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第一章 3

第一章――1日目――



3 愉快な登校 CEERFUL GIRL!

おれの住むここ、深緑町は一丁目から九丁目までに分かれている。
分かれ方は、碁盤の目のような感じで、ちょうど○×ゲームの
枠のようなイメージだと言えば、わかりやすいかな。
おれが住んでいるのは、その七丁目になる。
もちろん、近所(と言ってもほぼ隣)に住む幼なじみは、
同じ七丁目だし、無論、妹の彩紗はおれと同じ家だ。
して、俺が今向かっている聖花学園は、二丁目にある。
つまり、丁単位で考えると、端から端まで行くことになる。
一丁分歩くと、大体二十分ほどかかる。
なら、二兆分歩くおれたちの登校は、四十分かかるじゃないか、
と最初に説明したのを問い詰められそうだけど、もう少しだけ言わせてくれ。
当然、丁単位では狭くなるけれども、端から端を歩くには二十分かかるということ。
…お、わかった? なるほど、頭がいいね。
そう、つまり、北に家があるか南に家があるかで、最大二十分変わってくるのだ。
それと、道路の作り方によってもだいぶ変わってくる。
そういうわけで、俺の家からは約三十分なのだ。
ま、俺たちの場合は自転車でそれを半分にしてるんだけども……。
北へ走らせること、約五分。
おれの自転車は、五丁目を軽快に駆け抜けていた。
ここは、学生が結構多い丁だ。
いろんな学校の生徒が混ざっている。
やっぱり、町の中心ってこともあるのかな。
もちろん、聖花学園の生徒も少なくはない。
いや、むしろ多い。
ここら辺は、住宅街で、周りは本当に家しかない。
見渡すばかりの、家、家、家。
しかも、町の中心ときてるから、結構高級だ。
(ここでは、普通の家でもという意味)
こういうのを、新興住宅と言うんだったかな。…あいまい。
そこも颯爽と駆け抜けてるときに(自分で颯爽とか言ってると、
なかなか恥ずかしいもんがある)、どうでもいいんだけど、いや、
ホントにどうでもいい出会いがあった。
「よぉ、“ゆう”じゃん」
「余裕(よゆう)…なのか?」
「違う、そうじゃねぇよ…」
「冗談だ」
淡々と話す少年。
少年は、おれと同じ制服を着ている。
手に、ノートパソコンを携えて。
「今日は、遅いんだな」
「あぁ、少し朝からパソコンを弄(いじ)っててな」
「そうか」
特に何をしていたかなんて、そんなことまでは敢えては訊かない。
どうせ、おれの知らない遠い世界の話だ。
「おぉ、これはこれは。このみ嬢。挨拶が遅れました。おはようございます」
右手を腹に当てて頭を下げる少年。
何となく、執事っぽかった。
「ゆうやくん、おはよっ!」
それに無垢のない笑みを浮かべるこのみ。
「んじゃあ、おれたちはそろそろ行くな」
「そうだな。どうせ同じクラスだ、また会う」
「それもそうだな」
いまいち張り合いのない奴だ。
じゃ、と手を上げておれはペダルを漕ぎ出した――。

この一風変わった少年は、須藤 祐也(すどう ゆうや)。
いつもノートパソコンを持っている。
頭のなかなかキレる男で、おれも一目置いている。
というか、データ管理とかが得意なので、
おれが一方的に世話になってる感じだ。
おれの中では一番親しい友人と言える。

十月の初旬。
朝は、少し冷えるようになったが、まだ暖かい日が続いている。
ここ、深緑の町では、北からの風がだんだん冷たくなってくる。
何故なら、学園の裏には、川原があるからだ。
ただでさえ、冷たい川の空気を運んでくるのに、
増して北風だから、かなり強烈だ。
しかし、今の時期はまだマシなので、あまり気にはならない。
北風は冷たいが、おれの自転車は、さらに北へと突っ走っていた。
二丁目。
ここまで来ると、見かける学生は、ほとんど聖花学園の生徒となる。
腕時計で時間を確認する。
ここまで来るのに、約十五分。
学園までは残り五分といったところだろう。
この風を切る快感…心地良い……。む……?
進まなくなった。
あれ? 何だかペダルが重い。
ふんーーっ!!
…ムリ。
諦め早いなぁ、おれ。
「あれ…? 進まなくなった」
「だって、ここ坂だよ? イッツ・スロープっ」
「あ、そうだったのか…」
なら、ここからが正念場だ。
学園の前にはわずかながら坂がある。
歩くときは、どうってことはないんだけど…自転車なら別。
しかも後ろに荷物付き。…とか口に出しては絶対に言わない。
言える訳がない。たとえ、口が裂けてもな。
まぁ、つまりは、重いということ。
だが、しかし…おれが、これで何年ここを上ってきてると思うか。
約一年と半年だ。
ナメたら、あかんぜよぉぉぉ~~~……とか、特に気張るわけでもなく。
ちょっとだけ、ペダルを漕ぐ足に力を入れる。
それにしても、いつも思うことがある。
それは、立ち漕ぎが出来ない辛さ。
腰に腕をまわされているもんだから、あまり身動きが取れない。
これは、坂道を自転車で漕いだことがないとなかなか想像出来ないだろうな。
……。
とか何とか言いながらも、上りきる。
上りきったら、今度こそ学園がはっきりと見えてくる。
登校中の生徒たちの波を掻い潜って、学園まで辿り着く。
校門前で立っている先生に挨拶をしながら校内へ入ると、
目の前には秋の風景が飛び込んでくる。
赤や黄に彩られた学園内は、
今の季節が秋なんだということを否が応でも知らせてくる。
校門を潜(くぐ)ると、すぐに右に曲がる。
グランドの横を通り過ぎ、体育館の横に自転車を止める。
…暫しのお別れだけど、心配すんなよ。マイ・バイシクルっ!
「ん、しょっと。…あ、そうだ。ところで、そーくん。
“ありぃ”は、どうしてるかな?」
ピョコッと、自転車の後ろから飛び降りるこのみ。
「どうしてるもこうしてるも……。この時間なら、
そろそろ教室に戻ってるんじゃないのか?」
おれは、腕時計で時間を確認しながら答える。
「ふ~ん。そっか…」
「どうした? 何かあんのか?」
「ううん。ふっと、思っただけ」
「そ、か。…あ、それと“ありぃ”言うな」
おれは、校舎へと歩き出す。
ここからだと結構な距離がある。
「えぇーっ! どうしてぇ…?」
「どうしても。別におれは気にしないけど、
当の本人は少なくともいい気がしないらしい」
           ・・・・・・・・・・・
「そっかぁ…。じゃあ、了解を取ればいいんだね?」
「ま、まぁ、そういうことになるかな…」
何か嫌な予感がした。
「じゃ、今から行ってくる!」
そう言うと、このみは一目散に駆け出した。
「お、おい、待てよっ!」
やっぱり嫌な予感は当たった。
…止めとけよ、おれ。
そんなことを言ってても、もはや後の祭り。
後悔はやっぱり先にたたないものなんだと思いながら、
俺はこのみを追いかけた――。

自転車置き場から校舎までは、通常歩いて三分ぐらいかかったりする。
この学園は案外広いため、普通にたてと横を歩くだけでも十分ぐらいはかかるだろう。
けれど、今朝は一分だった……。
おれは、このみを追いかけていた。
が、追いつけない。
というか、校舎に入ってからその姿を見失ってしまった。
…すごい足の速さだ。
こればかりはいつも驚かされる。
あの小柄な体のどこに、そんな運動神経を隠し持っているのか?
そう言えば運動神経で言うなら、このみは悪い部類には入らないと思う。
どれでもそつなくこなす。
…全く、人間ってのはわからないもんだぜ。
……。
二階まで駆け上がってくる。
ここは、一年生のフロア。
おれも去年はこの階だった。
もちろん、このみもだ。
しかし、今は三階。
なら、おのずと見当がつくだろうけど、そう、三年生は四階だ。
さて…話を戻し、二階。
あいつは…う~ん……いた。
ちっこいからわかりにくいけど…。
あのツインテールの髪はなかなかに目立つらしい。
…なんか尻尾みたいに伸びてるし。
って、尻尾二つか~い!
………おれは、このみの元へと駆け寄る。
傍には彩紗がいた。
その隣にはもう一人女の子がいる。
「……」
暫く離れて様子を見てみよう。
どうやら、何か話してるらしいけど…声は周りの喧騒に掻き消えて聞こえそうもない。
「……」
あー…何をしてるんだ。
近づくか。
それともこのまま現状維持か…。
…じれったい。
じれったいならどうするか。向こうから来なけりゃ、こっちから行く。
おれは元々そんなに気の長い人間と言うわけでもない。
「……ぅす」
俺は、このみの頭に軽く手を載せる。
もう片方の手は、彩紗の方を向いて挙げる。
「あ、そーくん」
好みは上目使いに俺のほうを向いて言う。
…これは、反則行為だ。
減点一。
むぅ…おれ、こういう仕草とか弱いんだよなぁ……。
でも、言うときはバシッと言わなくちゃ。
「『あ、そーくん』じゃねーよ。何勝手に行ってんだか…」
「ごめ~ん。あぁ! そっか、そっか。そーくんは、ボクがいないとさびしーんだね?」
「な…! うっせぇな。んなわけあるか!」
チョンッとこのみのおでこを小突いてやる。
「…むぅ。冗談なのにぃ」
「それより…。おい、彩紗、またコイツ変なこと言ってきただろ?」
「え? ううん。そんなこと、ないよっ!」
体全部を使って、全力否定。
挙動が明らかにおかしい。
「そうか? それなら、いいけど…あんまり、気にすんなよ?
このみが変なこと言うのなんて、いつものことなんだからさ」
「そーくん? 何気に酷いこと言ってない?」
「うん? そうか?」
「自覚ないんじゃ、救いようがないね…」
「うーむ。それは一理ある…が、少なくともこのみよりはマシだな」
「ひっどーい! えいっ、えいっ!」
このみは腕を大きく回して、おれに叩いてくるが、正直あまり効果はない。
おれは、面倒くさいから、このみを頭を抑えて引き離す。
「くっそーっ! 小さいからって、バカにするんじゃないぞ!」
…何をやっても無駄か。
彩紗は、おれたちの様子を苦笑なのか何なのか判断がつきにくい笑みで見ていた。
「……?」
「あ、そうそう」
彩紗は、思い出したように口を開く。
「これから、“このみん”が“ありぃ”って、呼んでも気にしないでね」
「……」
……………って、いつの間にか了解してるしぃーーーっ!??
ななな、何で!?
「おいっ、このみ! お前、一体彩紗に何したんだよ!?」
「何したって…そりゃあねぇ……ひ・み・つ(ハート)」
「……(冷や汗)」
あの彩紗を了承させるとは…一致全体どんな手を使いやがったんだ?
完全に彩紗、陥落してるぞ。
いや、このみに取り込まれたか?
しかも、“このみん”とか呼んじゃってるし。
あー…改めて恐ろしや、牧井このみ。
「あ、何ならそーくんも、特別に“このみん”って呼んでもいいよっ?」
「呼ぶかっ! アホ!!」

続く


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