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映画『オッペンハイマー』、実は先週の日曜日にムスメと見てきました。クリストファー・ノーラン監督 『オッペンハイマー』https://www.oppenheimermovie.jp/#modal感想をひと言で言うと、日本人ならこの映画を絶対に見るべき!ですが、とても難解です。「原爆の父」として知られる科学者の伝記的映画であったため世界公開前に日本国内で物議を醸し、国内では一旦公開中止となったものの、アカデミー賞7部門で受賞を果たし、とうとう3月29日に日本公開となりました。「広島・長崎の描写が一切ない」ということから原爆投下礼賛とまではいかずとも肯定のストーリーなのではないかとの懸念もあったようですが、私は、ノーラン監督は明らかに反核兵器、反戦争の立場であり、「当時原爆は生まれざるを得なかったが、日本に落とされる必要は本当にあったのだろうか?」と考えているような印象を受けました。このように日本への原爆投下の正当性に疑問を投げかけるような映画が米国で高く評価されたということは大きな驚きです。・・・とまぁ、いろいろわかったように書きましたが。まぁとにかく、前評判通り、わかりにくい映画です。何の前知識もなくこの映画を見たら、間違いなく寝ちゃうと思います(上映後、そう話していた若者がいました・・・)。第二次世界大戦、戦中戦後の社会情勢(米独ソの関係性)やアインシュタインと量子力学との関係性・・・いわゆる「教養」を試されます。そういう意味では、私はある程度この映画の時代背景の知識があってよかったと思っています。話がちょっと逸れますが、ときどき「三角関数なんか大人になって使ったことがないから勉強するのはムダ」などという論争が起きたりするじゃないですか。この映画に関して言うと、私は「学生時代に量子力学と素粒子論を勉強していて本当によかった」と実感しました。なぜなら、量子力学には絶対に欠かせないような超一流の現代物理学者の名前が映画の中でぞろぞろ出てくるからです(ちなみに、量子力学の中身は全く必要ありません)。そして不勉強ながら私は全く知らなかったのですが、オッペンハイマー自身もまた当時の超一流の物理学者だったのです。あの、今では誰もが知っている”ブラックホール”の存在を世界で初めて理論的に予言したのがオッペンハイマーでした。そして第二次世界大戦後、プリンストン高等研究所の所長となって、ノーベル賞級の日本人理論物理学者、湯川秀樹、朝永振一郎、南部陽一郎などを招聘して育てたのでした。実は私はこの映画を見るまでは、オッペンハイマーという人は自己顕示欲がとても強く名誉にこだわる人物で、物理学でなかなか頭角を現せなかったから”原子爆弾の開発者”という名誉がほしくて暴走したマッドサイエンティスト、という印象を持っていました。おそらく、大方の人たちは多かれ少なかれそのようなイメージを持っていたのではないかと思うのですが。これは私の勝手な想像なのですが、クリストファー・ノーラン監督は、この映画によって、オッペンハイマーについてのさまざまな先入観や後世に作られ勝手に一人歩きしている誤った不名誉なイメージを払拭したい、という狙いがあったような気がしてなりません。彼は鬼畜でも悪魔でもマッドサイエンティストでもない、非常に優秀な物理学者だということ以外は、本当に一介のごくふつうの人間で、ただただ時代が彼に原爆を作らせただけなのだ、ということを描きたかったのではないかと。そして、原子爆弾は当時最高峰の頭脳をもつ”超賢い”科学者たちが集まって理論と技術の粋を使って作り上げたものではあったけれども、その科学者当人たちもまた欲望や羨望、嫉妬といった人間らしい感情に支配され大きく翻弄され、この地獄の猛火をコントロールすることはできなかったということを訴えているように感じました。一旦開けられたパンドラの箱を元に戻すのは極めて難しい、人類にその覚悟はできているのか?と問われている気がしました。実はこの映画を見る前に、たまたま、とある雑誌の解説記事を読んでいたのですが、これを読んでいたからこそこの難解な映画を楽しむことができたと思います。オッペンハイマーという人物を端的に非常にわかりやすく解説した記事です。日経サイエンス 2024年5月号『特集:オッペンハイマー その知られざる素顔』https://www.nikkei-science.com/202405_078.html映画「オッペンハイマー」を見に行かれる方は、その前に、ぜひ雑誌を手に取って全文を読むことをお勧めします(ただ、この記事自体もちょっと小難しいかもしれませんが・・・)。この映画の最後のシーンには、「アインシュタインという人は何をした人なのか?どういう人なのか?」という知識が深く関係しています。アインシュタインにまつわる知る人ぞ知るいろいろなエピソードを知らないと、最後のシーンはとても難解です・・・これを「教養」として観客に求めるのはとても酷な気もするのですが。でももし知らなかったとしても、謎は謎のまま余韻が残る不思議な映画です。
April 14, 2024
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公開前の宣伝を全く行わなかったということで話題になったジブリの映画『君たちはどう生きるか』を公開日の翌日(7/15)に見てきました。ちょっとだけSNSで感想を見かけたものの、事前情報ほぼゼロで見に行きました。確かにそれが正解だったような気がします。なので、まっさらな頭で映画を見に行きたいと思ってらっしゃる方は、ここから下は読まないで下さいね(なるべくネタバレ的なことは書かないようにしますが)。ひと言で言うと、宮崎駿監督の集大成。このタイトルから「宮崎監督に説教されるのだろうか?」とドキドキしながら見に行ったのですが、原作の吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』とは全く異なるストーリーで、とにかく宮崎ワールド全開。宮崎監督の初期の初期の作品から、『ナウシカ』、『ラピュタ』・・・『風立ちぬ』まで、全作品のエッセンスがぎゅっと詰まっていて、見覚えがあるシーンがこれでもかと詰め込まれていました(宮崎作品以外にも名作映画を彷彿とさせる描写があった気もしますが・・・)。そして、まるで夢の中をさまよっているような心地よい気持ちになりました。「このシーンの意味は?」なんて難しく考えちゃいけない、ただただ宮崎ワールドに浸ればよい・・・映画を見た直後の感想はそんな感じでした。なにしろ、宮崎監督自身が「おそらく訳が分からないところがあったでしょう。私自身、訳が分からないところがあったのです」とおっしゃっているのだそうで。好書好日ー「君たちはどう生きるか」宮崎駿監督が、新作映画について語っていたこと。そして吉野源三郎のこと https://book.asahi.com/article/14953353でも、家に帰ってきてからいろんな方の感想や背景情報を少しずつ眺めているうちにふと気がついたのです。宮崎監督はこの映画を通して「ボクはこう生きたよ。君たちはどう生きる?」と問いかけているのではないかと。この作品は制作にあたって制作委員会方式をとらず、大手テレビ局や出版社、各種企業とのタイアップをほとんどしなかったのだとか。それはつまり、宮崎監督が自分のやりたいことを自由にやりたい、ジブリのファンに自分から直接メッセージを発したい、ということだったのではないかと思いました。これまでジブリ映画を楽しんできた大人世代には「なつかしい宮崎作品の集大成」と見えますが、そうした長い歴史を知らない子どもたちや若い人たちには、複雑な社会の中を生き抜いていくための一つの指針を示している様な気がしました。宮崎監督らしく、押しつけがましいところなくさらっと。映画を見に行った日の夜、実家にたまたま吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』が置いてあったので、初めて読んでみました。そして、なるほど、と思いました。宮崎監督はこの物語のエッセンスをうまく抽出して、それを宮崎ワールドで描き直したのか、と。登場人物にも「あれ?」と思うような共通点があります。映画を見たけど原作を読んだことがない、という方は是非読むことをお勧めします(大型書店で山盛りに平積みされてました(^^;))。児童書ですが、戦前に書かれたとは思えないとても明るく前向きな優れた哲学書です。映画の最後のシーンは、まさに原作の終わり方そのものでした。ボクはこう生きたよ。さあ次は君たちの番だ。君たちはどう生きるか君たちはどう生きるか [ 吉野源三郎 ]漫画 君たちはどう生きるか【電子書籍】[ 吉野源三郎 ]
July 20, 2023
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4月16日に公開された『約束の宇宙(そら)』というフランスの映画をムスメと見に行ってきました。『約束の宇宙』http://yakusokunosora.com/シングルマザーのフランス人宇宙飛行士が宇宙に飛び立つまでの母娘の葛藤を描いた物語です。日本人宇宙飛行士・山崎直子さん推薦の映画で、ムスメもずっとみたいといっていたので、封切りの翌日にえいやっと見に行ってきました。エヴァ・グリーン主演、欧州宇宙機関、ドイツ、ロシア、カザフスタンの関連施設の協力、音楽 坂本龍一、という力作ですが、全体的に派手さはなく、仏映画らしく淡々と話が進み、行間を想像しながら見る作品でした。で、映画を見たムスメの感想が「これ、いつの時代の話?」確かに、山崎直子さんもどこかでおっしゃっていましたが、本当の宇宙飛行士の訓練は男女の格差を感じることなく淡々としていた、ということで、映画では男女格差などの面をことさらに協調していたようには感じられました。最後には「え?それあり??」なシーンもあって、それがこの物語の核心的な側面だっただけに、若干の戸惑いを覚えたのは確か・・・。ただ、おそらく、この映画は宇宙飛行士というひとつの「職業」を通して、いまだに根強く残る潜在的な男女格差や偏見を浮き彫りにしたかったのだろうな、と思います。そして、まだ社会に出ていないムスメには、それがピンとこなかったのだろうと。それにしても私もこの映画を見て感じたのですが、フランスでさえも、母親への期待というのはこんなに大きいのか、とちょっと暗い気持ちになりました。母親自身が「母親は子どもと一緒にいなくてはならない」「母親はこうあらねばならない」という価値観で自分を縛ってしまっているわけですから。だから、主人公はとても辛い思いをする。映画でも描かれていましたが、宇宙飛行士には、残される家族にもかなり全面的なサポートが付くということでした。おそらく、ミッション失敗という悲劇が生んだシステムでしょう。この映画でも、主人公の娘には「乳母」のようなサポート担当が付いていました。でも主人公は「私がいなければ」という呪縛から逃れられず、最後まで幼い娘から離れることに対して葛藤する・・・でもこれが父親だったらそこまで葛藤するかというと、そんなことは全然なくて、「しかたないだろ、お父さんは仕事なんだ」と父親自身も思ってるだろうし、家族もそう思ってる。この、働く母親に対して一般的に存在する、潜在的な「偏見」を見事に浮き彫りにすることが、この映画の狙いだったのだと思います。山崎直子さんいわく、「”ママさん宇宙飛行士”と言うのに”パパさん宇宙飛行士”とは言いませんよね」。本当に。映画のエンディングロールで、これまで宇宙へ飛び立った現実の”ママさん宇宙飛行士”たちの画像が流れます。とてもたくさんの女性宇宙飛行士が子どもをもうけがら何度も宇宙へ飛び立っているという現実に、ただもう「すごいな、タフだな・・・」と驚嘆しました。最近、こんな記事が目にとまりまして。2年ほど前の記事ですが。働く妻と専業主婦の幸福度格差が示す、日本の厳しい現実https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67894その結果が大雑把に表現すると、子どもがいない専業主婦>子どもがいない働く妻>子どもがいる専業主婦>子どもがいる働く妻なんだとか。子どもの数が増えるほど幸福度が下がると・・・。そりゃあもう、仕事も家事も子育てもぜんぶ女性まかせだったら、しんどいに決まってるじゃないですか。ええ、しんどかったですよ、ホント。しかも私のような能力の低い者は全部中途半端・・・。この分類で行くと、子どもがいる女性宇宙飛行士は一番下になるわけですが、それでも何度も宇宙に飛び立つ女性宇宙飛行士がいる、ということは、おそらく女性を宇宙に飛び立たせるためのしっかりしたバックアップ機構が存在する、ということだと思うのです。おそらく、NASAなんかはあらゆる格差を解消するための取り組みに全力を注入しているでしょうから、NASAから飛び立つ宇宙飛行士は特にしっかりサポートされているのではないかと。とすると、社会が本気で働く女性をバックアップしようと頑張りさえすれば、女性は労働力として社会に貢献しながら子どもをもうけ、幸せになれる、ということなのでしょう・・・でも裏を返せば、社会は全然本気じゃないんだな、という・・・。ムスメと一緒にこの映画を見に行ったのですが、ムスメがこの映画をどう受け取ったのかとても気になるところです。なんかこう、「働きながら子育てするのがこんなにツラいなら、子どもは要らないかな」とか思っちゃったんじゃないかと(ー"ー)ムスメ、山崎直子さんの後輩になることを目指しているのですが、ぜひ、山崎さんを女性のロールモデルとして何かを学んでいただきたいと思います・・・。などと、いろいろなことを考えさせられた、久々に見る落ち着いたトーンの社会派映画でした。
April 22, 2021
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見てきました。映画『ペンギン・ハイウェイ』予想どおり、ペンギンがかわいかった♪でも、作品の出来栄えに関しては。原作を知っている、というのは、なかなか難しいものだな、と思いました。原作が、「文字を読んでいるだけで映像が頭に浮かぶ」という意味で文章の力が圧倒的な名作なので、それを実際に映像にしてしまうと普通の映像作品になってしまう、という、なかなか難しいジレンマを抱えている感じでした。長い原作を2時間にギュッと凝縮する、という意味では、映画は原作に忠実に再現されていましたが、なんというか、それであるがゆえに、単なる「あらすじ」になってしまった、というか。おそらく作者が伝えたかったであろう「出会いには必ず別れが訪れる」というメッセージが断片的になってしまって、感動が伝わりづらくなってしまった感じでした。もう少し、どこかに1カ所にフォーカスして、エッセンスだけを丁寧に描いた方がよかったのかなぁ、という気がしないでもないです。でも、そんな風に感じたのも、原作があまりに意表をついて感動的だった、という経験をしていたからに他ならないかもしれません。原作を知らないで映画を見ていたらまた、違った感動があったかもしれません。それにしても、森見作品をいくつか読んでみて、この『ペンギン・ハイウェイ』は彼の作品の中では異色の”さわやかな”作品である、ということに気づきました。最初、原作を読んだときには、斜め上を行く奇妙極まりない世界観についていくのがやっとであたふたしましたが(^^;)『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦著願わくは、とても頭のいい主人公のアオヤマ少年が「こじらせ大学生」にならないことを願っています・・・。
September 8, 2018
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