ゆりママのヒミツ

ゆりママのヒミツ

治療のはじまり



 母に勧められて実家近くのN産科医に再診してもらった。
 診察の結果、診断は先の医院でのものと同じだった。
 しかし、今度の医師は私の話を聞いてこう言った。

「それはつらい思いをされましたね。確かにあなたは不妊傾向にはあるけれども、それがどの程度であるかは、いろいろな検査、治療を試みないとわかりません。」

「排卵誘発剤についてですが、これは医師の元で量を調整しながら服用するもので、いきなり多胎妊娠するわけではありません。医師としても、赤ちゃん、母体共に負担の多い多胎妊娠は極力避けたいのです。」

「まず、錠剤を半分からはじめましょう。錠剤では効果がないようであれば、薬剤を注射することになります。ただ効果は数ヶ月単位で見ていきますので、長くかかるかもしれないということ、また、確かに双子や三つ子になる可能性があるので、そうならないように慎重に服用していただきますが、そのことを承知しておいて下さい。」

 暗闇が一瞬にして明るく輝いたような思いだった。
『希望』『可能性』前向きな考えが私の中に生まれた。
しかし、このあと何度となくあの怒声は私の中に甦った。
 そのたびに私は落ち込んだ。

 私の治療はその後長期間に及んだので、
 折に触れてあの医師の言葉は私の心に暗い影を落とした。


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