蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

新春狂言「狂言三代」

待ちに待った生萬斎日。
今年のお正月三が日は、天気がよく暖かかったのに、今日は木枯らしが吹いている。
しかし私は、木枯らしさえ吹き飛ばすほどの、熱い期待と思慕の念をかかえ、近鉄劇場へ急ぐ。

まず萬斎さんによる独吟「雪山」
新春狂言だからか、舞台の四隅に門松や千両などを置いてある。
竹や松の緑と、千両の赤が鮮やかだ。
そのピンとはりつめた空気の中へ、萬斎さんが登場。
ああ、やはり所作が美しい。
朗々と低く響き渡る謡の声。
このまま時間が止まり、いつまでも聴いていたいと願っていたが、かなわず終了。
一旦舞台の下手に引っ込んで、再び登場。
今度は、これから演じる「二人袴」「靱猿」の解説をする。
時々ジョークも織り交ぜながら、軽妙に話を運ぶ。
座席が良い場所ではなかったため、私はオペラグラス持参で、しきりに萬斎さんを見ていたのだが、TVで見る通り、冷めたような表情。
ファンにとっては、それがたまらないのだが。

次に「二人袴」が、野村万之介さん、石田幸雄さんらによって演じられる。
妻の実家へ挨拶に行くのが、一人では行けないと、自分の父親に一緒に来てもらう男の話。
1つしかない当時の正装である長袴を、どうやって2人が着用するかが見所の1つ。
以前TVで萬斎さんの「まちがいの狂言」を見たとき、演者のオーバーアクションぎみのこっけいな動きに驚いた。
シェークスピアを狂言にアレンジしているので、あのような面白おかしい演出になるのだと思っていたが、違った。
今回の「二人袴」でも、似たようなこっけいな動きがあり、それがまた面白く、物語に妙味を加えている。
観客は大笑いをして、演技を楽しんでいた。

休憩をはさんで、次は「靱猿」
大名が万作さん、猿曳きが萬斎さん、小猿に彩也子ちゃんの豪華メンバー。
NHK「にんげんドキュメント」で「靱猿」の練習風景を見ていたので(TVで小猿役は裕基くんだったが)猿曳の萬斎さんが「さあさ、行け行け」「キャア~キャアキャアキャア」という声が聞こえると、『さあ、萬斎さんが来るぞ!』と胸の鼓動が一層大きくなる。(笑)
小猿の動作はかわいらしく、万作さんの大名も、それぞれの場面での表情がすばらしかった。
萬斎さんについては、彼に女性たちがどうして惹かれるのか、どこからあのような魅力が醸し出されるのか、少しはわかったような気がする。

まず、野村萬斎は冷めているように見える。
何者も演じていない時の彼は、飄々としていてクールだ。
とりつくしまもない彼の雰囲気に、なぜかグッとくる。
一度舞台に立つと彼は、バカラのガラス細工が完璧な形を保っているように、研ぎ澄まされた表情を見せる。
三番叟で見せる激しい動き。しなやかで強靭な体があるからこそ実現する。
冷たさと熱さをあわせ持つ狂言役者。
これほどの魅力はないだろう。

狂言三代パンフ

2004年1月8日 大阪 近鉄劇場




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