ヤ ン パ の ク ニ ャ ン に ょ

アジアが好きだった。



小さな会社を持って少しは余裕ができたころ、スタッフや仲間を誘って海外へ出始めた。

バリはデンパサールの市場で発酵したなにものかの匂いをかぎながら、小学生のころひと目ぼれした色白のヤス子ちゃんに、思いもよらぬところで再会したような懐かしさに「こりゃ、はまってしまうかもな」と思ったのもすでに20年前。

その後南から日本へ向かって、少しずつ東南アジアをめぐり、帰ってはアジア関連の本をたくさん読み、さらに恋していった時期があった。

いつも海外に連れていったスタッフSちゃんはその後、結婚、妊娠してしまい、あ~これで仲間がひとり減るなあ。
しばらく旅行はやめだなとあきらめていた時、酒仲間のMさんがひょっこり現れて言った。

「ねえ、韓国に行って焼肉食べない?」

すごいベタな、ゴルフとキーセンがセットのオッサンのような誘いだった。
もとよりゴルフもキーセンも興味ないし、そもそも韓国が私の行きたいアジアではなかったので躊躇したものの、試しにとアマゾンで数冊の本を探し出し、一気にボルテージがあがっていったのが1998年初冬。

その中の一冊。「B級グルメが見た韓国」(1989年文春文庫)の可楽洞市場(カラクトンシージャン)から目が放せなくなった。

東南アジアの市場めぐりですっかりその虜になった私の目に、カラクトンという人をばかにしたような魅力ある言葉と、市場って「シージャン」って言うんだーと、韓国語の不思議にとりこまれてついに厳寒のソウルに立つ日がやってきた。


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