いつも通りで時々異常。

一章。


呆れ顔でそう言って、兄貴はいとも簡単に俺が苦労していたソレを一太刀で斬り捨てた。

「仕方ないですよ。クロイス様はSクラスの討滅師ですから」
とアスハは言ってくれた。
その言葉は俺を慰めてくれないし、ましてや「そうだな」と同意も出来なかった。


悔しかったが、討滅師の中でも最低で、まだ『魔』を討つ経験が殆どなかったGクラスだったあの頃の俺にはどうすることも出来かった。
今ではDクラスになって、だいぶ簡単に『魔』を討てるようになったが、まだ兄貴には敵わない。
「無理」とまでは言わないが、Sクラスまではやっぱり遠い。
三つ年上の兄貴は俺の歳にはもうBクラスだったらしい。

俺はある日皆の前で宣言した。
いつか――それまで何年かかろうと、絶対に兄貴を超えてやる。







――「とは言っても、次のクラスでさえも遠いよな…」
その日俺は三体の『魔』を討った後、本部で討滅後の始末書を書きながら過去の事を思い出していた。
「珍しく弱気ですか?」
Gクラスだった時からずっとサポートしてくれているアスハが丸い眼鏡を拭きながらながら聞いてきた。拭きながらも、委員長って感じの頭の良さそうな顔に、赤いふちの眼鏡をかけてるのを見ると、今拭いてる丸いのは得意のコレクションの内の一つなのだろう。
「そんなわけないだろ…ただ……」
「ただ…?」
「これ書くのめんどくさいなあと思ってさ」
始末書を指先でつまんでひらひらさせながら笑ってごまかしたが、ホントのところは、アスハに言ってこそ無いが三体目の時怪我した左腕の傷が痛んで、少し弱気になりかけていた。
「そうですか…。どっちにしてもこれ書いたら医務班に治療に行って下さいね。」
驚いた。
この娘、しっかり気付いていらっしゃる。
「はぁ……はいはい。でも始末書が面倒なのはホントの事だ。」
「先程から進んでないところを見るとそうなんでしょうね。でも早くしないとそろそろ夜が明けます。」
「解ってるけどなかなか進まないんだな。コレが。」
苦笑いして、もう一度書類に目を向けた。
沢山ある項目を埋め、最後の「今回の『魔』はどうでしたか?」とかいう不思議な項目に適当に答えを書き込み、提出し、現状報告をした後、言われた通り医務班で怪我の手当てをしてもらった。
たいして血は出てないのでたいして痛いとは感じなかったが、ぱっくり切れていて五針も縫った。



「痛って…」
腕を摩りながら、返り血に汚れた着ていた学生服を脱ぎ、ロッカーにかけていた真新しい同じサイズ・色・形の学生服に着替える。

そろそろ日が昇る。
日が出てる間は普通の高校生活を送らなくてはいけない。
ナインナイツも昼の間は用無しだな。
そう思いつつ肩に掛けていた討滅用の大剣を棚に置く。
兄さんも昔はこんな風にロッカー使ってたのかな。とも思ったが、そんなに嬉しくもなかった。
というか、こういう時ってどんな気分になるべきなんだ?


更衣室を出たところでアスハが立っていた。
「待ってたのか」
「同じ方向…学校ですから」
と言ってアスハは先を歩き出す。
後ろから、ありがとう。と声をかけて俺も後を追って歩き出した。
「何がです?」
後ろ頭で一つに束ねた髪を揺らし、丸眼鏡をこちらに向けて尋ねてきた。
そこはあんまり突っ込んで欲しい点じゃなかったのに。
あ、それはさっきの丸眼鏡か。
アスハの後ろに見える朝日が眩しい。
「いや、気付いてくれて、さ。」
「サポーターとしては当然です。これじゃ私の方が先に上にいっちゃいますよ?」

そんな事あるかよ。そう言って走ってアスハを追い抜いた。


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