うさぎの不養生日記

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切ればいい時代は終わった?



以前は癌というものは、『切って治すしか方法がないもの』と認識されているような傾向がありました。一部分の特殊な癌のみが手術よりも抗癌剤などの治療法の方が成績がいいと言われていました。そして、切れないといわれた癌は、もう手段があまりないように言われていました。しかし、今日、手術は集学的治療のひとつの手段となりました。ほかにも、多種多様の治療法がある時代になりつつあるのです。もちろん、疾患によっては手術以外にはあまり効果がないものもあるでしょう。でも、それだって、明日には研究が進み、他の方面からのアプローチが可能になるかもしれないのです。

抗癌剤も、以前は今ほど効果のあるものではありませんでした。そして、制御できない強い副作用がありました。それを日々進歩していく技術で乗り越えてきたのです。私が就職したばかりの頃は、乳癌の手術は筋肉もごっそり取ることもまだ多かったと、他の項目でかきましたが、その手術後の抗癌剤の副作用もすさまじいものがありました。その頃に、抗癌剤を使う時の嘔気・嘔吐によく効く制吐剤の一つが発売されたのです。その当時の自分のグループのトップの先生がすごく喜んでいたのを覚えています。抗癌剤が必要な治療とはいいながらも、その当時の治療では、一週間近く食事が取れなかったり、嘔吐したりする人もいたので、トップの先生は本当は心を痛めていたんだなぁ、と思います。ただ、可哀想では医療は勤まらないので、心を鬼にして素知らぬ顔で治療をしていたんだなぁ、と。その頃は、知識がないので、逆に新人の私たちは、患者さんのそばで話を聞いたりするしかできませんでしたが。

今は副作用をできるだけ抑えて、なおかつ効果を発揮できる抗癌剤が多く出ています。細胞に対して同じ成分を持つ薬でも、癌の近くに行って初めて、作用を発現するような形に変わって来ています。どんどん進歩しています。また、副作用に対するお薬もいい物が出て来ています。嘔気・嘔吐に対する内服薬・注射、白血球減少の際に使う注射などなど。そうして、以前は、切るしか道がなかった、言い換えれば切れなかったらどうしようもない、そういう病気がどんどん減って来ています。つまり、答えが一つでなくなったとも言えます。

乳癌の部分でも書きましたが、治療法は、日々変遷しており、一つの疾患でも、その病気の進行や、患者さんの年齢など、いろいろな疾患を取り巻く状況で、選択が変わるのです。つまり、患者さんや、患者さんの家族が、医療サイドともに選択に加わる時代となってきたのです。切ればいいというような時代は終わったのです。もちろん、切ることが必須の時もあります。それも含めて、一緒に考えていただきたいと思います。


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