風光る 脳腫瘍闘病記

何で?



「愛さんっ、大丈夫?」ナースコールで担当の医師を呼ぶ。担当のk先生はすぐに来てくれた。

「愛さ~ん、どうしたの?駄目だよ、こんな事しちゃ・・ちょっと傷口見せてね」と私の左腕を手に取り、傷の具合を見ていた。
「え~っと、あんまり深くないから大丈夫だね」「○○さん、消毒液と包帯持ってきて」

先生は傷の手当をしながら「痛かったでしょ?」聞いてきたが私は首を横に振った。ホントに痛みは感じなかった。
お昼の時間になり、昼食が配られて、私はまた手首を切ってやろうと思ったが以前の様な陶器ではなく全部、紙皿に変えられていた為、出来なかった。

「すごいな・・ちゃんと病院側も考えてんだ・・」

「でも、何で私なんだろう?ほんとにもう歩けないのかな?」私はそんな事ばかり考える様になっていった。
「今まで、相当悪い事してきたからなぁ・・その罰なのかな?でも私より悪い奴なんて沢山いるじゃん」

「分かった。前世の人が殺人鬼だったんだ。だから今、私が苦しい目に遭ってるんだ」そんな感じに、もともと前世など信じないのに前世の罪にしてみたりしてた。

12時間、何故私がこんな目に遭うのか考えてみたが答えは出なかった。
その内、自分で自分が憎たらしくなっていって気がつけば私はベットの鉄柵に右手の甲を思いっきりガンガンぶつけていた。

20~30回も繰り返していくと右手は次第に赤く腫れ上がってきたが私はそれでも止めなかった。私の異変に気が付いた看護婦さんが必死で私の右手を押さえようとする。

「愛さんっ、落ち着いて!」ナースコールで応援を呼ぶ。4~5人がかりで押さえつけてきた。その時、あるモノが目の中に入って私はそれを取ろうとした。看護婦さんが「何?何取ろうとしてるの?」

私はハサミを取ろうとしていた。それに気づいた看護婦さんが

「ちょっと、これやばいっ、向こうにやって!持ってっいって!」

「もうっ離してよっ!」私は必死で抵抗した。その内、ベットごと部屋をだされてしまい個室に入れられてしまった。k先生が「ごめんっ」と言いながら私の腕を足で踏みつけて手首を拘束ベルトで固定しようとしてきた。

「ほっといてよっ!」

「ほっとけないでしょ!」

先生の力に勝てる訳がなく私は両手首をベルトで締め付けられてさらに
「ちょっと眠たくなるけどこれ打たせてもらうね」と注射を打たれてしまった。

「死なせてよ・・もう歩けないんだよ?死にたいよ」
涙で視界がほとんど見えない。

「僕は医者だよ。そんな事、させる訳にはいかないって」

薬が効いてきたのか、私は次第に眠たくなっていった。朝方、目が覚めると部屋の隅っこの椅子でk先生が眠っていた。

「バカみたい・・風邪ひくじゃん」

私はちょっとだけうれしくなった。先生が起きるまで先生の寝顔を私はずっと眺めていた。



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