華の世界

華の世界

第四章(3)

第四章(続)

__ あと一日、試験が終わる。
__ ずっと勉強していたから、疲れた。僕はリビングルームに出て、ソファーに座って、テレビを見た。
__ 知らないうちに、寝込んだ。
__ ぼんやりしている時、誰かがふとんをかけてくれた。
__ 目を開いてみると、ダイナーだった。
__ 「あっ、起こしちゃった?」
__ 「いいよ。僕もそろそろ」
__ ダイナーの試験はもう終わった。「眠いの?」
__ 「明日が最後だ」
__ 「コーヒー入れようか」
__ 「すまないな」
__ ダイナーはキッチンに行って、インスタントコーヒー粉を取り出した。「砂糖は?」
__ 「二つ。あと、ミルク少しだけ」
__ 「面倒」とダイナーは言った。
__ 僕は一口飲んだ「うまい!」
__ 「驚くことはないわ」
__ 「すごいな。僕はどうやってもまずいんだ」
__ 「ね、明日試験が終わるでしょう。どこかへ行かない?」
__ 「まだ決めていないよ。君は?」
__ 「あたしもまだ。家に帰るかもしれないわ。でも、いい提案があったら、帰らない」
__ 「じゃ、一緒に旅行に行こう」
__ 永華も正雄もほかの友達と約束している。家偉はカノジョと一緒に過ごす。麗姫も約束があるそうだ。残ったのは、僕とダイナーだけだ。
__ 「どこへ?」とダイナーは聞いた。
__ 僕は少し考えた。「メルボルンへ行ったことある?」
__ ダイナーは首を振った「いいえ。ぜんぜん」
__ 「じゃ、決まり。メルボルンにしよう」
__ 「いいよ」
__ 「明日の試験、早く終わればいいな」

__ 試験は午後に終わった。
__ 僕はダイナーの手を握って、駅へ切符を買いに行った。
__ 「一番早い便はいつですか?」
__ 駅員は「今夜、ちょうど席がありますよ」と言った。
__ 考えずに買っちゃった。
__ 「夜出発したら、間に合うの?」
__ 「すぐ寮に戻って、荷物を支度しよう」
__ 久しぶりに忙しくなった。メルボルンの天気が分からないから、僕は厚い服をボストンバッグにつめた。もちろん、ダイナーがくれたマフラーも。
__ 夕方、僕はもう準備ができた。
__ ダイナーは部屋から出て「忘れ物はないかしら」
__ 「メルボルンは大都市だろう。買えばいいじゃん」
__ 僕たちは駅に着いた時、発車時間まで二十分だった。
__ 「間に合った」とダイナーは言った。
__ 「間に合うと言っていただろう」
__ 「どうして明日出発しないの?そんなに急がなくてもいいのに」
__ 「夜出発したら、翌朝に到着だろう。宿りを省くよ」
__ 「そうね」
__ 時間があまりないので、食べ物を買う時間もなかった。
__ 「あたし、ビスケットしか食べていないわ」
__ 「列車には食べ物があるよ」
__ 「本当?」
__ 「十数時間もかかるよ。きっとある」
__ 「こんなに長距離の列車は初めてだわ」
__ 「僕もそうだ」
__ 「食べ物がないなら、あなたを食べるわ」
__ 「僕はまずいよ」
__ 「お腹がすいたら、なんでも食べられるわ」
__ 僕の予測どおり、列車には売店がある。
__ 僕はホットドッグを買った。
__ ダイナーは一口食べた「パンが硬い」
__ 「武器にしてもいいぞ」

__ 僕たちは車内で寝た。目が覚める時、日差しは窓から射し込んだ。
__ ダイナーはまだ寝ている。
__ 地震のような列車の中で、よく寝るね。と僕は感心した。
__ 僕はトイレから戻った時、ダイナーはちょうど起こした。
__ 「着いた?」
__ 「まだよ」
__ 「お腹すいた」
__ 「またか?」
__ 「だって、ゆうべのパンが足りないんだもん」
__ 「降りてから、すぐ朝食を食べよう」
__ 一時間後、メルボルンに到着した。
__ 降りる時、僕はちょっとつまずいた。ずっと座っていたせいか。
__ 「朝食、朝食」とダイナーは子供っぽく言った。
__ 僕は地図を取り出した「まず旅館を探そう。荷物が重いんだ」
__ 僕たちはメルボルンの市電に乗った。十五分後、青年旅館に着いた。
__ 手続きを済ませて、僕は地図を見ながら、中華街を探した。
__ 「あたし、餃子食べたい」
__ 「麺は?」
__ 「要らない。餃子しか食べない」
__ 僕は中華のラーメン屋を見つけた。「餃子一碗、餃子麺一碗。あっ、麺は太いのをお願いします」
__ 「なんで太いの?」
__ 「やせているから太い物を食べる」
__ 「そうなの?」
__ 「どうでもいいや。君、餃子が好きか」
__ 「そうよ。でも、作れない」
__ 「中華街には餃子の皮が売っているよ」
__ ダイナーは首を振った「面倒だから、買って食べたほうがいいわ」
__ 朝食の後、ダイナーは「どこへ行くの?」
__ 僕は地図を指した「地図にある所なら、どこでも行く」
__ ダイナーは青色の部分を指した「海の底でも?」
__ 「潜水艦を買って来れば」
__ 僕たちは地図に従って、メルボルンの名所を見学した。
__ 二日後、ダイナーは「少し遠い所へ行きましょう」と提案した。
__ 僕は「じゃ、フィリップ島にしよう」と言った。
__ 「面白い所?」
__ 「ペンギンがいる」
__ 「いいよ!行こう!」
__ 「急ぐな。ペンギンは夜にしか見えない。午後から出発すればいい。コアラでも見よう。」
__ 「どこで?」
__ 「ツアーに参加すればいい。コアラもペンギンも見られる」
__ 僕たちはツアーに申し込みした。
__ ツアーは四時に出発した。
__ ある公園の中に、高い木がたくさん植えている。木の一番上の所に、コアラがいる。
__ 「そんなに高いか。見えないよ」と僕は不満に言った。
__ 「首が痛い」とダイナーは言った。
__ 七時ごろ、フィリップ島に到着した。
__ この島はたぶんメルボルンの一番南の所だろう。潮風がとても寒い。
__ 僕はマフラーを取り出して、ダイナーの首に巻いた。
__ ダイナーはほかの端を僕の首に巻いた。
__ 「よく立っていてよ。でないと、また転ぶよ」と僕は言った。
__ 僕たちは手を握って、海辺に着いて、ペンギンを待っている。
__ しばらく経って、小さな白い点々が現れた。周りの人々はみんな「あー」と囁いた。
__ 「あれはきっとペンギンだ」と僕は言った。
__ 「歩き方が面白い。あなたに似ている」
__ 「僕に?」
__ 「そうよ」とダイナーは笑った。
__ 「どこが?」
__ 「あたしが似ていると言ったから、似ている」
__ 僕はダイナーの腰を軽く打った。ダイナーは「あー」と叫んだ。
__ 「サイテイ」
__ 僕は彼女の手を捉えた「ここは公衆場所だ」
__ ダイナーは口を尖った。
__ 僕は小さな声で「怒らないで。あとで夜食をおごるよ」と言った。
__ 「あなたが言ったよ。忘れないで」
__ ダイナーが僕のそばにいたら、僕はもう満足だ。もう何も欲しくない。

__ 僕たちはメルボルンに一週間いた。
__ 帰り道、ダイナーは列車の中で、突然泣き出した。
__ 「具合でも悪い?」と僕は慌てて聞いた。
__ ダイナーは首を振っただけだった。
__ 僕はどうしようもないから、黙って彼女を見つめた。
__ しばらく経って、ダイナーは「ごめん」と言った。
__ わけが分からないから、僕は何も言わなかった。
__ 寮に戻った。ダイナーはなんか機嫌が悪そうだった。
__ 「つまらない?休みはまだ一週間もあるよ。どこかほかのところへでも行かない?」
__ ダイナーは首を振った。
__ 試験の結果を心配しているだろうか・・・
__ 彼女の初めての大学の試験だったから。
__ 僕は正しいかどうかはともかく、結果が発表する時、ダイナーは別に何もなさそうな顔をしていた。
__ 僕たちは全部合格した。
__ 寮の人々は続々帰ってきた。
__ 一番のは永華だった。寮に入ったとたんに、「疲れた!」と叫んだ。
__ 「どこへ行った?」と僕は聞いた。
__ 「パース」
__ 「こんなに遠い?」
__ シドニーからパースまで、飛行機なら数時間もかかる。電車なら・・・
__ 「昔の同級生があそこにいるから」
__ 「いいやつだね。見直す」
__ 「だろう」
__ 「成績、見た?」
__ 「もう発表した?」
__ 「当り前だろう。早く行け」
__ 永華はすぐ寮を出た。ちょうど麗姫が帰ってきた。
__ 「あ、ごめん」
__ 麗姫は「どうしたの?」と言った。
__ 「許してあげよう。初めての成績発表だから」と僕は言った。
__ ほかの寮生が帰ってきたから、静かだった寮はまた賑やかになった。
__ しかし、ダイナーは帰ってきてから、ずっと機嫌が悪そうだった。ほかの人に気付いた。
__ 正雄は「お前、何をしたんだ?」と僕に聞いた。
__ 「何もしていないよ」
__ 家偉は「自分も知らないうちに、悪いことをしたのだろう」と言った。
__ 永華はすぐ「犯したか?」と聞いた。
__ 僕は首を振った「本当に分からないんだ。帰ってきて以来、ずっとそうだ」
__ 正雄は「問題はきっとお前だ。早く彼女に聞いてみよう」と言った。
__ 「もう聞いたよ。何も言ってくれなかった」
__ 麗姫は「もう一度聞けば?きっと教えてくれるよ」と言った。
__ しかたなく、僕はダイナーの部屋へ行って、ドアをノックした。
__ 「ワーレン?」
__ 「どうして分かる?」
__ 「勘です」
__ 「女の勘はすごいな」と僕は部屋に入った。
__ 「あたしに、何か用?」
__ 僕は彼女を見つめた「ダイナー、問題があったら、ちゃんと話してくれない?僕はきっと手伝うよ。たとえ僕がダメだとしても、ほかの人も手伝ってくれると思う」
__ ダイナーは何も言わなかった。
__ 「僕を信じて」
__ ダイナーは首を振った「あなたはできない」
__ 「どんなことか分からないけど、どうして僕はできないと断言するのよ?」
__ 「あなたは年末に香港へ帰らなければならないから。そう思うと、あたし・・・」
__ そういうことか。
__ ダイナーと出会って以来、僕はこの問題を考えてもいなかった。
__ 彼女の言うとおりだ。今は八月だ。十一月末、僕は香港へ帰る。
__ 僕はすぐ決めた「じゃ、休みの時、帰らない」
__ 「でも、ここにいても、どこに住んでるの?あたし、家に帰るから」
__ そういえばそうだ。
__ ダイナーは「あなたと離れなければならないから、あたし、悲しい」と言った。
__ 「たった数ヵ月だけだ。来年の二月、僕は戻る」
__ 「でも、来年の年末は?あなたはきっとオーストラリアをあとにするわ」
__ 「ここで働くかもしれない」
__ ダイナーは首を振った「ここは失業率が高いわ。仕事も全部オーストラリア人がやっている」
__ 僕は黙った。
__ ダイナーは「メルボルンから帰ってきた日、あたし突然気付いた。あたしたち、きっと別れるって。もう会えないかもしれないって」と言った。
__ あの日、彼女の泣く原因はこれだったんだ。
__ 僕はダイナーの手を握った「ダイナー、将来のこと、誰も分からない。でも、僕たちは今一緒にいるんだ。今を大切にすべきだ。僕はきっと、一緒にいられる日々を大切にする」
__ ダイナーは黙った。
__ 沈黙が広がった。
__ そして、ダイナーは「ワーレン、今度香港へ帰った時、一つお願いがあるの」と言った。
__ 「何?」
__ 「新しいカノジョを探して」
__ 僕は苦笑した。
__ 紫華にふられた後、やっと新しい恋人のダイナーが現れた。でも、今、この恋人はほかの恋人を探せと僕に頼んだ。
__ 「むりやりしても無駄だ。僕と君が一緒にいるのは、むりやりじゃなくて、自然にこうなったんだ。僕たちはまだ来年がある。このような悲しい事を考えるな。毎日悲しいことを考えてばかりいるなら、楽しいことは起らないよ」
__ ダイナーは頷いた。

__ 僕たちを悲しませる日が来た。
__ 十一月末、試験が終わった。僕は荷物を支度して、ダイナーと別れることになった。
__ 「空港まで送るわ」とダイナーは言った。
__ 「いいえ。こんな悲しい場面を見たくない。しかも、僕自身が主役なんて」
__ ダイナーは聞いてくれなかった。空港まで行くと言った。
__ しかたなく、僕たちは一緒に空港へ行った。
__ 僕はカウンターで手続きを済ませた。ダイナーは「次の三ヶ月、連絡できるの?」と聞いた。
__ 「国際電話代は高いから、手紙を書く」
__ 「それもいい」
__ 「中国語で、それとも英語で?」
__ 「中国語。もう小説をたくさん読んだから、読めると思う」
__ 「もう時間だ。行かなきゃ」
__ 僕たちはキスした。
__ 僕は行こうとしている時、ダイナーは「待って」と言った。
__ 「どうした?」
__ 「マフラー、持っていく?」
__ 「香港は今冬だ。こんな大事な物、忘れるもんか」
__ ダイナーは微笑んだ。そして手を振った。
__ 僕は空港をあとにした。


(第四章・了) (第五章へ)


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