『海峡の光』



主人公の斉藤は函館少年刑務所の看守である。
以前青函連絡船の船員として津軽海峡を船で渡る毎日を送っていたが、青函トンネルの完成に伴い、青函連絡船が廃止となるため、それに先立ち職を変えた。
この行為は斉藤の中で、裏切りにも似た苦い感情をかもし出す。

ある日、その函館少年刑務所に花井修という受刑者が送り込まれてくる。
彼は斉藤の小学生の時の同級生であった。
花井はオーラを持っていた。
彼は成績も優秀で、先生からも友達からも、誰からも好かれた。
唯一斉藤を除いては。
花井の欺瞞に満ちた善意的行為の裏に潜む悪意を見抜き、花井の悪意に満ちた行為の唯一の目撃者となった斉藤を、花井は狡猾に攻撃する。
そこで形成された花井との関係に斉藤は苦しめられつづける。

今、刑務所で斉藤と花井の立場は逆転する。
斉藤は看守で花井は受刑者だ。
立場は逆転したのであるが、この関係が皮肉にも、小学生時代に形成された花井との上下関係を増幅していくこととなる。
花井は不気味なくらい模範的に振舞う。
そして、これ見よがしに斉藤へ自分の生活を見せつける。
斉藤の目は花井にとっては、精神安定剤のようなもの。
優等生の花井の本性を理解してくれるたったひとりの敵であり親友。
そして、斉藤にとっても花井は己の弱さを映し出す鏡。
社会的立場を超越した大事な関係。
二人の利害関係が『見る』『見られる』の関係によって奇妙な一致を見せる。
越えられない関係に悩む斉藤。
だが、その中でしか自己と向き合うことができない。
様々な関係の織り成す人間模様。
逃げ出したい関係に縛られて、苦しむ中で人は己の本性を知る。


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