そよ風のように☆

そよ風のように☆

君に恋した夏(3、偶然)


『竹中君っ!』
振り返ると、澤谷美華が手招きしていた。

俺達は近くの喫茶店に入り、席に着くなりメニューを見ずに彼女はホットのアメリカンを注文したので、俺も同じ物を頼んだ。

どうやら、ここの常連らしい。

それにしても、ここまで変われるものなのかな?などと考えていた。
前はショートで少年みたいだったが、今はというとロングに毛先がクルンと巻いてあり女らしく見えた。そのせいもあり、かなり印象が違って見えた。

『久しぶりだね、竹中君。元気だった?』

『ああ。』
きのない返事になってしまった。

『今何してるの?』
と鞄からタバコとライターを取り出し、優雅にタバコをくわえた。

『何って。普通のサラリーマンだよ。澤谷は、出版社だったよな?』

一度肺に入れたタバコの煙りを一気に天井斜め上におしあげるというのが彼女の吸いかたのようだ。

『あら、覚えてくれたの?』
彼女は俺に、意外そうな瞳を向けた。

俺は黙って頷く。

『あれから何年だったかしらね?竹中君変わらないね』

少し瞳が潤んだように見えた、
『18年だよ。』
澤谷は綺麗になったなと言いかけたが、この場にそぐわないように思えたのでやめておいた。

『まだ…引きずってるの?』

真摯な目が俺の姿を捉えていた。
彼女が言わんとすることは、分かった。

だが何と切り出していいか分からず、沈黙になってしまった。

恐らく、それが俺の答えだと思ったらしい。
『そう。』
哀しそうな、哀れむような目だった。

彼女は俺以外に、唯一『君(きみ)』を知る人物だった。



© Rakuten Group, Inc.
X

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: