風光る 脳腫瘍闘病記

12月23日



「お姉さんからだ・・・」そこには謝罪の言葉が書かれていた。

「お姉さんは鬱病なんだよな・・・」私は姉と仲直りする事にした。Hも実家から帰ってきていた。しばらくは平穏な日々が続いたがそれもつかの間、Hが風呂場で何やら叫んでいる。

私はお風呂場へ行った。

「お姉さんっ!」姉がカミソリで左手首をザックリ切っていたのだ。私はHに「ヒモ、ヒモ持ってきて!それと保険証!」うろたえてるHに止血するためにヒモを持ってこさせた。

「お姉さん、左手、心臓より高く上げといて」次に救急車を呼んだ。

「もしもし、一台、お願いします。サイレンは鳴らさず来てください住所は○○です」

私は姉の腕をヒモでしばって「救急車、すぐ来るから下で待ってよ。」といって姉と私、それに続いてHとユメが後をついてきた。

しばらくして救急車がきた。

「よろしくお願いします。」私は姉と救急車に乗り込んだ。するとユメも乗り込んでこようとしたがさすがにHに押さえつけられていた。

「H、後で電話するからユメの散歩お願いね」

傷は深かったが大事には至らず姉の左手首は包帯でグルグル巻きにされていた。

「ねぇ、お姉さん、世の中にはお姉さんより不幸な人いっぱいいるんだよ?お姉さんは目だって見えるし耳だって聞こえるし、歩けるでしょ?」

「お姉さんは幸せなんだよ。お姉さんの悩みは贅沢だよ・・」

姉は黙ったままだった。

「Hと離婚しなよ、ユメと3人で暮らそうよ」でも姉は頷かなかった。

この頃からHと姉は本格的に精神科に通う様になっていった。カウンセリングのおかげかHと姉の関係も少しは良くなっていった。

この頃に私は「海外行きたい病」が出てしまい

「旅に出てくるね、行き先はイギリス!」まぁ、二人っきりで過ごして頂戴ってな感じで私は旅に出た。

イギリスではビートルズ好きなHの為にアビーロードに行き、そこでしか手に入らないTシャツを買ってあげて、ユメにはハロッズのランチョンマットを買い、姉にはダイアナをイメージして作られた紅茶の葉っぱを買って日本に輸送した。

2ヶ月後、帰国した私は姉とHのいるマンションへ戻った。二人共うまくいっている様な感じがした。姉は元プログラマー、仕事も探す様になっていた。前向きに頑張っていた。

しかしこの頃からHの元カノが家の電話に頻繁にかけてくるようになったのだ。しかも夜の1時とか2時にかけてくる。Hも断ればいいのにそうしない。
私もHに言ったが「ただの友達だよ」といって元カノに連絡を取っていた。

そんなHの行動に姉の精神状態が再びおかしくなるのに時間はかからなかった。毎日夜になると安定剤を飲み、ワインを飲み、次第に姉の顔つきが変わっていった。目はうつろで舌が回らず意味不明な事を言い始める様になっていったのだ。

また暴力を振るうようにもなった。

私はそんな姉を見るのが嫌でたまらなかった。気持ち悪かった。私は姉から距離を置くようになってしまった。姉から話しかけられても無視するようになっていった。

Hと姉の会話も徐々に少なくなっていた。姉にはユメしかいなくなってしまった。

12月23日。夜中に姉の怒鳴り声がした。

「パソコンがうるさくて眠れない!」

「また始まった・・・」「ったくいい加減にしてよ・・」いつもの事なので私は放っておいた。

朝方、「ガラガラガラッ」と勢いよく窓が閉まる音がした。

「お姉さん、ベランダから部屋に入ったな・・・」私は再び眠りについた。

朝起きて、いつもと感じが違う・・。

「何だろ?」私はドア越しに姉達の部屋を覗いてみた。Hが眠っている。ユメもソファの上で寝ている。

「お姉さんがいない。でも前にも同じ事あったからなぁ・・・」私は気にせずに仕事にいく為、身支度をしていた。洗面所のドアの隙間から光りが漏れていた。一気に血の気が引いた・・・。

「まさか・・・」姉は以前、手首を切っている。私はおそるおそるドアを開けた。

誰もいなかった。

「ホッ・・・」どっかに行ってんだろ・・。私は仕事先へ向かった。

お昼前に私あてに電話がかかってきた。

「愛さ~ん○○警察署から」

「○○警察?」家の近くの警察署だ。警察が何の用だろ?私は受話器を手にした。

「○○さんですか?」

「はい」

「お姉さんが亡くなられました」

「えっ!?」私は間髪入れずに「自殺ですか?」と聞いたが警察の人は

「電話じゃ詳しい事は話せないので署の方まで来てもらえますか?」

「分かりました・・・」すべてが終わった感じがした。

仕事場の人がみんなこっちを見ている。

「お姉さんが死んだって・・・」

「えっ!何で?」

「分からない、でも自殺だと思う。昨日Hとケンカしてたから・・・」

私はその場で泣き崩れてしまった。同僚に両脇を支えられながらロッカールームに荷物を取りに行った。

「しっかりして!○○がしっかりしなくてどーすんの?」と同僚が背中を叩いてくれる。

「あっ・・うん。そうだね、」

同僚の人が付き添いで一緒に行ってくれる事になった。私はタクシーの中で

「自殺?どこで?すぐに身元が分かる様なものを持ってたのかな・・」

「ホントに死んだの?この世からいなくなったの?」

私は頭の中がからっぽになった。




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