蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「ダブルタップ」

香港の人気俳優レスリー・チャンが亡くなってから、4月1日で、
もう1年になる。月並みな言葉だが、時間の流れるのは早い。
エイプリルフールにビルから飛んでしまうなんて。

彼の姿を始めて見たのは映画「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」の画面の中だ。
ちょっと気が弱そうで、なんとなく放っておけない男を好演していた。
それから彼が出演している映画を貪るように見た。
「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー2」「男たちの挽歌」「男たちの挽歌2」「欲望の翼」「狼たちの絆」「さらば わが愛 覇王別姫」「楽園の瑕」「上海グランド」「ブエノスアイレス」「アンナマデリーナ」など。
少し気の弱い男や屈折した青年、ホモの男性など、いろいろな役にとりくんだレスリーだが、殺人鬼を演じたことはあったのだろうか?

「ダブルタップ」とは、2発の銃弾を連射し、同じ位置に命中させる射撃のテクニックのこと。
射撃の名手の、リック(レスリー・チャン)とミウ刑事(アレックス・フォン)はお互いにライバル同士。
射撃大会に出て勝敗を競うが、その会場で事件が起きた。
ミウの同僚が銃を暴発し、観客らを無差別に撃ち始めたのだ。
彼を撃つ事をためらうミウと対照的に、恋人を守るために犯人の頭を打ち抜くリック。
それ以来リックは、殺人を快楽に思う自分自身に苦しんでいった。
3年後、サイコキラーとなり、ミウの前に現れるリック。
射撃大会での勝敗を決めるかのように、再びリックとミウが対決する。
刑事と犯人として。

「ダブルタップ」という映画自体は知らなかったのだが、レスリー出演の映画だというだけでレンタルしてきた。これがヒット。面白かった。
ストーリーでは、リックに対する警察官らの妙なこだわり部分がわかりにくいなどの難点もあったが、なにしろレスリーのイッてる演技が最高だった。
人を撃ってしまうまでのリックは、射撃を愛する人見知りの激しい青年だった。
そんなリックが偶然とはいえ、人を殺してしまう。
その時に、感じた人を殺す快感。
その思いに苦しみながらも、殺人鬼と化してしまうリック。
苦しむ姿のレスリーは、天下一品に美しい。
ミウと対決するリックの、どこか悲しげで、それでいて精神に異常をきたした男の、つかみ所のない表情を好演している。

映画が始まってすぐ、「ダブルタップ」の世界に引き込まれ、リックとミウの対決まで一気に時間が過ぎる。
そしてエンディングでは、長いため息をつきながら、レスリーの死を心から惜しむことになる。
これだけの演技をする俳優が、もうこの世にいないなんて。
映画好きにとって、かなりの痛手である。

ダブルタップ公式HP:http://www.clydefilms.co.jp/double/


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