”もっと!”台風がきた!/俺と仕事と育児

”もっと!”台風がきた!/俺と仕事と育児

こども未来賞


平成15年度の「こども未来賞」に応募した作文です。
凡にとっては初の力作だったのですが、みごとに落選しました。
敗因は…。もっと明るい話題にすればよかったかも…。ちょっとシリアスすぎた(^^ゞ

子育ての修羅場が見れる!
『育児と育自』

■僕は息子が生まれたときに会社を辞めた。時間と人の流れにもみくちゃにされることに疲れていたこともあるし、忙しさで自分を見失っていたことに気が付いたからだ。(ついでにいえば円形脱毛症の治療もしたい。)

今は独立して一人で設計事務所を開いている。妻が仕事に戻ってくれたおかげで少ないながらにも安定した収入があるのだが、家事と育児は分担している。 皿洗いやごみ捨て、残りの洗濯と昼には戻る妻の昼食の準備は僕の役目だ。それと保育園の送迎は楽しみのひとつでもある。

■毎日川沿いの裏道をゆっくりと歩いている。なんだか穏やかな気分になってゆくのだ。息子は電車、バス、時々飛んでゆく飛行機が大好きだ。鯉やミミズをじいっと観察する小さな背中が可愛らしくてついつい時間を忘れてしまうこともある。買い物・入浴・晩飯の手伝い・寝かせる役目を終えるとすでに21時を過ぎている。それからまた仕事をする。

■こんな“訓練”を2年も続けて最近はやっと落ち着いてきたけれども、正直言って「会社に行って仕事していた方が楽だ。」と何度も思った。2年間のほとんどを、”効率”という言葉を自分の中から消去するのに費やしたと言ってもいいかもしれない。無駄を省こう!経費削減!時間は金なり!サラリーマンにはあたりまえの常套句がまるで通用しないということに慣れるまで一年半はかかった。

まず身体が理解できないのだ。半年前まで保育園に入園できずにいた。妻は仕事。一時保育で何とか切り抜けていたのだが、問題が起きたのは息子が風邪を引いた時であった。

■息子が家の中でテレビを見ていてくれるのも2時間が限度で、あとは外に遊びに行きたがる。お腹も壊していて非常に不機嫌なのである。風邪だからと説明してももちろん通じないし、僕がトイレに行けば泣き叫びながら付いてくるし、仕方なく散歩に出れば全く歩かないし、だんだん熱がぶり返してきてますますグズグズ度が増してしまうのである。夜も満足に寝かせてくれないので僕の疲れも溜まってゆく一方だ。

■僕は次第にイライラを抑えきれなくなり、それが息子にも伝わってしまうようでますます泣き叫ぶ。とうとう半狂乱にまでなってしまうのだった。「大丈夫だよ。」と抱きしめてあげればいいのだがそれも否定されると手がつけられなくなってしまうのだ。仕方のないことなのだと自分自身に言い聞かせるが、まるでアリ地獄のように落ち込んでゆく。

■本当は自分に対してイライラしているのだ。散歩をしていれば誰もが忙しそうに働いている。くわえタバコのトラックの運転手、屋根に登る大工さん、スーツを着たビジネスマンは渋滞の車内でレポートをめくっている。

自分はどうだ?何事も子供のペースで毎日が過ぎてゆくだけだ。他人にどう思われるかでも経済的な余裕が欲しいわけでもない。自分だけ立ち止まっていることに焦るし、それが辛いのだ。夢もある。やりたいことだってたくさんある。営業にだって出たいし、新しいアイディアも試してみたい。勉強もしなければならない。どれもこれも全く不可能だ。本すら読めないのだから。
<<つづく>>


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