”もっと!”台風がきた!/俺と仕事と育児

”もっと!”台風がきた!/俺と仕事と育児

こども未来賞(妻編)


こちらも見事に落選…。テーマ暗いかなあ。
普段の我が家は笑いの絶えないご機嫌一家なんですよ。

■人の心は許容量を超えてしまうと悲鳴をあげる。助けて、助けてと。そして時にはその声に自分でさえ気づかずに壊れてしまう。

■2003年 春。同居、初めての育児、親友の自殺。そんな日々の中で私達の心はいつしかすれ違ってしまっていた。お互いが気が付かずに最悪の状況、育児ノイローゼになってしまっていた。ただ、それはお母さんではなくお父さんが…。
もうずいぶん昔のことのような気がするが、それはたった半年前の出来事だ。

■我が家は一年前に開業した設計士の夫と、ホームヘルパーとして毎日忙しく自転車で駆け回っている私と、二歳になったばかりの息子、それに夫の両親の五人で暮らしている。よって必然的に子どもは保育園に通い、私達二人は分担して家事をこなすことになる。仕事が終われば子どもの笑顔が待っている。もちろんこんな状況で自分だけの時間なんてものはない。

■今の私には子どもとの時間が重要だ。男の子なので三歳位になると、母親では物足りなくなってしまうのではないかという不安。遊びもお風呂も、やっぱり男同士だよねなんて言われてしまうのではないかと勝手に想像しては、今だけ今だけ、相手をしてもらえるのは今だけなんだと思い込んでいるのである。だから今は思いっきり子どもとの時間を大切にしたいのである自分だけの時間なんて後回しで構わないのだ。

■働き盛りで好奇心旺盛の夫はそうはいかない。俺はこれもしたいし、あれもしたい。終わりのない家事や付きまとう子どもにうんざりすることもあるだろう。それでも夫は、朝の食器洗いに昼食の用意、はたまた子どもの送り迎えにとかなりの主婦業に奮闘していた。そして忙しいながらも、週末だけは家族の時間として、おにぎりをもって公園に…等と三人の時間を大切にしていた。

■保育園の赤ちゃんクラスでは、風邪は日常茶飯事だ。息子もちょくちょく風邪をもらって来る。人一倍丈夫な息子も、ある日とうとう高熱を出してしまった。四十度もの熱が続き、ぐったりの日々。それでもなおかつ遊びたい気持ちは強い。しかし体はそれを許さない。当然一日中ぐずぐずが続く。夜は夜で高熱で眠れずぐずる日々。介護の仕事でなかなか休みが取れない私に代わり、夫が息子の看病をしてくれることになった。

■家事全般は私の仕事になる。朝から仕事に行き暗くなる頃に戻ってくる。その後は五人分の家事をこなし、夫とバトンタッチ。結構へとへとになってしまうのだ。そして夫は、ここぞとばかりに自分の時間に戻ってしまう。今までは毎日晩酌をしながらいろんなことをゆっくりと話していたのに、ふと気が付くと私達二人には会話がなくなっていた。

■高熱が十日も続いたある日のこと。息子が奇声をあげて泣くようになった。まるでヒステリーを起こしているようなすさまじい泣き方だ。おかしいな、どうしたんだろう。いつものようにただ黙って抱きしめても効果はない。それどころか次第に私は拒否されるようになってしまい、息子は夫にしがみついて離れない。夫も次第に声を荒げるようになり煮詰まってきているのは見て取れる。

■「 うるさい。静かにしろ。きちがいみたいな声で泣くな。」
息子の口を塞ぐ夫。私は目を見張った。何してるの、やめてよと、息子を夫の手から奪おうとした。だが無理だった。それでも息子は必死に夫にしがみつくのだ。そして、とうとう夫は小さな小さな息子を殴りつけた。まだまだ赤ちゃんと呼ばれる小さな息子を。咄嗟に私は子ども抱きかかえ、夫を怒鳴りつけた。涙は止まらなかった。何が起きているのかさえわからなかった。夫はものの十分もしないうちに三回も息子を殴っていた。

<<つづく>>


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