週番日誌@佐藤智広研究室

週番日誌@佐藤智広研究室

2003年11月~

図書委員会・2003年11月~


2004年3月の読書

【いとうせいこう ボタニカルライフ―植物生活―】
 佐藤の世代は、『ホットドッグ・プレス』の編集者としての<いとうせいこう>が居る。なんとはなしに浮ついたあの頃を思い起こさせる<いとうせいこう>、である。彼は「ガーデニング」「ガーデナー」ではなく、「ベランダー」「ベランデニング」ということばでベランダでの植物栽培を行う。そのエッセーが本書。この随筆を読む限り、彼の家は植木鉢で溢れかえっているようだ。
 この中には、成功譚もあれば失敗譚もある(失敗譚のほうが多い気がする)。植物の種類も多岐にわたる。作品として記しているのだから完全に赤裸々というわけではないかもしれないが、植物への愛情がひしひしと伝わってきて、読んでいるこちらも「どれ1つ鉢植えでもやってみようか」という気にさせられる辺りが、さすがいとうせいこうである。
 佐藤は動物主体であるが、本書の中にも蓮の栽培をきっかけとして金魚・メダカさらにはヤゴ(買った水草に卵が付いていたらしい←糸トンボのようだ)の話が出てくる。結構ヤバイ飼い方で、読んでいるこちらがハラハラしてしまったりもしたが、佐藤も睡蓮(うちには父が育てている睡蓮がヒメダカの甕に入っている)を育ててみたくなった。

2004年2月の読書

【山口仲美 犬は「びよ」と鳴いていた(光文社新書)】
 副題は「日本語は擬音語・擬態語が面白い」。『今昔物語集』に「ひよ」という表記があり、それを「ビヨ」と読むのだということを述べつつ、古典作品から現代語まで、様々な擬音語・擬態語をわかりやすく説いたもの。狂言作品では、犬の鳴声が「ビョービョー」と表されるが、こうした擬音語の変遷はなるほどと頷く点が少なくない。第2部(全体の半分)は動物の声の擬音であるが、ここで取り上げられていないものもまだまだある。文芸研究ではこうした表記があっても、その1点についてなかなか触れられないが、日本語学としては興味深い研究テーマである。

2004年1月の読書

【三津田信三 蛇棺葬(講談社ノベルス)】
 またしても講談社ノベルスである。ここで取り上げない本も含めると、かなりの割合で読んでいる。 蛇棺葬 は奈良県の旧家といういかにも伝統的な探偵小説(推理小説)を舞台にした作品であるが、ミステリとしてのトリック(表向きの)はそれほど難しくない。ただ、読者に提示された主人公の解釈(解決)はおそらく違うんだろうな、という雰囲気を残して終わる(これが次回作に繋がっていくはずだ)。「私(百巳美乃歩:ひゃくみみのぶ)」が5歳から6歳にかけて体験した話、そして約30年後に再びその地に戻ってきた「私」という形で大きく2部に分かれ、全体に蛇の存在をちらつかせつつ、民俗学の話を織り交ぜていく。謎解きという点では面白くないが、ある種横溝正史的な、因習に取り囲まれた世界の雰囲気は充分出ている。

【丸谷才一 輝く日の宮(講談社)】
 実験的な作品。どう実験的かというと、文体や作品スタイルをあれこれと出している点で。
 主人公杉安佐子は大学の教員、本当のメインは19世紀日本文学だが、学会発表では芭蕉の『奥の細道』成立論をするし、次に出てくるシンポジウム(演題:日本の幽霊)では、『源氏物語』の成立―この作品のタイトルでもある「かかやく日の宮」の巻が消失した(と思われる)謎と、玉蔓系後期挿入説(武田宗俊氏)に代表される成立論に発展させていく。
 ※「かかやく日の宮」とは『源氏』「桐壺」巻の次に置かれ、母代わりである
  藤壺と光源氏が初めて肉体的に結ばれる場面があったと考えられる幻の巻。存在したかも不明。

 正直、結局何が言いたいのか?という感じだが、先日の森谷明子の作品と関わって興味深い。多分、源氏研究の領域では、現在、出来上がった形としてあるものを読み解こう、つまり、どういう順番であれ、今ある巻の順番で考えようという姿勢で、後期挿入説にはあまり触れないと思うのだが、『源氏』好きの佐藤としては、優れた先学の考察がコンパクトにまとめられていて面白かった(←それだけかい?)
 学会発表にしては時間超過じゃないか?とか論理の拠って立つ所が曖昧すぎて、突っ込み放題という部分は、まあ小説なので……と笑ってすまそう。

【霧舎巧 七月は織姫と彦星の交換殺人(講談社ノベルス)】
【霧舎巧 八月は一夜限りの心霊探偵(講談社ノベルス)】

 「四月」から始まった 霧舎学園シリーズ も第4・5冊が刊行。実は11月に刊行されていたのだが、大学の出入りする本屋さん(書籍部のない大学なのである←笑ってやってくれ)に注文していたプレミアム版が佐藤の手元に届かなかったのだ。このシリーズは表紙の挿絵がアイドルオタク受けしそうで、やや赤面なのだが、今回の2作品はプレミアム版ということでさらにパワーアップ。A4クリアファイルに同梱、裏側は、 おぉ~っと、主人公羽月琴葉が男性週刊漫画のグラビアアイドルにさせられた という設定で水着姿が大きく描かれている(トレーディングカードも5枚付いている)。いつも届けてくれる本屋さんが、佐藤の注文書籍と思わず店頭に並べてしまったのも、うなずける体裁である。
 さて、このシリーズは推理小説の様々な題材を網羅していくもので、4月が密室、5月がアリバイ、6月が誘拐ときて、今回の2作同時発売となった。難事件を解決する小日向棚彦(上から読んでも下から読んでも「こひなたたなひこ」)との学園恋愛物でもある。推理小説界のルールを破らず、しかも軽~い読物として作られていて、単純に楽しめる作品。
霧舎巧 には <あかずの扉>研究会シリーズ という大学を舞台にしたシリーズも4作品出ていて、どれもそう難しくないミステリーなのだが、人物描写が面白く、どれも気軽に読めて良い。

2003年12月の読書

【森谷明子 千年の黙(しじま)―異本源氏物語(東京創元社)】
 学部に入学して最初の源氏物語の講義(「作品購読」という科目)は、当時、専任講師として入られたH先生の、故武田宗俊氏の「玉蔓系後期挿入説」についてであった。藤原定家以来の<並びの巻>に関わる問題として、とても刺激的だった。「若紫」巻を読む授業だったが、今回この作品を読んで、当時のことがふと思い出された。
 作品は3部構成で紫式部に仕える架空の侍女が巻き込まれる騒動で、『源氏物語』成立に関わる、というか、かつて存在していたと噂される「かかやく日の宮」巻が消失した謎を解いていく。ミステリとしてはそれほど面白くないが、一条帝の時代を漂わせる文体が魅力的で一気に読める。
 関係ないが、もし『源氏物語』に光源氏と藤壺の絡みが明示される巻が仮にあったとしても、「かかやく日の宮」では前後の巻名と合わないので、そんな巻名にはしなかったであろう。

【夏石鈴子 新解さんの読み方(角川文庫)】
 今を去ること20年近く前、高校最初の国語の授業は「善処」ということばについて、『新明解国語辞書』の語釈に触れたものだった。「直そうと言っておきながら、実は直す気がない役所仕事」といったような説明に衝撃を受けた。
 そんなわけで、何年か前、 鈴木マキコ (現・夏石鈴子)の 新解さんの読み方 が出た時も興味津々だったのだが、今回それが加筆訂正されて文庫版として再登場したのである。
 『新明解国語辞書』は、いうまでもなく三省堂のロングセラーで、普通の小型国語辞典。だが、その語釈・用例はというと、言いようのない鋭さが潜んでいるのである。 新解さんの読み方 はそうした語釈・用例を選び出し、それに簡単なコメントを付けたもの。コメントが面白いというよりは、辞書の語釈・用例そのものが面白い。改訂版でどう変わったかもわかり、ぱらぱらと飛ばし読みしながら、1人でにやついていた。

■参考図書■ 赤瀬川原平 新解さんの謎(文春文庫)
   ↑だったかな?うちの本棚のどこかにあるはずなのだが、見つからない。

2003年11月の読書

【高田崇史 麿の酩酊事件簿 月に酔(講談社ノベルス)】
 しばらく記録をさぼっていて、復活の第1弾が 高田崇史 というのも、なんであるが。
 <平成15年2月の読書>で書いたことだが、この著者の QEDシリーズ はどうしようもない作品揃いである。古典文芸ネタということで買ってしまう自分を何度呪ったことか……
 で、この作品は 麿の酩酊事件簿 第2冊目(1冊目は「花に舞」で今春刊行されている)、主人公勧修寺(「かじゅうじ」と読みたいところだが、「かしゅうじ」とのこと)文麿の活躍するミステリー。見目麗しいのんびり屋の主人公だが、泥酔するある限界を超えると突然きりっとなり、たちどころに謎を解いていく。そして、そこにちょっとした恋愛話を交えていくといったもの。主人公の風貌は浅見光彦にやや似た印象、そこに<酒に酔う>という状況を加えたものか。この著者は中途半端な薀蓄( QEDシリーズ )ではなく、こうした軽い感じのほうがにつかわしい。 千葉千波シリーズ も同様に軽めで読みやすい。
 ちなみにまだ見てはいないが、漫画にもなっているらしい。




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