週番日誌@佐藤智広研究室

週番日誌@佐藤智広研究室

2004年4月~

本年度も大衆文学主体です……

図書委員会・2004年4月~

2004年8月の読書
【辻村深月 冷たい校舎の時は止まる(講談社ノベルス)
 3ヶ月連続で刊行された作品もようやく大詰めの下巻が今月発売。
 高校3年生の秋の学園祭の日に同級生が飛び降り自殺を図った。その2ヵ月後、8人の生徒が雪の日に登校すると、他の生徒はなく、校舎に閉じ込められてしまう。それは、ある生徒の頭の中のことであった。彼らは自殺したのが誰だったかも思い出せず、必死でその時の状況や担任の様子などを思い出そうとする。そうした中、級友が1人また1人と消えていく。自殺したのは、また、級友を閉じ込めてしまったのは誰?
 というミステリ。実際に殺人があるのではなく、叙述上のミステリである。いじめや拒食といった題材を盛り込みながら、高校時代の自分と彼らを重ね合わせて読んでいける。
 先日の日誌で記したように、叙述的なトリックは上巻できちんと提示されているので、それに気付けば論理の筋道は明確である。しかも1度や2度ではなく、きちんと何度も読者に提示され、とてもフェアな切り口であった。ラストというかその後の話もなかなか良かった。

2004年7月の読書
【稲垣泰一 となりの神様仏様(小学館)】
 おもねっているのか?いやおもねっているわけではないのだが、佐藤が大学院時代に1年(そう、よく考えたら1年なのだ)お世話になった稲垣先生のご著書である。古典文芸作品に現われるさまざまな神仏をガイド的に扱い、しかも、当時の人々と神仏との関わり・信仰などが簡略に考察されている。
 「無宗教」といいながら、初日の出をつい拝んだり、初詣に行ったり、仏像を美しいと思ったり。また、実は「ニッポンッ!」と叫びながら熱くなったり、和風小物がかわいいよねなんて買ってみたり……そういう庶民レヴェルってのは、昔とそんなに変わらないということが、(著者の意向は別にして)透視できる題材である。典拠もしっかりしていて非常に勉強になる。
 次は「化け物」などでシリーズ化させていったらどうなのだろう、稲垣先生!?

2004年4月の読書
【北村薫 朝霧(創元推理文庫)】
 待ちに待っていた北村薫「円紫師匠と私」シリーズ第5作の文庫化。前作 六の宮の姫君 で卒業論文執筆の時期だった「私」は人文学系の出版社に勤め、そこで体験する日常の謎を描いていく。
 ミステリーとしてはどうということもないのだが、円紫師匠との関わりで出てくる落語話や様々な分野の本の話が面白い。何よりも「私」が次第に大人になっていく過程が綺麗な文章で書かれていて、心地よい。
 北村薫の作品を読むたびに、この人の文章って綺麗だなぁと思わせられる。

【加納朋子 ささらさや(幻冬舎文庫)】
 実は、昨年度の一般試験の文学的文章はこの人の作品から出題。「気のおけない」友人という関係があまりにできなくて愕然……というのはこの作品とは無関係。
 新婚・出産と体験したサヤは突然の事故で夫を失ってしまう。そんなサヤがある事情で引っ越してきたのが佐佐良(ささら)という東京近郊の町。若者はどんどんいなくなっていく町だが、気持ちの良い老人や同年代のヤンママと親しくなりながら母1人子1人で生きていく。若くして逝った夫は幽霊となって辺りをうろつき、他人の身体を借りては、サヤを助けていく。夫が完全に消えるまでの8編の連作ミステリー仕立てとなっている。
 この作家も、謎解きが難しいわけではないのだが、文章が非常に綺麗で、読んでいて心地よい。
 北村薫も加納朋子も、非常に穏やかな人物が中心で、こんな人ばかりだったら世の中平和だろうと思う。



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