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Spring Has Come
周囲の言葉
幼稚園時代と違って父兄たちと顔を合わせることがめっきり少なくなったので、
私が死産した情報は伝わるのが大変遅かった。
小学校の初の授業参観でひと月ぶりに顔を合わせた人などは
私のへこんだ腹部を見て笑顔で話しかけてきた。
「生まれたんだ?どっちだった?」「今日、赤ちゃんは預けてきたの?」
なるべく平静を装って事実を伝えるのは、大変なストレスだった。
ひどいのは月に二度は会っていた学校関係者の女性で、何と夏に入ってから
「赤ちゃんはいつも誰が見てるの?」と聞いてきた。
他の関係者数人には話しておいたのだが、
彼らが気を遣ったのか、情報が行ってなかったらしい。
・・・吹聴してくれて構わなかったのに。
じわじわと何ヶ月もかけて苦しませるのはもうやめてくれ。
また、幼稚園時代に私と出産予定日が2日違いぐらいの知り合い・Uさんがいた。
妊娠中は予定日が近いこと、お腹の子がお互い女の子と分かっていることで
自然と顔を合わせれば話をする仲だったが、
死産後は彼女のことを思い出すのも辛くなっていた。
そのまた知り合いのある女性から、死産後に久しぶりに電話がかかってきたのだが
(例によって彼女も死産のことを知らなかったので、私から事実を話した後のこと)
「そうそう、Uさんのところ、女の子が生まれたって~!
春歌ちゃんと同じぐらいだよ、生まれた日。
名前は何て言ったかなぁ・・・ハルカと似たような名前だったと思うよ!」
彼女は、一体私にどんなリアクションを求めていたのだろうか。
「ふーん生まれたんだぁ、よかったね♪」と返事をすればよかったのだろうか。
悪気がないというのは時として恐ろしい。
いっそのこと、実は悪気たっぷりでした、という方が救われたかも知れない。
うん、うん、と暗い声で相槌を打ちながらも聞いてしまった私は、もっと救われないけれど。
事実を話した後の皆の反応は、大体三通りに分かれる。
一つ、絶句の後にお悔やみを述べ、それ以上は何も聞いてこない。
二つ、お悔やみを述べた後、フォローの言葉を懸命に上げ連ねる。
三つ、↑の女性のように、真意の分からない人もいる。
二つめの場合で、こちらが嬉しくなる言葉を述べてくれた人は皆無である。
「まぁ、まだ若いから・・・」→また代わりを作ればいいでしょ、の意か
「上にもお子さんがいるからねぇ」→春歌の代わりはいません
「妊娠中、無理しちゃったんじゃないの?」→私を責めるのは私自身だけで充分です
「無理しないでね。身体はお産したのと一緒なんだから」→実際にお産したんです
特に「まだ若いから」は、本当に沢山の人に言われた。
確かに、春歌亡き後一刻も早く次の子が欲しかったのは事実であるが、
夫以外の他人になど言われたくない。
だが、その言葉が実は図星であったこともまた事実だ。
次の子を妊娠すれば、春歌も一緒に帰ってきてくれるような気がしていた。
生まれ変わりとかの意味ではなく、何もかもが白紙に戻り
辛いことなど何も知らない、かつての自分に戻れるような、そんな錯覚。
電話口で私が受け答えする声を聞き、
「なんだ、元気そうじゃない」と言われたこともあった。
違う。いつまでも落ち込んでいる暗い人間だと思われるのが嫌なだけだ。
逆に、嬉しかったこと。
年賀状を書く時季が迫り、我が家では喪中はがきを作ることにした。
「死産」なので厳密には喪中扱いではないけれど、
我が家の大切な娘であることに変わりはないので喪に服します、といった内容で作り、
友人や親戚に出した。
それを機にぱったりと連絡をして来なくなった友人もいた。
恐らく気を遣ってのことだと思う。しかし、その後こちらからも連絡する
タイミングを見失い、結果疎遠になってしまった。
反対に、寒中見舞いとして返事をくれた友人。
「春歌ちゃんのご冥福をお祈りします」
「○○(私)は独りじゃないからね」
そんな簡単な文章なのに、私の心は癒された。
後日会って食事した時には私から春歌のことを語り、
友人は黙って聞いてくれていた。
春歌のことをごく普通に語り、それを聞いてくれる人がいることが
私は心から嬉しかった。
もし皆さんの身近に赤ちゃんを亡くした人がいたとしたら、
お悔やみの言葉はどうかかけてあげて欲しい。
でも、それ以上どんな言葉をかけたらいいか分からない時は
そっとしておいてあげて欲しいのだ。
赤ちゃんのことを自ら語りたがる時期が、いつか来るかも知れない。
子供を持つ親が親馬鹿なのと同じで、天使の子を持つ親も親馬鹿なのである。
可愛い我が子のことを回りに知ってもらいたい、忘れてもらいたくない。
何故なら、その子は現在進行形で親の心に生き続けているからだ。
いつまでも。
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