴走していた妄想は終了した。
声をかけてくれた友人には心から感謝しよう。
何度も彼は声をかけていたらしいが、私はその間、ずっと黄色いストッキングを穴が開くほど見つめるばかりで、全く気がつかなかったそうだ。
私もまだまだ精進が足りない。
もう少しでギリギリ変態となるところであった。私の眼力によって穴が開いていたら、私はギリギリ変態だった。
という事は、今はギリギリで変人である、という事を指すが、それについては見なかったことにしよう。
というよりも、そんなもの見えていない。大丈夫である。
ストッキングしか見ていなかったのだから。
今は、一寸ばかり左の方を歩くいまめかしき淑女のニーソックスなるものしか見てないので、大丈夫である。

私の視線の先に気づいた彼は、「この変態め」と呟いた。


  ○ ○


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