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小説「クチナシの庭」 (17ページ目)46~48


 さっさと歩いていく圭介に、私は遅れてついていった。

 自分の家に帰るのに、人の後をついていくなんて、変な気分だ。

 最近、圭介との接触を避けていたから、なんだか居心地が悪い。
 圭介も、私が避けていると気づいているはず。
 聞かれたら何と答えよう?

 ……などと考えているうちに、自宅についてしまった。

 玄関口で、私に先を促す圭介の横を通りすぎながら、胸のうちでため息を一つこぼした。
 なるようになれ。だ。

「ただいま」と告げながら家に帰ると、リビングにいたお母さんが、顔だけのぞかせ「お帰り」と答えた。

 私が『ラ・クォーツ』のお土産を渡すと、喜びながら、複雑な表情を浮かべる。

「もっと早くわかってればね」

 見れば食卓にもクリスマスケーキらしきものが残っている。
 私の分も含めて半分近く残っていた。
 家族4人には、ケーキ1ホールは少々大きい。
 毎年、二日がかりで食べていたのに、今年はさらに上乗せが来たのだ。

 お母さんは圭介に気づくと、一言二言声を交わして、一体何事かの視線を私に向けた。

「課題のことで、ちょっとね」

 カエからもらったケーキを、圭介のうちのおばさんにあげて、圭介が送ってくれるついでに課題の相談に来たのだと説明する。

「そう。……最近、また仲がいいのね」
「お母さんまで。やめてよ。そんなんじゃないから」

 投げかけられた意味深な視線に、うんざりとした心地でため息を落とす。

「ま、そうよね。いまさらよね」

 簡単に納得して、玄関に立つ圭介に、リビングから声をはりあげて礼を言っていた。

 ケーキを手渡して、圭介をつれだって部屋にあがる。

 円卓に座る圭介に、数学の課題を渡すと、飲み物を取りに、いったん、ダイニングに降りた。

 数学は圭介のクラスより、うちのクラスの方が進んでいる。
 それを知っているから、圭介はよくうちのクラスに訪れて、橋川からノートを借りていた。

 だから、今日もそれの延長で、変な勘繰りなどないのだと、自分に言い聞かせながら、オレンジジュースを二つ持って、部屋に戻った。

 圭介は黙々とノートを写している。
 よどみなく動かす手の動きに、少し不安をおぼえた。

「……まさか丸写し?」
 圭介は数学が得意だから、答え合わせに来ているのかと思っていた。
 ジュースを差し出しながら聞くと「うん」と簡単な返事が返ってきた。

「写すだけ写して、後から考える」

 勉強方法はひとそれぞれなので「そう」とだけ返事をしておいた。

 ベットを背もたれに座り、ジュースを一口、二口飲んだところで、圭介の手が止まる。
 課題を閉じて、私の課題を返してきた圭介に、私は目を丸くした。

「もう終わったの?」
「ああ」

 言いながら、自分の課題もバックにしまい、私が出したジュースを口にする。

 感じた嫌な予感は、すぐ的中した。

「俺、なにかした?」
「……なんで?」

 そう返すと、圭介は一瞬だまりこんで――苦笑に口元をゆがめた。

「そうやって、いつもとぼけんだな」

 口元をゆがめた笑みに、私は何も言えない。

「知らないフリしたほうが、丸く収まると思ってる? ……だったらひどい勘違いだ」

 勘違い?

 どういうこと。
 と、ふと顔を上げると、まともに圭介の視線とぶつかって、どきりと身がすくんだ。
 圭介は正面から私を見ている。
 ただ、じっと見ている。

 いつも表情のどこかに含まれている柔らかみが、まるでなかった。
 喜怒哀楽、その表情とも結びつかない……無表情。

 橋川の、関心のなさからくる無表情でなく、表情を押し殺した顔だ。
 圭介のそんな顔、見たことがない。

「圭介に……悪いから」

 その表情にせかされるように、つぶやいていた。
 ウソではない。
 根底を占めるのはその想いだ。

「悪い? なんで?」
「余計な気遣いばかりさせてるから」

 わからない。と言いたげに、圭介は眉を寄せる。

 ほら、だから。
 無意識のうちにしているのだろうから、わざわざ告げることではないと思っていた。
 接触しなければ、圭介が気に病む事態にもおちいらないと思っていたから、距離をとろうとした。

「橋川のことだって。前はよくうちのクラスに来てたのに、文化祭以来、こなくなったじゃない」
「それがなに?」
「どうして?」

 逆に聞き返すと、圭介は言葉に詰まった。

「……別に用がないから……」

「ホントに?」
「他になんの理由がある?」
「忘れ物をしたら、橋川のとこによく来てたのに? クラスが隣だから、便利だって言ってたのに、三つ離れたクラスの友達のところまで借りにいくのはどうして?」

 問いただすと、圭介は目をそらした。
 圭介は、追求をウソで平然とかわせるほど器用な性分ではない。
 それは昔と変わりないようだ。

「そんなこと……別にいいだろ」

 言いにくそうに告げる圭介に、私はひきつった笑みが浮かぶ。
 自嘲じみた……嘲笑だ。

「圭介がそうだから……離れようと思ったんじゃない」

 言いながら、胸が痛いほど鼓動が高鳴っている。
 言うべきではないと、心のどこかで思いながら、徐々に高まり始めた興奮で、言葉が止まらない。

「どうしてそんなに庇うの? かまおうとするの?
 橋川の件は私がどうにかするから、圭介は気にしないでよ」
「……なんだよ、それ」

 ムッとしたように、圭介は眉をつりあげた。

「だから避けたって? 意味わかんねーよ」
「ほっといてって言ってるの」

 圭介にしてみれば、理不尽な言われようだろう。
 気遣った相手に無下(むげ)な態度をとられるのだから。

 深い苛立ちを表情にのぞかせて、圭介は「……わかった」と立ち上がった。
 低い声。
 圭介が、怒っている証拠。

 そのまま圭介は、振り返ることなく部屋を出ると、十数センチあけていたドアを少々乱暴に閉めて、部屋から出て行った。

 閉じたドアをしばらく見つめたあと、私は空気の抜けた風船のように、へたりと背もたれのベットに体重を預けた。

 ……どうして、こうなったのだろう。

 ふと、その想いが脳裏をよぎる。


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