蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「フライ・ダディ」



39歳の平凡なサラリーマン、ガビル(イ・ムンシク)には、妻と娘ダミとの平穏な暮らしがあった。マイホームのローンはあと7年残っているが、今度の人事異動で営業部長に昇進できるかもしれない。愛する家族のためには、命さえ投げ出せると信じて疑わなかったガビル。ダミが高校生ボクサーのカン・テウクに殴られたと聞くまでは。心と体に傷を負ったダミを守ってやることも出来ない自分の不甲斐なさに、ガビルは愕然とする。震える手でナイフを握り、テウクのいる高校に復讐に行くが、そこで出会ったスンソク(イ・ジュンギ)という物静かな男子生徒に殴られて気絶する。スンソクやその仲間オ・セジュンらに、事の次第を話すガビル。セジュンらの提案で、ガビルはテウクに挑戦するための特訓を、スンソクから受けることになる。ガビルはスンソクの猛特訓を乗り越え、テウクを打ち負かせることが出来るのだろうか?そして心に傷を負ったダミは快復することができるのか?そしてスンソクは?

ストーリー展開に意外性はないのですが、見ていて安心できましたね。決してストーリーが陳腐ということではなく、作り手が伝えたいことは、きちんと押さえてあると感じました。その上で観客の心に温かく心地よい感情を起こさせる作品でした。見るのは2回目なのに、いろいろなシーンで泣いてしまいました。

暴力で自分の欲望を満たそうとしたテウクに、主人公ガビルもまた暴力で応じようとしますよね。スンソクはガビルを鍛えながら、「暴力には正義も何もない。」といいます。
私は、この映画は「目には目を」といいたい作品なのか?暴力に対抗するには、結局それを上回る暴力で応じるしかないのか?そんなことを言いたい作品なんだろうか?という疑問を抱きつつ、画面を追っていました。

スンソクがけんかをして警察に捕まった時、ガビルが保護者として迎えに行きます。
その時スンソクは、自分の頬に残る傷が出来たわけを話します。17対1で戦ったという武勇伝ではなく、酒に酔った男に刺されたという恐怖の体験です。それ以来、その男の充血した目が迫ってくるという悪夢を見続けているスンソク。彼もまた、ダミと同様、暴力によって心に傷を負っていたのでした。スンソクの場合は、彼を迎えに来てくれるヒーローである父親も来ず、それからは世界中が自分の敵だと感じながら、覚めた目を持って生きています。

ガビルがテウクを負かすために特訓したのは、もちろん娘ダミのためではあるのですが、スンソクの過去を聞いたときから、彼の心の傷も癒すために、より一層頑張ったのではないでしょうか?
またガビルがテウクを打ち負かせたのは、暴力で対抗したからではないからだと思うんです。
もちろん形の上では、テウクを何度も殴り、彼を倒しました。
でもあれは、暴力を制するものは暴力だというのではなく、暴力に対抗できるのは だけなんだという製作者側のメッセージではないかと感じました。
力で抑え込もうとしたものを、愛情で打ち負かし、なおかつ心の傷も癒すことが出来る。現在の傷も過去の傷も。そして暴力で生きてきた迷える子羊のテウクさえも、もしかしたら大いなる愛情の力によって、もっと違った生き方を選ぶことができるのではないかとさえ感じました。
一生懸命に特訓に励む“平凡なサラリーマン”ガビル。
彼の姿に勇気を与えられました。(私も少しは体を鍛えなくちゃ・・・。)


「フライ・ダディ」オフィシャルサイトは こちら


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