中年よ、大志を抱け!

中年よ、大志を抱け!

LET IT BE


以前書いたかもしれませんが、僕らの職場では12月に望年会ということをします。今年のいやなことを忘れるという忘年会ではなくて、来年に望みを見出そうと言う望年会なわけです。で、その日は演芸会もすることになっていて、やりたい人が次々にカラオケをしたり手品をしたり踊りを踊ったりするわけです。僕は、最初の年はブラジルの歌をピアノで歌い、次の年はギターで日本の歌を、去年はブラジルの歌をギターで歌いましたが、7月に青年達の集いがあった時に、僕がブラジルの歌をギターで歌ったことがきっかけで、今年の望年会では青年達15名とともにビートルズの「LET IT BE」をしようということになりました。青年達は、一人だけが二十歳で、あとはみな10代。二十歳以上も離れてる人達と一緒に歌うなんて経験は、僕にとってもはじめてなわけです。

さて、その構成は、僕がピアノを担当し、ブラジル人の青年一人がフォークギターを弾くと言う楽器編成で、男性9名、女性6名が2コーラスにわかれて歌うということになりました。

で、この間の4日の土曜日、次の日の日曜日に行われる慈善バザーの準備のために青年たちが泊りがけで来ていたんで、その準備の合間にみんなで練習しようということになったわけです。

「LET IT BE」は学生時代弾いたことがあったんですが、今回は間奏のギターのところもピアノでやると言うことで、ピアノはかなり練習が必要なわけです。(まだできてませんけど・・)ここでちょっとだけ「LET IT BE」のピアノについて・・・

「LET IT BE」のピアノは、聞かれたことがある人も多いと思いますが、コード自体は単純な循環コードでリズムはチャンチャン・・・というやつなんですが、かつてまだビートルズが現役だった頃には、音楽評論家から「簡単なピアノの練習曲」などと冷やかされたそうです。

ところが、です。実際に演奏した人はご存知だと思いますが、なるほどめちゃめちゃ難しいわけじゃありませんが、それほど簡単っていうわけでもないんです。

そこらの本屋にあるようなギター譜には、ベース音が正確に書かれてないし(コードさえも不正確なものがありました)、ピアノ譜だって正確じゃないものが多かったんで(僕が学生の頃は、ですけど)、聞いてコピーしなくちゃいけなかったんですが、よくよく聞くと左手のベース音がなかなか複雑なんです。それに、強弱をつけるのもなかなか難しくって・・・

作曲者のポールは左利きで、かなり左手を動かしてるんですが、右利きの人間にとってはそれなりに練習しないといけないわけです。

で、実は学生時代は心底から納得できるようには弾けてなかったんです。つまり、僕にとっては雪辱戦という感じもあるわけです。

それで、今回はきちんと弾きたいと思い、何度も何度も聞いて試して見ました。・・・しかしそれでもまだまだ納得できるようには出来てないわけです。12月までには何とかしなけりゃ、とは思ってるんですけど。

それにしても、よくピアニストが、1日練習しなかったら、3日練習しないと前のレベルに戻れないなんて言いますが、10年もほとんど弾いてないので、特に左手が思うように動いてくれないわけです。難しいとはいえどちらかといえば初心者レベルの奏法なのに、学生時代はもっと難しいことやってたのに・・・なんて、もう、いらいらするわけです。で、関係ないですけど面白いことに、左手を一生懸命動かしてたら、鼻詰まりがス~っと治っちゃったりして、不思議だな、なんてことも思いながら練習しました。

ええ、何の話でしたっけ?・・・そうそう、それで、みんなで音あわせをした時、きっと僕が思い通りに弾けなくていつになくすごい真剣な顔でピアノを弾いてたもんで、青年達はピーンと張り詰めたような感じになってたわけです。それで、「ここはhm~~~ってハモリを入れてください」なんて言うと、みんなも真剣そのものになって歌ってくれるわけです。「もうちょっと口を大きくあけて大きな声で! ここはフォルテだからね。俺一人の声よりもみんなの声の方が小さいんじゃあかんよ!」なんて言うと一生懸命大きな声を出してくれるわけです。青年達の中に一人、唇に、ピアスじゃなくって、なんていうんでしょうか? 牛の鼻輪のちっちゃなやつみたいなわっかをつけてて、せっかくの天然の金髪を真っ赤に染め、腕にわけわからん刺青してるという、僕にとってはどちらかという苦手なタイプの奴がいましたが、そいつも一生懸命歌ってるわけです。

僕はポルトガル語がまだ話せないので、ちょっと日本語のわかる青年に通訳してもらいながら指導したわけですが、「このマザーメリーってのは、ポールのお母さんの名前でもあるけど、聖母マリアにも引っ掛けてあるんで、深い知恵の言葉ってここでいわれてる『LET IT BE』は、だからこの場合、なすがままに任せよって言うよりも、ちゃんと努力に努力を重ねて、後は天命に任せよって言う意味だと思うんだよね。だからそう言う気持ちをこめて厳かに歌わないとあかんわけよ、なんたって聖母マリアさんの言葉なんやからね」、なんて言いながら練習を進めていくわけです。そういえば、王様でしたっけ? 英語の歌を日本語の直訳で歌う人、あの人が『LET IT BE』を「ほっとけ~」とかって歌ってましたが、ほっとけ~はちょっと違うでしょう? 面白いけど・・・

ええ、それはともかく、で、僕がピアノを間違えた時に、ほんとにみんなにすまないと思って「ごめんなさい、今度までにはちゃんとできるようにしておくから」なんて謝ると、みんな普通だったら「いいですよ、いいですよ」なんて言うところを、僕の気持ちに同調してか、自分が失敗したような顔をして残念そうにするんで、それを見ながら僕もまた、ちゃんとしないと、と思ったわけです。みんなこちらがちょっとビックリするほど純なんですよね。

さて、こうして次の日のバザーの準備の合間のちょっと空いた時間を利用しての練習だったんで、わずか30分くらいだったんですが、非常に濃密な時間だったみたいで、練習が終わった時には彼ら、拍手しながら、「いやあ、よかったよかった。歌の練習でこんなに真剣になったことない」と言ったわけです。わっかの兄ちゃんもえらいうれしそうに喜んでくれてたりして・・・

で、僕は仕事はもう終わってたし風邪気味だったし汗びっしょりだったんで、そのまま部屋に戻ってシャワーを浴びてごろんとしちゃったわけですが(この辺、歳には勝てないって感じで・・・とほほ)彼らはまだしなけりゃいけないことが残ってたのに、その後しばらく自分達で練習してました。練習の後夜遅くまで準備してたみたいで・・・その心意気がまた嬉しかったんですけどね。彼らに恥ずかしい思いをさせないように、練習をがんばらんとって思ったわけです。

それにしても、僕はその時わっかの兄ちゃんをはじめ、初めて会った青年が何人かいたんですが、わずかでもそういった人達と濃密な時間を共有できたことに、音楽っていいもんだな、とあらためて思ったわけです。

そういう機会をくれた青年達にありがとう、って思ったわけです。


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