Que sera, sera

October 29, 2021
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カテゴリ: 音楽大好き
大変に希有な経験をしたような気がします。
演奏者の心理状態というのは演奏に如実に出るものなのだな、ということを実体験できた、と言う意味で、私にとって貴重な演奏会となりました。


新型コロナが世界を席巻し、会場満席でのクラシックコンサート・・・しかも海外アーティストのコンサートの機会なんてもう来ないのではないか・・・と思っていたのですが、世界中の人たちの尽力であっという間に実現しました。

ラファウ・ブレハッチ ピアノリサイタル
https://www.japanarts.co.jp/concert/p917/


昨日(10/28)、東京オペラシティで開催されたリサイタルに行ってきました。

ブレハッチのリサイタルは5回目。
もうそろそろ、「追っかけ」(ただし国内限定)を自称してもいいですか?(あ、まだですか・・・)
なファン歴となりました。

そんな私ですが、昨日のリサイタルは何というか記憶に残る別格のものであった気がします。

演奏も性格も大変誠実で真面目な彼ですが、リサイタルの開演が15分遅れました。

誠実な方なので、演奏を始める前に開演の遅れの理由を口頭で説明して下さったのですが、なにしろマイクを通さない生の声だったので全く聞き取れず。でも、見るからに憔悴しているというか、顔色が悪いというか、いつもの、演奏に臨むはつらつとした姿とはほど遠く。体調?大丈夫??な感じ。
しかも、ピアノの前に座ってから演奏を始めるまで、背を丸め下を向き手を組み、しばらくじっと目をつぶり、なかなか演奏を始めない・・・。そんな姿、初めて見ました。

最初の演奏曲はバッハのパルティータ第2番。CDにも収録されていない、初めて聴く曲。
でも、2017年のリサイタル(​ October 8, 2017 ​)で聴いたブレハッチのバッハが本当に本当に本当に素晴らしかったので、とても楽しみにしていました。が。

音が・・・なんと言ったらいいのか、苦しそうに聞こえました。とても不安定な。

ここからは私の妄想が多分に入った感想ですので、そう思って読み流して下さい。

今回は演奏中の表情を見たい、と思い、下手側の前の方の席を取りました。前といってもさほど前ではないのですが、表情は見えました。

そう、こんな時に表情がよく見える席を取ってしまった・・・とも言えるのですが、演奏中の表情も心なしか"辛そう"に見えました。開演が遅れた理由がなんであれ、何か苦痛を伴うような理由なのではないかと心配になりました。

音が不安定と書きましたが、他の彼の演奏を知らない人が聴けば大変立派な演奏で何の問題もなかったと思います。ただ、彼のバッハは色彩豊かで生き生きとしていて、私が幼き頃格闘した灰色のバッハ=究極のツラい”練習曲”のイメージを一新するような素晴らしいもののはずだと思っていた私には、音が響き合わずばらばらに聴こえるバッハはとても奇妙でした。特に高い方の音が、いつもだったら丸く澄んだ音がポーンと飛びだしてくるのに、濁って潰れているように聴こえました。

いや、そうじゃない、いつもの君はそうじゃない・・・何があった!?(T T)

そうこうしているうちにバッハが終わり、一礼をして舞台袖に戻られましたが、一礼も歩く姿も弱々しく見え、もう舞台に戻ってこないんじゃないか?と心配になるほどだったのですが。
そこはプロ。
ちゃんと2曲目のベートーベンのソナタのために帰ってきてくれました。

彼はショパンコンクール優勝で注目を集めることになったピアニストなのでショパン弾きだと思われているのですが、実は得意分野は古典音楽で、バッハやベートーベンを本当に感動的なほど彩り鮮やかに演奏します。なので、ベートーベンも楽しみにしていたのですが・・・

再び、弾き始める前に背を丸めてうつむき手を組んでしばらくじっと目を閉じてから演奏開始。
そしてやはり、精彩を欠くスタートになってしまいました。
それでも、第2楽章の中頃あたりからピアノが温まってきたのでしょう、音が出始めて、演奏も少し安定したように聴こえました。そのまま第3楽章も無事に弾き終わりました。

そして、その次のベートーベンの創作主題による32の変奏曲で、完全復活。
ピアノも温まり、ご本人のメンタルもだいぶ落ち着いたのでしょう、演奏への集中力の高まりが見えて、素晴らしい演奏になりました。
そうそう、それがブレハッチのベートーベン。

インターミッションを挟み、後半のフランクの「前奏曲、フーガと変奏曲」では、演奏前にうつむくこともなく、いつものとおり胸を張ってさっと演奏を始めました。この曲はもともとオルガン曲として書かれたものをピアニストのバウアーがピアノ用に編曲したものですが、ブレハッチの本領発揮で、ピアノからオルガンの通奏低音が響き、高音も濁りがなくいつものポーンと響く丸い音に。以前、ブレハッチはインタビューで、「ピアノで他の楽器の音を再現するように演奏している」と語っていたのですが、もともとオルガン演奏からスタートしている彼はオルガンの音をピアノで出すことにとても長けていて、この演奏ではまさに「本領発揮」。いつまでも聴いていたい美しい曲でした。CD出ないかな?

最後のショパンのピアノソナタ第3番ロ短調Op.58は、先日のショパンコンクールでは何度も流れた広く知られた名曲で(多分、ほとんどのお客さんが楽しみにしていたのはこの曲)、私にとっては2006年のリサイタル(​ November 6, 2006 ​)で衝撃を受けた曲だったのですが、おそらくもう何十回、何百回と弾き込まれた曲だからこそでしょう、安定の圧巻の演奏でした。強いて言えば、速いパッセージのところが少しスピード出しすぎてた感じがありましたが、ショパンコンクールから16年、技術力も高く成長され、一つのミスタッチもなく弾ききりました。16年たってもあいかわらず、音の大きさに驚き、技術の高さに感動する演奏でした。

最後はほっとした表情でにこやかに丁寧に挨拶され、いつものブレハッチに。
そしてアンコールとして演奏してくれたショパン ワルツ7番嬰ハ短調Op.64-2は、それは素晴らしい心のこもった演奏で、満場の拍手が響き続け、コロナ禍では禁断のブラボー(笑)まで飛びました。

それにしても、前半のあの不安定な感じは何だったのか・・・まぁ、ピアノのリサイタルでは大抵、前半はピアノが温まっていなくて音が出ないんですが、それにしても。

リサイタル終了後に、開演が遅れた理由がアナウンスされました。「ヨーロッパと至急連絡を取らなければならない用件があって、その返事を待っていたため」というようなことでした。
でもひょっとして、と思ってSNSで情報を探したら、前の方の席に座られていたとおぼしき人がブレハッチ自身の冒頭挨拶の内容をツイートしてくれていました。どうも、ご家族の急病の知らせが入ったとか。公式な発表ではないし定かではありません。ただ、終演後の簡単なアナウンスも、プライバシーに配慮してのことだったのかと思います。

いつも観客への心配りを大切にし音楽と誠実に向かい合うブレハッチがあれだけ動揺していたというのはそれなりの理由があってのことだと十分に理解していますし、そのような一面を垣間見れたというのは、ファンとしては一つの貴重な経験でした。苦しい心情にもかかわらず演奏を続けて下さったことを大変感謝しています。

前半のバッハとベートーベン、本来はこのような演奏になる予定だったようです。

『今年10月、待望の再来日!ラファウ・ブレハッチのインタビュー』
https://www.japanarts.co.jp/news/p6322/


お心健やかに残りの日程を終えることができますように・・・。





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Last updated  October 29, 2021 12:27:24 PM
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英玲 @ Re[1]:私のレゾンデートル~美しい音を聴くために(03/27) 音楽って素晴らしい🎵さんへ コメントあ…
音楽って素晴らしい🎵@ Re:日フィル横浜定期演奏会with神尾真由子(みなとみらいホール)(04/01) 演奏会、堪能されたようでよかったです。 …
音楽って素晴らしい🎵@ Re:私のレゾンデートル~美しい音を聴くために(03/27) 息子がご子息、ご子女と同窓で、同じ市内…
英玲 @ Re[1]:ラファウ・ブレハッチ ピアノリサイタル2021(感想)(10/29) YumikoBさんへ コメント、ありがとうござ…

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