本を読めば『道は開ける』

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小説 アインシュタイン 革命前夜 1



  *    *   *

アルベルトが目を覚ますと、もうすでに
昼近くにまでなっていた。

「今日は日曜だったな」

特許局に勤めるアルベルトは現在、特許技師として
宮仕えの身である。

まどろみながらも、前方の机に目を移すと、そこには一編の論文が
開かれたままになっていた。

ローレンツの収縮仮説

と書かれている。

「エーテルか・・・」

エーテルの問題、

これは現在の物理学会を混乱と思考停止に陥れている
一番の要因であろう。

19世紀末にマックスウェルによって、電気と磁気を統一する
4つの方程式が提出された。

この4つの方程式から、電磁場という波が光速で宇宙空間を
伝播することが理論的に導かれた。
(よって光も電磁波の一種)

電磁波の存在をヘルツが検証することによって
マックスウェルの電磁気理論の正しさが立証された。

これで、物理学の3大理論

・ニュートン力学
・熱力学
・マックスウェルの電磁気理論

が確立されたのだ。

物理学者は、
森羅万象、宇宙の端から端まで
あらゆる現象や謎とされてきたものに
この基礎理論を用いることで、

すべてが解決するであろう

という楽観論に酔うものもいた。

しかし、
19世紀末から、ひとつの問題が生じる。

それがエーテルの問題である。

電磁波は宇宙空間をも飛ぶ。

海の波は、海水という媒質が変動して運んでくるように
この宇宙空間にも電磁波の媒質となっているものがあるはずである。

それを 

エーテル

と呼んだのである。

エーテルを検出すること

これが、
この時代の物理学の大命題のひとつであった。

そして
決定的な実験が行われた。

世に名高い
マイケルソン・モーレーの実験である。

マックスウェルの方程式にあわられる
電磁波の速度(光の速度)は、

エーテルの絶対静止の空間での速度であって
地球上で光の速さを測ると、地球の公転方向への
光の速度は、地球の公転速度分だけ遅く検出される
はずである

と考えられていた。

だが、マイケルソン・モーレーの実験によって
地球の相対運動による速度差を見出すことが
できなかったのだ。

物理学者は頭を抱えた。

これはどのようなことを意味するのか?
誰にもわからなかったからだ。

だが、ローレンツがその解答を提出した。

進行方向に対して運動する物体の大きさは縮む

これで、マイケルソン・モーレーの実験の結果を
説明することはできる。

だが、それで問題が解決したことになるとは
誰もが思えなかった。

しかし、迷宮は依然続いている。

だが、アルベルトは「エーテル問題」について
は重要視していない。

「エーテルの風など無いと考えてどんな問題が起きるというのか。
むしろ、ニュートン力学やマックスウェルの理論そのものの変更が
要求されるのではないか」

その考えは、「革命」以外の何者でもなかった。
200年にわたって、成功を収めてきた基礎理論と
電気と磁気を統一する最新の精鋭的な理論に
まっこうからぶつかるというのだ。

ますます、アルベルトは、その確信が強くなっていた。

その思いを決定的にしたのは、まさに、この机の上の
ローレンツの収縮仮説であった。

「だが、まだ決定的な何かが足りない」

*ここに書かれていることは、史実、物理学について不正確な部分が
多々あります。

2005年09月18日 22時17分10秒


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