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2011.02.01
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SSS

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▼自家発電(バレンタインデーの二人)

「吉子さん、今日はなんだかご機嫌ね」
朗らかに笑みを浮かべる奈津子にそう言われた吉子は、ほんのりと頬を染めながら頷いた。
大事そうにバックを抱え、この上なく幸せそうな吉子を見るだけで何だか幸せが分け与えられるようだ。
含み笑いを浮かべつつ奈津子はそっと細い指先を吉子の頬に滑らせる。
折角素敵な事を起こそうとしているのだ――せめて彼に気付かれる要素の一つぐらい、取り除いてあげなければ。
「ふふ、付いてるわよ」
「え、あっ!やだぁ~」
「相変わらずそそっかしいのね」
「あははは……」
「上手に出来たの?」
「私にしては、まぁまぁって所ね。……べ、別に深い意味はないのよ!いつも美味しい料理を作ってくれるし、そのお礼っていうか、感謝の気持ちっていうか」
「何だっていいわよ。きっと小田は喜ぶと思うわ」
「そうだといいんだけれど」
はにかんで笑う彼女は、まるで妹を持ったかのような錯覚を覚えさせる。
時々素直すぎるぐらい真っ直ぐな彼女は大きな瞳を輝かせ、きっと彼を思い浮かべているのだろう。
小田もまたそんな彼女を見つめ、自分と同じように満たされた気持ちを抱いているのだろうか。(いや、きっとそれ以上なのだろう)
「あ、そうだ奈津子さん!これ、奈津子さんと倫伝君に」
「あら悪いわ。私何も用意していないの」
「お気持ちだけ頂きます。奈津子さんにはいつもお世話になってるから」
「それを言うなら私もよ。でも折角だし……頂かせて貰うわね」
「はい!どうぞどうぞ!」
「きっと倫伝も喜ぶわね。後でお礼を言わせるわ」
「どういたしまして」
「ふふ。……そろそろ、いい時間ね」
「だと思います。それじゃ奈津子さん、また!」
「ええ、吉子さん頑張ってね」
「え?」
あの贈物と、彼女の笑顔を見たあとの龍之介の反応が何となくわかってしまって思わず笑みが零れる。
軽い足取りで車の元へ歩き出した奈津子は、今からでも愛する夫の為に作る準備が出来るだろうかと頭の中で計算し始めた。


奈津子を見送り、石造りの階段をゆったりと昇りながら吉子は窓辺のテラスを見上げる。
薄手のカーテンが敷かれた先に、まだ彼はいるだろうか。真剣な眼差しで、眼鏡越しに画面を見つめる彼を思い返して頬を染める。
普段人をからかったり、優しく接したりする彼のあまり見えない一面は驚くほどにカッコイイ。
つい先日もあの眼差しにあがらうことすら出来ずに薄い唇が重なるのを受け入れて―――。
そこまで考えて首まで赤く染まってしまい、慌てて頭を振り被って階段を駆け上がる。何故彼はあれ程余裕なのか未だに納得できない。こちらはいつまでたっても、初めてキスした時のように胸が高鳴って仕方ないというのに――。
「なーんて顔してんの?」
「へ?きゃああ!」
まるで開かれるのが解っていたかのように、ドアの丁度目の前に佇む龍之介に吉子は悲鳴を上げた。
心臓に悪い。思わず尻餅を付き掛けた身体は、彼の逞しい腕によってその胸の中に引き戻される。
「な、な、なにすんのよ!」
「何って、転ばないように助けてやったんだろ?」
慌てて身体を引き離そうとするも、それに反するように腕の力が強まる為吉子はますます身体を密着せざるを得ない。
頭上から聞こえる笑い声はどう考えたって自分をからかっているようにしか聞こえず、吉子は頬を膨らませた。
「もう、動けないじゃない!」
「何ならこのまま抱き上げて、ベットまでお連れしましょうか?お嬢さん」
「な……!?」
さすがに今度こそ真っ赤になってしまった吉子に、龍之介は笑いを堪えきれない。
「ぶぁーか、嘘だよ。3時だしお茶にしようと思ってさ、お前の事迎えに来たの」
「ふ、ふんだ。なら人の事驚かさないでよね、悪趣味よ」
「お前の反応が面白くってさ~つい」
「ついって何よ!」
そっと緩んだ腕から解放され、いまだ胸は高鳴るばかりだ。
宥めるように頭に置かれた掌も、ふんわりと漂う彼の匂いも何もかもが吉子を惹きつける。
無性に抱きつきたくなったのをぐっと堪え、腕を惹かれるまま台所につけば暖かな紅茶と見事なデザートが吉子を出迎えた。
「チョコ……?」
「おう。俺特製のデザートが食べれるなんてお前は相当ついてるぞ」
確かに出来栄えは見事。味だって、毎日美味しい物をつくるこの人の事だから、きっと相当に美味しいに違いない。
そう思った瞬間、急にバックの中に仕舞いこんだものが出しづらくなってしまって――。
「どうした?席、つかないのか?」
「え?あ、ううん頂くわ。あなたの料理はピカ一だものね~」
「そりゃ当然、俺の愛が詰まってるからな」
「や、やだぁ~もう」
「そんでもって、お前のコレも」
ハッと振り返り、彼の手に収められた例のモノに吉子は顔を引き攣らせる。
忘れていたのだ――今日はついうっかり、口の開いたトートバックを持ち歩いていた事を。
「やっ!か、返してよ!」
「やだねー。これ、誰に渡すつもりだったんだよ」
「だ、誰だっていいでしょう!……あ、自分!自分用よ!」
「自分用ねぇ……」
あからさまにラッピングに気合を入れ、チョコレートの香りを残したままのくせによくもまあそんなわかりやすい嘘がつけたものだ。
「んじゃ、交換な」
「え?」
「俺のデザートとだよ~。そうじゃなきゃ割りに合わないだろ?」
「そんなぁ!ダメなのよそれは、とにかく、返して!」
「あれ?要らないのぉ~?俺的に結構自信作なんだけどなぁ~折角スエキチに食べてもらおうと思ってたのになぁ~残念だなぁ~?」
「~~っもう!わかったわよ!その代わり、味の保障は出来ないんだからね!」
「勿論承知の上だってーの」
ニヤリと笑みを浮かべる龍之介を横目に、さっさと席についた吉子は一口掬ったチョコレートを徐に口の中へと放り込む。
それは彼の愛情のように、蕩ける甘さで吉子をときめかせるのであった。

FIN

女.神.の.恋(龍之介×吉子)

まあこの後吉子のチョコ食べて「お、うまい」「え!本当~?」「ほら味見」とか言ってキスとかイチャイチャしてればいいと思います(キリッ





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Last updated  2011.02.14 23:35:44


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