『夏の約束』



主人公のマルオはちょっと太った同性愛者だ。
一方、彼氏のヒカルは痩せている。
マルオは2階に住んでいて、1階にはストレートだけど、不倫していた彼氏に振られたばかりで、未来が予言できる岡野さんという女性が住んでいる。
マルオの行きつけの美容院のオーナー、タマヨは男性から女性へと性転換している。
そして、ヒカルのおさななじみのキクエの4つ年上の兄は「なかよし学級」だった。
そんなキクエの親友、のぞみはすこし頭の回転が遅い。

とまあ、とにかくよくもまあこれだけ異色の登場人物をひとつの物語に同時に登場させたなぁっていう感じはする。
でも、明らかに『あちら側』を意識してのキャスティングだ。
ここに登場する人物は、だれしもが『こちら側』の人間からの迫害を受けた経験がある。
いや、マルオやタマヨなど、いまだに迫害を受けている。
のぞみも会社で後輩からイジメにあっている。

『こちら側』の世界の人間は、『あちら側』の世界の人間によって自分達の世界が侵食されることをおおいに恐れる。
その恐れは集団の中で凶暴化し、モラル(自分達の世界を守るための)として正当化される。
吉行淳之介が、結婚という儀式に疑問を抱いたように、ここではノーマルな愛の定義について問題が投げかけられている。
男らしいとは?女らしいとは?
ノーマルな愛ってなんだろう?
そして、人間とは?人間として生きるとは?
様々な『こちら側』の世界のモラルあるいはスタンダードに対して、疑問を投げかけている。

面白いのは、数の論理的なこともちょぴっと入っていることだ。
そこに一種のあきらめのようなものすら感じられる。
「ダッテミンナガソウイウンダモン。。。」
だれもがナカマハズレにされることに対して恐怖を抱く。
それが『外』の人間に対しての偏見をさらに強いものへとしていく。
「アイツサエナカマハズレニサレレバ。。。」
自分は助かる。
『こちら』の住人の振りをすればよい。
その葛藤は登場人物の中で唯一『こちら側』の世界と『あちら側』の世界を行き来したキクエの葛藤として描かれている。
『あっち』と『こっち』の垣根が取り払われた時(果たしてそのときが来るかはだれにもわからないが)、夏の約束は果たされるのだろう。


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