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くーる31 @ 相互リンク 突然のコメント、失礼いたします。 私は…
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Tessera @ どうもありがとうございます。 カモメ7440さん 激励を頂き本当にありが…
カモメ7440 @ うまい! おそらく散文詩だと思います。 ショート…

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Jul 26, 2009
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カテゴリ: 柔らかい思念
 わたしは硝子細工の蚊として無限に生きるような気がする。少しは硝子が風化して透明度が落ちてわたしは薄汚くなるかもしれない。それでも無機物質の輝きと冷たさを保ってわたしは生き続ける。
 でも誤解してはいけない。それは喜びではない。いくら疲れていてもどうしても眠りに落ちることができないような焦燥感に近い。
 ましてや、わたしの活動範囲はこの昼間でも薄暗いこの家の中に限定されている。もちろん、わたしが限定しているわけはない。外に出られないのだ。いつもこの家では窓も戸も固く閉ざされ、カーテンが引かれている。ここに住む人が直射日光が嫌いなようだ。わたしは今ではすっかり見慣れてしまった暗い部屋の中を飛翔することができるだけだ。

 無限の時間の中で、空間が引き裂かれることがある。
 台所を周回していると、まな板の上に一本のナイフが置かれているのを見つけた。その刃先は恐ろしく研がれている。昔はよく行われていたように、ここに住む年老いた女が長い時間をかけて砥石で研いだにちがいない。金属と砥石がすれるあのシャリシャリという音を響かせて、あの女が何時間もかけて研いだのだろう。わたしはその研ぐ音がとても嫌いだ。感覚的に不愉快な音というものがあるが、その類だ。あまりの不愉快さで背筋がぶるぶると震えてくるぐらいだ。そんな音を聞きながら、誰に語ることもなくあの女は刃先を研ぎ続けていた。
 砥石にナイフの刃先をひとこすりする度に、女の夢や希望がそぎ落とされ、代わりに日々の不安や憂鬱が女の心の中に蓄積していく。わたしにはそう見えた。

 しかし、今まな板の上にあるナイフの刃先はどうだ。その鋭利さは女の蓄積された感情を超越した。その時の女の感情がいかに陰鬱なものであったとしても、その感情の性質を無視して、物質としてのナイフはそのエネルギーを吸収して輝いている。
 ナイフの刃の先端は極めて薄く研ぎ澄まされ 静止しているそのナイフの先端は確かにあたりの空間を緊張させていた。その刃先に直接触れなくても、近づくだけでも危険な気がした。近づくだけで刃先に引き込まれると思った。高層ビルの頂上付近から真下を見たときに、広大な地表に引っ張られるような感覚に近く、それでいてその吸引する力はそれよりも遙かに強力で集中していた。
 その力に冷静にわたしは対処することができなかった。硝子細工のわたしの体が強い引力によって、ナイフの刃先に引き込まれていく。幸いなことにナイフはまな板の上に寝かせて置かれていたから、その刃面の上に着地することができた。もしも刃先と真っ向から対峙していれば、わたしは引き寄せられ、羽ばたく硝子の羽の一部、もしくは精巧な細工の足が、運が悪ければ、太くて透明な血管が走る胴体が真っ二つに切断されていたにちがいない。
 刃面にいて、わたしは濃い血の臭いを感じた。このナイフは使われたのだ。ある肉塊をそれこそ滑らかに切断し、そのときに大量の血しぶきを浴びたのに違いない。使用後すらもなお、このナイフはそのときの血で曇ることもなくその威厳を保ち、あたりの空間に切り込んでいた。空間を切断しているだけではなく、時間すらもその切り込みによって連続性を失っていたのである。

 もはや、この家のカーテンは引かれたままで、窓ガラスが、そして玄関のドアすらも開かれることがなく、硝子細工の蚊としてのわたしはこの家に永遠に閉じ込められることになるだろう。
 台所の床に人が横たわっている。ある種の凶気が封じ込められたこのナイフの刃面の上にわたしが静止してから、随分と時間が経ったに違いない。何時間かもしれないし、何日、何ヶ月、もしかすると年の単位かもしれない。それでも、無機質としての硝子細工の蚊とナイフの刃先は存在し続けており、台所に横たわった人は、もはや、ぴくりとも動かない。






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Last updated  Aug 2, 2009 09:27:35 PM
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