蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「小津安二郎の食卓」

書籍名:小津安二郎の食卓
著者名:貴田庄
出版社:ちくま文庫

感想:私は毎週土曜日の午前中に、ある講座を受けるため、電車で通っている。
全10回の講座を受けるため、毎週片道30分ばかり電車に揺られているのだ。
その“通学”時間が、格好の読書タイムとなっている。
その時間を何回か使って読了したのが「小津安二郎の食卓」だ。
著者は、映画評論家であり書物史家、工芸作家の貴田庄(きだ しょう)氏。
この本を読むまで、貴田氏のことは知らなかったが、かなりの小津映画ファンと見受けられる。
著書に、「小津安二郎のまなざし」「小津安二郎と映画術」「小津安二郎東京グルメ案内」「監督小津安二郎入門40のQ&A」などがある。
この「小津安二郎の食卓」を読んだだけでも、小津の映画に精通していることがわかる。

小津作品は、ホームドラマであると言われるが、食事のシーンがよく登場するのが、その理由のひとつらしい。
私が小津作品で見たものと言えば「晩春」「東京物語」「生まれてはみたけれど」ぐらいのものだが、その作品の中でも食事のシーンがあった。
作者は、小津監督がどのような食べ物に興味を示し、何を表現しようとして食事のシーンを撮ったのか、小津作品の中での「食事」をテーマに、小津作品を吟味しなおそうと試みている。
なかなか面白い発想だと思う。
小津監督が、なぜかカレーすき焼きを得意とした話や、戦地に赴いた時の日記などの、数々のエピソードが胸を打つ。
また「晩春」での有名なラストシーン、娘の結婚式が終わった夜、父親(笠智衆)がりんごをむく場面がある。
りんごの皮をむきながら、彼はうなだれる。
それを「泣いている」という人もいれば、「眠ってしまった」と解釈する人もいた。
本書によると、あれは泣いている演技だというのだ。
笠智衆自身の言葉によれば、小津監督があそこで笠に、大きな声で泣けといったらしい。
しかし泣けなかった笠は、頭を下げるだけにしてもらったのだが、「眠っている」と解釈する人がいて、ガックリしたと言っている。
当事者の言葉だからこそ、興味深い。

ただ単に小津作品を見るだけでなく、このように味わいながら鑑賞し、監督自身が何を表現したかったのかを考えながら見る映画も、またよいものだろう。
小津安二郎監督の生き様に、少々興味が湧いた。




© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: