戸口に露の降りるまで

戸口に露の降りるまで

連句 想いで櫻の巻



             清明の風おさめし文箱     (露)



             春土用家訓いくつもらちもなし (霞)

             私的結論 Let it be   (月)

             立待ちの月を捕らえて添い寝する (風)



             うなじ見せし角のなき鹿    (蓬)

             木の葉擦れ擬音くちびるさらさらと (薔)

             ひと節唸って飛び石伝い     (休)




             竜神にのりて次郎の旅に出ん  (露)

             ナビゲーターは裸の女      (月)

             羽衣のひらひらひらと待ちわびる (霞)

             メロス走りて六月の月      (蓬)

             ぴりぴりとめくる暦で指を切り  (風)



             「クミコ」を聴いて涙とまらず  (休)

             月蝕の如く密かに肌重ね     (薔)

             キャスト不在のカーテンコール  (月)

             花の道ただまっすぐにまっすぐに (露)

             駿馬を誘う銀の逃げ水      (蓬)

             オアシスと月の砂漠に涙と血   (休)

             道行き遥か潮騒を聞く      (霞)

             アロハシャツ欲しいと拗ねた夏休み   (風)

             つま先立ちで吊革掴み      (薔)

             天気雨恋愛運を盗み読む     (蓬)

             時効成立十五秒前        (月)

             粛々と君の耳朶噛む夜明け前   (花)

             墨染めの雪舞う如き恋      (風)

             鉄椀に霰をうける山頭火     (霞)

             祖谷(いや)の葛橋ゆうらりゆらり (露)

             無伴奏ヴァイオリンソナタ月の客  (休)

             マナーモードで待つ草ひばり    (月)

             夢に逢うひとりのありて山ぶどう  (蓬)

             ロ(ろ)と銘ある鉢に盛りつけて  (休)

             キャンバスにあと一筆の浅葱色    (風)

             新鮮な呼吸若草の生う        (露)


            花は花のまま往くが佳し紅霞     (花)

       挙句   終の棲家の障子放たん        (霞)








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