蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「幻の光」



是枝監督第1作目の長編映画「幻の光」を見る。
順序が逆になったが、是枝監督の長編映画は、95年「幻の光」、98年「ワンダフルライフ」、01年「ディスタンス」、04年「誰も知らない」となる。

今回見た「幻の光」は、遺された者の再生をテーマにしている。

尼崎の粗末なアパートの一室で、ゆみ子は幼馴染の夫と生後3ヶ月の長男と暮らしていた。
子どもを大家に預かってもらい、夫と2人でお好み焼きを食べ、いきつけの喫茶店でコーヒーを飲む。
ささやかながらも幸せな生活を送っていたゆみ子。
そんな彼女に、夫が自殺をしたという知らせが入る。
心当たりは全くない。
線路を歩いていて、電車に轢かれた夫。電車の警笛にも振り返らず、前を見たまま死んでいったと聞かされる。
5年後、彼女は大家の仲人で、能登に住む民雄の後添えになる。
その家には、先妻の子と義父がいた。
新しい生活に馴染もうとするゆみ子。
亡き夫のことは忘れたかのように思えたが、尼崎に戻る機会があり、再び夫の死について、考え始めるようになる。
能登の海に、漁に出たまま帰らない老女を案じ、ゆみ子は再び「死」について思いを巡らせる。
ゆみ子が民雄に激しくぶつけたその問いに、民雄は静かに答える。


「ディスタンス」でも感じたが、是枝監督は遺された者への温かい目というものを持っていると思う。
肉親の死によって、突然に生活が変わってしまう遺族。
死者はどこへいってしまったのか。
なぜ自分は彼らの死を止められなかったのか。
答えの出ない問いを持ちつづけたまま、遺族達は生きなければならない。
そんな彼らを、カメラはゆったりと眺め、時間という薬によって、ゆっくりゆっくりと癒されていく過程を映し出す。
劇的な快復を望む処方箋は必要ない。そういうものは存在しない。
ただ穏やかな時間が必要なだけ。

まだ自分自身の身近に「死」を体験していない私には、あまりピンと来るものはなかったが、依然として存在する監督自身の真っ直ぐで温かい目は充分に感じられ、やはり好きな監督だと思った。



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