“お笑い”哲学論のページにようこそ!

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◆私は神様じゃない◆


勉強が忙しくて更新できない人もいますが、勉強が忙しくて更新できない人よりは、私の方がはるかに不幸です。

勉強で忙しいある女性などには、「頑張って!」とか「気にしないで!」とかの励ましと慰めのメッセージが寄せられますが、私が真面目に仕事に取り組んでいると、その隙に、私に関する誹謗中傷が飛び交い、ついには身に覚えのない“熱愛報道”などの憶測が乱れ飛びます。

いくら私が女好きだからといっても、見ず知らずの女性に惚れるなどは考えられないことです。
そのような経験は、今までの人生でも、ほんの数十人程度です。

それはともかく、私が今までの人生の中で、女性関係よりも増して最も力を入れているのは、弁解を考えることです。
そして、仕事をしていて一番力が入るのは、仕事が遅れている言い訳を考えるときです。

約束の期日を一日でも過ぎると、たいていクライアントから電話がかかってきます。
そんな電話には出ないように、できるだけ期日の前後には出張の仕事を入れるようにしていますが、運悪く電話に出ることがあります。
「仕事の進み具合はどうですか」
「はい、順調に時間は経っています」
と答えて、もし笑ってくれたら、まだしばらくは猶予がありますが、たいていは失笑をかった後で、本格的な追求を受けて言い訳をしなければなりません。
それも失敗したら、電話やパソコンが故障したりします。

こう書くと、私はいつも言い訳したり、パソコンが故障しているような人間だと思う人がいるかも知れませんが、実際の私はそんな人間ではありません。
自動車事故に巻き込まれたり、病気になったりすることもあります。

しかし、いつも逃げ切れるわけではなく、追い詰められてしまうのが普通です。
一般に、どんな立派な人格者がどんなに気をつけて行動しても、言い訳は必要になるものです。
私がいい例です。

子供の頃から現在に至るまでに、何万回の言い訳をしたか数え切れません。
子供の頃と比べると、言い訳の回数は最近ますます増える一方です。
言い訳の必要性が増していることをみても、世の中は確実に悪い方向に進んでいると断言できます。

しかし、私のように誠実な言い訳が、いつも通るとは限りません。
言い訳が適切でない場合と、相手が無理解な場合がそうです。
例えば、万引きを見つかった人が正直に、
「私は万引き常習者なものですから」
とか、
「万引きするつもりはありませんでした。強盗するつもりが、つい万引きしてしまいました」
と言い訳するくらいなら、何も言わない方がいいのですが、これは言い訳が適切でないためです。

よく使われる言い訳に、「つい出来心でやりました」というのがありますが、これも状況によっては不適切となります。
例えば、
「つい出来心で窃盗の計画を立てました」
という言い訳は通用しません。
計画を思い立ったのが、いくら衝動的だったとしても、計画的犯行とみなされます。

どうせ不適切なら、徹底的に不適切にするべきです。
例えば、万引きの言い訳として、
「福岡県出身ですから」
とか、
「お化けに命令されました」
と言うなら、まだ責任を軽減される可能性があります。

またどんなに適切な言い訳でも、相手が無理解なために通じないことがあります。
現に私はこのような経験を数え切れないほど重ねてきました。

先日も、締め切りに仕事が間に合わないことを事務員の女性に責められました。
(私はこのように、女性に責められる経験も、数え切れないほど重ねてきました)
(私が“M”との噂もありますが、この機会に断言します。たぶん違います)
(ちなみに彼女は私の中学の二つ先輩です)

「どうして、できなかったんですか」

「実は昨日、帰り道が渋滞してたもんですから」

「でも、遅れたといっても、せいぜい二十分か三十分でしょう」

「しかし心理的には、その十倍の時間にはなります。歯医者で治療を受けている時には、実際の十倍くらいの時間が掛かっているように感じますよ」

「たとえ十倍の時間が感じられても、実際に十倍の時間が経ったわけではありません。百歩譲って、かりに十倍の時間が実際に経ったとしても、仕事をする時間は充分にあったはずです。楽天に書き込むのに徹夜することもあるじゃないですか」

「昨夜は、帰宅してからが大変だったんです。どういうわけか、とても眠たくなったんです。これは自然現象ですから私のせいではありません。あんまり眠いので目を醒ますために私はテレビを見ました。これも仕事のために目を醒まそうと思ってやったことです。責められる理由はありません。そうしたら面白くない番組ばかりで、面白い番組が始まるまで二時間も掛かりました。これもテレビ局のせいです。私に責任はありません。結論として私には責任を問われる理由がありません」

「そんな理屈が通用すると思っているんですか。面白い番組を探すヒマがあるんだったら、その間に仕事ができたはずです」

「仕事をしてたら、眠ってたに違いありません。だから私としては、やむなくテレビを見るしかなかったんです。それにテレビを見てたら、知らないうちに仕事が出来上がってるかも知れない、と思ったんです。テレビを見終わった後、確かに私は眠りましたが、眠ってる間にも、ひとりでに仕事が出来ててくれたらいいが、と願ってました。無責任な人間なら考えられないことでしょう」

「そういうのを、まさに無責任と言うんだと思いますけど」

「わかりました。頑固な中年女性には論理が通用しないものです。じゃあ、こう言いましょう」

「もう結構です。そういうヒマがあったら仕事をして下さい」

「今や仕事が問題ではなく、なぜ仕事をしなかったか、についての説明が問題になっているのが分かりませんか。これから、本当の言い訳を言います。正直に言うと、仕事をしなかったのは、つい忘れてしまったんです。最近、物忘れがひどいんです。これは自然現象だから、私の責任ではありません。500年前の事は憶えてるんです。例えばアメリカ大陸をコロンブスが発見したのは1492年です。約百五十億年前に宇宙が誕生した事も憶えてるくらいです。しかし昨日お金を借りた事は忘れているという物忘れのひどさなんですよ。私の仕事など、宇宙の誕生やアメリカ大陸発見に比べれば、重要度は無いに等しいから、忘れて当然だとも思えますが」

「忘れたから、責任は無いと言うんですか」

「よく解かりますね。私個人としては、悪かった、と謝りたいところですが、忘れたというのは私が意図的にした事ではありません。人が責任を問われるのは意図的にやった事だけです。薬物の影響でやったとか、宇宙人に脳を操作されて本人の意思とは無関係にやった場合、責任は問われないでしょう。忘れるということは、意図的にやれる事でも、本人の自由になる事でもありません。だから、忘れた責任は、私には無い。従って謝る必要も無い。私の気持としては謝りたいのですが、謝ることを論理が禁じているのです」

「でも、忘れるという事は、本人の自由にはならない事なんでしょうか。社長は前に『これは忘れてくれ』と言いました。『これは』と特定するからには、忘れるかどうか選ぶことが出来る、ということじゃないんですか。忘れるように努める、という言い方もありますし」

「しかし、そういう表現ならいっぱいありますよ。『愛してくれ』と頼まれることはありますが、そう言われたからといって愛するかどうかを、意思で選べるでしょうか。『信じてくれ』という言い方はありますが、信じるかどうかを選ぶことは出来ないでしょう。『こう考えろ』とか『憶えていろ』なども同じです。命令形があるからといって、命令された人がそれを自由に選べるとは限らないのです」

「忘れるということが人間の自由になるかどうか、決着はなかなかつかないかも知れません。とくに社長を相手に議論していると。でも、火を消し忘れて山火事を起こした人は責任がないんですか。借金を払うのを忘れていたとか、税金を申告するのを忘れていた、といっても、忘れたことの責任は問われるんじゃありませんか」

「そもそも、基本的には、ですね。言い訳というものは、寛容に受け入れるべき問題だ、ということです。例えば『忙しかったために、返事が遅れました』という言い訳は『お前のことなんか後回しなんだもんね』と言っているに等しい。これがなぜ、言い訳として通用するのか不可解です。言い訳というものは深く考えないで受け止めるべきものです」

「それにしても、社長の言い訳は、まともな言い訳じゃないと思います」

「しかし、よしよしさん(事務員の女性=仮名)だって、この前、私が『ダイエットは断念したんですか』と言ったら『怠け者ですから』と言い訳したでしょう。これは、これからも怠けるぞ、と言っているのも同じことです」

「でもそれじゃあ、『記憶力がないものですから、憶えられません』という人は、記憶しないぞ、と決心しているだけだ、と言うんですか」

「そうです」

「じゃあ、仕事の約束を社長が憶えられないのも、その気がないだけなんですか」

「そうでしょう。きっと、その気が起きないだけ…だと思います」

「どうして、その気が起きないんですか」

「そんなこと、分かる訳ないでしょう。神様じゃないんだから」

「ほらでた。社長はいつも『神様じゃないんだから』と言いますね。社長の判断が間違っても『神様じゃないんだから』、関与先の担当者を忘れたときも『神様じゃないんだから』、面談に遅れたときも『神様じゃないんだから』。論理的じゃないですよ」

「でも、その言い訳は、どこか間違っていますか。第一に、私は神様じゃない。第二に、もし私が神様なら、何でも知っていただろうし、遅刻することも無かったでしょう。どこからみても正しい言い訳じゃないですか。よしよしさん(仮名)も、こういう高尚な言い訳を使うようにして下さい」

「そんな言い訳を使える訳ないでしょう。社長じゃないんだから」






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