灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

その7


副会長の由記の司会で、明が壇上に上がり開会の挨拶をする。
その堂々とした態度がライバルながらかっこよく見えた。
今年は負けないぞ。
ラジオ体操の後、各学年の五十メートル、百メートル走が始まる。
続いて学年ごとの競技、1番人気はパン食い競争とあめ玉拾い。
5・6年生合同の競技は、竹馬あり、騎馬戦ありの障害物リレーだ。
全校参加のマスゲームに、保育園児の遊技、老人クラブの踊りなんかもある。
小学校だけの運動会じゃなく、地域の行事なのだ。
午前中の全ての競技が終わった時、得点は紅組の5点リードだった。
まれに見る接戦だ。後半は負けるものか。
お昼になり急いで応援席に行く。
栄養補給だ。
しっかり食べねば。
家族で囲んだ3段の重箱を開けると、おいなりに巻きずしに煮物に鶏の唐揚げ。それに産みたて卵の卵焼き。
デザートはハウスで取れたばかりの朝摘みイチゴがぎっしりと詰まっている。
「今年は小学校の最後の運動会なんだから、お母さん、張り切って作っちゃった。」
本当に今年は超豪華版だ。
紅ショウガのみじん切りがのった大きなおいなりを俺は真っ先にほおばった。
これが大好物なのだ。
「そうそう、はちみつ入りよ。そのおいなり。」
「またはちみつ?はちみつばっかりだな。」
「養蜂家さんから一杯もらったんだもの、使わなきゃ損じゃない。昨日の豚丼だって、一昨日のチキンナゲットだってはちみつ入りなんですからね。」
そんなに入ってたのか?
俺はちょっと驚いた。
「はちみつはねえ、甘みだけじゃなくて、素材のうま味を引き出すし、それにとても栄養があるのよ。もともと甘いものは疲れをとってくれたりもするしね。」
「へえ。」
そう言えばこの1週間、運動会の練習でどんなに疲れて帰っても翌朝にはすっきりとした気分で目覚めていたっけ。
「6年生になって、大介、本当に頑張ってたものね。それにはちみつパワーが加われば、絶対に勝てるわよ。」
そう言って、母さんはよく冷えたレモネードをついでくれた。疲れた体に染み渡る。何より元気一杯だ。
午後の競技も進み、最後は全校児童参加の紅白対抗リレーを残すのみ。
点数は同点。
これで勝敗が決まる。
アンカーはもちろん俺と明だ。
1年生から順にリレーし、抜きつ抜かれつの攻防が続く。
6年生までバトンが廻り、由記が紅組の走者を追いかけて走る。
「走るのだって頑張るんだから」
昨日、そう言った通りに由記は懸命に走っている。
去年まで走るのが苦手だった由記だ。
今までならきっと紅組との差は広がっていただろう。
でも今年の由記は引き離されることなく紅組に着いて行く。
そうして最後、大きく前に出したバトンを受け取ったのは、確かに白組の方が先だったのだ。
勝てる!
俺は思った。
ぺたりとその場に座り込んだ由記が
「頑張って!」
と叫ぶ。
俺は走った。
走って走って走り抜いた。
そうして最後に待っていたのは、はちみつ色したゴールデン・ゴール!


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: