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この本には魔法がかかっています、絶対に。熱帯 (文春文庫) [ 森見 登美彦 ]ハードカバーの単行本は2018年に発行されてましたが、このたび文庫版として発売されました。「単行本、重いしな・・・」となんとなく遠巻きに見ていたのですが、先日、本屋さんで文庫版を発見して、ちょっと立ち読みしたら、そのまま”取り憑かれ”ました。『熱帯』という本に、登場人物が次々と取り憑かれていく物語なのですが、私も取り憑かれたらしく、554ページの本を2日間で読み終えてしまった上に、まだ物語の世界から帰ってこれません・・・感想を書くとネタバレになっちゃいそうなので、あまり書けないのですが、読み進めるごとにナゾがどんどん増えていって、え?え?と思っているうちにさわやかな読後感を残して終わる、という・・・。私のお勧めの読み方は、何の予備知識もなく一気読みして、再び最初から読み返す、というやり方です。普段は一回読み終わった小説を読み返すことはあまりないのですが、この本は読んだ回数だけ解釈が広がりそうな気がします。少なくとも、いろんなところに張り巡らされた伏線をいろいろな形で回収できる・・・というか。ペンギン・ハイウェイを読んだときも衝撃でしたが、『ペンギン・ハイウェイ』 森見 登美彦 著あの衝撃に、他の森見作品の特徴的エッセンスもぎゅーーーっと詰め込まれた、森見ワールド満載な感じの贅沢な物語です・・・。仕事で活字はたくさん読んでいるのですが、純粋に「物語の世界」をこんなに堪能できたのは、本当に久しぶりで、とても幸せな気分です。・・・ホントに、取り憑くんですよ、森見作品って・・・
September 25, 2021
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経済学って何だろう・・・?シリーズ第二弾として読んだのが市場って何だろう 自立と依存の経済学 (ちくまプリマー新書) [ 松井 彰彦 ]市場って何だろう ──自立と依存の経済学【電子書籍】東大の先生が書かれた本なので、出だしのグチはありませんでした。冒頭から僕のゼミは理論経済学が専攻だ。英語で数学っぽい本を読んだりする。それで学生が集まるのだから、さすが東大・・・。いえ、そういうことではなくて。冒頭部分は易しくフレンドリーな書き出しで、読みやすいなぁ、と思っていたのですが、易しい語り口で極めて高度なことをおっしゃっているので、経済学初心者にとっては、本全体が伝えようとしていることは、ものすごく把握が難しい・・・経済学の基本がわかっている人にとっては、本書の例え話は易しく庶民的に書かれているので「ああ、あのことね」とわかるのでしょうが、基本が全然わかってない人は、何の例え話なのかわからないということに。全部読み終えてみて、この先生の専門を鑑みて、はじめてこんなことをいいたかったのか、とわかる、という流れになっていました。教養がなくてすみません、ホント・・・。で、冒頭に戻ってみて本書のいわんとすることをひと言で表している文章を抜き書きしますと。自立するためには依存先を増やすことが大切で、その依存先を提供してくれるのが市場だ。ね、わからないでしょう・・・本書を全部読むと、この意味がわかる仕組みとなっております。著者は、障害と経済という研究プロジェクトチームに入っていることもあって、本書の後半、障害者のための市場という切り口で、市場の意味を説明しています。障害者を「保護」するのではなく、障害者も健常者と同じように市場価値を持つものを創作して一般社会で通用する「自分のための」市場を持てば自立できる、という解説に、なるほど、自分が依存できる市場を自分でつくり出すことが自立への道、とはそういうことか、とわかります。いわゆる「経済学」の基礎を説く本ではないのですが、経済学とは経世済民、どんな人も暮らしやすい世の中をつくるための学問、ということを実践的に示すことを試みている本でした。ただ、やっぱり馴染みのない分野だから、もう2~3回読まないと、内容がすっぽり記憶から抜け落ちてしまいそう・・・。どんな分野の勉強も、若いうちに馴染んでおくことが大切です・・・。
August 15, 2020
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筑摩書房さんのeブックフェアで買った本の中の一冊です。西洋史の本を読み終わって、次は経済学(^^)高校生のための経済学入門 (ちくま新書) [ 小塩隆士 ]高校生のための経済学入門【電子書籍】何しろ「経済学って何?金儲けの方法の研究??」くらいにしか知らなくて、ニュースで扱われる経済の話題も「景気がいいか悪いか」くらいのレベルでしか理解しておらず。さすがに大人として恥ずかしくないか?と思っていたので、この本を選びました。で、読み始めたら、冒頭から、最近の大学生についてのグチが・・・(汗)経済学部に入ってくる学生は「分数の計算もろくにできない」「経済学が何かなんてぜんぜんわかってない」「数学使うっていうと敬遠される」「どうやって経済学に興味を持ってもらえるのか、途方に暮れている」・・・ってぇ。まぁ、私の個人的な勝手なイメージではありますが、大学生活をエンジョイしたい学生が選ぶ学部、ですよね、確かに。だって、文系だから、数学勉強しなくても入れちゃいますものね、経済学部。どうなることかとハラハラしながら読み進めたのですが、内容は、経済学について大変わかりやすくまとめられており、経済学の知識ゼロの私は、目からうろこが何枚も落ちました。そもそも、経済という言葉は「経世済民」の略で、「いかに世の中をよくするか、人々が生活に困らないようにするか」を考える学問、と知って、へ~~~~~!と思いました。金儲けの方法じゃないんだ。家計と財(サービス)、需要と供給、ミクロ経済とマクロ経済、金融緩和、ゼロ金利政策・・・。よく知らなかったです(ー"ー)そして、お金は流れないと世の中がよくならない、ということも。ケチなので貯め込むのに必死でしたが、よく考えながら「使わないと」いけないんですね。「経済学って仮定してはその仮定が通用しないからまた仮定をし直して」ってことを繰り返してて、なんかこうふわふわしてて常に現実と食い違いが生まれて気持ち悪いわ~、っていうのが第一印象だったのですが、友人に「人間心理を単純化するときにどこまでを考慮したらいいのか、仮定を設定しなおすところがこの学問の意味」と教えてもらって、ふーん、なるほどね、と何かがすとんと腑に落ちたのでした。出だしのグチに反して、結構、内容が濃くて、あと2、3回読まないとちゃんとわからないような気もします。経済が不安定な今の世の中だからこそ、学び甲斐があるような気もします。
August 2, 2020
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新聞の一面の広告欄に西先生の本が掲載されていて、おや?と興味を持っていたら、京都のALS患者さんに対する嘱託殺人事件が起きました。だから、もう眠らせてほしい 安楽死と緩和ケアを巡る、私たちの物語 [ 西智弘 ]その日のうちに友人から「この事件のこと、どう思う?」と聞かれ、何も答えることができず、これはちゃんと考えなければいけない問題なのかもしれない、と思い、本書を取り寄せて読了しました。本書は、緩和ケア医の西智弘先生が、2人の若い緩和ケア患者さんについての安楽死にまつわる実話を中心に、4人の「安楽死」関係者との対談も交えながら、さまざまな角度から「自ら選ぶ死」について考察する物語です。病気で治療法がなくなり、余命が限られて明るい未来を描けなくなったとき、「苦しまないで死を迎えたい」「死に向かって苦しむ自分を家族に見せて、家族にトラウマを残したくない」と希望する患者さんに対して、現在の日本で、医療は何をすることができるのか。日本では、積極的に寿命を短縮する行為を行う「安楽死」は認められていませんが、死に瀕している患者さんに対して、患者さんおよび家族の希望があった場合、「尊厳死」として延命治療を中止することはできます。また、がん患者さんの場合、治療法がなく余命が限られている場合には、「耐えがたい苦痛(痛み)」がある場合に痛みを感じないように「鎮静(セデーション)」といって薬によって深い眠りにつかせることができます。ここで問題となるのが「耐えがたい苦痛(痛み)」の定義。身体的な「耐えがたい苦痛(痛み)」の場合、目に見える現象なので、医療者も判断しやすく家族も納得しやすいのですが、その「苦痛」が「心の痛み」である場合、どうやって判断したらいいのか。身体的には元気そうに見えても、生きているのが絶えられないほどの精神的なつらさを抱えていて、今すぐにでも心の苦しみから解放されたいと患者さんが願っているのに、それは外からは容易に見えない、という場合。身体的または精神的に「耐えがたい苦痛」を抱える人たちは、「最終的には自分で死を選択できる」という自由がないこともまた「耐えがたい苦痛」なのだと。「安心して死にたいと言える社会」というのはあっていい、ただ、それを選択する前に、誰かが話を聞き一緒に考え、死に至るまでのプロセスに伴走できるような機会が提供されるべきではないのかと。これは「社会的処方」とよばれ、薬ではなく「人とのつながり」で人を健康にしたり、孤立を防いだり、生きがいを取り戻したりする方法なのだそうです。「自ら選ぶ死」は絶対悪ではない、ただ、そのような死を選ぶ人を一人でも減らすことに医療が貢献したい、というのが、本書の訴えるところであると感じました。「安楽死」の法制化は、日本はまだ社会的に成熟していないので時期尚早ではないか、という意見があることにも納得です。個が確立されている国では「自分の意思による選択」を貫くことができますが、日本では「こんな私が生きていても周囲に迷惑だから」という他者への気兼ねで死を選びかねない、と。「安楽死」を法制化している国でも、行き過ぎた安楽死の促進を疑問視して、今、見直しが進められているとのこと。人為的に寿命を短縮する、ということが正当化されるのかどうか・・・日本ではまだまだ国民的な議論が足りていないと感じます。だからこそ、国が「法制化」という形で死ぬ権利を与えるのではなく、国民から声が上がるのを待った方がいいのではないか、という意見もまたうなずけました。昔、お父様の介護をしていた友人が、「今の日本ではね、なかなか死ねないのよ」ともらしていたことが思い出されました。それは、決してお父様の死を願っていたわけではなく、自然に迎えるべき死を家族や医療が邪魔しているのではないかという悩みであると理解しました。誰もが納得できる死をどのように迎えるか・・・「死」をタブー視せずに、一人一人が考えなければならない時が来ているのかもしれません。本書は、そのきっかけを与えてくれる本でした。
August 1, 2020
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今週からNHK(毎週金曜日午後10時)で放送が始まった『ディア・ペシェント』。この番組についてはまた後ほど・・・。で、この『サイレント・ブレス』は『ディア・ペシェント』の原作者、南杏子さんの著書です。サイレント・ブレス 看取りのカルテ [ 南杏子 ]まだ病院に勤めていた頃、去年の末くらいだったかに読みました。病院の仕事にだいぶ慣れてきた頃でした。それまで忙しくて考える暇もなかった「死」について、患者さんをとおして見えてくるものが多くなり、苦しくなっていった頃。何の訓練も受けていない素人なので、人間の生と死をどのように受け止めたら良いのかわからなくなっていったのです。そんなとき、本屋さんでこの本と出会いました。終末期医療に携わる現役の内科医である南杏子さんが、実体験を元に書かれたリアリティあふれる「患者さんの看取り」。この小説の主人公は、大学病院の内科医だったのがある日在野の在宅医療診療所の訪問医として配置転換(左遷!?)させられます。在宅医療のための訪問医の仕事とは、患者さんが静かな最期を迎えられるように患者さんに寄り添って最期まで伴走すること。主人公は、患者さんを「治療」できないことに悩みます。そして、「治せない患者」にどう対応したらいいのか、患者さんたちは何を望んでいるのか・・・?悩みながら手探りでひとつひとつ答えらしきものを見つけながら進んでいきます。もう治らないがん患者さん、遺伝性の難病で回復が見込めない患者さん・・・さまざまな治らない病気の患者さんとの心の通い合いが描かれていきます。なのですが、ストーリーがぜんぜん暗くないのです。爽やかな明るさと暖かさに包まれた「死」にまつわる物語なのです。登場人物一人一人の「死」に涙しながらなお、心がほっこり温かくなりました。「死」は誰にでも100%訪れる、確実なもの。でも、人々はその事実からあえて目をそらして日々生活しています。だから、突然、身の回りに「死」の気配がし始めると、恐怖を覚えうろたえる。私もそうでした。そして、病院で働いていても、やはり「死」に慣れることはありませんでした。おそらく、私はまだ「死」に接したときにうろたえるでしょう。でも、なにがしかの心の準備はしておいた方がいい、と考えるところまでは進歩しました。「死」を迎え入れることは暗く辛いことばかりではないのかもしれないと、この小説を読んで少しだけ思えるようになったからかもしれません。余談ですが。この本のあとがきに書いてある、著者の南杏子さんの来歴がまたパワフルで、カツを入れられます。
July 18, 2020
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イギリスという国に対する見方が一変する本でした。大英帝国を築いたのは、海賊が略奪してきた財宝だったなんて。ある意味ショッキングな史実をたくさんの裏付けが支える力作です。世界史をつくった海賊 (ちくま新書) [ 竹田いさみ ]16世紀まで英国はヨーロッパ大陸の国々と比べると完全に出遅れていた二流国だったのが、16世紀にエリザベス1世が海賊に「投資」し、その資金をもとに海賊は大西洋~カリブ海などでスペインやポルトガルの船から財宝を略奪し、その収益を「投資家」間で分配することによって、英国は国家に財を成したのだそうです。『ヨーロッパ近代史』に、ヨーロッパ大陸の国々では貧富の差が激しく王侯貴族と市民が血みどろの争いを繰り返していたのに、英国だけは立憲君主制と議会制が持続し市民蜂起がなかった、ということが書かれていて、紳士の国とはそういうものか、なーんて思っていたのですが、とんでもない。英国では国家の資金は海賊が「外」から調達していたから、市民から搾り取る必要がなかったわけです。本書は、16世紀のエリザベス1世と海賊の関係性に重点を置いて、海賊の略奪品の種類(スパイス、コーヒー、紅茶、砂糖、奴隷)ごとに、それらの略奪品が持つ意味や価値、時代背景、国際関係を解説しています。なので、品目ごとに各章の時代や場所が行ったり来たりしてしまうので、読んでいるうちに「さて?今私はどの時代のどこにいる?」と確認しながら読み進めないといけないのがなかなか大変でした。15世紀以降のヨーロッパ近代史を知っていた方がより深く理解できて面白いです。なぜ「パイレーツ・オブ・カリビアン」が「カリブ」の海賊なのか、なんで中南米はブラジル以外はスペイン語でブラジルがポルトガル語なのにジャマイカだけ英語なのか、どうして英国だけ紅茶文化なのか、どうして黒人が奴隷として売買されるようになってしまったのか、そもそもなぜ奴隷が必要だったのか、・・・なんとなく「そんなもの?」と思っていたこと一つ一つに、歴史的な意義や変遷があったということが理解できました。BLM(Black Lives Matter)運動の起源が砂糖だったとは。あとがきで、著者がこの本を書くに際し、ただ単に文献を調べただけでなく、ロンドン、アラビア半島、ジャマイカから中国、インドまで、関係各所を実際に訪れて調べた、との記述があり、だからこんなに読み応えがある本ができあがったのか、と納得。私はずっと「理系の人」だったので人文科学系には全然うとかったのですが、「西洋芸術を理解したい」という動機から西洋史の本を何冊か読んでみて、世界に対する見方が一変しました。歴史に学ぶ、ってこういうことなんですね。それにしても、憧れのイギリスが「海賊略奪立国」の国だったなんて・・・この衝撃をどう昇華させたらいいのか・・・。
July 17, 2020
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西洋絵画を理解したくて、西洋美術史からヨーロッパ近代史を勉強して、よーくわかったことが、 ヨーロッパの歴史はキリスト教の歴史 ということ。 西洋美術も音楽も、欧州における芸術とは「神を称えるもの」「神のみ言葉を聴き、伝える道具」なので、キリスト教を知っていた方が西洋芸術をちょっと興味深く理解できるというものです。 ただ、宗教ってとっかかりがないし、ちょっとうさんくささもあるし、そもそも聖書を読もうにも長いし何書いてあるんだかわからないし・・・ という人向けの、超面白くてためになる聖書の入門書があります。 上馬キリスト教会の世界一ゆるい聖書入門 [ 上馬キリスト教会 ] 上馬キリスト教会ツイッター部の世界一ゆるい聖書教室 [ MARO ] とにかく面白いです。 もともと、Twitterで上馬教会さんのツイートがTLに流れてくるようになり、そのツイートを読んだら抱腹絶倒で全く宗教臭くなくて、即フォロワーになりました。 この2冊、どちらを先に読んでもOKということですが、私は、やはり発行順に『入門』→『教室』に読むのがいいと思います。 『入門』の方が、聖書の全体像の紹介と、映画や絵画、物語などで知られている有名シーンの解説、教会用語、新約聖書の12使徒の人物紹介・・・といった、聖書の基本事項の紹介がたくさん盛り込まれていますので。 『教室』は、『入門』で紹介しきれなかった、旧約聖書の登場人物やサイドストーリーが満載です。有名なキリスト教絵画についても解説されています。 聖書に全く触れたことがない人でも(多分)面白いと思いますし、学校なんかでちょっとキリスト教に触れました、的な、ちょっと知ってる人にはもっと面白いと思います。ただ、著者も書いていらっしゃいますが、熱心なキリスト教徒の方はちょっと目をつぶって下さいね、的な感じもあるかも・・・。 私は、ちゃんと聖書の勉強をしたことはないのですが、中高で自主的になんやかやと教会と関わり合いがあり、新約聖書の有名どころのエピソードは聖書で読んだことがあります、程度。おそらく、ピッタリのターゲット層ではないかと。。。 仏教やイスラム教なども、こういうゆる~い感じで紹介してくれる本があるといいな、と思うのですが、仏教はともかく(?)、イスラム教は熱心な信者の方々が多そうなのでこういう本は無理ですかね・・・。
July 7, 2020
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絵画を理解したくて『西洋美術史入門』を読んだ勢いで、 『ヨーロッパ近代史』も読んでみました。 ヨーロッパ近代史 (ちくま新書 1377) [ 君塚直隆 ] これも、先日の筑摩書房80周年記念でKindle版を百数十円で買っていたので・・・(^^;) 私は高校の時に世界史をまともに勉強しなかったので、ヨーロッパ史はぜ~んぜん予備知識ありません。 さらに、日本一国の歴史だって文庫本一冊に書き尽くすのは無理というもの。ヨーロッパ史は欧州全土+ロシアが対象だったりするわけで、文庫本一冊で理解しようというのが無理なわけですが。 本書は、予備知識がほぼなくても、15世紀から第一次世界大戦前後までの約500年間の大きな流れが、なんとな~くわかるくらい、歴史がコンパクトにまとまっていました。 15世紀中頃から100年間ずつ、その時代を代表するような人物一人の人生に焦点を当てて、その人と社会とのつながりから、欧州全体の歴史の動きを解説する、という手法で、500年間の歴史が語られていきます。その軸となっているのが「宗教と科学の相剋」。宗教と科学が時に対立し、時に手を携えながら、欧州諸国が文明国家集団として実力をつけていった、という流れです。なので、あれ?あの国はその頃どうだったの?などという抜けポイントは多少あるものの、大きな流れは把握できる構成になっています。 その中で一番心に残ったのは、ルネサンス前の欧州は東方の諸国(中国やインド、中東)よりも軍事的、経済的、文化的にはるかに遅れていた、ということ。ルネサンス期に目覚めた欧州の人たちが、東方の先進国から必死に学び、ルネサンス期から第一次世界大戦にいたるまでの間の400年間くらいで、弱小国家の集合体だった欧州が、英独仏露だけで「地球の陸地面積の60%、世界人口の約半分を支配」するほど繁栄したのだと。 今、Black Lives Matte運動で白人による人種差別が断罪されていますが、実はほんの数百年前は、現在の被差別民族の方が、断然、優位に立っていたのだ、という事実に、あらためて驚きました。「白人は優位」などというのは、ごく最近の人たちの勘違いなのです。 歴史から学ぶ ということは、本当に大切なことだと実感しました。 もう一つ、大きな学びは、欧州の歴史はキリスト教の歴史でもあるのだということ。 その中でも、カトリックとプロテスタントおよび諸分派の分裂と協調は、ヨーロッパ史を動かす大きな機動力であったようです。 実は「ルネサンス」には2種類あり、美術・建築と音楽では、ルネサンスは異なる流れで起きたのだそうです。美術・建築のルネサンスは15世紀にイタリアで生じたものであり、音楽のルネサンスは16世紀に北西部ヨーロッパで生じたもの。キリスト教会がカトリックとプロテスタントに分裂し、各国の支持宗派によって、美術・建築と音楽も別々の流れの中で変化したのだそうです。 カトリックとプロテスタント・・・日本の戦国時代にもこの2派の争いがいろいろ絡んでいるようです。 日本と欧州と宗教の関係については、NHKの最近の番組が大変興味深いです。 NHKスペシャル 戦国~激動の世界と日本(1)「秘められた征服計画 織田信長×宣教師」 7/5(日)は、 戦国~激動の世界と日本(2)「ジャパンシルバーを獲得せよ 徳川家康×オランダ」 世界は意外と狭いようです。 歴史は繰り返す・・・さまざまな自然現象で世界中が混乱している今、歴史を振り返ってみると面白いかもしれません。 本当は、各時代、各国、各民族など、さまざまな切り口からもっと詳細に西洋史を学ぶともっともっと面白いのでしょうが、私のように予備知識がない人にとって、本書はヨーロッパ史入門として、十分だと思います。 …ただ、出てくる国や人物の数が多すぎて、最後の方はよく分からなくなってましたが、それでも「へ〜」くらいの大まかな流れは頭に残りました…世界史の基礎知識がもうちょっとあったら、もうちょっと深く理解できるのかも(^^;)
July 5, 2020
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もう終了してしまいましたが、前に書いた 筑摩書房 創業80周年フェア(6/20まで)で購入した本をさっそく一冊読みました。西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書) [ 池上英洋 ]一昨年(2018年)の秋、東京に大きな絵画展がいくつも来ていて、そのうちのフェルメール展とルーベンス展を見に行きました。実は西洋絵画にはまったく疎くて、当時、マスコミで大きく取り上げられてたから見に行ってみようかな、くらいの動機で見に行ったのですが。へーーーー!と、大変勉強になったのでした。どちらも、ただ眺めるだけじゃつまらないので、ちょっとお金がかかりましたが、録音ガイド装置を借りて、解説を聞きながら見てみたのです。そしたら、絵画は描かれた時代の背景や様式を理解している方がもっとはるかに楽しめる、ということがよくわかったのでした。そこで、絵画の見方をきちんと勉強してみたい、とかねがね思っていたわけですが、そんな私にぴったりな本が上述の本でした。本書の冒頭に、絵画とは「識字率が低かった昔、大衆に何かを伝えたいときの手段だった」ということが書いてあって、なるほどーーー!と思いました。ヨーロッパで字が読めない大衆に伝えたいことNo1は何かといえば”聖書の物語”、だからたくさんの宗教画が描かれた、というわけです。さらに、決まった絵柄に決まった意味があって、その絵柄のルールがわかると絵画を”読める”ようになるのだそう。本書は、そのルールについて、非常にわかりやすく整理された形で解説しています。目からうろこが何枚も落ちた気分です。つまるところ、当たり前なのですが、西洋絵画の歴史=西洋史なのだな、ということがよくわかりました。ギリシャ神話の世界であり、キリスト教の歴史であり、階級制度の歴史であり、技術革命の歴史である、というわけです。“入門”というだけあって、キーワードを整理してあまり深追いせずに説明していくスタイルなのですが、それぞれのキーワードがとてもわかりやすく説明されていました。さらにもっと知りたい人のための参考文献リストがまたわかりやすくて、いつか少しずつ読んでみたいなと思いました。ただ、この本を読むだけでも、西洋絵画展の見方が十分に変わると思います。ちなみに、西洋美術史の中でルーベンスやフェルメールらが果たした役割についても、非常にわかりやすく書いてあります。次は、あまり詳しく勉強したことがない”西洋史”そのものについての本を読んでみようと思ってます。また一つ、楽しみができました♪
June 22, 2020
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筑摩書房さんが創業80周年フェアで、Kindle版80冊分を1冊百数十円で販売されています。6/20まで、だから、今日までです!筑摩書房さんが創業80周年フェア10冊分買っても2000円かからない!ということで、勢いで10冊買ってしまいました・・・。各専門分野のベストセラー入門書がそろっていて、中身が濃いです!ぜひ!
June 20, 2020
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今、"Black Lives Matter"運動が世界各地で繰り広げられていますが、この本にはまさに、作者が息子の成長をとおして見た「差別のある社会」の現実が描かれています。ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー [ ブレイディ みかこ ]この本は、言わずと知れたベストセラーで、数々のTV番組でも取り上げられました。ブレイディみかこさんもときどきTVに出てきたりするようになりましたね(新刊本の宣伝のため?)。私が感想を書くまでもないのですが、自分の備忘録として。ずいぶん前に読了したので記憶をたどりながら。読む前、世間で騒がれていたのは知っていたのですが、もうちょっと軽い本だと思っていました。友人のすすめでとりあえず読み始めたのですが、あまりの面白さ(=興味深さ)に、あっという間に読み終えてしまいました。どこかなつかしい文体だなぁ・・・と感じて思い出したのが、椎名誠の『岳物語』。そんな流れるようなエッセイ風の文章の中に、英国の階級社会、人種・民族差別、LGBTといった「差別」という結構重いテーマが、息子くんの成長を通して描かれています。欧米社会には大なり小なり差別はあるのだろうな、と思ってはいたのですが、英国でこんなにはっきりとした「差別」が存在している、というのは驚きでした。日本にいると頭ではわかっていても実感が伴わない「差別」ですが、それが力むことなく自然な文体でとてもわかりやすく描かれています。そして、国や社会がその「差別」を払拭しようとして、日本では考えられないほどあからさまに積極的にこの問題を子どもたちの教育に取り入れている、という事実にも驚きました。それが正しいのかどうか、英国社会自体も悩みながら、それでも何か手を打たないといけないという切迫感が感じられました。そして、どうにかしなければいけない、という大人の責任感も感じられました。日本ではどうしても、くさい物には蓋、寝た子を起こすな、という対応になってしまっていて、大人が非常に無責任なので、トライアンドエラーでも前へ進んでいこうとする英国が、成熟した大人の国に見えました。この本を読んで、ハリー・ポッターやSHERLOCKといった英国社会を舞台とした物語の見方が変わりました。空想の「物語」だと思っていたことが、英国社会では切実な「現実」なんだな、という。英国大好きであこがれているムスメにもお勧めしました。すぐに読んだみたいなのですが、反応はいまいち・・・まだ外国での差別を実感したことがないムスメには、ピンとこなかったのかもしれません。でも、今後、コロナ禍が収まったら、きっと日本社会も移民受け入れを増やして多民族色がもっと色濃くなっていくことでしょう。そのときに、成熟した国としてどう対応したらいいのか・・・そんな視点を与えてくれる本だと思いました。
June 19, 2020
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日経サイエンス2020年3月号の表紙に大きく書かれた「三体」。 それを見たとき、正直、 なにそれ? だったのですが。 ムスメが「これ面白いよ、お母さんも読んでみてよ」とけっこうしつこく勧めてきて。分厚いし活字ぎっしりだし、登場人物の名前が全部見慣れない漢字だし、えー・・・と思ったものの、ちょっと時間があったので読み始めてみたのです。 そしたら、1週間かからずに一気に読み終えてしまいました。 三体 / 劉慈欣 【本】 中国の作家による本格SF小説。 中国というだけであまりにも馴染みがなさ過ぎて、その上、中国の作家が書くSFって、私にはどこにもひっかかりポイントがなくて、ムスメが勧めてくれなかったら絶対に読まなかったであろう本ですが。 ドはまりしました。 私の中国に対するイメージが一新されました。 中身を語りすぎるとネタバレになってしまうので語れませんが、SFなのに出だしが文化大革命、という驚きだけはご紹介してもいいかと思います。 中国、文革に触れてもいいくらいオープンになったのか・・・(この出だし一つとっても、いろいろな変遷があったということが、訳者あとがきでわかりましたが) でも、中身には物理のエッセンスがぎゅっと詰まっています。 日経サイエンスで解説のしがいがあるほど理詰めでありながら、物理学をさほど深く理解していなくても楽しめるんじゃないかと思います。 翻訳も素晴らしいので、まるで日本語オリジナルなのではないかと思うほどすんなりと小説の世界に入り込むことができます。文字を読んでいるというより映像を見ている感じです。初めてハリー・ポッターを読んだときと同じような感覚でした。 英訳版でヒューゴー賞長篇部門を受賞(アジア人初)、三部作で累計2100万部を売り上げ、オバマ前大統領が愛読したといわれる、中国発のSF小説。三部作になっていて、本作はまだ1作目だそうです。2作目「暗黒森林」の邦訳は今年出る予定。 まずいなぁ、シリーズで3部作もあるなんて。夢中で読んでしまうなぁ・・・。
June 12, 2020
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SNS界隈で、正しい医療情報の発信を目指して活躍されているお医者さんが最近増えてきたのですが、ヤンデル先生もまさにそのような先生のお一人。難しい医学のサイエンスをわかりやすく説明して下さるその発信力に引き込まれて、本屋さんでこの本を見かけたとき、つい買ってしまいました。 病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと 常識をくつがえす“病院・医者・医療”のリアルな話 [ 市原 真 ] 帯にも「糸井重里氏 絶賛」と書いてあるように、医学に馴染みのない一般の人が楽しく「“病院・医者・医療”のリアル」をつかめるように書かれている、抱腹絶倒(?)の本です。少なくとも私は漏れ出る笑いをこらえながら読んでいたので、家族に不審がられました。 昨年頃から医師の労働環境のブラックさが報道され始めて問題化されてきていますが、確かにブラックなのだけど、いわゆるブラック企業で働かされているサラリーマンとは決定的に何かが違う、って違和感をずっと感じていたのですが、ヤンデル先生の説明で納得しました。一部の医療者はなぜか異常に病院が好きだ。 まるで帰ろうとしない。 ご経歴を見て、国立がん研究センター中央病院に勤務歴があるとのことで納得でした。私も腫瘍専門医とともに働いていましたが、腫瘍専門医とは、本当に、まさに、誇張なく、書かれているとーーーりの人たちです。入院患者さんを診て、終日外来診察をこなして、残った時間は勉強と研究、土日休日は研究会や会議、患者会活動への参加・・・そして最近はSNSでの発信まで。それらを嬉々としてこなしているドクター集団が、この世には存在するのです。 そう、嬉々として。 給料とか関係なく。なんなら患者会活動への参加は無償、ボランティア。 うゎ~!大変~~~!間に合わない~~~!!と、笑顔で叫んでいる人たち。 医師のブラックな働きかたが気の毒、とちょっと思ってたのですが、そうじゃない、彼らは「そんな自分に満足」しているんだ、という、なかなかブラックな事実を私もあらためて認識して・・・なーんだ、それ知ってたら私、もう少し病院で働いてたのに、と、ふっと思ったのでした。私もそういうブラックな働き方が嫌いじゃなかったのですが、なんだか「働き方改革」で「ブラックな働き方しているのはダメなやつ」みたいな雰囲気になってしまって、居づらくなって辞めちゃった、というのがあったので。 まぁ、これは私の超個人的な感想なんですが。 そんな感じで、病院の外からは見えない、ドクターの姿、病院という場所の特性、問題点、病気との付き合い方など、きっと一般の方々が読んだら「へー」っ思う発見がいっぱいあると思います。そして、ちょっと賢く病院や医師と付き合えるようになれるかもしれません。 少なくとも、私は、この本ともうちょっと早く出会っていたら、もっと賢く楽しく病院で働けていたかもしれない、と、ちょっと後悔しています・・・。 最後の章「医者と患者のホント」で提案されていたチーム医療のお話は、医師が自ら背負いすぎてしまった荷物を少しずつ減らすためにも、ぜひ実現してほしいものです。これからは患者さん側に近い「一般人」が病院スタッフとして医師の近くで働く時代になっていきます。そんなとき、お山の大将の医師のもとで働くはとてもつらいのです。医師にも一般人並みの社会性があってほしい、お互い、働く大人として接するための礼節やスキルを身につけてほしい。それがないとこの先、人材が育たず、病院運営が成り立たない時代になるのではないでしょうか。 ただ、ヤンデル先生ご自身、最後の章の最後に迫るほど、言葉の歯切れが悪くなっていくような気がするのは、私の気のせいでしょうか・・・?忖度?? 事ほどさように、既存路線を変えるということは難しいのでしょうね・・・。
June 10, 2020
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「お母さん!読んでみて、これ面白いから!!」と、ムスメから昨年春に渡された本を、本日、読み終えました。不思議の国のトムキンス復刻版 [ ジョージ・ガーモフ ]この間ムスメに会いに行ったときに、「もう一回読み直したいから返して~」といわれて、慌てて読了しました。「よくこんなに難しい本を読んだねー」ってムスメに聞いたら、「いやなんかこう、ふわふわーっとした感じが好きでー」と返事が返って来ました。中身を完全に理解して読んでたわけじゃないのか、と知って、ちょっとほっとしたりして。まだ私の方が知識がある!でも、あっという間に抜かれそうです。理系学生の基礎知識みたいなもんですから。この本を読みながら、あー、私は昔、こんなことを勉強していたんだー、と思い出しました。この名前もあの名前も知ってる、この原理もこの方程式も昔勉強したわー・・・と、脳の奥の方から次々と湧き出てきて。若い時に学んだことって、脳の奥の方にこんなに陣取ってるもんなんだなと思い知りました。今や立派なムダ知識、役に立ってないなー。それにしても、この本、「本屋さんで目があっちゃってねー、高かったけど衝動買いしちゃったんだ」と、ムスメが自分で選んだのですが、私、ムスメをそんな子に育てたかしら?本の感想ですが、お世辞にもわかりやすい物語だとは言えませんが、一度は相対論や量子論を勉強したことがあるけど今はうろ覚え、な人が、全体像をさっと思い出すには、情報がコンパクトにまとまっていて良い本だと思います。ただ、翻訳が古くて訳語の選択や日本語の流れが今一つなので、現代風に翻訳しなおしたら、もうちょっと読みやすくなるかもしれません。
April 21, 2019
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なんだこの不公平なタイトルは?と思いながら、立ち読みして、そのまま買ってイッキ読みしました。東大を出たあの子は幸せになったのか? ~「頭のいい女子」のその後を追った[ 樋田敦子 ]他の大学と同様に、「東京大学」という大学に入った女子、というだけのことなのに、なぜ特別な目で見られなければならないのだろう?ここに書かれていることは、これまでの一部の東大OGが経験してきた事実であることに間違いはなく、優れたスーパーウーマンとして活躍されている方もいれば、ごく普通に生活している人もいる。それは、どの大学卒の女子にも起こりうることだと思いました。中途半端な学歴の私ですが、そんな私だって、学歴の恩恵を受けることもあれば、日常生活で生きづらさを感じることもあります。でも、「東大女子だってフツーの女の子」というのも、ちょっと違うな、と思います。フツーではないですよ、やっぱり。地頭にしろ努力し続けた結果にしろ、東大に合格するというのは、他大学に合格することからはずいぶんかけ離れたことだな、と思いました。無理してフツーに合わせる必要はないのです。勉強が楽しくて、努力することを苦と思わない、そういう女子もいるのです。いていいのです。そういう人を良くも悪くも「特別扱い」することもまた、「差別」である気がします。今年、東大に合格した女子は、全体で16.9%、理Iでは8.1%でした。でもなぜ、マスコミは毎年東大の女子合格率だけ取り上げるのでしょう?女子の合格率(受験者率)が低いのは、本当に東大だけなんでしょうか??他の旧七帝大や東工大、一橋大はどうなんでしょう?(私見ですが、多分、どこも似たような女子率だと思うんですが)マスコミが大騒ぎするから、東大から女子が逃げて行っているのかもしれません。良くも悪くも、「東大」という大看板によって、女子が色眼鏡で見られ、差別が生まれている、と感じます。っていうか、普通に優秀で、社会で活躍されている東大OGってすごくたくさんいると思うのですが、そういう人たちがもっと注目されてもいい気がするんですが。そういう人たちは、世間的に「面白みがない」から、取り上げられないだけでは?と斜め目線で考えてみたり。*****************ムスメも、大きな荷物を背負うことになりました。ムスメが社会に出るころには、高学歴女子がもっと差別されない世の中になっていてほしいと思います。そして、ムスメ自身も、納得いく人生を送ってほしいと思います。
March 24, 2019
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今年の6月に発行された初版を8月の初めに購入。読み終わるのに3か月もかかりました・・・。「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで (ブルーバックス) [ 国立がん研究センター研究所 ]がんはすごく複雑なもので、人知を結集してもその正体になかなかたどり着けないものなのだから、アヤシイ民間療法なんかではそう簡単に治るものじゃないんだよ、という警告を発したいという願いが込められた、国立がん研究センター渾身の一冊です。ただ、本の帯に「最新ゲノム科学で分かった「がん」の正体」って書いてあるんですが、結論は「がんはとても複雑だということが分かりました!まだまだ研究が必要で、今後の研究成果にこうご期待!」で。それは「正体が分かった」というのだろうか・・・(^^;)というつぶやきはさておき、最近、がん研究がすごいスピードで進んでいて、その研究成果のおかげで一部のがんでは余命が飛躍的に延び始めている、という現状がとてもよくわかりました。そして、がん研究はサイエンスの総合格闘技だということもよくわかりました。もはや「医学」「薬学」という枠組みを超えて、分子生物学、免疫学、情報科学、統計学、AI、スーパーコンピューター… どんだけ賢い人たちの知恵を結集したら正体がわかるんだろ?という具合。それを治療に結び付けるには、薬価が上がれば、社会学、経済学、政治学の様相も呈してきます。最初の2章くらいは、「がんとは何者か?」という基礎科学的な話が続くのですが、1行読み進めるのに何度も後ろを振り返りながら読まねばならないほど話が難しく。専門家の先生方が、知恵の限りを尽くして素人にわかりやすく説明しようとしてくれているその姿勢はひしひしと伝わってくるのですが。途中で途方に暮れて、何度も立ち止まってしまいました。そしてそんなに苦労して読んだのに、どれだけ頭に残っているのかが非常にアヤシイ・・・。今後、世界の流れに合わせて、日本も「ゲノム医療」を推し進めていく方針だということです。遺伝子を調べて、その人に最適な治療が選べるようになるだけでなく、そうやって集積されたたくさんの人の遺伝子情報を解析すれば、どんどん新しい薬が開発されるようになると。今後、がん研究はすごいスピードで進んで、がんにかかっても余命はどんどん伸びていくだろうという未来図は見えました。あとは、どんどん高額になっていく薬価と社会がどう折り合いをつけていくか、が問題になっていくのだろうと思います<そこにはさらりとしか触れられていませんが(^^;)ムズカシイ本ではありましたが、日本、そして世界のがん医療の、現時点での最先端がよくわかる本でした。
November 4, 2018
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見つけて即買いしてイッキ読みしました(^^:)医者の本音 (SB新書) [ 中山 祐次郎 ]センセーショナルなタイトルの問題作?!と思いきや、至極まっとうなことが書かれておりました。さらっと読めて、いろいろ考えさせられます。お医者さんにも個人差があるでしょうが、お医者さんにとって、患者さんの回復と感謝の言葉が何よりの喜び、という根本のところは本心だと思うし、どのお医者さんもそうであってほしいと思います。逆に、そうじゃなかったらやっていけないほど、医療界は酷な世界です・・・。
October 28, 2018
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ムスメの浪人が決定した時、ムスメが最初に興味を示したのがなぜか哲学でした。多分、大学の二次試験で、国語も英語も、哲学の素養がないとそもそも何を問われているのかすらわからない、という事実に気づいたのでしょう・・・。というわけで、折にふれ、哲学的な感じの本を読んでいるような話をムスメから聞いていたのですが、ワタクシ、恥ずかしながら、『哲学』ってそもそも何なのか、さっぱりわからない♪♪ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか~、ニ、ニ、ニーチェかサルトルか~♪っていう、年齢がバレるような大昔のCMソングくらいしか、哲学との接点がなくて。というか、得体が知れなくて「哲学」から全速力で逃げていた・・・というか。そんな私、ある日、新聞の広告でこんな本を発見。試験に出る哲学 「センター試験」で西洋思想に入門する (NHK出版新書) [ 斎藤哲也 ]「試験に出る」とか書いてあるし、ひょっとしてムスメの役に立つかも?と、購入してみました。で、ひとにお薦めするにはまず自分が読んでみないと、と思って読み始めたら。これが何と、大当たり✨2日間で読了しました。哲学に何の興味もない、というより、むしろ、全力で避けて通って来た鬼門の哲学が、こんなに面白い学問だったとは!と、目からうろこが10枚くらい落ちました。何でもっと早く、ちゃんと哲学を勉強しなかったんだろう・・・。っていうか、自然科学に携わる者として、哲学を知らなかったなんて、なんて恥知らず。数学も物理も化学も医学薬学も、みーんな哲学から生まれてるんじゃん。何で誰も教えてくれなかったの。っていうくらい、本格的な哲学が手っ取り早くわかる、哲学の全体像がさっとつかめる、入門書としては本当にちょうどよい、即効性がある良書でした。(昨日の新聞の書評欄に書いてあった「カントの『判断力批判』がなんちゃら・・・」っていう見出しも、今までなら眼中にも入らなかったのに、「ああ、これさっき読んだやつー!」って。難しげなその本の書評の内容もするっと頭に入ってきたのには驚きました)まさに、ソクラテスの「無知の知」。知らなかったということを知っただけ、ワタクシ、賢くなった気がします。ただ、悲しいかな、さっとつかんだものは、頭の中から「さっと」流れ去っていく・・・なにしろ、紀元前6世紀から現代までが一冊の文庫本にまとまってるわけで、登場人物多すぎて、しかも、近代に近づくほど、誰が何言ってんだかよくわかんない(ー"ー)状態で、後から思い出そうとしても、全然思い出せない。ただよーくわかったのは、哲学とは「いかに自分の人生に納得するか」を考える学問なのだなということでした。大昔からついこの間までは、「神」と「人間」の関係性を考える「神ありき」な学問だったのが、近代になると「キリスト教的道徳(弱者への思いやりとか禁欲とか)は、弱者が強者に対して抱いた恨み、復讐だ(ニーチェ)」とか、「言語の定義はあいまいだから、そんなあいまいなもので神とか善とか自由とかいう概念を一つに決めることがそもそもムリ(ウィトゲンシュタイン)」とか、何でもありな混沌状態に・・・。実感として唯一納得できたのが共産主義の祖マルクスだけだったというのが、なんかこう、どうなん?最近、こじらせ青年たちの物語を読んでいるせいか、哲学者って結局「こじらせた人々」?と、ついうっかり思ったりしなくもなく。その時代の背景の中に立ってみないと、それぞれの時代の哲学って実感としてはよくわからないなー、というのが、最終的な感想です。ただ、音楽も美術もサイエンスも大好きな私としては、西洋哲学が軸となってさまざまな文化が花開いていったんだな~、と、頭の中のいろいろがつながったのは大きな収穫でした。今この年齢で学んだからこそ、今までの人生で得てきたものがつながるという感動を得られたのかもしれません。とにかく、哲学の入門書としては本当に理解しやすい良書です。さらに学びたい人のためのブックガイドもついていて、フォローもばっちり(哲学を勉強するにはこんなに読まなくちゃいけないんだ・・・と、クラっとなったりもしますが)。読書の秋にいかがでしょう?
September 17, 2018
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土曜日の夜中、うっかり手に取ってしまったら、翌日の夕方にはすっかり読み終わっておりました。だから、なるべく目につかないところに置いておいたのに・・・。新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫) [ 森見 登美彦 ]「若者のための日本文学入門」ともいうべき本書は、表題の走れメロス(太宰治)を筆頭に、山月記(中島敦)、藪の中(芥川龍之介)、桜の森の満開の下(坂口安吾)、百物語(森鴎外)を、舞台を現代の京都に、登場人物をこじらせすぎた現代青年(京大生(?))に置き換えて書き直したもので、原作を知っていれば、「そうきたかー!」と感嘆し、原作を知らなくても、「へぇーそうなんだー!」と原作への興味をそそられる、名作ぞろいです。読み始めたらそのまま、ぐっと引き込まれたまま、森見ワールドから抜け出せなくなります。でも、これを読んで思ったのですが、なんか私自身もきっと、青年期にこじれてしまった(?)おばさんなのかも、だからこんなに引き込まれちゃうのかも、と気づきました。なんていうか、時代の大きな流れに乗れなくて、キラキラ輝く「時代の王道を行く人たち」のグループに入りそびれて、そういうメインストリートの人たちを、一人離れて客観的に眺めている、みたいな。百物語は、森見さん自身が主人公となって出てくるのですが、人の集まりの中に行っても、なんとなく人の輪に入りそびれて手持無沙汰になってしまうという風な人物に描かれていて、あー、私も私も!と、とても感情移入してしまいました。でも、森見ワールドの登場人物たちに感情移入しながら読み進めていくうちに、「でも、そんな人たちを描く森見さん自身は、文才あふれる小説家としてサクセスストーリーど真ん中な人なんだよなー・・・」と、冷静になって気づくのでした。森見さん自身は、決して、こじらせすぎた青年なんかじゃない、ということに。森見さんの小説を読んでとても勉強になるのが、モノの見方。特に「藪の中」は秀逸で、一つの事件について、ヒトによって見え方が全然違う、ということに気づかされる物語でした(芥川龍之介の原作がそうなのでしょうが)多角的にものを見る、という観点は、マスコミの報道に引きずられがちな日本人には、特に必要なんじゃないか、と強く思いました。森見さんは、明治大正昭和の文豪をオマージュしながら、それをちゃんと現代に置き換えて書くということに非常に長けていらっしゃる、ひいては、とっつきにくい文豪の作品も、結局「こじれちゃった青年の物語なのね」とわかりやすく解説してくれる、そんな作家さんなんだと、深く感じ入った次第でした・・・。
August 29, 2018
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ペンギン・ハイウェイ(2018.6/16)で森見作品に憑りつかれた私・・・。次はこれでしょう、と満を持して読了しました。夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫) [ 森見登美彦 ]帰省の旅の前半2日間で、あっという間に読んでしまいました。面白かった!ただひたすら、面白かった!!この一言に尽きました。昔京都に住んでいて、京大には深いかかわり(?)があったので、小説の舞台が京大だというだけで、もう爆笑だったのですが。主人公の「先輩」くんの情けない行動に一つ一つ共感し、もう一人の主人公の「後輩」ちゃんのありえなさに頼もしさを覚え、絶対にありえない物語なのに、こういう展開もありだよね!とつい思わせられてしまいました。そして、「後輩」ちゃんの読書歴の中に「川原泉」が入っていて、この本のあとがきに、あの3月のライオンの羽海野チカ先生のイラストが飾られているのを見た時、「森見作品との出会いは必然だったんだ!」と納得(^^)ペンギン・ハイウェイのときにも思ったのですが、森見作品は、マンガを小説にした感じというか、読んでいると頭の中に映像が展開されるのが不思議です。さて、私の実家でムスメにこの小説の話をしていたら、横から弟が「お姉ちゃんもそれ読んでるの?僕、持ってたのに」・・・どちらもアラフィフだというのに、血のつながりとは恐ろしいものです。その後、「四畳半神話大系」のアニメ版と原作の違いなど、久々に弟との会話が弾みました(^^;;;)そんな「夜は短し歩けよ乙女」、恋愛がよくわからないと悩んでいるムスメにプレゼントしてきました。恋とは、お互いの頭にリンゴが落ちてきただけで始まるものなのです🍎そんな森見登美彦原作の映画『ペンギン・ハイウェイ』、昨日公開を迎えました。映画『ペンギン・ハイウェイ』HP
August 18, 2018
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映像化シリーズのついでにもう一つ。先週の土曜日、本屋さんに行って『羊と鋼の森』を買ったときに『ペンギン…』も衝動買いしたわけですが、ついでに探した漫画がありました。はたらく細胞(01) (シリウスKC) [ 清水茜 ]現在、5巻まで出てて、そろそろ6巻が・・・と思って探したのですが、見つけたのはスピンオフ作品はたらく細菌(1) (KCデラックス なかよし) [ 吉田 はるゆき ]でした(^^;)しかし、その帯に「はたらく細胞」TVアニメ化!2018年7月と・・・。TVアニメ はたらく細胞この日買った本3冊全てが映像化される作品(に関わってる)だなんて、自分の見る目の高さが怖いです(単に流行に流されているという説も…)「はたらく細胞」シリーズは、発見した時には本当に感動しました。長年、免疫学に携わっているにもかかわらず、どんなに勉強しても、そのシステムの多重構造の複雑さに時間がたつと記憶が真っ白の状態に塗り替わっていて、全然、覚えられなかったのですが、細胞が擬人化されたことで、高度な免疫学のお話を聞くたびにこの漫画のキャラが生き生きと動いてくれて(^^)作者の清水茜さんは、医学とは全く関係のない方で、漫画の専門学校の卒業作品として、細胞を擬人化したら面白いんじゃないか?とひらめいて、描いてみたら結構高評価で、出版決定!という、大変面白い経歴の持ち主です。でも、細胞を擬人化するにあたって、免疫学の勉強を相当されたそう。コマ割りがちょっとごちゃごちゃしてて、えっと~・・・?ってなる箇所もあるのですが、たしかに、大きな誤りも矛盾もなく、各細胞の働きが擬人化されていて感動モノです。さらに、キャラが多様で、各方面の二次元の皆さまにウケそうなキャラがそろっていて、ストーリーも単純明快で、単純に”マンガ””として楽しめます(ちなみに私は「血小板ちゃん」が大好き♡)がん医療を含めて、さまざまな最先端の医療が、非常に高度化しています。自分や家族が医療を受け、治療を選択しなければならない場面に立ち会ったとき、多少の医学的知識が必要だと感じるこの頃。医師の説明に高度な免疫学の話(医師は単純化しているつもりでも)が出てくることもしばしばです。そうでなくても、抗がん剤の副作用で赤血球が破壊されれば貧血に、白血球(好中球)が破壊されれば感染症になりやすくなる、だから、今はこんな治療が必要です、なんていう説明は日常茶飯事。そんなときに、赤血球の働き、白血球(好中球)の働き、免疫の働きがなんとなく映像化されて浮かんで来たら、今自分(家族)が何の治療を受けているのかが理解しやすくなるはず。そういう意味で、とてもお勧めなマンガ作品です。アニメ化もとても楽しみ♪で、この日購入した『はたらく細菌』ですが・・・これがあの少女漫画誌「なかよし」に掲載されていることを考えると、とても感慨深いものがあります。子どもたちに食生活の大切さを訴えるという意味では、とても良い作品なのではないでしょうか。ただ、細菌については『もやしもん』という傑作が先行しているので、もっとディープな内容を期待する人にとっては、今後の展開に期待、です。
June 17, 2018
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『羊』を買いに行ったら、羊より先にペンギンと目が合ってしまいました。ペンギン・ハイウェイ (角川文庫) [ 森見登美彦 ]ペンギン大好き一家の一員として、前からずっと気にはなっていたのですが、「きっとペンギンハイウェイって名前の付いた通りかカフェを舞台にしたオシャレでかる~い感じのお話で、ペンギンとか実際には出てこないにちがいない」と決めつけて距離を置いていました。でも、著者が森見登美彦だよね~・・・あの。というちょっとした興味も沸いて、先週の土曜日、うっかり手に取ってしまったのでした。そう、あの森見登美彦の作品が、そんなかる~いお話のはずがなく。読み始めて数ページのうちに、ペンギンが山盛り大発生しておりました・・・。『羊と鋼の森』とは対照的、正反対の方向を行く、奇想天外荒唐無稽なSF小説。読み始めは、自分をこの方向にチューニングするのに時間がかかりました・・・。ああ~・・・この世界に足を踏み入れてしまったか・・・森見登美彦作品との出会いは、TVアニメ四畳半神話大系たまたま合わせたチャンネルで流れていたこのアニメに、釘付けになってしまったのでした。いやいかん、これはいかん、はまったらどっぷり浸かってしまう・・・。危険を感じて(?)回避したのち、そのままなるべくお近づきにならないようにそーっとふたをしておいたのですが。ペンギンというかわいい生物の皮をかぶっていたためにうっかり手に取ってしまったのでした。虚構の世界の物語に読者が納得するのは、その物語を形作る小さなブロック一つ一つが論理的に整合性が取れていて現実と矛盾がないから。その矛盾のないブロックの積み重なりをたどっていった先にどんなに荒唐無稽で非現実的な世界が開けていても、「それもありだな」と納得してしまうのです。そういう意味で、『ペンギン・ハイウェイ』はまさに、とんでもなく荒唐無稽な世界が普通の開発途中の新興住宅街に現れても、人間の心理描写とか意識の流れとかが現実に即してとても精緻に描かれているから、微妙なバランスの上に「それもありかもね」と納得する不思議ワールドが説得力を持って現れるのです・・・。作者が京大農学部出身の理系人間、というだけあって、物語を形成する小さなブロック一つ一つの描写がくどいほど論理的で精緻。読み始めは、ちょっと面食らうのですが、後半は一気に読み終えてしまいました。そして、最後、とても哲学的な終焉を迎えます・・・。すっかり物語の中に取り込まれていた私は、最後、まさかの号泣でした。「全米が泣いた!」的感動ではないのですが、「萩尾望都が泣いた」と言ったら、わかる人にはわかってもらえるでしょうか・・・?(「あとがき」を萩尾望都さんが書かれています)これ以上、足すものも引くものもない、完璧な物語でした。別に映像化される作品をハンティングしているわけではないのですが、この本を読み始めてから2~3日ほどたってから、帯に「劇場アニメ化決定!」って書いてあるのに気がつきました・・・。映画「ペンギン・ハイウェイ」8月17日公開原作の感動がどれほど忠実に描かれるかが気になりますが、それ抜きにしてもペンギン・ラブな人にはたまらないアニメになりそうです。海堂尊作品をあらかた読みつくしてしまって悲しんでいたのですが、これからは森見登美彦ワールドに進出します・・・。
June 16, 2018
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”羊と鋼の森”がピアノのことを表しているのだと、ずっと以前、多分、この小説の単行本が出版されたころ、書評か何かで読んだことがあります。ああ、なるほど・・・なんて素敵な表現だろう、と思いました。そして、読んでみたいな、と思いながら、ずっと手にしていませんでした。それが、5月の連休中だったか、映画化されるということを知って、あー、映像を見る前に読んでおかないと!!と、思っていたのに、やっぱりなかなか本を手に取る機会がなく。先週の土曜日、えいやっと本屋さんに買いに行きました。そして、日曜日には読み終えてしまいました…。さらさらと流れるような美しい文章。どの登場人物も魅力的で、もっともっと掘り下げることができそうなのだけれど、あえてさらりと描出されていて。原民喜という詩人・小説家のこんな言葉が引用されていました。「明るく静かに澄んで懐かしい文体。少しは甘えているようでありながら、厳しく深いものを湛えている文体。夢のように美しいが現実のようにたしかな文体。」おそらく、作者の宮下奈都さん自身が目指す文体なのでしょう。内容は、調律師として一人立ちしようとする少年(青年)の物語です。調律師さんが奏でるピアノの音が聴こえてくるような物語でした。我が家にとっても調律師さんは身近な存在なので、よけい、物語が手(?)に取るように「聴こえ」ました。そして、ピアノという楽器の奥深さについて、いろいろ学ぶことが多い物語でした。さらりと書かれている一文の中に、どれだけたくさんの情報がつまっていることか・・・。ただ、前半部分の心理描写や情景描写がとても細やかだっただけに、終わり方が少しあっさりしすぎて、ちょっともの足りなさが残ったような気もします。場面の転換のはやさは、映像化向きともいえるかもしれません。映画も見に行こうと思っています。映画:羊と鋼の森
June 12, 2018
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ムスメのために(あくまでも「ムスメのため」。「リサイタルのため」ではございま・・・ゴホゴホ)実家への往復が続いたので、結構読書がはかどりました。本屋さんで海堂尊さんの新しい著作を見なくなって久しいこの頃。悲しみに暮れていたのですが、この間、このスリジエセンターの文庫本を見つけた時には、踊り出したい気分で即買いでした。スリジエセンター1991 (講談社文庫) [ 海堂 尊 ]でもこれ、単行本では2012年に出ていたんですね・・・知らなかった。『ブラックペアン1988』、『ブレイズメス1990』に続く、3部作の最終章。この2つを読んだのがあまりにも昔だったので、なんかすっかりストーリーを忘れちゃってて、しかも桜宮サーガからも遠のいて久しかったので、スリジエの登場人物が、聞き覚えある名前だけど誰だっけ??ってな感じで読み進みました。海堂尊さんのシリーズは、初心者がシリーズの途中から読み始めると、誰が誰だか全然わからないだろうなぁ・・・と思うのですが。私も、10年以上のお付き合いなので、すっかりさっぱり、誰が誰やら・・・読み直さないと。ただ、この3部作、というよりも、桜宮サーガシリーズ全編を通して作者が言いたかったのは、日本という国は稀代の天才を使いこなすことができず、孤高の天才は日本に居場所をつくれないという、もはや悲劇ともいえる日本の窮状なのではないかと思いました。医学界という、天賦の才を持つ人たちが集まりがちな世界だからこそ、突出した才能がつぶされるという悲劇が、真実味をもってよりリアルに描かれているように感じました。そして、医療崩壊は小説の中の絵空事ではなく、現実に、目の前で進んでおり・・・リアルすぎる。なんかこう・・・日本の未来、暗いな・・・。海堂尊さんが、一連の小説の執筆をいったん終了し、かつて医学生であった革命家、チェ・ゲバラの一生を描こうと思ったのは、革命でも起きない限り、日本の医療に未来はないと思い至ったからではないだろうか・・・?既存の権力に反旗を翻そうとする海堂小説の主人公の医師たちの姿が、ゲバラのイメージと重なるのです。ちょっとネタバレになりますが、天才外科医、天城雪彦の終盤の台詞が、深く心に刺さりました。「私は日本では愛されなかった。ささいなことに反発され、刃を向けられ、足を引っ張られる。患者を治すために、力を発揮できる環境を整えようとしただけなのに関係のない連中が罵り、謗り、私を引きずり降ろそうとする。私はそんな祖国に愛想が尽きてしまったんだ」海堂尊『スリジエセンター1991』より引用現実世界で起きている霞ヶ関と閣僚のドタバタ劇を見るにつけ、海堂ワールドのリアリティに胸が苦しくなります。『ブラックペアン1988』が連ドラ化されるそうですね。テレビドラマが、どこまで、この隠された暗い意図を忠実に描くのか・・・。ちょっとあんまり期待できないなぁ、と思いつつ、楽しみにはしています。
April 1, 2018
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先日のサッカー・ワールドカップアジア予選対オーストラリア戦。別にサッカーの熱狂的ファンでもなんでもない、ただの素人なんですが。オフサイドの意味とか、まだ今一つわかったようなわからないような、程度の。でも、そんな素人が見ても分かったことがありました。ベテラン選手が守備を固めて、若い選手の攻撃をしっかりサポートしていたということ。若い選手のパスが雑な感じに見えた中で、長友の、一度ボールキープしたら絶対に放さないスキルの高さが際立って見えていたのもさることながら、ボールの流れがスムーズで、チームの雰囲気がとても良いように見えました。そこで気づいたのです。ああ、キャプテンが長谷部なんだ、ということに。前回、本田がキャプテンだった試合を見た時はバラバラだったように見えたので、余計そんな印象を強く感じたのかもしれません。これまで、ゴールを決めるFWの選手しか見てなかったのですが、守備あってこその攻撃なんだということが、素人にもよくわかる試合だったし、その流れをつくっているのがDFでキャプテンの長谷部なんだということも、素人にもよく見えました。そんなこんなで、強く興味を持ちました。長谷部ってどんな人なんだろう?って。で、読んでみました。心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣 (幻冬舎文庫) [ 長谷部誠 ]ひと言でいうと。物事を冷静に客観的に分析して、その結果をしっかり行動に反映でき、情と理論のバランスが非常に取れている。若いころの自分が恥ずかしくなるくらい、しっかりしています。いったいどうやって、この若さでそんな知恵を身に着けたのでしょう・・・。プロとはこういう人たちのことなのか、と、非常に勉強になりました。長谷部選手は、DFだから今一つプレーヤーとしてのすごさが目立たないけれど、トップ選手として日本で、そしてドイツで活躍し続けてている以上、非常に優れた技術を持っている人なのだと思います。でもそれ以上に、自分の役割はチームの潤滑油であると心得ていて、メンバーがそれぞれのベストのスキルを発揮できるよう、本のタイトルどおり、チームを『整える』能力に長けているのです。「なるべく全体を客観的に見渡して、チームに足りないことを探し、チームを整える存在であろうと思った。(中略)みんなを引っ張るリーダーというよりは、組織の乱れを整えていくイメージだ」 本書P.102より自分のコンディションもとことんまで整える。チームのコンディションも出来得る限りのことをして整える。まさに、タイトルどおり。このやり方で欧州でも評価されているのだから、これは日本人特有の、とかいうことではなく、普遍的に評価される彼オリジナルの利点なのだと思います。「自分が目立たなければ!」と必死にアピールしないと生きていけない世界と思いきや、目立ったプレーではなく調整役として自分を売り込めるだけの「調整する力」を持ってるって、ある意味すごいことだと思いました。凡人が調整役に回るだけでは損ばかり、と、かなりいじけていた私でしたが、ま、調整能力を評価してくれる人もいるのかもな~、と。目立たない調整役の多い私ですが、自分だけでも自分自身を評価しもいいのかな、と、明るい希望を見いだせた本でした。そして、もうちょっと自分のメンテナンスを大切にしたほうがいいな、とも思ったのでした。ま、あんなにストイックに自分を律することは、私には到底無理ですが(^^;)
September 18, 2017
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直木賞受賞直後にこの本を買いに行ったら、売り切れてて予約待ちで、少し日を置いて、そろそろどうかな~?と買いに行ったのが、確か1か月ほど前だったかな・・・?蜜蜂と遠雷 [ 恩田陸 ]買ってからも、忙しくてなかなか読む時間をまとめて取れなくて、でも、ちょっとだけでだしを読んでみたら、グッと引き込まれてしまって。まずい、これを今読み始めたらすべての家事、仕事がストップする!と、ずっと読むのを我慢していたのですが。このたび、インフルエンザとあいなり、監禁状態の上に布団の中で一日を過ごさなければいけなくなって、ようやくゆっくり読むことができました。で、一日で読み終わりました。・・・っていうか、一日中、読んでました(汗)。本屋大賞も受賞され、今や「時の本」となった本作品。あまたの情報番組に取り上げられて、どの番組でも誰もが大絶賛ですね。その高い評判にたがわず、本当に読み応えのある、読後感のさわやかな物語でした。おそらく、いろいろな媒体で取り上げられ、ネット上でも様々な方々が感想を述べられているのですが、前評判と読んだあとの感想が、私の中で食い違ったのです。ほとんどの方が、この本を読んでいると「音が聴こえてくる」という感想を述べられているのですが、私の場合は、違いました。音楽を映像化する才能のある人たちの物語が、映像となって見えてくるといったところでしょうか。大変良質の長編映画を見たような感じ。もちろん、その中にはときどき音も現れるわけですが、「音がメイン」ではないのです。恩田陸さんご本人が「音を文字で表現することに成功できたみたいでよかった」と発言されていたりして、この本は文字から音が出てくる不思議な本、というようなとらえられ方をされているのですが、恩田さんご本人にとって、そこが狙いというわけではなかったんじゃないかと思うんです。この本が本当に訴えようとしているのは、「世の中にはこんなに面白い世界があるんだよ、どうしてみんな見に来ないの?聴きに行かないの??」なのではないかと。まさに、登場人物の一人、音楽の神に愛された子である風間塵少年が繰り返し言う「音楽を外へ連れ出す」そのものなんじゃないかと・・・。クラッシック音楽界は、ファンが高齢化し、音楽関係者(演奏者も含めて)は自分たちの世界の中だけに固執してしまっていて、広がろうとする勢いを失っており、クラッシック音楽は今や絶滅危惧種のようになってしまっています。ファンの減少は日本に限ったことではなく、クラッシック音楽の故郷欧州でも若者離れが半端ないんだそうです。いわゆる「お金持ちのおじいちゃん、おばあちゃんの趣味」になってしまい、職を得ることすら危うい若者層には見向きもされないものになっているようです。ま、日本と同じ。でも、数百年も前の天才が命を削って作曲し、数百年にわたって生き残り聴き続けられてきたような名曲を、3歳4歳といった幼いころから人生の全てをささげて厳しい修練に耐え抜いてきた若者たちが、それでも大半が己の凡庸さを思い知らされ次々と脱落し、ほんの一握りの音楽の神に愛され競争に打ち勝った者だけが演奏する音楽が、面白くないわけないじゃん!っていうのが、作者が本当に伝えたかったことではないかと。でも、そんな音楽を、クラッシック音楽業界の人たちが自ら「高尚」というラベルを貼って「権威主義」というきれいな箱の中に詰め込んで、リボンでぐるぐる巻きにして開けられないようにしてしまっているから、じり貧状態に陥っているんじゃない?と、業界の人たちにも警告を発しているのではないかと??だから、もっと気楽にクラッシック音楽を聴きに行こうよ、と一般の人たちを誘い、音楽をもっともっと箱の中から出して、演奏者も聞く人もふつうの生活の中に溶け込めるよう、工夫しようよと、業界の人たちに声をかけているのではないかと。こんなにいいものを箱の中にしまっておくなんてもったいないじゃん!と。そうやって物語をもう一度見直してみると、登場人物の背景や、コンクールで演奏した曲目に、一つ一つ納得がいきます。謎の天才少年、音楽を外へ連れ出すことを恩師と約束した風間塵は、バラキレフ「イスラメイ」、サンサーンス「アフリカ幻想曲」、サティ「あなたがほしい」、バルトーク「ピアノソナタ第三番」など、どれもクラッシックになじみがない人にでも「へぇ~、これがクラッシック?」と思わせるようなワクワク感があったり驚きがあったりする曲。こんなに面白い曲があるんですよ、と作者自身がクラッシックを知らない人に語りかけているよう。それに対して、社会人になってからのコンクール挑戦で、生活者の音楽を実現したいと考える高島明石は、ショパンやリストやシューマンといった、興味のない人でもどこかで聞いたことがあるような、耳なじみの良いラインナップ。ピアノ界の王道を行く、英才教育を受けた天才二人、自らクラッシック音楽の新曲をつくり出すピアニストになるという野望を抱くマサル・カルロス・レヴィ・アナトールと風間塵と「音楽を外へ連れ出す」という約束をした栄伝亜夜は、権威主義者たちをも納得させる、名曲の中でも超難曲といわれる大作がずらり。どこからでも入ってきてください。そして、好きな曲をとっかかりにどんどん好きになってください。一口にクラッシックといっても、門戸は広いんですよ・・・。そんなふうに語りかけられている気がするのです。正直、私はクラッシックファンを自負していたけれど、ここに出てくる曲の半分も知りませんでした。物語の先を早く知りたくて、音楽の部分はなるべく想像に任せるようにして(それでも何曲かは音を確認しないと先に進めなかったのですが)すっとばして読んだのですが、読み終わった今、今度は音楽をネットで検索してヒットしたものを聞きながら、もう一度物語をゆっくり読み直しています。そして、この物語の舞台となった芳ヶ江国際ピアノコンクールのモデルとなった浜松国際ピアノコンクールに行ってみたい!という気持ちになりました。この本の感想を「本から音が聞こえてきた!」で終わらせていてはいけないと思うのです。音楽業界も、このブームに便乗して、もっともっとクラッシック音楽の門戸を開く工夫と努力をしないと。天才と言われる人々が命を懸けて総力を挙げてつくり上げてきたクラッシック音楽という人類最高の芸術が滅びないうちに・・・。
April 19, 2017
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別の本を買いに行ったら売ってなくて、ふと目についたのがこの本でした。がん消滅の罠 [ 岩木一麻 ]「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作、しかも医療ミステリー。まるで海堂 尊 氏ではないか!!と、即買いしました(^^;)ミステリーなので謎解き部分には触れないように感想を述べますが。最初から最後の10ページ前までの感想はこんなにマニアック専門的な内容、一般読者に理解できるんだろうか?読み進められるんだろうか??ってな感じ。物語の冒頭部分のイメージは、真っ白、でした。登場人物のキャラも見えてこない、舞台の風景も見えてこない。ただ医療情報の羅列のみ、みたいな。肺がん分野の医療に携わってて、分子生物学とか少しかじってて、でも完全な医療のプロじゃない、ちょっと傍観者的な立場の人には、超ツボヒットなミステリーなんですけどね。そんな人、どこにいる・・・(ここに一人?)。どうしてこの本が「このミス」大賞を取ったのか、ものすごく不思議でした。専門用語が多すぎて、一般読者には読み進むのがつらいんじゃなかろうかとも思ったんですが。でも、そのなぞの答えは、最後の約10ページほどに凝縮されてました。そこまでは、がんの通常診療、つまり病院で受付してから診断、治療までの様子・・・というよりほぼ真実に即した”情報”を淡々と、ひたすら正確に描写している感じで、書き出しの部分なんかは、登場人物のキャラが全然立ってなくて、誰が誰だか全然わからなくなってしまうという、小説としては致命的な印象すらあったのですが、読み進めていくうちに、謎解きが進んでいって、登場人物が躍動し始めてほおほお、そういうからくりねー、と意外だけど言われてみれば納得な感じでミステリーの謎が解かれ、最後、ちょっとしたドラマチックな展開となり、しんみり幕を閉じる・・・と思いきや。最後の10ページでどんでん返しが2転3転。そして最後の1行で、星新一のショートショートを読み終わったような読後感がずしーんと残りました。えー。えーー。そういうオチ!?みたいな。この一言のために、ここまで淡々とした専門的な記述の羅列が必要だったのね。みたいな。ま、とにかく。がん、とりわけ「肺がん」の診断と治療の最前線が詳細に描かれていて、”肺がん分野の医療に携わってて、分子生物学とか少しかじってる翻訳者”の私にとっては「いい勉強になった」本でした。ただ。ちょっと残念だったのは、悪いことを考えている/している医師もいるかもしれない、という医療不信につながりかねないような話の流れになってしまっている点。えー!?な読後感とは別に、後味の悪さが残りました。海堂尊さんの医療ミステリーは、医師はどんなに変人であっても非常識であっても、みんな命に対しては真剣に向き合っている、という点が強く強調されていて、医師という人々への信頼回復、医療不信の払しょくという目的がストーリーの根底にあって、そんなところが、個人的にはとても好きなので・・・。あと、残念だったのが、誤植。肺がんにステージVIaはないのですが。こういう些細なミスで物語の信頼度が落ちるのは、なかなか惜しいものがあります。
February 28, 2017
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米国の大統領選で、なぜあのめちゃくちゃな主張を繰り返すトランプ候補が大人気なのか。どう見ても政治的キャリアが上のはずのヒラリー・クリントン候補がなぜトランプ候補相手に苦戦しているのか。そのナゾがわかる本です。民主党・共和党を問わず米国の政治家と、99%の富を独占する1%の富豪たちが、米国という国で何を行ってきたか。その結果、現在の米国がどのような悲惨な状況になってしまっているのか。そして、それがまったく対岸の火事ではなく、日本もその大きな流れの中に巻き込まれつつあり、空気のように当たり前となっている「国民皆保険制度」が、米資本主義の手で壊されようとしているという現実。「無知は弱さになる。持っている人がその価値を分かっていないものほど奪うのは簡単」本文から引用私たち日本人には、医師は3分診療で患者からお金をぼったくっているお金持ち、という”悪者”イメージがないだろうか?医者は余っているから減らさなければならない、というマスコミの言い分をうのみにしていないだろうか?私は医師のそばで働いているので日々実感しているのですが、医師(特に勤務医)はブラック企業顔負けの環境で過労死寸前の状態で働いています。本書によると、医師数はOECD諸国平均よりも12万人足りず、救急医はアメリカやフランスと比べて10分の1しかおらず、2035年には医師不足が非常に深刻化するそうです。こんな状態になったのは、医療費を削減したい政府の言い分をマスコミがそのまま垂れ流しにしていて、それを信じた国民が医師や日本医師会を叩きまくっているから。米国の医師がこう語る場面が出てきます。「政府やマスコミが医師たちを積極的に仮想的にし始めたら要注意です。」「なぜなら真のターゲットは私たち医師ではなく、その先にあるあなた方のいのちと健康なのですから」すでに医療崩壊の現実がニュースの端々に現れていますが、ふと気づくと、アメリカのように、病院に行きたくても受け入れてくれる病院がない、という状態に、日本もなっているかもしれません・・・。無知とはこれほど恐ろしいものかと、本書を読んで怖くなりました。正直、本書の最初の3分の2くらいは、読んでいてつらくてつらくて、全然読み進められませんでした。でも最後の章で、日本はまだ間に合う、と著者は説いています。そうであってほしい、と願います・・・。こちらも合わせて。沈みゆく大国アメリカ [ 堤未果 ]
September 18, 2016
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自動車通勤になってから、電車/バス通勤の時に持てた読書の時間を全く取れなくなってしまって、最近はぜんぜん読書が出来なかったのですが。晴天のうららかな土曜日の午前中、全部費やして1冊読み切ってしまいました。ちょっと読むだけ、のつもりが、ついうっかり・・・(^^;)バチスタシリーズ最後の事件と銘打たれたカレイドスコープの箱庭 海堂尊 術後患者の急死の原因は、病理の誤診か?検体取り違えか?というミステリーと1か月で国際会議開催の準備を、という無理難題にチーム・バチスタ以来の迷コンビ田口&白鳥が同時並行で取り組むという、ストーリー。一見まったく関係のない2つのストーリーが、話が進むうちに最終的にAIの重要性に帰着。海堂ワールドの懐かしい面々が同窓会のごとく顔を合わせ、海堂氏のスタート地点にぐるっと戻った、シリーズ最終章にふさわしい集大成でした。海堂氏の作品を読み始めて、もう何年たったかなぁ・・・「思えば遠くへきたもんだ」という田口氏の冒頭のつぶやきが、わが身にも染みました。海堂氏自身が病理医なだけあって、病理診断の過程や病気の診断に欠かせない病理診断が、病理医の減少のために崩壊の危機に瀕しているという厳しい状況の描写が秀逸。日ごろから接している病理診断レポートの裏に、こんなにいろいろな事情があるんだ、と勉強になりました。海堂氏の医学ミステリーを読むと、崩壊が進み見通しの暗い医療界に、一条の光を見る思いがします。私自身も、医療機関で働いていて落ち込むことが多い日々ですが、暗い気分がぱっと晴れます。それはおそらく、医学界が政治やマスコミによってどんなにグダグダにされようとも、医療関係者の良心がある限り、医学の未来に希望はある、という、海堂氏の、医療関係者への絶対的自信に基づいているのだと思います。でも、だから現場で働く医療関係者自身が、医療を守るために頑張らなければならない、とはっぱをかけられている気もします。でもまぁ、パートのおばちゃんができることは、たかが知れてますがね。どろどろにぐるぐるっと巻き込まれて落ち込みがちな日々でしたが、ちょっと気分が晴れた良い読書でした。
September 26, 2015
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朝の情報番組で取り上げられるYahoo検索ワードの1位を見て嫌な予感が走りましたが、予感は的中しました訃報:松谷みよ子さん89歳もうそんなお年になられていたとは・・・。小学校低学年の時に出会った「ちいさいモモちゃん」。かわいらしい表紙と挿絵ながら、暗闇の淵をのぞくような不気味さもたたえた不思議な物語に、その意味も分からず魅了されて、何度も何度も読みました。大人になってから、その暗闇が、働きながら子育てする母親の苦悩であることを知りましたが、そんなことを知らずとも、深いメッセージを子どもの心に届けることができる、稀有な物語でした。モモちゃんシリーズが大好きで、松谷みよ子さんの物語が大好きで、小学校の卒業文集に、私は「童話作家になりたい」と書いたものでした。その後、「ふたりのイーダ」、「私のアンネ=フランク」を読み、戦争そのものは全く描かれていないのに、戦争の恐ろしさをひしひしと感じました。子どもが生まれてからは、絵本「いないいないばぁ」をムスコとムスメに何度も何度も読み聞かせ(ああ、あのころはかわいかった子どもたち・・・)「おつむてんてん、あわわわわー」と一緒に遊び、少し大きくなってからは、ちいさいモモちゃんを読み聞かせました。ずっとずっと、松谷みよ子さんは私の人生にそっと寄り添っていてくれたような・・・。だから、訃報に接するなど、考えたこともなかったのですが。もう、89歳にもなられていたのですね。戦争の悲しさを、命の尊さを、そして働く母の喜びと悲しみを、いろいろな大切なことを、具体的には何も書かずに、子どもの想像力に働きかけるという形で伝えてくれた松谷みよ子さん。お疲れさまでした。
March 10, 2015
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高校生の頃、友だちに『岳物語』を勧められて以来、シーナワールドの虜になってしまいました・・・あれから何年だ?その後、高校・大学(&大学院)時代、アウトドアブームとも相まって、シーナ氏の本から、その友人の野田知佑氏、沢野ひとし氏の本まで読み、シルクロードにあこがれ、未開の地に思いをはせ、東方見聞録やら井上靖氏のシルクロードまで読み漁り・・・。わが青春時代の思い出でもある椎名誠氏でありますが。結婚し、子どもをもってから一度大失敗をしました。読書に夢中になりすぎて、まだ幼き我が息子の食事を作り忘れるという・・・。その時に読んだ本が、やはりシーナ氏の本でした。それ以来、面白そうなシーナ氏の本が書店に並んでいても、あえて避けて通っていたのですが、あれから十数年。つい先日、本屋さんに平積みされていた新刊のタイトルを見るなり、思わず手に取って速買いしてしまいました。新潮新書 593【限定クーポン配布中!11日0:00スタート!】【後払いOK】【1000円以上送料無料...価格:777円(税込、送料別)シーナさんが、眠れない!?諸国放浪の旅をし、テントを張ってキャンプをし、カヌーで川を渡り釣り仲間とたき火を囲んでガハハと笑い転げ、ムスコとプロレスをし・・・。そんな、豪快なイメージしかなかったシーナさんが、不眠症!??そんなバカな。意外な告白に大変タイヘン驚いたのですが、その本を読み始めて、私は再び仰天しました。そこに書かれているのは、今の私のことだったから。前半は、シーナ氏と不眠症のお付き合い歴が淡々と語られ、後半は、不眠症と戦うために敵の正体を研究した、その結果が披露されています。そして、最後の結論は・・・。規則正しいサラリーマンからフリーのモノカキに転身したシーナさんに対して、フリーのモノカキもどきの生活を十数年間送った後で、規則正しい生活のパートのおばちゃんになった私。転身の方向は違うのですが、「フリーのモノカキ」は不眠症になりやすい、ということが、シーナさんの経験として如実に語られていて、その経験は、まさに私に現在進行形で起きていることでした。そうかー、私は不眠症だったのか。と納得し、私だけじゃなかったのか、となんとなくほっと安堵しました。そしてあいかわらず、シーナ氏の語り口は絶妙で、あっという間に読み終わってしまいました。そして読み終わって思ったこと。不眠症も、シーナ氏の筆にかかると、うまく付き合っていけるお友達になれそうな気がする。不眠症に悩んでいる人にとっては、何の解決策も示されてはいないのですが、なんだか気持ちがラクになる・・・かもしれない。そんな本でした。そしてそんな本でも、私にとっては久しぶりのシーナワールド。堪能しました。
January 10, 2015
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順番を無視して先にこれを読んじゃったので、ところどころに出てくる「アリアドネ・インシデント」とか、登場人物の相関関係とか、いろいろ分からないところが多かったのですが。自分が医療関係の仕事に携わっているせいか、MRIについての描写はなかなか勉強になりました。・・・。って。そういう類の本じゃなかった。『ケルベロスの肖像』が映画化されたし、原作も読んでみるか、と思った方、まず、螺鈿迷宮*とブラックペアン1988*を読まないと、何の話だかさっぱりわからん、という事態に陥ります。さらに、『チームバチスタの栄光』*『ナイチンゲールの沈黙』*『ジェネラルルージュの凱旋』*『イノセントゲリラの祝祭』『アリアドネの弾丸』(*は私が読了したもの)の順で読んでから読むと、より一層、海堂尊の「桜宮サーガ」をお楽しみいただけると思います。っていうか。チームバチスタを読み始めたのは何年前?年月がたちすぎて、それぞれの物語の内容も登場人物もうろ覚えになってしまっているのですが、海堂尊さんの小説は、どの小説もそれぞれ他の小説と微妙に関連させながら話がつくられているので、順番を無視して、長年かけてだらだらと読み続けていると、「この人、前にどこかで出てきたヒトのような気がするけど誰だっけ?」とか、「何か知らないヒトがキーパーソンになってる」ってなことになって、物語の楽しさが半減しております。もう一回、最初から読み直さないと(<作者の策略か?!)でもとりあえず、おととい読了した『ケルベロスの肖像』をもうちょっとよく理解するために、遅まきながら『イノセントゲリラの祝祭』と『アリアドネの弾丸』を読まなくちゃ、と、今日買ってきました。通勤時間のお楽しみに、まただらだらと読みたいと思います。で、肝心の『ケルベロスの肖像』の感想ですが・・・映画の予告では、爆破予告に絡んで登場人物が右往左往するようなサスペンスタッチな感じになってましたが(<映画は見てません)原作の方はAiと法医学界の対立やらMRIといった、医学関係の話が延々と続き、Aiセンター設立の話が最後の最後の最後まで続き、何の事件も起きないままおわるんかいな?と思っていたら、最後の最後にえ、いきなりそこまでする?という急展開。海堂作品にしてはド派手な結末がくるという(^^;)ま、その結末にも、最後の最後にオチがついて、それはそれで、海堂作品らしいなと。あんまり書くとネタバレになりますので、このへんで。
May 25, 2014
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入院中に退屈しないように何を持っていこう?と、さんざん悩んだのですが、結局、通勤用に買い置いていた本3冊を持っていくことにしました。入院期間1週間だから3冊もあれば十分だろう・・・と思って。ところが、予想以上にヒマな時間が多くて、3冊のうちの2冊、海堂尊の『ジーン・ワルツ』と『マドンナ・ヴェルデ』は術前2日間で読み終わってしまいました。『ジーン・ワルツ』は、代理母による出産の是非を通して、現在の産科、そして医療界全体が抱える問題を鋭く描いた小説です。この小説の背景には、2004年、福島で起きた医療事故が医療界に投げかけた波紋があったようです。帝王切開手術を受けた女性が亡くなり、その執刀医を警察が業務上過失致死の疑いでいきなり逮捕した、という事件です。不可避な医療ミスで医師がいきなり手錠をかけられるようなことがあっては、医師は治療行為を行うことはできない、と、医療界は強く反発し、その医師は無罪判決となったようですが、その後、医療界は「訴えられる可能性のある治療行為」には消極的になり、地方の産科は次々に閉院して出産体制の崩壊につながったそうです。少子化に歯止めをかけよ、といいながら、産むところを減らす行政、子どもがほしいのに授からない人たちへの援助は乏しく、子どもを持つことができる技術があってもそれを認めない法律。そんな、現実と行政の矛盾を、産婦人科医が自分の母親に代理出産を依頼して子どもをつくってみたら・・・、という医師の目線から”検証”するストーリーでした。それに対して『マドンナ・ヴェルデ』は、代理出産を依頼された”産婦人科医の母”の目線で、特異な状況下で生まれてくる子ども(たち)が幸せになるための条件を模索するストーリーとなっています。これは、NHKでドラマ化されたものを先に見ています。マドンナ・ヴェルデ(「小説版を読みたいな」と書いてから2年半もたってるなんて・・・orz)ドラマを見てから小説を読んだわけですが、ほとんど何の違和感もなく読むことができました。というか、ドラマを見てから小説を読んでよかった、というか、代理母の山咲みどりを演じるのは松坂慶子さん以外考えられないというか。ヒマで時間が余ってしまったから、1回読んで、あれ?と思ったところをもう1回読み返して・・・ドラマと合わせて都合3回、ストーリーをなぞったことになるのですが、読むごとに深みを増すストーリーで、同じところで同じように涙があふれてきました。さて。最後に、『ジーン・ワルツ』の解説を読んで、海堂尊ワールドの巧みなプロットに改めて驚かされました。この小説、はるか以前に読んだことがある『医学のたまご』というおちゃめな(それでいて、論文のデータねつ造という今どきなトピックをあつかっていたりする)物語につながってるのです。この物語は、さらに海堂 尊 著の極北シリーズにつながっています。『極北クレイマー』の感想海堂 尊さんが描くシリーズは、架空の桜宮市、極北市、そして実在する東京と、舞台が転々としていますが、すべてがつながっていて、つまるところ、日本の医療は行政によって地方から崩壊し始めている、ということを強く訴える内容になっていることに、改めて気づきました。そんな小説を、入院しながら読んでいる、病院職員の私・・・。この病院は大丈夫かな・・・と考えながら読むこの2冊は、かなりスリリングでございました・・・(^^;;;)
November 26, 2013
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職場の直属の先輩は、同年同月生まれの同い年なのですが(^^;;;)キャリア7年。この人がこの職場にいないと何も回らないのでは?と思うようなベテランぶり。はっきりモノを言う人だけど、周囲への気遣いは人一倍で、何というか~・・・姉御肌?ってかんじの人です。はっきりモノを言うし、ちょっとミスをすると、ささっと注意が飛んでくるので、ちょっと怖い雰囲気もあるわけですが。そんな同い年の先輩が、お嬢さんと一緒に読んでとても良かったから、と、職場に持ってきて、今、みんなで回し読みしているマンガがあります。君に届け(1) [ 椎名軽穂 ]高校生が主人公の100%純粋な恋愛少女マンガ(^^;)これだけ純粋な少女マンガを読むのは「キャンディ・キャンディ」を読んでいた小学生時代以来で、最初はさほど興味がなかったのですが、職場の人たち(何れも同年代)が「すごくよかった」「涙ボロボロもので~」って大絶賛で、少しでも共通の話題がほしかったってちょっとよこしまな動機もあって、私も借りて読み始めました。そしたらね~・・・見事にはまってしまいました(^^;;;;;)最初の数巻は、今どきの高校生、こんなに純粋~?とか、こんなに濃い友人関係、築けてる~~?とか、人間関係のごちゃごちゃ、こんなにあっさり解決する~?とか、なんかこう、あまりにも理想的な物語の舞台に、ちょっと引き気味だったわけですが。巻が進むごとに、話の深みが増していって11巻あたりから、それぞれの登場人物の描写がどんどん深くなっていって、私自身も学ぶことが多く、それ以上に、これから思春期のど真ん中を進んでいくムスメをどういうふうに見守っていってやればいいか、っていう親目線でも学ぶことが多くて。っていうか、もはや最近は親目線の方が強くなっているか・・・?表面的に人を傷つけるようなひどいことを言ってしまうようなつっぱった子も、実は、いろいろ悩みを抱えていて、斜に構えた自分と純粋で素直な自分を行ったり来たりしている、とか。登場人物がみんな、思いやりのある子たちなのだけれど、その”思いやり方”が、は一人一人違っていて。こんな思いやり方もあんな思いやり方もありで、そんな中ですれ違って悩んだり怒ったり。でも、一番、泣けたのは・・・主人公の女の子のお父さんが、いつの間にか成長していたわが子に驚いて、夫婦でわが子が小さかった頃のアルバムを見返すシーン。本当に、ボロボロ泣いてしまいました(^^;)まさか、この年になって、少女マンガで泣くとは(^^;;;)でもね、このマンガを読んで一番良かった、と思ったのは、指導が厳しめの姉御肌の同い年の先輩が、こんな純粋なマンガに感動する方なんだ、とわかったこと。ときどき、態度や言い方が厳しくなるので(<そりゃ、ただでさえ若い新人より覚えが悪い年齢なのに、さらにドジなワタクシを指導しているわけですから(^^;))つらくなることもあるわけですが、基本、単純に私がドジだから注意してくれているだけであって、私のことを嫌いでどうこう、というわけではない、という点を信じられるようになった、というのは大きな収穫でした。それにしても。このマンガ、ムスメは見向きもしてくれないところが、何というか・・・母親としてはちょっと悲しいです・・・。恋愛感情とか、全然、わからないみたいで。モテ期は保育園で終わった、と自分で豪語しておりました。誰かを好きになって、でもその「好き」という気持ちのせいで幸せを感じたり、切なさを感じたり・・・。そんな経験、ぜひ、してほしいわけですが。なんかもう、自分のことだけで精一杯で、そこまで気が回ってないみたい(ー"ー)しかも「おばさんたちが、少女マンガ回し読みしてるって、何か変だよ~」ですと。とりあえず、このマンガ、まだ絶賛連載中のようで、ムスメに何を言われようと、続きが楽しみです♪
July 28, 2013
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タイトルから、大阪の町工場の組合が人工衛星『まいど1号』をつくったような、ロマンあふれる(^^;)お話かと思っていたら……立派な経済小説でした。さすが、池井戸潤。下町の町工場vs大企業の戦い。ものづくりの技術vsビジネス。いいものを作れば売れる、というのはもはや幻想である、といわれて久しいものの、ものづくりの現場の人たちにとってみれば、いいものを作っているのになぜ売れない?というのは、なかなか解消できない疑問。その解決のヒントを、この小説は示唆しているような気がします。いいものを作っても、その技術を守り売り込んでいくというビジネスのスキルがないと、儲けにならないし、かといって、儲けるためのマネーゲームに奔走してしまうと、”ものをつくる技術”の向上がおろそかになり、肝心の”売り物”がなくなってしまう。ものづくりの技術を法律で守るすべを手に入れ、目の前に積まれた大金よりも、10年、20年後の儲けにつながる商売ができれば、町工場だって大企業と立派に肩を並べていける。失われつつある中小の町工場の技術をうまく守って育てれば、立派な国際競争力になる。そんな、”技術立国日本”を守り育てるための一つの道筋が、町工場vs大企業のハラハラドキドキな闘いを通して、描かれています。町工場が、大企業の戦略の裏をかいて次々と勝利していく様は、読んでいて痛快でした。でも、同時に、現実の世界ではそう都合よくいかないよね~、という点もたくさんあって、現実には中小企業が生き延びていくのはかなり難しいことなのだな、ということもよくわかりました。希望が見えにくい現状の日本が今後取るべき一つの道を示唆している、という意味で、意義深い本だと思いました。***さて、ここからは、私のひじょ~~~~に個人的な感想なんですが。この小説を読んで、今後、自分の仕事をどう進めていくべきなのか、方針を固めることができました。この小説、特許侵害の訴訟の話で始まります。一応、私も特許に関わる仕事をしているので、ここらへん、よく理解できましたし、ああ、私が翻訳していた膨大なページ数の特許出願書は、こういう訴訟を避けるためのものだったんだな~、というのがよくわかりました(^^;)そして、自分の仕事の原点を見た気がしました。そういえば私、特許翻訳者だったんだっけ<最近、こっち関連の仕事が少なくて(^^;;;)さらに。主人公は、ロケット打ち上げ失敗の責任を負わされたロケット工学の研究者。その失敗のせいもあって研究者を辞めて、父親が経営する町工場を引き継いだ、という設定になっています。実は、私の周りには、学生時代から身内まで、ロケット(人工衛星)製作関係者が少なからずいます。この小説を読んでいる間、ずっと、そんな知り合いの顔がいろいろ浮かんできました。打ち上げ失敗が何を意味するのか、痛いほどよくわかります。そして、長年をかけて開発し製作したロケット(人工衛星)打ち上げの成功の陰に、どれだけの努力があるのかも、どれだけ感動的なことなのかも。そういえば私、そもそも、翻訳の勉強をし始めたのは、そんな研究者たちの手助けをしたいと思ったからだったんだっけ、ということを思い出しました。ここのところ、仕事の激減で、進むべき道をいろいろ思い悩んでいたのですが、初心に返りました。そうそう、私、そんなことをしたかったんだった。と。そういう意味で、私にとって、とても意味のある本との出会いでした。とってもとっても個人的な感想なのですが、ちょっと覚え書き、です。
June 3, 2012
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いわずと知れたベストセラー、第二弾(^^)今年9月には映画化もされるそうですね。映画『天地明察』オフィシャルサイト発表当初からずっと読みたいと思ってたのですが、ハードカバーは重くて読みにくい~・・・とためらっていたら、最近、やっと文庫化されて、本屋さんで平積みになっていたので、早速買ってしまいました。感想をひと言で言うと、読んでよかった!読了後、爽快で明るく前向きな気持ちになれました。今では、どこの家にも最低1つはある、下手をしたら一部屋に1つはあるかもしれない、カレンダー。この、現代ではあって当たり前のカレンダー=暦をつくるというのが、江戸時代には、人々に非常に重い意味を持っていました。本文から引用すると、今日が何月何日であるか。その決定権を持つとは、こういうことだ。宗教、文化、政治、経済--すべてにおいて君臨するということなのである。『天地明察(下)』p.85一般民衆にとっても、戦乱の世を経て、暦とは「明日が必ずやってくる」ということを約束してくれる泰平の象徴だったようです。第四代将軍徳川家綱の世、そこからさかのぼること800年前に中国から輸入した暦が、800年の間に2日もずれてしまっているということに徐々に人々が気づき始めていました。2日もずれてるんだったら、作り直そうよ、というのは今でこそ当たり前の発想ですが、暦の作り替えをするのは権力の中枢であるという証。幕府か朝廷か?で、ふたたび戦乱の世が訪れるおそれがありました。旧習を変えることを忌み嫌った朝廷と京の公家衆と、誤った暦をいつまでも使っていたら逆に権力に傷が付く、とおそれた幕府。そんな時代に、日本では算術(数学)が隆盛を極めていた、というのは、非常に幸運なことだったのかもしれません。主人公は、碁打ちで将軍家に仕える家に生まれたのに、算術の魅力にとりつかれて、若さゆえの情熱で、本職ほったらかしで算術に傾倒。今で言えば、完全に単なる”算術オタク”。ところが、その算術オタクの才能に将軍家筋の人間が目を留め、武士でもない一介の碁打ちに改暦という大仕事を任せるのです。その同時代の同い年に、日本独自の数学、和算を確立した天才、関孝和がいました。この二人の数学の天才を軸に、さまざまな人たちがかかわり、二十数年もかけて、当時の先進国、中国から輸入するもの、と思われていた暦を、中国の当時の最新の暦よりもさらに精度が高いものを日本人が独自に作り上げるのです。しかも、一途に命をかけて。江戸時代初期に、西洋の数学・天文学の知識なしに、地球は太陽の周りを楕円を描いて回っており、しかも、その楕円は1つの定まった軌道ではなく、ゆらゆらと揺れている、というところまで、天体観測と算術だけで明らかにしたようです。そもそも、日食・月食という現象が、暦の正しさを証明するために使われていたそうで、天動説の時代に、日食・月食を正確に予知できたというのは、本当に驚きです。この物語はいろいろな意味で目からウロコの連続でした。当時の算術のレベルの高さ、暦の持つ重大な意味、徳川幕府が泰平の世を実現するために、五代にわたってさまざまな布石を打ち続けていたという事実。でも、そんな小難しいことは置いておいても、自分のやりたいこととやらなければならないこと(仕事)が食い違い、人生に悩み苦しむ23歳の一途な若者が天職を得て、死ぬほどもがき苦しみながら突っ走り、最後は持ち前の碁打ちのセンスで改暦という将軍家vs.朝廷の勝負に勝つ、という、さわやかな青春ストーリーで、読み終わった後に、「私も何かもっとがんばらないとな~~~」と元気をもらいました。ところどころ、難しすぎてよくわからない部分もあるのですが、映画化されたらどう表現されるんだろう?と考えながら読むのもまた楽しかったです。
May 25, 2012
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いわずと知れたベストセラー。高野和明『ジェノサイド』これに手を出したら仕事も家事もストップする…という危惧があったので、購入してからずっと放っておいたままになっていたのですが、結局、それが現実になってしまいました(^^;;;)最初の100ページくらいはちょっとずつ読んでたのですが、残りの500ページ弱は、途中で止まることができなくて、昨日一日で一気に読了。読み終わったら夜中の1時半・・・。今日はちょっと寝不足です。「おもしろかった」という言葉は、この本の感想としてはふさわしくない気がします。事実、読み終わってから床についたら、怖い夢を見ました(^^;;;)読み終わってすぐに感じたことは、日本ってなんて平和な国なんだろう・・・。そして、こんなに平和ボケしてていいのかな・・・?物語は、終わりの見えない戦乱状態が続く中央アフリカを舞台にした戦争&諜報サスペンス・・・と思わせておいて、「えー?!そっちの路線だったの~??」と軽く裏切られた気がする大きなどんでん返しが待っているんですが、それはおいおい述べるとして。全体を貫いているテーマは、戦場という極限状態に追いつめられたときの人間の残虐性と、そんな究極の状態でも現れる人間の良心。それらは、国も人種も民族も宗教も関係なく、人間に不偏的に存在する、ということ。そのために、登場人物の国籍も人種も多岐にわたります。でも、人間の良心を際立たせるためだと思うのですが、ここまで描く必要があるだろうか?と思うほど、残虐なシーンが息つく暇なく続くので、読み終わったときにはかなり疲れました。登場人物とその人たちが活躍する舞台にリアリティを持たせるために、いろいろな専門分野の詳細な解説がところどころに挟まれます。たとえば、分子生物学、創薬化学、疫学、医学、数学、民族学、人類学、地政学・・・。よくもまぁそこまで詳しく調べましたね、というほど、専門知識がふんだんに折り込まれていて、読む人によっては、物語の本筋に必要のない小難しい話を延々と・・・と思う人もいると思うのですが、私には逆に、そんな細部のリアリティを徹底しているからこそ、荒唐無稽にも見える本筋も、「ひょっとしたら起こりうることかも?」と納得させられてしまうのだと思いました。実は、途中まで、非常に緻密にリアルな細部を積み重ねて、リアリティあふれる戦争&諜報サスペンスを組み立てていっているのに、あるところで、そのリアリティが決定的に崩壊する新たな設定が露れます。もう、「えええーーー!?そっちの流れのお話しだったの~~~!?」と、がっかりしたくらい荒唐無稽な設定。でも、その荒唐無稽な設定をも、再び、緻密に細部のリアリティを積み上げて話が進んでいくうちに、最終的には「ひょっとしたら、実際に起こりうるかも?」と納得させられてしまいます(^^;;;)『神は細部に宿る』ということじゃないかと。人間って救いようのない生き物だ、と淡々と絶望が描かれるのですが、絶望の先には、かすかに希望の灯りがともっている、そんなストーリーでした。ただ、最後の最後まで大きいスケールでスピードを落とすことなくストーリーが進むのですが、ラストシーンは、平和な日本で登場人物が一堂に会して大団円、のようなちょっと安直なハッピーエンドになっていたのには、少しがっかりでした。あまりにも救いのないシーンの連続に、著者は、ほっと一息つきたかったのかな?そんな気がします。でも、そんな救いのないシーンの連続が、この地球上で実際に起きている真実の一部でもある、と考えると、なんか、こんなにのほほ~~~んと生きていていいんだろうか?と、ふと胸の奥が苦しくなるような、そんな読後感が残っています。
May 22, 2012
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SF(サイエンス・フィクション)というジャンルは科学技術が発展すればいいことばかり、と信じられていた時代「本当に科学技術が発達したら理想郷が実現するのだろうか?」と疑問を持った人たちが、科学が発展を極めた時代にはこんな悲劇も待っているかもしれない、と想像力を働かせた結果、誕生しました。だから、SFって、科学技術の発達への警鐘である気がします。SFが科学技術の発達への警鐘であるなら、海堂尊氏の『極北クレイマー』は、近未来MF(メディカル・フィクション)じゃないかと思いました。【送料無料】極北クレイマー(上)【送料無料】極北クレイマー(下)フィクションだけど、近い将来、現実に起こりうる”医療崩壊”の危機への警鐘なのではないかと。海堂尊氏の小説は医療ミステリーといわれていますが、この『極北クレイマー』は、誰も殺されず、誰も死なないのに読後に背筋がぞ~~~~っとしました。そして、夕張市の財政破綻後に夕張医療センターを立ち上げた村上智彦氏が書いた”あとがき”を読むと、背筋に感じる寒気がさらに増しました・・・。近い将来、というより、もうすでに起き始めている、医療崩壊の現場を描いたフィクション。ちょっとネタバレになりますが、最後にある登場人物が語ったせりふを引用。「・・・日本人は今や一億二千万、総クレイマーだ。自分以外の人間を責め立てて生きている。・・・(中略)・・・みんな医療に寄りかかるが、医療のために何かしようなどと考える市民はいない。医療に助けてもらうことだけが当然だと信じて疑わない。なんと傲慢で貧しい社会であることか」この”医療”の部分を”教育”に置き換えたら、さらに背筋がゾッとしました。少子化時代の教育崩壊を先取りするような現象の数々を、ムスメの小学校で見てきたような気がして。”政治”に置き換えてもいい。”国”に置き換えてもいい。みんなが自分の目先のことしか考えないで行動したらどうなるか。ミステリーどころか、ホラー小説にさえ思えてくる、そんなストーリーでした。そして、人のことにばかり文句つけてないで、ささやかでも自分に何ができるのかを真剣に考えなければと思ったのでした。
February 17, 2012
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本屋さんで見かけて即購入してしまいました。日本人なら知っておきたい日本文学蛇蔵&凪子さんのシリーズ、大好きで『日本人なら知っておきたい日本文学』も、期待を裏切らないおもしろさでした。日本文学の中でも特に古典文学で、その著者の人物像を描いているんですが。それがもう、現代にもいるよね~、そういう人!みたいな感じに描かれていて、親しみが湧くというか、一度読んだら忘れられないイメージが浮かぶ、というか。頭のいい女の何が悪い!と開き直る清少納言に対して、漢字の”一”の字も書けないふりをするほど徹底して頭の良さを隠そうとした紫式部とか。「人の名前に難しすぎる字を使うのはよくないよね~」なんて700年前につぶやいていたりした根アカな隠者、(吉田)兼好に対して、どこまでもプライドに執着して根クラだった鴨長明とか。更級日記の作者、菅原孝標女はイタい2次元オタクちゃん(腐女子?)だったけど、そのお姉ちゃんは現代だったらゴスロリ風であろう不思議ちゃんだった、とか。藤原道長の「この世をば 我が世とぞおもふ望月の・・・」の歌が後世に伝わったのは、実は仲が悪かった部下が日記に道長の悪口として書き残したから、とか。まだまだ他にもいろ~~~んな人の話が取り上げられていて、このイメージで古典を勉強したらさぞや楽しかったであろう、もうちょっと古典が好きになっだろう、と思いました(なにしろ、古文オンチですから・・・(T T))実は、新聞の書籍広告で見かけて以来、ほしい~、ほしい~~~と思ってたのですが、やたらお金を使っちゃいけないような家計状況なので、すぐ買えず。本屋で見かけたとき、なんか理由というか口実がないかな~?と思って、思いつきましたよさるえちゃんのお勉強用思いっきりこじつけで買ったのですが、買ってきて一番最初に読み始めたのがムスメでした。ちょうど、小学校でも枕草子の冒頭部分を暗記したり、塾で社会の歴史やら国語の文学史などで勉強したりしていたので、ムスメの食いつき、早かったです。そして、本当に塾の宿題に役に立ってたりして・・・。「おかーさーん、”せいしょうなごん”って漢字でどう書くっけ~?」「あのマンガに書いてあるから見たら~?」「おかーさーん、”望月の欠けたることもなしと思え(へ)ば”って歌読んだ人、誰だっけ~?」「あのマンガに書いてあったよ~。見てごらん~」ってなぐあい。でも、「おかーさーん、中国に行ったまま死んじゃった人、誰だっけ~?」「あー、三笠山の人~・・・(百人一首の一句、”あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも”を詠んだ人、という意味。って、どんな覚え方(ー"ー))誰だっけ??あ、あのマンガに安倍晴明の先祖だって書いてあったよ~、あー、阿倍仲麻呂!」なんてこともあったりして。漠然と白黒の文字の知識として頭の中に散乱していたものが、絵を見ることで画像として整理される・・・マンガパワー、恐るべし。しかし・・・小6の今さら、せいしょうなごんを漢字で書けないとか、藤原道長や阿倍仲麻呂を覚えてないとか、そんなレベルの質問が出るムスメ・・・大丈夫か?ま、いっか。画像で知識を定着させて下さい、ってことで。
September 30, 2011
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脳はなにかと言い訳する池谷裕二 著(新潮文庫)単行本の出版は去年ですが、2006年にハードカバー本として出版された本です。内容をひと言で説明すると・・・脳の取扱説明書。脳にいい生活習慣とか脳の鍛え方とか、けっこう好きなジャンルでいろいろ読んできたんですが、この一冊を読めば、他はいりません!というくらい、脳についてとても説得力があって、なおかつ面白すぎるくらい面白い本でした。著者は脳の”海馬”という部分を研究する第一線の研究者。脳の特徴をいろいろな角度から”脳はなにかと○○する”という25の章に分けてエッセイ風に書いるんですが、ちゃんと2006年時点での最新の研究の内容を紹介した上で、事実と、それをもとにしたご自分の推論や意見とがはっきり区別できるように書かれています。しかも、紹介されている研究も論文もハンパな量ではなく、これは脳科学研究のレビューですか?と思うほど。もっと専門的に知りたい、と思ったら、参考文献一覧を見れば論文に当たることができるのです。なのに、このわかりやすさ、おもしろさ・・・。一番、目からウロコ的な発見だったのが、脳が体を支配しているのではなく、体が脳を支配しているということ。脳というのは、体から入ってくる情報がなければ、何もできないのです。なんかこう、言われてみればそうだよね、なことなのですが、おおお、そう言われてみればそうだよね!的な発見というか。ここで例として書かれているのが、神経の再生の早さの話。一般に、神経に損傷を受けてリハビリをすると、若い人の方が回復が早く、それは神経の再生が若い人の方が早いからだ、と考えられているのですが、実は、神経の再生の早さは、年齢に関係ないのだそうです。神経っていうのはあまり老化しないそうで。なのに、回復の早さが違うのはなぜかというと、若い人は体がよく動くので、体から脳へ送られる刺激=情報が多いために、脳神経の回復が早い。でも、年を取ってくると体があまり動かないので、脳への情報が少なくなり、回復が遅くなるのだそうです。つまり、外界からの刺激が少なくなればなるほど脳はどんどん働かなくなっていく・・・というわけで。なんかこう、ぼんやり日々を送っていた私は、すっかりカツを入れられました。悩んで動きを止める前に動け動け!みたいな(^^;;;)それから、人がなにかを選択して決断するとき、”自分で”決断していると思っているけど、実は、選択というのは脳の”ゆらぎ”のいきおいなんだそうです。脳というのはいつもゆらいでいて、AかBかを決断するとき、脳がたまたまAの方にゆらいでいるとAを選択するんだそうで。もう、えええー?です。自分で決めてると思ってたのに、たまたまそっちにゆらいでいただけだった、なんて(笑)。あんな失敗しちゃった~・・・とか落ち込むことが多いのですが、取り返しがつかない失敗じゃない限り、あれは脳のゆらぎのせいなんだわ!と思えば、立ち直りも早いわけで(違?)その他、実はアルコールは「イヤな記憶」を強化してしまうから、アルコールではストレス発散できない、とか、親父ギャグは、実は脳が生み出すハイレベルな芸術である、とか(苦笑)似たような二つのことを一度に記憶しようとすると、あとから覚えた記憶の方が脳に固定されて、初めに覚えた情報は薄れてしまう、とか。そのほか、子育てのヒントになるようなこともちょこちょこっと書かれています(ほんのちょっとですが)。読み終えたあと、なんかいろいろとくよくよ考えていることがバカらしく思えてきて、元気になれる本でした。
September 9, 2011
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・・・というわけで、池上彰著の本のうち、ノウハウ本っぽい以下のタイトルの4冊をとりあえず読了。<わかりやすさ>の勉強法 講談社現代新書 2010年6月発行見通す力 NHK出版生活人新書 2009年10月発行ニュースの読み方使い方 新潮文庫 2007年11月発行相手に「伝わる」話し方 講談社現代新書 2002年8月発行意図したワケじゃないんですけど、同じ著者の同じジャンルの本を年代順にさかのぼって読み比べ、ってことになっちゃいました。で、感じたことは。近著2作(『<わかりやすさ>の勉強法』、『見通す力』)は、池上流の情報収集、整理、アウトプットの具体的なノウハウがメイン。ポイントが簡潔に書かれていて、今、はやりの(?)さっとよめるビジネス書の体裁です。短時間でポイントをつかめます。でも、正直、TV番組にひっぱりだこになって、著作の方も多筆になると、池上さんといえど、同じ内容を焼き直したような本を何冊も書かれるようになるのかな・・・、とちょっぴりがっかりしました。でも、3冊目を読み終わる頃にはその印象が変わりました。3冊目に読んだのは『ニュースの読み方使い方』でした。この本も、タイトルもノウハウ本的だし、内容も、上述2作と同じような事も書かれているのですが、決定的に違っていたのは、池上さんがどれほど<わかりやすさ>に厳しくストイックであるか、というエピソードがたくさん書かれていることでした。この本の中には、世の中のいろいろな事象についてさりげなくわかりやすい解説が挿入されているのですが、その数行を書くために、どれだけ膨大な資料を調べ、わかりやすい表現にするためにどれだけ気配りしているかを知って、ここまで徹底しているのか!と驚きました。素人がラクにわかるように解説するには、解説者は労を惜しんではいけない、のです。この本を読み終わった後、「すみません、私はまだまだ勉強不足でした」と、情けなくなると同時に、もっとがんばらなくちゃ!と叱咤激励されている気分になりました。なぜ、池上さんが<わかりやすさ>にここまでこだわるようになったのか。それを知ることができるのが、4冊目、『相手に「伝わる」話し方』でした。これは、まだフリーとして活躍される前の、『週刊こどもニュース』のお父さん時代に書かれた本です。いかにもノウハウ本的なタイトルですが、この本にはノウハウは書かれていません。この本のあとがき(最後に一言)にも、ご本人がこう書かれています。この本を手に取られた方は、「わかりやすい話し方のテクニック」を手っ取り早く知りたいと思われているかもしれませんが、残念ながら、そんなことは、この本には書いてありません。-『相手に「伝わる」話し方』P.213この本には、池上さんご自身のNHK時代の失敗談をメインに、人に伝えるということがいかに難しい作業であるかということが、じつにわかりやすく書かれています。あの池上さんもNHKの駆け出し記者のころはそんな失敗をしていたんだ、と、なんとなくホッとするエピソードがずらりと並んでいます。そんな失敗から逃げずに、一つ一つ克服していったからこそ、今の池上さんがあるんだ、と納得でした。池上さんの<わかりやすさ>は、天才が一朝一夕で作り出したものではなく、逃げ出したくなるような赤面の失敗を乗り越えてできあがった苦労のたまもの。あのTVでの人気ぶりは、しっかり大地に根を張った木に実った果実なのです。ただ。同じ著書の似たようなジャンルの本を4冊も読んで思ったのですが。池上さんの<わかりやすい>文章を読んでいると、頭をあまり使わなくてすむので、自分の頭はちいとも賢くならない、という焦りを感じてきました・・・。池上さんもおっしゃっているように、本来、物事の真の姿を理解するには、その物事の原典になるような書物を読むべきです。というわけで、池上本はいったん休止。次は何を読もうかな・・・。
August 30, 2011
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お盆を過ぎたらすっかり秋の気配になってしまって・・・。今年の夏休みはムスメもずうっと家にいなかったし、帰省もしなかったし、私と言えば、暑さに負けてゴロゴロと過ごしているうちにいつの間にか秋の気配・・・夏休みなんだかなんなんだか、全然季節感のない夏休みでした(いや、まだ数日残ってますが)。でも、少し涼しくなったら頭も働き始めたらしく、ちょっと本でも読んでみようか、という気持ちに。ずっと買いためながら、なかなか本を読む時間を作れずに積ん読になったまま、腐って腐葉土になってしまうのではないか・・・?と危惧していた(^^;)本が、うちにはたくさん置いてあるのでここらへんのラインナップから読んでみようと手にした本が、これです↓ 相手に「伝わる」話し方何でこんなにたくさん、池上彰さんの本を買い込んでいたのか・・・よくわからないんですが積ん読本を整理したら、こんなに出てきました(^^;)何かを誰かにわかりやすく伝えたい!と思っていたのかも・・・今、2冊読了。3冊目に入ってますが・・・どの本も、書いてあることは首尾一貫!切り口は多少違いますが、発行年が違う本なのに、書いてあることはぶれてません(^^;)。さすが池上さん!・・・というべきか、ブーム到来でたくさん本を書かざるをえない状況になると、こうなっちゃう?というべきか(苦笑)どの本も(おそらく)ベストセラーですので、私が感想を書くまでもないのですが、自分用の防備録に、もうちょっと読み進んだらまとめてレビューしますね。
August 27, 2011
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いろいろと気ぜわしいこのごろですが。あえて「本を読まなければ」とつくづく思うこのごろです。物を書く仕事を始めて10年。アウトプットばかりに費やしたために、インプットをおろそかにしていて、気がつけば、私の頭の中身はカラッポ・・・仕事も惰性で片づけるような情けない状態に陥っています。これではいけない!と、7月にムスメに「読書競争しようよ~」と持ちかけたのですが。7月にはちょっと読んだのですが、8月・9月の暑さにあえなくダウン。積読状態の本がたまってます・・・。というわけで、今、読んでいる中心は、今や全国的ブームになってしまった池上彰。生物学者の福岡伸一。そして、あのチームバチスタのシリーズの、医師で作家の海堂尊。と、並べてみると、やっぱり仕事から切り離せないラインナップになってますねぇ。池上さんの著書は、いかに分かりやすく表現するか、ですし、福岡先生の著書は、ずばり、私の守備範囲、分子生物学を詳しくわかりやすく解説してくださる解説書。ストーリーの中をちょっと遊べるのは海堂先生の本くらい??でも、基本的に医学をベースにしたミステリーで、AIの普及促進という本筋にはブレがなく、医学の実際の現場の雰囲気を知ることができるのが魅力です。多筆な池上、海堂両先生の著作は、のろのろ読んでるとどんどん増えて行く・・・。いろいろとイライラすることが多いけど(爆)、自分を見失わないように本を読もうと思います。読書の秋です。・・・時間取れるかな?
September 27, 2010
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ムスメの漢検を待っている間、本を読んで待ってました。すっごい久しぶりの読書でした(^^;)立春過ぎて、目が覚めましたので(^^;;;)デビュー作のが面白かったので、某古本チェーン店でそこにあるだけの海堂尊本を買っておいたのですが、なかなか読む時間がなくて・・・。久しぶりにまとまって読書に使えそうな時間が空いたので、上巻の半分くらいまで読んであった『ナイチンゲールの沈黙』を読み始めたのですが・・・これが。面白い。面白すぎて・・・止まらなくなりました(^^;;;)で結局、帰宅してからもずっと読み続け、その日のうちに上下巻、最後まで読んでしまいました。ああ、だからうっかり本を読み始められない~・・・。ただ、『チーム・バチスタの栄光』と、ちょっと作風が違う?っていうか、何かちょっと違和感??みたいなものを感じました。そう、チーム・バチスタは社会問題も織り交ぜた本格的な社会派ミステリーだったのですが、ナイチンゲールの沈黙は、なんかこう、ファンタジー的なふわふわ~~~っとした雰囲気で、出てくる捜査手法も「そんな高度な技術、まだ実在しないよね???」っていうのが明らかで。チーム・バチスタのときには、AI(オートプシー・イメージング)という実在の技術を基本に話が進んでいただけにん~~~?と思っていたのですが、あとがきを読んで納得。このお話は、ミステリーというより、近未来SFだと思えばいいようです。前作が、現実社会の問題点を提起するのにあまりにもよくできた筋書きだっただけに、それを期待してナイチンゲールを読んだ人は、肩透かしを食らっただろうなと思います。その落差に、この小説の発売当初は読者も賛否両論だったとか。それに、海堂さんが書いちゃうと、小説に出てくる高度なテクノロジーが実在する、と誤解する人も出ちゃうんじゃないか?と、余計な心配をしたり。ただ、SFミステリーと思って読めば、なかなかよくできていると思います。前作と違って、犯人はすぐにわかっちゃうし、そんないかにも作り話っぽい現象、あるわけないし、と思うようなオチではあるのですが・・・光景が脳裏に浮かぶようなその文章の表現力・・・物語の筋書きによく似たことが脳内で起きているのかもしれません(><)何のことか?といいますと。中身を読んでみてくださいちなみに私、全部読み終わってから就寝したら、ストーリーを夢の中で見てしまいました・・・怖かった(^^;;;)
February 7, 2010
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TVドラマ化も映画化もとっくの昔にされてて、今さら・・・なんですが(^^;;;)チーム・バチスタの栄光(上)チーム・バチスタの栄光(下)去年の年末に、弟が突然、「おねえちゃん、あげる」とくれた上下巻。なかなか読む時間を作れなかったのですが、最近、ようやく読み終えて、本棚においておいたら、それをオットが手にとって読み始めました。・・・・読み始めました。・・・読み・・・いつ終える気だ?!結局、上下巻、一晩で一気に読み終えてました(爆)。オット、布団に入ったのは明け方の4時過ぎ。(その横でせっせと仕事をしていた私は5時就寝・・・。)「本ってうっかり読めないんだよね~。止められなくなっちゃって」その気持ちはわかるかも~。私も最近、めっきり読書から遠ざかっているのは読み始めたら最後、仕事も家事も進まなくなるからで(爆)。こんなところで、似たもの夫婦(^^;;;)。もちろん、言うまでもなく、『チーム・バチスタの栄光』がそれだけよくできた小説だからではありますが。続編、全部買ってあるんですけど、怖くて読み始められません~~~。ナイチンゲールの沈黙(上)ナイチンゲールの沈黙(下)螺鈿迷宮(上)螺鈿迷宮(下)
November 8, 2009
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あの「もやしもん」が第12回手塚治虫文化賞マンガ大賞に選ばれましたーーー!おめでとーーー!!!手塚賞:マンガ大賞に石川雅之さんの「もやしもん」(毎日新聞)(朝日新聞社主催の賞なのに、朝日新聞のHPにはまだでてないのはなぜ~~?新聞本紙には発表されてます(あと、「ひと」欄には石川雅之さんが紹介されてます))(コミック)もやしもん(01)/石川雅之あれは数年前・・・朝日新聞の書評欄にマイナーだけどおもしろいマンガの紹介コーナーがあって、そこで「もやしもん」の存在を知りました。見た瞬間、「これだ~~~!」と直感したものの、当時はムスコが中学受験準備のまっただ中。漫画を買うのを控えておりました。そして最近、満を持して1巻ずつ買いそろえ始め、結局自分への誕生日プレゼントに全巻買いそろえちゃったのでした。以来、我が家で局地的に密かな爆発的大ブームを迎えていた(ムスコと私はマンガ自体に、ムスメはキャラクターに、オットは『のだめ』がらみで)のですが、こんなにマニアックなマンガが、大賞という日の目を見るとはっっっ!細菌学のお話としては大変ためになることがたくさん書いてあって、そんな関連の仕事をしている私にもとっても勉強になったのですが、では、これを子どもに読ませるには・・・と思うと、子どもには教育的にはどうでしょう~~~?な感じの部分もないこともなく。思春期を迎え始めたムスコがこっそり喜んでいるような気もします。(そんなに過激ではないですよ、もちろん)オット曰く「大学のイメージがかなり歪曲されてるよな~~~」とも。まぁ、『動物のお医者さん』(佐々木倫子)と比べると、キャンパスライフはかなりデフォルメされてますねぇ。でも、もやしもんキャラクターがカワイイので、いろんなものが商品化されてますね。もやしもん 農大ノート 酵母《予約商品05月発売》かもすぞ~ もやしもんぷくぷくシールバラ売りもやしもん ミニタオル《予約商品05月発売》もやしもん・オリゼー付箋もやしもん 菌づくし 手ぬぐい コスパ版《予約商品05月発売》↑この手ぬぐいで手を拭くのはビミョ~~~な感じかも。もやしもん 菌トランプ《発売済・在庫品》↑抗菌 トランプではなくて・・・(^^;;;)[もやしもん]かもすたっふぃんぐ【A・オリゼー】↑かもすたっふぃんぐシリーズ、各種菌が取りそろえられていますソフトステージ ~菌劇場~ もやしもん P・クリソゲヌム メガハウス(予約:08年5月下旬発売予定)。こういうフィギュアって、抗菌加工してるのかな??(^^;)・・・なんか、ほしくなってきました(^^;)ゝ
May 10, 2008
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いろんな角度から読めるおもしろい本でした。で、ここでは一つ、子育ての観点から感想を・・・。私は養老先生の、なんともすっとぼけて「なるようにしかならないさ」という視点が大好きです。多分、私自身の人生も、一つも思った通りにならなくて、心底「ホント、なるようにしかならんわ・・・」と思っているからだろうとと思うのですが。以前、教育テレビの「親と子のTVスクール」という番組で、養老先生は、最近の親の子育てについてこんなことをおっしゃってました。「最近の親は、赤い花を咲かせようと思って一生懸命育てたのに咲いた花は青かった、とがっかりする。どうして、我が子が咲かせた青い花を見て、自分が愛して育てたのは実は青い花の種だった、と思えないのだろう?」つまり、「こんな子どもに育てよう」と力を入れすぎるあまり、我が子の本当の姿を見失ってしなっている、とおっしゃりたかったのだと思います。この「まともバカ」という本は、まさにその切り口から人の誕生、病気、そして死について語られています。人間は、自然という思い通りにならず人の命を脅かす危険もあるものを相手にするのが嫌なので、自然のものを身の回りから排除して「都市」をつくった。その「都市」空間で生活するには効率が最優先で自然のままのものは邪魔なので、出産という自然現象を経験する女性を排除し、思い通りにならない自然のままの存在である子どもを排除し、人間におきる自然現象の行く末である高齢化や病気を排除し、最終的な「死」をも排除した。その結果、都市に生じた現象が、少子化であり高齢化であって、今になって、ことさらに問題だと騒ぎ立てるのはおかしい、とおっしゃいます。出産も誕生も病気も死も、人間には必ずやってくるものなのに、これ以上確実に起きる現象は他にないのに、都市に住む人はそれを「見ない」ことにしたから、それをことさら「問題だ」と騒ぐけれど、本当は問題でも何でもないのだ、古今東西、ずうっとわかていたことを見ないようにフタをしてきたから、問題がつくられてしまったのだ、と。効率を優先する「都市」空間では、子育ては難しくなります。それは、幼いときから効率重視の都市空間で育った人は、「目標」を決め、その目標を達成するための「計画」を決め、その末に得られる「結果」が重視される環境しか知らないので、出産や子育てなどという不確実で不安定なものに出くわすとどうしていいかわからなくなるのです。育児書通り、○才までに~ができて、△才までに・・・ができて、などと、子どもは計画通りに育ってくれない。親が子どものゴールを決めてあげても、子どもはそのゴールに向かって走るとは限らない・・・っていうか、たいてい子どもは人が決めたゴールに向かって走らない。計画通りにいかない、思うとおりにならない、効率よくいかない・・・それが現代の親が子育てに抱える不安の原因なのだそうです。本当は、自然に任せてのんびり待っていれば、草の種が芽吹きすくすく伸びて花を咲かせるように子どもも育つのに、こちらの種とあちらの種では伸び方も育ち方も違うのは当たり前なのに、現代の親は、「あっちの種が早く芽吹いた」とか「こっちの方が早く伸びた」とか気になって気になって仕方がない。そうじゃないんだよ、待っていればいずれどの種も花を咲かせるのだから、枯れない程度に水と肥料をあげていればそれで十分なのだよ、と、養老先生はおっしゃっているような気がしました。自然に戻れとまでは言わないけれど、自然と都市との折り合いをもう少し上手につけるよう、自然との付き合い方をもう一度考え直してみませんか?というのが、この本の一番言いたいことだったのかなぁ、と思いました。いつもそうなのですが、養老先生の本のタイトルは衝撃で販売部数をあげようとしてるの?と思うような奇抜なものばかりなのですが、内容は実に「まとも」・・・っていうか、タイトルと本の内容が一致してない感じすらします。本当に、まともなことをまともに述べていらっしゃる本でした。実は私がこの本を読んだのは、子育て論を参考にするのではなく、人間の生死について解剖学者のお立場から書かれている内容がとても興味深かったからでした。その角度からの感想はまたいずれ・・・。
April 13, 2007
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ムスコが「学校の先生のイチオシ」ということで図書館を探したのだけどみつからなかった、といっていたので、本屋さんで見かけたときに買ってあげました。でも、本人は全く読み始める気配がない(なんか他の本を読んでいるんだけど、なかなか読み終わらないらしい)ので、先に私が読み始めたのですが・・・これがもう、かわいくておもしろい!なにしろ、村上春樹の「海辺のカフカ」みたいな、高い読解力が必要な何とも形容しがたい本を読んだあとだっただけに、読みやすさといい、ストーリーのわかりやすさといい、キャラクターへの親しみやすさといい、まるでマンガを読んでいるようでした。前評判で「OLにウケている」ときいていたのですが、その意味がわかりました。ストーリーはミステリー風なのですが、舞台は江戸時代の廻船問屋の大店。主人公は、一歩歩くだけで両親や手代が駆け寄ってくるくらい病弱な17才の跡取り息子。そして、そのまわりを囲むのが・・・とってもかわいい妖(あやかし)たち。妖怪、というにはあまりにもかわいくて心根がやさしいのです。謎が謎を呼ぶ展開に、一気に読める上に、なにしろ出てくるのがこの世のものではないので、何でもあり(笑)。難しいことを考えたくないときに、さらっと読み流せる感じの物語です。それにしても、こんなマンガみたいな本を読むのがムスコの学校の「宿題」なんて、いいなぁ~・・・なのにムスコ、こんなに恵まれた宿題なのにもかかわらず、やりたくないらしい・・・罰当たりな!むしろ、下ムスメのさるえの方がこの本に興味津々だったので、こんな本を買ってあげました。主人公、一太郎が5歳の時のお話が、絵本タッチで描かれてます。でも、漢字にルビが付いてないので、私が読み聞かせてます。カワイイです♪『しゃばけ』の続編がこちら。同じ登場人物(?)の短編集です。
February 2, 2007
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村上春樹著『海辺のカフカ』を読み始めた、と、先日の日記に書いたのですが、1週間でめでたく(?)読了しました。最後の方なんかはもう、家事も仕事も放り出して、読むのを止められなくなってしまったって感じでしたが。そして、読み終わって思いました。なんなんだろう?この不思議な小説は???今までに読んだことのない物語でした。眠っているときに見る「夢」みたいな。行き先のわからない飛行船に乗って、いろいろなヒントを手がかりに、「行き先はあそこでしょ」「こっちでしょ」と当てようとするのにことごとくはずれて、なに?なに?と思っている間に乱気流に巻き込まれて、わ~~~!と騒いでいるうちに、出発したもとの場所に着陸していた・・・みたいな。何のための飛行船の旅だったのかぜんぜんわからないのだけど、飛行船を下りるときには「この旅はそのためにあったんだ」っていう充足感が残っている・・・。2つのストーリーが交互に語られます。最初はまったく無関係に見えるストーリー。上巻と、下巻の半分くらいまでは、確かに、SFと推理小説を混ぜたような、わくわくしてその先を早く知りたくなるようなストーリー展開でした。それぞれのストーリーに「点」としてのエピソードが散らばっていて、それぞれのエピソードが不思議で訳のわからない話ばかり。それが話が進むにつれて、点と点のつながりがぼんやりと見えてきます。そのつながりが早く知りたくてハイスピードで読み進めていくのですが、読んでも読んでも点と点のつながりがはっきりしない。たくさん出てくる謎な現象が一体なんなのか、まったくわからない。早く知りたくて、もどかしくてどんどん先を読み進んでいくのだけど、読んでも読んでも、ぼんやりとした輪郭ばかりではっきりした全体像が見えてこない。物語の残りがどんどん少なくなっていって、このままじゃぁ、何もわからないまま話が終わってしまうんじゃないか、と心配になってくる。まるで霧の中を進んでいるように。2つの別々だと思っていたストーリーが同じ目的地に向かっているのだと言うことがわかってきます。でも、あいかわらずその関係性はぼんやりしていてはっきりとはわからない。それなのに、最後から十数ページのあたりで、頭の中に広がっていた霧がふっと晴れるのです。あいかわらず、点と点の結びつきはぼんやりしたまま、謎がいっこうに解明されないまま、霧だけがふっと晴れて、なにかが腑に落ちる。でも、何が腑に落ちたのかはよくわからないのです。とにかく、「ああ、そうか」とストーリーに納得がいくのです。理解ではなくただの納得。そして、最後の最後まで新たな謎を生み出しながら(そしてその謎は謎のまま)、物語はどこにも行き着かないまま、でも、最後は行き着くべきところに行き着いて終わります。犯人が最後までわからない推理小説みたいなんだけど、決して中途半端じゃない。最後は「そうだね、それでよかったんだね」と充足感が残るのです。・・・何を書いているのかぜんぜんわかりませんね。私にもよくわかりません。読み急ぎすぎたのかもしれないし、私の読解力が足りなかったというのは十分にありうることです。何度もじっくり読んでみないと、いったい何を言いたいのか、さっぱりわからない物語です。でも、読後感がとてもすがすがしいのです。そして、「こんなに急いで読むんじゃなかった・・・」と、読了してしまった喪失感ばかりが残ります。なんなんだろう、この不思議で魅力的な小説は?あるいは、物語の世界の中で「夢」を見ていたのかもしれません。実際、こたつでうたた寝しながら読んでいたので、夢と現実の境がわからなくなってしまったこともたびたびでした。私ごときが書評できるような本ではないということだけは確かです(^^;)そして、うちのムスコがこの小説に興味を持つことは永遠にないだろう・・・ということだけも、ほぼ確実です。さて・・・こんなに魅力的な物語のあとで、次は何を読もうかな?
January 13, 2007
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新年の抱負に従いまして、只今、ムスコの目の前で読書中です。食卓に読書中の本を置いて、「ほれ、お母さんはここまで読んだぞ」とムスコを煽りながら読んでます。で、最初に選んだのが村上春樹の『海辺のカフカ』なぜこれを選んだのか、というと、本屋さんで本を眺めていたら、『今読みたい新潮文庫』っていうコーナーがあって、たまたま目についたこの本をぱらぱらとめくってみたら、ストーリーが15才の中高一貫校に通う少年が家出をする話らしい、ということがわかったのです。さらによくよく眺めてみると、この少年の実家は私の実家の近くで、家出先が今私が住んでいる地方。へぇぇぇ~~~。なんか親しみを感じる。それに、これはうちの中高一貫校に通っていて家出願望のあるムスコも関心を持つんではないか?まず私が読んでみて、ムスコに読めそうだったらお勧めしてみよう、そう思って文庫本にしては分厚い上下巻2冊をまとめて衝動買いしました。いや、これは読み始めてすぐに勘違いだったということに気づくわけですが(汗)。読み始めてすぐに、なぜタイトルが「カフカ」なのかわかりました。ストーリーがあまりに不条理(^^;)まさに「カフカ」。2本の話が交互にオムニバス形式で進んでいくのですが、内容はSFと推理小説を合体させたような、謎に満ちた物語進行。読書好きを語る私ですが、実は村上春樹さんの本は読んだことがありませんでした。なんだろう、流行に逆らう私の性格か?避けて通っていました。世間の表する村上春樹さんの小説が、なんだかこう、純文学っぽくってスマートな感じで、私にはあんまり興味が持てなかったんです。でも、実際読んでみたら、これは私が大好きなSFだよ、ミステリーだよ。しかも、淡々とした情景描写と心象描写が続くだけなのに、しかもかなり常識はずれで非現実的で不条理なことが面々と書いてあるのに、読んでいてぐいぐい引っ張り込まれて、読み始めたらなかなかやめることができません。ああ、ほんと、世界に評されるだけある大作家なんだ・・・ちょっと読んだだけでよくわかりました。そして、すっかりファンになりました。今は日常生活のごたごたでまとまった時間がとれず、上巻をやっと読み終えたところです。(なにしろ、読み始めると仕事も家事も放り出して読み続ける性格ですから、うっかり読み始められない・・・)さて、この本を息子に紹介するというプランでしたが・・・星新一のショートショートですら理解困難だったムスコに、これは絶対ムリ、ということが判明。本人の関心が向くのを待つことにします。
January 12, 2007
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