日記

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雑文その2 大好き!


相手は目の前にいるお医者様。あかねの主治医だ。
あかねの気持ちなんて、医師は何も気づいていないだろう。
でもそれでもいいと思っている。
心の中で思ってるだけだから、誰にも知られることのない気持ちだから、それは自由だと思ってる。

半年前、近くのN市からこちらに引っ越してきた時、あかねは大学病院の紹介状を持って、家から一番近かったという理由で選んだこの病院にやってきた。
医師は、あかねのあまり一般的ではない病気に、なんだかうれしそうだった。紹介状を書いた大学病院が出身校であることにも喜んでいるように見えた。
そこで、あかねの勘違いは生まれてしまった。
そう、医師は珍しい病気にかかっていることに、興味を持っただけだったのに、あろうことか、あかね自身に興味を持ってくれていると勘違いしてしまったのだ。

開業して数年、医師はまじめに仕事に取り組んできた。
患者には家族のように接するようにしてきた。
同性の患者には、父や兄や弟に接するように、子供の患者には、自分の子供に接するように、そして、女性の患者には自分の母や、妻や、恋人に接するようにしてきたのだ。
そんな、生真面目さが、仇になった。

あかねは医師に恋するようになった。
あまりの唐突さに自分がおかしくなったんじゃないかと、思ったこともあった。もう自分は人を恋したりすることなどないと思っていたのだ。

あかねには長年の付き合いの同居人がいる。3つ年上の雅人だ。
以前あかねが派遣されていった会社の社員で恋人関係になった。一緒に暮らして9年。
籍はなんだかずるずるとここまできてしまって結局入れることはなかった。
夫婦同然の生活ではあるが、肝心なところで他人なのだ。
それもあって、最近では雅人と一緒にいることに疑問を感じ始めている。夫婦で言うところの倦怠期なのかもしれない。
あかねにしてみれば、自分の年齢のことを考えれば籍を入れたい気持ちがないことはないのだ。いや、医師と出会う前までは心からそう思っていた。もう自分が恋に落ちることはないと信じていた。

「あなたと私はずっと各駅停車の普通列車に乗ってるようなものなのよ。」
「なんだよ。そのわけわかんないたとえ。」
「だからぁ。人生の終着駅みたいなものがあるとしたら、私たちはいつでも下車できちゃうわけよ。普通列車だから。結婚とかしてる人は違うわよ。みんな飛行機に乗ってるのよ。飛行機じゃ、簡単には降りられないでしょ。」
「わかったような、わからんようなたとえだなぁ。お前はオレと結婚からそんなこと言ってるわけ?オレはこのままで全然平気なんだけど。いいだろこのままで・・・。」
話しながら、雅人が後ろから抱きしめてきた。「やめて・・・。」って言いながらやめて欲しくないって思っていた。雅人が嫌いってわけじゃない。雅人はあかねのすべてを知っていて、どこが敏感なのか、隅々まで知り尽くしてくれている。

抱きすくめられるだけで幸せだったのは、最初の数年間。
新鮮さもなくなってきてる。
そろそろ普通列車を降りちゃおうかしら・・・。
ふとそんな考えがよぎった。
しかし、普通列車を降りたところで、今度は行き先を失ってしまうだけなのだ。心の中では医師を恋する思いが膨らんでいた。でも医師は既婚者だ。あかねはたくさんいる患者の中のひとりでしかないのだ。









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