スーツケースにこめた愛(最終回)


私はコンピューターの前で航空券の
チェックをしていた。

夫がドアの向こうから顔だけ出して、
「どうするのか」と聞く。

「どうするって何が」とやけくそな私。

「ずっ、ずっと謝ろうと思ってたんだ。」

「ふうーん、それで。」

心の中じゃ、「ホラ、来たよ」とニンマリ
していた私だけど、そこはじっと我慢の子。

「アメリカ人てのはね、怒っている最中じゃ
なくて、冷静になってから話し合うんだよ。」

この期に及んでも、またくだらない能書きを
たれてる夫。

私は一気に、「そんなのアメリカ人だからとか、
日本人だからなんて関係ない、要は気持ちの
問題でしょ」ってことをまくしたてた。

夫は観念したようだった。

そこからは、お互い今考えてることを話して
こんがらがった糸をほどこうとがんばった。

そんで、がんばったらほどけちゃった。

「I’ve Never Thought Of Leaving You」
「I don’t want you to go to Japan」などと、
日本語に訳したら、こっぱずかしいお言葉の
おまけつきで。

私も、ムキになって怒っている必要もないなと
思って素直に許すことにした。

しばらくして、それじゃあ、車のトランクに
入れといたスーツケースを降ろしましょうと
いうことになった。

私も、つめた時はカッカしていて訳も分からず、
子どもの物も私の物もめちゃくちゃにつめている。

「あれっ、なんだこれ?」

そこには、見慣れた夫のアンダーウェアと靴下が。
もちろん、私がつめたんじゃない。

車のトランクにスーツケースを発見したうちの夫。
これはヤバイと思い、とっさに自分の物もつめた、

・・・らしい。

自分も一緒に行こうと思ったの、か?
でも、なんでよりによってアンダーウェアなのか?
春が来たとは言え、パンツ一丁ではまずいだろ?
下着に靴下じゃ、まず怪しい人に見えるだろう。

これが、愛情表現下手な夫にできる精いっぱいの
スーツケースにこめた愛ならぬ、
スーツケースにつめた「I」(アイ、=自分のこと)

私は、おかしくてうれしくて涙が出たよ。

最終回まで、付き合ってくれた皆さん、ありがと。
でもね、この後に実は番外編があるのよ。
それじゃ、抱腹絶倒の次回をお楽しみに。

しっしつこいか?


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