魂の還る場所

魂の還る場所

第六夜   風を追う日々

     遠くへ行きたかったの。
     あなたの知らない遠くへ。

     そうすれば私、自由になれた---。


 風の中に探り合った。お互いの気配はどこか不安定で、彷徨う視線に収穫はなく。いつもいつも寂しかった。
 夕暮れのラヴェンダー色には助長作用がある。
 街の片隅に佇むとき、ふと気付く。心を飛ばし、魂が求めながら、逃げ出そうとしていること。
 …アノ人ハ…ドコ…?
 二人はまだ、出逢ってはいない。


 胸の奥が苦しい。目の前が霞む瞬間、激しさが自分を呼んでいるのを感じる。同じ気持ちがそこにあるのに、何故だかひどく怖かった。深い深い闇の中で、微かな光を見て、腕を伸ばしている。
 届かなくて掴めないのは、本当に離れているせい…?
 優しさが欲しければ、全て忘れてしまえばいい。
 繰り返したくなければ。


 膝を抱えて、蹲(うずくま)ってる。いくら風が誘っても、記憶の糸は解(ほど)けない。絡まったように見せかけて、絡ませたのは自身だから。
 螺旋(らせん)の一つ一つに刻まれた、渇(かつ)えた叫びは本能だから。
 たとえ近くにいなくても、ずっとずっと探し続ける。
 巡り逢えたその時、逃げ出すことが判っていても。
 …アノ人ハ…?
 手に入れることは出来ない。


     遠くへ行きたかったの。
     あなたの知らない遠くへ。

     あなたも知らない遠くへ。
     …誰も知らない遠くへ。


 運命なんて、要らなかった。宿命なんて、必要ない。
 思いが届いた瞬間が、別離(わかれ)を許諾することになる。
 明日かもしれない。…十日…?一年…?…十年…?


     あなたのいない遠くへ。
     あなたに出逢えない遠くへ。

     …遠くへ。


   そうすれば私達、想い続けていられるの…。  


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