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2010.12.05
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SSS

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くだらないこと


ふと目が覚めた時、暖かな温もりに包まれていることに気づいた吉子は夜中にも関わらず叫び声を上げそうになっていた。
必死で口元を押さえた手のひらはそのままに上下する胸元を見つめ、そして釣られるように頭上を見上げる。
窪みのある鎖骨、無骨な喉仏に潜む馴染み深い声は、今は眠りの中だ。寝息を漏らすあの薄い唇に、今夜は何度口づけられただろう。回数を思い返すことすらはばかるかのように熱くなってくる頬を目の前の胸元に押し当て、吉子はようやく溜め息を漏らした。

龍之介とひとつになることは、男女の仲となった今では自然な事だった。
初めて結ばれたとき、そういった行為が初めてでもないくせに生娘のように緊張してしまったのは相手が『初めて心から愛した人だから』という事に他ならない。
恋に恋するような恋愛とは違う、本当の愛は吉子を幸福に満たし、そして恐れを抱かせた。
愛されている自覚はある。だが以前の恋人達のようにいつか愛想を尽かされたら、という気持ちが完全に消えた訳でもない。
途端脳内に『じゃあな』と笑って背を向ける龍之介の姿が過ぎって――吉子は堪らず龍之介の身体にしがみついた。
(大丈夫、この人はどこにもいかない)
ならば何故この手は、彼から離すことが出来ないのか。

……考えれば考えるほど悪い方向へ進んでしまいそうな吉子の身体からは、すっかり眠気が飛んでしまっている。
お酒でも飲んで、少し気を紛らわそうか。そう考えて名残惜しみながらも彼の腕の中からすり抜け、ベッドを離れようとした時、強い力が吉子を元の場所へ引き戻した。

「きゃ!」
「……どこ行くんだよぉ」
「や、やだ。起きちゃったの?」

腰に回された腕から彼の顔に視線を移せば、ご機嫌斜めな表情が浮かんでいると薄暗い部屋の中でも判る。
まさか貴方といると眠れないからとはいえず、取り繕うように吉子は微笑みかけた。

「目が覚めちゃったから、お酒を取りに行こうと思っただけよ」
「何で起こさないんだよ」
「だって~貴方気持ちよさそうに寝てるんだもん。起こしたら可哀想でしょ?」
「そんな殊勝な事いう女かぁ~お前?」
「ちょっとそれどういう意味よ!……って何、起きるの?」
「気持ちよく寝ようにも肝心な抱き枕が無くっちゃな」
「だっ……あのね、私は枕じゃないんですからね」
「言われなくても解ってるよ。枕相手じゃ、こ~んな事できねぇからな~!」

体躯に差がありすぎる二人は、龍之介が覆い被さればすぐに身動きが取れなくなってしまう。
まだ碌に衣服もまとっていない状態での戯れは少しばかり気恥ずかしい。

「きゃー!も~無理、勘弁してよ~!」
「お前が思い詰めたような顔するからだろ」
「え?」
「……何考えてるか知らないけどさ、」

長い指先が、顎を上向かせる。
刺すような眼差しに息を止めさせられる感覚を覚える。けれどその瞳から視線を逸らせない。

「離す気ないから。覚悟しとけ」

落ちてくる唇の熱に抵抗することなく、数時間前と同様にベッドに縫い付けられる。
些細な不安も闇に溶けるほど、吉子はこの男に愛される事を幸せだと思った。


女.神.の.恋(龍之介×吉子)





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Last updated  2011.01.29 17:45:19


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