『自動起床装置』



主人公の「ぼく」は起こし屋だ。
そう、宿直室に泊まる社員を定刻に起こす起こし屋である。
通常は目覚し時計で起きるので、実際にこのような職業があるのかどうかは疑わしい。
しかし、この物語では、起きているヒトと眠っているヒトとの間の重要な橋渡しの役割を果たす。

この物語の中で、当然のことながら「起きる」という行為が非常に重要な位置を占める。
眠りの世界とはどういう世界なのであるか?
その世界は起きている時の世界とは違う。
そもそも寝ている時に世界は成立しているのであろうか?
この物語の中では、起きている時とは全く違う世界が存在している。

寝ているときに行われた行為について、こっち側の世界にいる「ぼく」らは侵食してはならない。
あっち側の世界を無理やりこっち側へと持ってきてはいけない。
寝言は理解してはいけないし、起こすとき、すなわちこちら側へと戻す時は、デリケートに接しなくてはならない。
寝ているヒトは「他者」なのだ。
無理にこちらへと連れて来れば、分裂してしまう。

起こし屋は前近代的であるが、人間の根幹に優しい。
起こし屋が起こさなくても、人間は起きることができる。
『自動起床装置』の導入により、起こし屋は廃業状態となる。
機械がヒトを眠りから引き戻す。
そこには微妙な加減などない。
6秒上半身を持ち上げ、6秒沈む。
それが延々繰り返される。
そう、「覚醒」は「起床」でしかなくなる。
もはや他者との境界線は曖昧なものとなってしまうだろう。


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